Fate/imMoral foreignerS
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始まりから夏休みまで
狂戦士との戦いの話
「ヒィィィィハァァァーッ!!!!」
時刻は11時頃。
寝静まっている者もいるだろう住宅街に、男の雄叫びがこだまする。
突然あらわれた鎧男。
彼が振り下ろした懇親の一撃は地面を割り、ブロック塀を砕き、街路樹なんかも簡単に破壊する。
お栄ちゃんは軽やかな身のこなしでよけていくも、どんどん追い詰められているようにも感じた。
「おいおいどうした女ァ!逃げてばっかじゃつまんねぇだろうがよ!!それともオレにビビってんのか?えぇ!?」
槍の一撃は非常に重たいことは分かる。
あれはくらえば一溜りもないだろうし、受け止めるのも精一杯だろう。
「マスターを守るんじゃなかったのかよ!?」
「ああ、守る。マイはおれの命に替えても守るサ。」
ここでお栄ちゃんが口を開く。
住宅街を抜け、比較的開けた広場のような場所に出ると、お栄ちゃんは大筆をかまえた。
「その暴れっぷり、勇猛さ、アンタが何者だか知らねぇが生前は大層名のある武将と見た。違うかい?」
「見る目あるじゃねぇか。そういうてめぇはナニモンだ?」
「ただの…絵描きだ!!」
街灯を蹴り、真っ直ぐ鎧男目掛けて急接近するお栄ちゃん。
大筆の一撃は槍によって簡単に阻まれる。
そうして鍔迫り合いに持ち込まれ、体格的にも不利となるが
「戦い方からして分かった。お前さん、狂戦士ってやつだろ。」
「ああそうだよ。オレが術者に見えるか?」
「いいや…ただそれなら、おれの"得意分野"って話サ。」
お栄ちゃんが、鎧男の槍を弾く。
身体を回転させ、立て続けに鎧男に勢いのついた連続攻撃をあてていく。脛、胴、腕、頭と、的確に攻め彼女はその鎧男を弾き、さらに下から大筆を突き上げるようにして
「こいつ…!」
「そうら!!」
空中に身を投げ出された鎧男。
それにお栄ちゃんは力を込めた一撃をおみまいする。
魂の宿る筆先。振るったそこからは迸る絵画の波。
それは鎧男を包み、そばにあったベンチやら街灯やらを巻き込んで派手に吹っ飛ばした。
「べっかんこうだ!どこの差し金か知らねぇがマイを殺したきゃ一昨日来な!」
「…。」
倒れた鎧男は動かない。
勝ったんだろうか。
「…お栄ちゃん?」
「もう少し隠れてろ。あの鎧男、まだ息がある。」
隠れながら着いてきた僕は茂みから顔を出すも、手のひらを突き出されてまだ隠れてろと言われる。
確かにお栄ちゃんの言う通り、鎧男は動いていないものの、中からはまだくぐもった声は聞こえていた。
「ふ、ふふ…。」
「あ?」
「ふふ、ふふふふふふ!うっはははははははははははははははははははははははははァ!!!!」
どんな呪詛が、どんな罵倒が飛んでくるのかと思えば鎧男は豪快に笑い飛ばしながら、ゆっくりと起き上がった。
「あー面白ェ!おい女、お前思ったより面白ェ奴だな!!」
槍を杖代わりにして、起き上がる鎧男。
フルフェイスの兜の隙間からは吐血したであろう血が滴っている。つまり、普通なら笑い飛ばせるほど軽いダメージなんかじゃない。
この鎧男は大ダメージをくらっても、こうして笑っている。
お栄ちゃんの言った通り、こいつは狂戦士。
バーサーカーのサーヴァントだ…!
「真名は明かすなってセイバーにこっぴどく言われてっからな。褒美に異名は教えてやるよ…。」
「…異名かい?」
「オレはな…"鬼武蔵"ってんだ。」
男が、槍を高々と掲げる。
そして…
「嗤え…『人間無骨』ゥッ!!」
彼の得物である槍。
その先端が二つに割れ、中からはもう1つの刃が現れる。
十文字槍のようになったそれを振り回し、自らを鬼武蔵と名乗った男は駆けた。
「一切合切ブチ撒けるゥ!!ヒィィィィハァァァーーッ!!!!」
「…!」
お栄ちゃんは大筆をかまえ、また返り討ちにしようとする。
でも、
「お栄ちゃん!避けて!!」
嫌な予感がした。
反射的に僕はそう叫ぶも、時すでに遅し。
「くぅ…ッ!」
お栄ちゃんは既にその槍を受け止めていた。
「人間無骨…聞いたことある。その得物の切れ味にかかりゃ、人間なんて骨がないも同然に簡単に斬れるって代物だろ?」
「ああ、こんな風になァッ!!」
途端、槍から有り得ない音がする。
ギュイイインという機械的な音。一瞬なんの音かと思ったけどそれは、
「こいつ…槍が削って…!」
「ヒィーハァ!!!てめぇごと真っ二つにしてやらァ!!!」
槍。
中から現れた刃が、激しく音を立て大筆から火花を散らしている。
あれは…チェーンソーだ!
チェーンソーみたいに小さい刃がいくつも並んでて、それが高速で動いているんだ!
「オラァ!!」
何かを察知してお栄ちゃんは身を引く。
だがその人間無骨に肩が掠り、着物の肩口部分がスッパリと斬れ、鮮血が吹き出した。
「ぐ…うっ!」
「お栄ちゃん!!」
「来るな!!」
距離を取り、離れるお栄ちゃん。
顔をしかめ、血の止まらない肩を抑えながらもお栄ちゃんは叫ぶ。
「おれは葛飾北斎…マイのさあばんとだ。そんなおれが…負けると思うかい?」
「でも…!」
「そこで見てナ。今に勝つからヨ。」
大筆で鎧男を指し、叫ぶ。
「鬼武蔵殿!」
「あ?なんだ?」
「あんたが誰だか知らねぇ。そして上に何がいるのか毛頭興味ねぇ。けどナ、マイに手ェ出すってんなら今ここで倒す。」
「その怪我でか?掠ったとはいえ割と深くいってんだろ?それ。」
鬼武蔵の言う通り、お栄ちゃんの肩は人間無骨がほんの少し触れただけだけどその傷口はえげつないものだった。
血の止まらない肩。片手にはもう力をが入らないから両手で大筆を、なおかつ全力で振るうのは難しいだろう。
助けてあげたい。
でも、僕に何が出来る?
さっき咄嗟に出ようとしたけど僕が出たところで死ぬだけだ。
何か…何か出来ることは…!
「まぁ精々吠えてろ。面白ェとは思ったがてめぇは所詮、オレにぶち殺されんだからよ!!!」
見ていることしか出来ない。
お栄ちゃんは槍の攻撃を受け止め続けているものの、その表情は前と比べてかなり苦しそうだ。
受け止める度に傷に響くんだろう。それに、攻撃を受け止めている大筆だっていつまで持つか分からない。
何か…何か…!
「…。」
何かないか、
そう思いポケットに手を突っ込んだ。
そこにあったのはスマホ、そしてボールペン。
スマホで友作くん達に助けを呼ぶ?いや、きっと間に合わない。
ボールペン?いや、ボールペンで何ができるって言うんだ。
「…え?」
その時だ。
ボールペンが、淡く光った。
「どういうこと…なにこれ!?」
ペンを握ると、光る。
暖かい優しい光、そしてどこからともなく頬をくすぐったそよ風が吹く。
なんだろう…不思議と…力が湧いてくる。勇気が湧いてくる。
そうして気がつけば僕は、
「…マイ!?」
「あ、なんだ?」
茂みから飛び出し、彼らの前に立っていた。
「やめろマイ!何する気だ!!」
「死にたくなったか?少し待ってろ。こいつ始末してから一思いに殺してやっからよ!!」
いや…死なない。
僕は死なないためにこうしている。
そして…
「死ぬつもりなんてない!それに、お栄ちゃんだって殺させるもんか!!」
どこからか吹く風が僕の背中を後押しする。
動く腕、ペンを掴む指先に何かがほとばしる。
空中に向かってペンを走らせ、それは不思議なことに風となってお栄ちゃんのところへと飛んでいく。
「こいつは…一体…!?」
風はお栄ちゃんを包み、鬼武蔵の一撃を軽々と弾き、
「なんだてめぇ…!その力!」
「…!」
見るも無残なお栄ちゃんの傷口を完治させた。
「マイ…。」
「お栄…ちゃん…。」
ポールペンを、落とす。
指に力が入らない。
腕も、だらんとぶらさがりやがて身体全体に力が入らなくなり…
「勝って…。」
そこで僕は、意識を手放した。
⚫
「!!」
次に気がついた時は、朝だった。
飛び起きて時計を確認すると、昼の12時。
どうやら僕は…かなり眠っていたらしい。
あと、
「右手が…。」
右手の感覚がない。
腕全体が、まるでついてないかのように全く感覚がないんだ。
力を入れても、どれだけ頑張ってもまるで動かない。
そこで僕は、昨夜のことを思い出す。
「あの時…僕は何を…。」
気がついた時には、既に走り出していた。
そしてペンを握って、そうしたらお栄ちゃんの傷が…。
本当に僕は…何をしたんだ…?
「気がついたかい?」
「お栄ちゃん…?」
いつもの聞きなれた声がした。
そこにいるのはテーブルで絵を描いているお栄ちゃん。
彼女の姿はなんともなく、怪我もない。
「しかし焦ったサ。何せ三日も寝てたんだからナ。」
「み、3日!?」
「ああ、おっ死んじまったかと思った。」
かなり眠っていたどころじゃなかった。
僕は3日間も、目覚めないで寝続けていたみたいだ。
「あん時のことはきるけえや巴御前に話してある。安心しナ。」
「でも…僕。」
「にしても驚いたナァ。あの摩訶不思議な力、なんだい?」
絵を描くことをやめて、お栄ちゃんは寝ている僕の隣に座る。
「分かんないよ。気がついたらああなってて…ただ、お栄ちゃんを負けさせたくない…守らなきゃって思ってて…。」
「そうかい、安心しナ!マイのおかげで鬼武蔵とかいうやつはコテンパンにやっつけた。きっと愛の力ってやつサ!」
きっとそんな言葉では片付けられないものだと思う。
でも、おかしい。
あのロボに噛まれて以降。僕の右腕は何やら変だ。
妙に治りが早くなったり、教会では尋常じゃないくらい痛くなったり、
そしてこうして右手が動かなくなったのも、あの時右手から力が湧いてくるような感じがしたのも、
どこか不思議だ。
僕の右手…本当にどうなっちゃったんだろう…。
「手、どうしたんだい?」
「うん…右手がイマイチ動かなくて…。」
「そうかいそうかい…そいつァ大変だなァ…♡」
「…っ!!」
悪寒がした。
背筋を、寒気がゾクリと走り抜けた。
「なぁに安心しナ♡自分で慰められない分、性処理はキッチリおれがしてやる♡」
「い、いいです。結構です!!!!」
お栄ちゃんは笑っている。
しかしその笑い方は悪意に満ちていて、これから僕をどうしてやろうかなといった眼差し、
三日月形に歪んだ口、にんまぁといった感じの笑い方は僕にかつてない恐怖を植え付けた。
「そういや、マイがあんまりにも寝てるもんだからおれも気ィ使ってシてねぇのサ。」
「…!」
僕の耳元で、悪魔がそう囁いた。
「ナァ…♡おれも相当"溜まって"んだ。犯させろ♡」
「やだ…やだぁぁぁぁぁ!!!!!」
そうして右手の謎は深まるばかりで、有耶無耶のまま僕はその後一日中犯された。
しかし数日経つと右手はなんの問題もなく動くようになり、後遺症みたいなものもなかった。
結局治ってしまった為、右手のことも不思議な力のことも日が経つにつれ脳の隅っこに追いやられ次第に忘れていった。
⚫
三日前。
「…。」
「懲りたかい?鬼武蔵殿。」
おれの目の前で膝をつき、動かなくなる鬼武蔵殿。
槍を支えにし、なんとか立とうとしているがもう身体は限界を超えてるんだろう。
さて、
「ぶっ殺しに来た…なんて言ってたナ。」
「ああ…。」
「じゃあ返り討ちにあって、ぶっ殺される覚悟もしてきてる訳だ。武将だもんな?そうだろ?」
「…。」
項垂れる鬼武蔵。
倒れたマイの事も心配だ。
とっとととっちめて、早く連れて帰らねぇと。
「そこまでです。」
「…?」
背後からの声。
振り返ってみると、そこには三つの人影が。
「無益な殺生はやめにしていただけませんか?フォーリナー。」
「誰だい?」
三人のうちの一人がおれの前へ歩み寄ってくる。
ガタイのいい、西洋の鎧を纏った男。
そのナリ、その雰囲気からしてこいつもさあばんとだ。
そして、後ろにいる二人も。
「私はセイバー。此度はバーサーカーの身勝手な行動を許してしまい、誠に申し訳ありません。」
「…お仲間かい。」
その問いに、せいばあと名乗った男はただ頷いた。
「飼い主なら、猛獣の首輪はしっかり付けて逃げ出さねぇよう見張っててくれないと困るってもんだ。」
「その非礼はお詫び致します。彼自身にもしっかり言っておきますので。」
そういい、せいばあは鬼武蔵の肩を担いだ。
「んだよ…てめぇ。」
「仲間を失う訳にはいきません。悪戯に駒を減らすことは得策ではないと会長は仰っていたでしょう。それに…」
「うるせぇ…オレはマスターが殺せっつったから殺そうとした。」
ますたあ。
鬼武蔵がそういったように、こいつにもますたあがいる。
そいつが、マイを殺せと命令した。
つまり、マイを殺そうとした張本人だ。
「ライダー、そちらの方は?」
「うん。舞くんなんだけど…意識がないだけみたい。命に別状はないよ。」
やつの仲間の一人、らいだあと呼ばれた女性がマイをおぶっている。
もう一人いた女性は鬼武蔵殿に何か強めに言うと、拳骨をくらわせていた。
「えーと、キミが舞くんのサーヴァント?」
「?」
気がつけば、らいだあのさあばんとがマイをおぶっておれの近くまで来ていた。
悪意はなさそうだし、その瞳は純粋なようにも見える。
「ああそうだナ。おれがマイのさあばんとの葛飾北斎サ。」
「あ、真名名乗っちゃうんだ。」
らいだあの背中にいるマイは眠っているように動かない。
外傷もなさそうだが、まず気になるのは…
「うーん…真名は名乗るなってきつく言われてるけど名乗られたのならなんとやら、ボクはアストルフォ!よろしくね!」
「あすとるふぉ…って言うのかい。」
こいつだ。
「ライダー!何故真名を…!」
「だって名乗られたら名乗り返すのが騎士としての流儀じゃない?そうでしょセイバー。あ、お家どこ?そこまで運ぶよ。」
この女、まるで怪しさが感じられない。
おそらく鬼武蔵の仲間だろうが悪意も何も感じない。
純粋で明るいその表情からは真っ当な善意しか感じないし、こうしてマイを送り届けてやるというのも裏がないように見える。
「不意打ちで背中から刺すのかい?」
「しないしない!第一僕弱いし。きっと返り討ちだよ。」
笑ってそう答えるあすとるふぉ。
信用していいんだろうか。
「じゃあセイバー!ルーラー!ボク舞くんのこと送り届けてくるね!」
そう言って仲間に手を振り、あすとるふぉはおれについてくる。
道中、彼女は本当に何もせず、ただマイのことに関してあれこれ聞いてくるだけだった。
そうして家の前でマイを受け取って別れるが、気になることが一つあった。
「あいつ…どうしてマイの名前を…?」
あすとるふぉ。
あいつはマイを見たとき、"舞くん"と呼んだ。
少なくともおれは、彼らが現れてから1度もマイと呼んでない。
じゃああいつは…?どうしてマイの名前を知っている?
そしてあのさあばんとの集まりは…何者なんだろうか…。
まずはマイの安否が第一だ。今夜あったことは後日にでも、きるけえに相談するとしよう。
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