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Fate/imMoral foreignerS

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火は波に呑まれ、鎮まる話。

 
前書き
こんにちは、クソ作者です。
ウィッカーマン戦ついに決着となります。
何か戦いがある度に腕食いちぎられかけたり背中大火傷してる舞くんですがなんとか生きてます。死にません。 

 
「勝つよ…お栄ちゃんは!!!絶対に勝つよ!!」

叫ぶ。
僕の願望を。いや、これから実現する真実を。
諦めずウィッカーマンはお栄ちゃんに掴みかかろうとするも、ひらひらとかわされてしまう。

「おれのますたあ殿がそう言ってんだ。こいつァ勝たなきゃ申し訳が立たねぇ、ナ!!」

そうして、カウンターに大筆の一撃をくらうウィッカーマン。
キルケーや森長可の二騎があんなに手こずっていたのに、お栄ちゃんはまるでそれが嘘だったかのように軽くあしらっていく。

火が消え、またつく。また火が消えれば、また火に包まれる。
ウィッカーマンがどれほど再生するのかは知らない。
でも、確実に追い込んでいる。

「ごろごろとふろめきな!!」

ウィッカーマンの足元を、横一文字に薙ぐ。
火の消えた両足は一瞬にしてボロボロと崩れ、ウィッカーマンは派手に倒れた。
足の再生が始まりつつあるも、起き上がるにはまだ時間がかかる。

「ホウ…まだ起き上がるのかい。」

しかし、お栄ちゃんは追い打ちをかけるのではなく、待った。

「北斎!何してるんだ!!」
「おれは火事を見るのが好きでナァ。よく野次馬になって見に行ったもんだ。火消しが燃えた家屋を崩して、行きどころをなくした火が上へ上へ立ち上ってくのを見るのがたまんねぇのサ。」

ウィッカーマンが起き上がる。
だけどお栄ちゃんは悠長に昔話を始めている。
けど、

「てめぇのそれ、なんだ?」

伸ばしかけたその手を、大筆を振るい一瞬にして消し炭にした。

「これっぽっちも綺麗とは思えねぇ、そんな汚い火が、描きたいとも思わねぇ火がこの世に存在するなんて初めて知ったヨ。」

大筆に、青い炎が灯る。

「おれのますたあ殿を焼いた憎たらしい火だ。余炎も残さず消してやる。」

からんからんという下駄の歩く音。
それだけが妙に響き、お栄ちゃんは大筆に魂を込めて振るう。

「オン・ソチリシュタ・ソワカ、オン・マカシリエイ・ヂリベイ・ソワカ…」

歩く音が、だんだん早くなる。
歩みが、駆けへと変わる。

何かを感じとったのか、それともお栄ちゃんの凄みにやられたのか、ウィッカーマンはやや後ずさるような仕草を見せたような気がした。
しかし、どうあれお栄ちゃんはこいつを倒す。

「万象を見通す玄帝、北辰より八荒擁護せし尊星の王よ!」

かっさらう。何もかも。
振るわれた大筆から生まれた葛飾北斎のグレートウェーブが一瞬にしてウィッカーマンの全身の炎を消していく。
燻り、また火がつくも無駄だ。

「渾身の一筆を納め奉る!いざいざご賢覧あれ!」


魂を乗せた一筆が、ウィッカーマンを襲う。
せめて一矢報いたいと、腕を伸ばしてお栄ちゃんを捕まえようとするも掴むのは空のみ。
そう、僕は言ったんだ。

「『冨嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)』! 神奈川沖、浪裏すさびッ!」

お栄ちゃんが、絶対に勝つよって。

「…。」

ウィッカーマンの火がついに灯らなくなる。
真っ黒な木炭の塊と化したそれは、ボロボロと崩れ落ち、次第に原型も留めない住みの山となって消滅した。

「やったじゃないか北斎!!」


キルケーや森長可からそう言われるも、そんなことは一切気にもとめずお栄ちゃんはおかまいなしに僕の元へと駆けてきた。

「マイ!!」
「お栄ちゃん…。」

勝った安心からか、なんとか踏ん張っていた両足の力が抜けてふらりと倒れてしまう。
しかし、アスファルトに顔面をぶつける前にお栄ちゃんが見事キャッチ。
僕の顔は柔らかなお栄ちゃんの胸にうずめられる形となった。

「おめでとう…勝てるって信じてたよ。」
「んなこたどうでもいい!ともかく医者に診てもらわねぇと…!!」

そういい、僕の怪我の状況を確認するべくくるりと回し、背中を見るお栄ちゃん。
しかし、

「…?」
「お栄ちゃん?」

背中の怪我の様子を見たお栄ちゃん。
振り返ってみると、なんとも不思議な表情をしていた。

「こいつは…どういうことだい?」
「え?なに?」

と、背中をペタペタと触り始めるお栄ちゃん。
いきなり何をするんだと驚いたけど…変だ。
傷口を思い切り触られれば当然痛い。
けど、痛みが来ない。全くと言って良いほどに。

「お前…それ…。」

近野さんが僕の背中を見て指さしながらそう言った。

どうしてみんなそういった反応をして、どうして痛くないのか?
答えは

「治ってる…!」
「嘘だ…骨まで見えて…背中全体も焼けただれてたのに…!」

治っていた。
あんな大怪我をして、十分もせずにここまで治っていたんだ。

「ほら、これ。」
「うそ…。」

近野さんが証拠にとスマホで写真を撮り、それを僕に見せる。
画面に写された僕の背中は確かに、火傷のあと一つなく以前と変わらぬ背中のままだった。

「どうでもいいけどお前腰ほっそ。女みたい…。」
「そ、そんなことはどうでもいいでしょ!?それよりもどうして僕の背中が…」
「だろう?後ろ姿を見りゃ誰もが女と間違える。おれの自慢のますたあサ。」

そういって僕の背中を撫で、腰をゆっくりと触るお栄ちゃん。
変な声をあげそうになったけど、ここはなんとかこらえた。

「…ところで、誰だいあんた。」
「近野のどか。以前アンタが戦ったバーサーカーのマスターだよ。」
「…。」

先程までの態度は一転、お栄ちゃんはそう聞くとじっと近野さんを睨みつける。

「ほう…あんたが。」
「悪いとは思ってる。それに、こいつが先輩をどう思ってるかよく分かったし。」
「こいつじゃねぇ。マイだ。」

分かる。
お栄ちゃんは今、明らかにこの人に敵意を向けている。
だってサーヴァントに僕を殺せと指示した張本人だ。
怒らないわけが無い。

「お栄ちゃん。でもこの人は悪い人じゃ」
「ちょっとマイは黙っといておくれ。」

トントンと肩を叩かれ、お栄ちゃんはそう言うと僕から離れて近野さんの所へ行く。
近野さんもまた、肩を組んでいた先輩をその場に下ろし、お栄ちゃんの真正面に立った。

「何か、言うことねぇのかい?」
「悪かった。殺そうとして。それに顔を蹴飛ばしたのも反省してる。」
「顔?ああそうか、これもお前さんがやったってのかい?え?」

胸ぐらを掴まれ、近野さんにぐいと引き寄せられる。
このままではまずい。
近野さんは分かってくれたんだ。もう解決したことなんだ。
だから今、お栄ちゃんが手を出すのは間違ってる。

「同じ目にあわせてやろうか。」
「お栄ちゃん!待っ」
「あーあの、少年の彼女さん?」

振り上げた拳は、先輩の声で止まった。

「…なんだい?」
「あのさ…もう、終わったことなんだ。少年とこんちゃんのわだかまりも解けたし、仲直りしたんだよ。でなきゃ二人が力を合わせて私を助けたりなんかしない。そうでしょ?」
「…。」

先輩の話を聞くと、お栄ちゃんは気に入らないような顔をするけど渋々近野さんの服を離した。

「そこまで言うんなら…殴るってのも後味悪いしナ…わかった。先輩に免じて許しておく。」

そういい、開放された近野さんはすぐ先輩の元へ向かっていった。
そうしてほどなく、救急車や消防車のサイレンの音が聞こえてくる。

「先輩は私が病院までついてく。」
「うん。お願い。」

肩を組み、やってきた救急車へと歩いていく2人。

「…分かったよ。お前の気持ち。」
「え?」
「先輩はお人好しでさ。誰にでも仲良くする。それで勘違いする下心丸出しのバカも多いんだけど、お前は別だってこと。」
「…。」

それだけいうと近野さんは救急隊員に連れられ、田所先輩と同伴ということで救急車に乗り込んで行った。

「おーい!葛城!!」

ひと段落も着いた頃、友作くんと暮馬くんが向こうから走ってくる。
だいぶ慌てた様子だけど、僕の背中を見るなり落ち着いたような驚いたような表情をして治った僕の背中を思わず二度見していた

「お前それ…!?」
「うん。治った。」
「治った!?遠くからでも分かるひどさだったんだぞ!?」
「うん。思ったより軽かったみたい。」

ものすごい痛かった背中の火傷はもうまったく痛みも感じない。
骨が見えてたとか言っていたけど、もしかしたら実は気の所為で怪我は大したこと無かったのかもしれない。
不思議なことをそういった理由をつけて片付け、僕らもそろそろ帰ることにする。

「終わったね。」
「…にしても、なんだったんだあの化け物…。」

確かに、
背中の怪我は片付けられたとして、あの正体不明の何かをただの敵としては片付けられない。
"アレ"は、なんだったのか。

「じゃあ聞いてみるか?」
「うわ!」

横から突然の声。
振り向けばそこには近野さんのサーヴァント、森長可が。

「え、どうして…」
「マスターに置いてかれちまった!まぁ後は1人で家に帰っててくれってことだろ!」
「いや、そういうことじゃなくて。」

置いてかれたことについては豪快に笑い飛ばすも、気になるのはそこじゃない。
彼は今、聞いてみるか?と言ったんだ。

「知っている人がいるのかい?あのクー・フーリンの皮を被ってたアレを。」

キルケーも気になり、森長可に尋ねる。
彼は迷うことなく頷いた。

「おう、知ってると思うぜ。何せオレ達はあの化け物に対抗する為に集められたらしいからよ!」
「え。」

化け物に…対抗する為?
じゃあなんだ?化け物の正体を知っているどころか、あらかじめ来ることも分かっていたみたいじゃないか。

「…。」

自然と、拳がぎゅうと握りしめられる。
だって、それがわかってれば、事前に対策できていればこんなことには…!

お店だって無事のままで、先輩も怪我しなかったって事になるじゃないか!

「誰!?」
「マイ?」
「それは誰なの!?誰がどう集めて!どこにいるの!?」

なんだか怒りが込み上げてきた。
怒鳴るように言う僕に、隣にいたお栄ちゃんやみんなが驚く。

「待て待て落ち着け。そいつらが誰かって、そう、アレだよ。」

バーサーカーに落ち着けと言われるけど、落ち着いてなんかいられるか。
しかしこの後、森長可から告げられたことによって僕達は驚き、逆に冷静にならざるを得なくなった。

「オレ達を集めてんのはな、アレだ。お前達で言う"生徒会"ってやつだ。」
「生徒…会?」

生徒会。
どうして今、その言葉が出てくるんだ?

「何かの俗称か?」
「いいやまんまだ。なんならお前達の通う学校のだ。」
「…。」

サーヴァントたちの集まりがある。
その存在はお栄ちゃんから聞いて知っている。
しかし、その集まりが生徒会だなんて…。








その夜。

夜も静まり返り、警察の調査も終わった元喫茶店だった瓦礫の空き地は未だに立ち入り禁止の札が立てられていた。
しかし、keepoutと書かれた標識テープで囲われたそこには、いないはずの人影があったのだ。

「おい、どういうことだよこれ。あいつ強いんじゃなかったのかよ!!なぁ!!」

人影は二つ。
1人は背が低く、清潔感の無いでっぷりと太ったその身体を揺らし、隣にいる男に怒鳴り唾をはきかける男。

「ははは…見事にやられちゃったみたいだねぇ。どうやらセンセイのより弟くんの北斎がずっと強かったみたいだ。」
「なんでだよ!!誰にも負けねぇ最強の…最強の…おい、アレなんて言うんだ?」
「サーヴァントね。」
「そう!サーバントだよサーバント!!誰にも負けねぇ最強のサーバントなんじゃなかったのかよ!!」

もう1人は怒鳴られようが顔に唾がかかろうが、ずっとニコニコと笑顔のままの浅黒い肌の男。

「おいてめぇ、もっと強いの寄越せよ。」
「うん。お安い御用だよ。きっとあのサーヴァントはセンセイには相応しくなかったんだろう。うん。次はもっといいものを用意してあげよう。」

話している内容からして、ただものでは無い。
そう、この二人こそクー・フーリンもといウィッカーマンを差し向けた張本人。
葛城舞の兄、葛城恋。
そして舞が以前であった神父、ナイ神父だ。

「今に見てろよアイツ…兄に恥かかせたこと、死ぬほど後悔させてやる。お前よりも俺様の方が優れてるってとこ、嫌という程思い知らせてそれからあの女を俺様のモノにしてやるよ…!」

弟への恨み、執念を燃やしながら彼は復讐の炎を心に宿す。
とはいっても、ほぼほぼ逆恨みに近いものであることに間違いは無いのだが。しかし神父はただ笑顔で応援する。
それは間違ってると指摘することも、こうした方がいいとアドバイスもせず、

「ああ、その意気だよセンセイ。あんな猿にも劣る奴に、センセイが負けるはずないさ!」

ただ"センセイ"と呼び慕い、持ち上げるのみだった。 
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