IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第671話】
ドイツ空軍基地、場所はオペレーション・ルーム。
薄暗い室内を照らす青い光は空中投影ディスプレイからの光源だ。
「それでは、改めて現状の確認を行う」
織斑先生の言葉がルーム内に響き、そのまま淡々と説明を話し始めた。
「楯無は現在機体の整備を行っている、到着日の予定は未定だが、我々が参入するサードフェイズには間に合うと連絡があった。ルートはロシア領から独自のルートでイギリスへと向かうと改めて連絡があった」
一人ロシア領へと残った刀奈の様子を聞いて俺は安堵した。
誰一人そんな俺に気付かず、真剣な眼差しで織斑先生を見ていた。
「学園を出る前に簡素的には説明したが、ここからは二手に分かれる。ドイツからの海路、及びフランスを経由しての空路だ」
二手に分かれる理由は色々あるが、フランスなら分かる。
シャルやエミリア、ソフィーの機体受領の件だ。
現地のデュノア社で各専用機の受領が行われる予定であり、また今回の作戦の補給品の運搬もある。
「一部、不思議に思う者も居るようだが、我々が一つに固まって行動して身動きが取れなくなる可能性も視野に入れた結果だ。片方が最悪サードフェイズに参加する事が出来るしな。では、ドイツからの海路経由だが山田先生が引率、専用機持ちはセシリア、鈴、箒、エレンに笹川。それと黒ウサギ隊ラウラを除く全員だ」
織斑先生の言葉に驚く一同、人数的に偏りが見えるからだ。
「ドイツルートなのに、ラウラは外すんですか?」
「織斑の疑問も分かる。だがラウラに関しては既にパッケージ受領を完了している。黒ウサギ隊がドイツルートなのも海路で運ぶ補給物資運搬と護衛の役目もある。……まあ、個人的配慮も兼ねてだ」
そう言って織斑先生はシャルを見て、ラウラに視線を移す。
「ラウラ、暫くシャルロットの側にいてやれ。友達なら特にな」
織斑先生の言葉に、ラウラは頷くとーー「はいっ!」ーーと返事をし、シャルの手を握った。
「では話を戻す。フランスルートは私と有坂先生、勿論有坂ハルトさんにも護衛で着いてきてもらう。後は有坂兄妹全員に未来、一夏、ラウラにシャルロット、エミリア、ソフィーに簪だ。シャルロットとエミリア、ソフィーはデュノア社で機体と装備を受領後、ジェット機でイギリスを目指す予定だ。以上、質問はあるか」
軽く手を叩いた織斑先生に対して、黒ウサギ隊副隊長であるクラリッサが一歩前へと出て手を上げた。
「教官!」
「クラリッサか、良いだろう。質問はなんだ?」
「ありがとうございます。質問ではありませんが、我がドイツ海路の引率で、其方の山田先生で充分なのでしょうか?」
「……それはどういう意味だ?」
腕組みする織斑先生に対して引くことなく言葉を続けるクラリッサ。
「いえ、我々黒ウサギ隊も同行するのであれば我々が水先案内人になればとも思いまして。山田先生の実績は分かりますが、ドイツ海路は我々のーー」
「成る程。言いたいことは分かる。だがIS学園教師が引率に立たなければならないということは覚えておけ」
「それは、分かりますが……」
何となく符に落ちないクラリッサに、織斑先生はため息を吐くとーー。
「……確か、お前の専用IS【シュヴァルツェア・ツヴァイク(黒い枝)】は完成していたのだな?」
「はっ。先日、最終調整を終えたところです!」
「成る程。……とはいえ山田先生もクラリッサも今回の作戦には参加予定だ。私はお前達二人を知っているから分かるが、ここで模擬戦を行い、二人の機体が破損すれば先方に迷惑が掛かるのは分かるだろう? とはいえ、クラリッサもこのままでは納得するまぃ……さて……」
腕組みし、ふと俺を見た織斑先生は僅かに口角を上げ、口を開く。
「有坂、お前がクラリッサと模擬戦を行え」
「「えっ!?」」
俺だけじゃなく、オペレーション・ルームに居た全員が驚き、声を上げた。
「き、教官、私が彼と戦うのですか!?」
「なんだ、不服かクラリッサ?」
「ふ、不服と言いますか……此方が得ているデータでは模擬戦勝率も著しくなく、専用機持ちランキングも現在九位の位置付け……」
オペレーション・ルームの投影ディスプレイに映し出される戦績表、学園に記録されている現在までの勝敗が克明に映し出される。
そこに表示された勝率は三割近くであり、七割は敗北に加算されていた。
他のメンバーのも同時に映し出され、そこには五割六割強とデータが映し出された。
「確かにこの表やランキングだけで見れば有坂は低い方だな。とはいえ、山田先生と戦わせて作戦参加出来なくなっては困るのでな」
「し、しかしーー」
「ならばこうしようか、クラリッサーーいや、お前たちラウラを除いた黒ウサギ隊全員で有坂と戦い、勝てたのならクラリッサが山田先生と模擬戦を行うことを許可してやる」
「「えぇっ!?」」
驚愕の声をあげる一同、特に黒ウサギ隊はーー。
「五対一での模擬戦ですか!?」
「数の上で圧倒的に我々が有利になりますよ!?」
「そ、それに、突然の模擬戦……は良いんですけど、いくら隊長の嫁とはいえ彼一人相手にーー」
「ラウラ隊長を除いた我々黒ウサギ隊全員が相手なんて、勝負は見えてますよー……」
事実、数の上で見れば相手にならないだろう。
相手は俺一人だけで向こうは連携の取れる部隊員同士なのだ。
「無論、数のハンデは黒ウサギ隊の機体に制限をかける方向で調整を行う。とはいえシールドエネルギーを三〇〇に設定する以外は概ね自由だがな」
三〇〇とはいえ五人だと合わせて一五〇〇、大してハンデになっていないのは明白だった。
誰かが口を開こうとしたその時、オペレーション・ルームのスライドドアが開く。
「中々面白そうな話をしているね」
「……! クラウゼ司令!」
入ってきた男性を見て敬礼する黒ウサギ隊の面々、慌てて学生である俺達も敬礼しようとするが制止する様に手を前に翳した。
「敬礼は良いさ。それよりも僕もその模擬戦の観戦しても良いだろうか? アリーナはいつものアリーナではなく、我々が軍事訓練をするための特別なアリーナを貸し出すので」
年齢はまだ三十代前半といったクラウゼと呼ばれる司令は織斑先生を見て更に口を開く。
「僕もね、彼には興味があるのだよ。我々の黒ウサギ隊隊長の心の氷を溶かした彼をね?」
そう言ってから俺を見たクラウゼ司令の目は真っ直ぐで、アイスブルーの瞳に冷たさは感じなかった。
「それに……クラリッサ君、君の機体の実戦データをとるには悪くないと思うんだよ。本来なら『我が国家代表』がお相手とも思うのだが、彼女は今は国防で手が離せないのでね」
「じ、実戦データはわかりますが……」
「ならば問題はないはずさ。君たち黒ウサギ隊の機体である【リスペルン・ガイスト】も各装備の使用実戦も行えるんだしね。織斑教官、僕の方でアリーナの申請出しておきますので遠慮なく使って構わないよ。それと、今日は補給も兼ねて我々の基地で一泊して疲れを癒してほしい。君たち全員に上級士官用の個室を用意しておくから」
上級士官用の個室と聞いて驚くのはセシリアや鈴音、シャルとエレンだった。
どんな部屋なのかは分からないが身体を休ませられるのであればありがたいがーー。
「ありがとうございます、クラウゼ司令」
「では、僕は先にアリーナで待ってるから。セッティング含めて一時間あれば問題ないかな?」
「えぇ、ご配慮ありがとうございます、クラウゼ司令」
何はともあれ、俺の意思とは関係なく黒ウサギ隊との模擬戦が確定した俺はーー。
「えっと……よろしくお願いしますね、皆さん」
挨拶をすると、クラリッサは鋭い目付きで俺を見、言葉を紡ぐ。
「有坂教官の息子とはいえ、私としては手加減するつもりはない。ラウラ隊長の嫁という事を差し引いてもだ」
「わはははっ、それでいいぜクラリッサ! お前たち黒ウサギ隊の実力、ヒルトに見せてやれよな!」
腕組みして高笑いする親父、美冬はキッと睨み付けると高笑いが止んだ。
「お父さん! もう……。織斑先生、五対一は流石にお兄ちゃんでも厳しいと思います。せめて一人か二人はアシストに入れてもーー」
そう告げる美冬の言葉を遮り、織斑先生は頭を振りながら応えた。
「いや、このまま五対一で行う。無論疑問に思う者も多いだろう。だが……いや、結果は後でわかるな」
僅かな微笑を溢した織斑先生はオペレーション・ルームから退室し、続くように山田先生も退室した。
圧倒的に不利なこの状況だが、選ばれた以上は仕方ないだろう……続々と退室していく中、一夏が俺に声をかけてきた。
「ヒルト、自信がないなら俺が替わってやろうか?」
「……勝手なこと出来ないだろ、別に替わらなくていいさ。勝つか負けるかは神のみぞ知るって事だろ」
俺は立ち上がると一夏をその場に残してオペレーション・ルームを出ていく。
一人残された一夏はーー。
「……何で千冬姉はあいつばっかり贔屓にしてるんだよ……。俺だって男なのに……ヒルトにだって負けない自信はあるのに……!」
黒く滲んだシミが、一夏の心を少しずつ蝕み始めていた。
白式の待機形態であるガントレットもまた、怪しい赤い光を放っていた。
後書き
次回模擬戦闘っす( ゚ 3゚)
長くなるかはわからないけどねー( ゚ 3゚)
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