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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第251話】

 実戦訓練が始まり、先手を打ってきたのは鈴音だ。

 肩に浮いた非固定浮遊部位である甲龍の第三世代兵装『龍咆』、その砲口がスライドで開き、低威力の見えない弾丸が此方を襲うが――あの時とは違い、縦横無尽に空を飛翔し、回避する。

 回避パターンを読ませないように、所々で緩急をつけつつ、回り込む様に移動する――。


「させないわよッ!」


 振り向き様に、双天牙月の投擲――大きく横回転するそれは、鈴音が網を張っていたのか俺の進行を防ぐ様に邪魔をした。

 動きを止めたその一瞬――。


「もらったわよ、ヒルトッ!!」


 両腕を突き出す様に構えると、腕部装甲の一部がスライドし、衝撃砲と同じ砲口がハイパーセンサーで捉えた。


「新装備か!?」

「ふふん。 食らいなさいッ!!」


 両腕の装甲から放たれる弾丸は見えず、それが衝撃砲だとわかったのはその一斉射撃を浴びた時だ。

 シールドバリアーに阻まれ、装甲までは届かなかったものの、衝撃砲による一斉射撃に揺らぐ機体。

 低威力だが、やはり見えないのが厄介で弧を描くように回避していくと、弾幕を張りながら鈴音も追撃してくる。


「どうしたのッ!? 防戦一方じゃない、ヒルトッ!」


 そんな鈴音も、俺の反撃が無いからか少し苛立ちを見せていた。

 ドカドカと無駄撃ちを続ける鈴音だが、流石に避けてばかりの俺に撃つのはエネルギーの無駄だと感じたのか――。


「~~~~ッ! ヒラヒラ避けてばっかりッ!」


 痺れを切らし、衝撃砲を撃つのを止めた鈴音は加速と共に双天牙月を構える。

 真っ直ぐに加速する鈴音に、俺は――。


「そらよッ!!」


 手に握られた天狼を投擲――勢いよく縦に回転するそれは、加速した鈴音へと一直線に進んでいく。


「クッ……! そう簡単には当たらないわよッ!!」


 加速する勢いそのまま、向かって来た天狼を切り払う鈴音。

 鈍い金属音と共に勢いを失った天狼は地上へと落下するのだが――途中で粒子形成が解除され、光の粒子に変化して虚空へと消えていく。

 その頃には既に俺も新たに粒子形成を終え、天狼を再度構えて向かってくる鈴音の剣撃を捌く。

 捌かれた鈴音は、空中で体勢を崩し――。


「や、ヤバ――」

「悪いな、攻撃させてもらうぞ鈴音!」


 体勢を崩した鈴音の第三世代兵装に、下から蹴りあげると一瞬甲龍から離れた。

 その瞬間、空いた左手で拳を作り、真っ直ぐに振るってその衝撃砲に一撃を加えるや、勢いよく非固定浮遊部位の片割れがグラウンド目掛けて墜落していった。


「あ、あんたねぇ……。 この期に及んでまだアタシの身体に気を使ってんのッ!? ほ、本気でやりなさいよッ!!」

「本気でやってるだろ? だから使える武装破壊したんじゃないか――そらっ!!」

「……!!」


 ノーモーションの突きによる一撃に、避けきれないと判断した鈴音は双天牙月の刃で防ぐ。

 威力は低く、軽い金属音が鳴っただけだが――一つのモーションに移るには、タイムラグがどんな人間にもあるわけで――。


「……そらッ!!」

「っぅ……!!」


 防いだ双天牙月に、回し蹴りによる一撃を与えると、持つ手に痺れが走ったのか苦悶の表情を浮かべた。


「もういっちょうッ!!」

「きゃっ……!?」

 回し蹴りの勢いそのまま、空中で屈んで足払い、空中で変に足をすくわれた為、バランスを崩す鈴音は小さく悲鳴をあげると直ぐ様姿勢制御行動に移る。

 その間に一旦距離を離すと、空に天狼を放り投げ、疾風を呼び出すや直ぐ様構える。

 エネルギー粒子の矢は青白く光を放ち、急速にエネルギー反応が上昇――。


「う、射たせないんだからッ!!」


 残った衝撃砲による牽制射撃、若干体勢を崩すが俺の上を取った鈴音目掛けて放つ。

 まだ太陽の中に隠れていなかったので目が眩む事がなかったのが幸いだ。

 放たれた粒子の矢は、まるで大気を焼き払う様に真っ直ぐに突き進む。

「先読みされた!? でもね!」


 上昇していた鈴音は直ぐ様クイックブーストで降下、エネルギー粒子の矢は当たる事なく虚空へと光の粒子を撒き散らせながら消えていく。

 クイックブーストで降下した鈴音に追撃する為疾風を収納、空中に放り投げた天狼を受け取り、両手で構えて背部ブースターを全基点火させる。

 赤く猛る様に噴き出す炎、揺らめく陽炎……空気を丸ごと燃焼させる勢いだ。

 降下した鈴音へ、急加速で追撃――それを見た鈴音も表情が険しくなり、双天牙月を分離させ二刀に構えて迎撃体勢に移る。

 加速する勢いを殺さず、大きく袈裟斬り――振るった天狼は空気を切り裂き、鈍い金属音と共に防がれるのだが――。


「くぅ……ッ! か、加速してるせいか、重いのよ! あんたの一撃!」


 手にまた痺れが走ったのか、表情を歪ませる鈴音は空いた右手に握られた双天牙月の片割れを下から切り上げてくる。

 一撃の威力は勢いがなかったせいもあり、少量のシールドエネルギーを減らすだけだった。


「……もうッ! 離れなさいよ、アンタ!」

「離れたら接近戦出来ないだろ。 ほらよッ!!」

「……あっ!?」


 受け止めた双天牙月の片割れを、大きく弾くと手から離れたそれは空中を何回も回り、地上に落ちていく。

 幸いにも皆のいる地点から離れてる為、誰も被害を被らないだろう。

 それよりも、片割れを手離した事に焦りの色が見え始める鈴音の表情を見て思う。

 何で【武器を粒子化】させて手元に引き寄せないのだろうか……。

 ……もしかすると、何か考えがあるのか、または手の内を隠してここぞという時に披露するのか――。


「べ、別に一本だけでも問題無いんだからねッ!! 元々二刀流って、アタシのスタイルじゃ無いんだしッ!」


 そう言い放ち、横一閃に切り払う鈴音。

 その一撃を天狼の刃で防ぐと、鈴音は直ぐ様左腕を正面に翳すと腕部装甲に備わった衝撃砲の零距離射撃で俺の頭部に叩き込む。


「うぐっ……!! この距離でそれは効くな……! オラァッ!」


 気合いの咆哮が轟き、衝撃に揺らされる中手首を掴んで衝撃砲を明後日の空へと向けさせる。


「ば、バカッ! 離しなさいよッ!!」

「離したら直撃じゃねぇかッ! 無茶言うなよ!」


 手首を掴まれ、何故か全身を紅潮させていく鈴音。

 表情も目まぐるしく変化し、面白い様に変わるのだが――。


「……埒があかないな……。 一気に決める……ッ! 【天叢雲剣】ッ!!」


 高々に叫ぶその声に呼応し、天狼の刃が青く輝きを放ち始めると同時に、八式・天乃御柱の矛も同様の輝きを放つ。


「クッ……!?」

「八式イィィィッ!!」


 言葉に応え、一斉に甲龍の生身部分に八式・天乃御柱によるショートレンジによる四方からの怒涛の突き。

 バリアは無効化され、絶対防御を発動させると鈴音は大きくエネルギーを減少させ、無理矢理腕を振りほどくと――。


「クゥッ……! わ、悪いけど、勝つためにちょっと乱暴に行くわよッ!!」


 言ってからの反応が早く、真下を取るや俺の足首を掴む――。


「このまま叩き付けてあげるわッ!!」

「何――――ぅおっ!?」


 行動がどれも早く、俺が反応する前には地上へと急降下――足首を掴まれた俺は、なすがままに同様に急降下していき――。


「わ、悪いけど……墜ちてよねッ!!」


 足首を掴む手を離すと、加速したまま地面に急降下していく――。

 だが、何もせず墜落するつもりは俺には無い――。

 落下する中、意識を集中する為に瞼を閉じる――極限まで意識を集中させた俺は――。


「――イグニッション・ブーストッ!!」


 背部ブースター全基から溢れる程のエネルギーの奔流が放出され、爆発するかの様に溢れ出すと急降下していた俺の身体はピタリと止まった。

 止まった状態のまま姿勢制御を行うと、そのまま地上へと降り――。


「ふぅっ……。 流石にあの高さと村雲の総重量合わせたら一発でアウトだからな……危なかった」

「うぅ……まさか彼処から瞬時加速で減速するなんて……! でも、勝負はまだまだよッ!!」


 鈴音は地上に降り立ち、突き刺さった双天牙月の片割れを連結させるや直ぐ様接近戦を仕掛けてきた。

 距離が縮まり、何度も剣を交え、刃がぶつかる度に火花を散らせる。

 器用に回転させての連続斬りを行う鈴音だが、まともにやり合えばじり貧になるのは明白なので縦に振りかぶった時に横に身を反らし、避けるとグラウンドの土が激しく爆ぜる。

 横に身を反らした反動そのままに、横に一閃――だが、読まれていた様で双天牙月を手離した鈴音はそのまま屈んで回避、さっきの俺同様に足払いを仕掛けた。

 軸足に衝撃が走り、体勢を崩したその瞬間――。


「もらいッ!」

「チィッ……!?」


 片方のみの衝撃砲による連射による一撃一撃が装甲に伝わり、更に大きくエネルギーを減少させたが――一瞬の隙をつき、後方宙返りしつつ天狼を振るう。

 切っ先が鈴音の生身部分に触れて絶対防御が発動したのかそこでアラームが鳴り響き――。


「勝負ありだ。 この勝負、有坂の勝ちだ」


 腕組みしたままオープン・チャネル通信を行う織斑先生の言葉で、試合が終わったのを実感すると――。


「く、悔しい……ッ! 後もう少しで勝てたかもしれないのにッ!!」


 悔しさ滲ます表情のまま、その場で地団駄する鈴音も相当な負けず嫌いなのだろう。


「ふぅっ……何とか勝てたが、やっぱり鈴音は強いな……判断も早いし、今回は勝てたが次はわからないな」

「へ……? ふ、ふんっ。 褒めたって何も出ないんだからね? ……でもまあ? 一応今日の昼食ぐらいは奢ってあげるわ」


 腕組みし、ISを解除した鈴音がそういうものの、若干頬を紅潮させてるのは暑いせいかもしれない。


「……んじゃ、トルファン風若鳥の唐揚げ宜しく」

「し、仕方ないわね。 ……ふふっ♪」


 少し楽しげな笑顔で見つめる鈴音は、もう負けたことを忘れた様で少し安心した。

 九月三日の初の実践訓練という名の試合は、今回は俺の勝利という形で幕を閉じた――。 
 

 
後書き
次もバトルっす 
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