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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第二巻
  【第六十二話】

――1025室――


「「………………」」


お互いに黙りあったまま、一時間程この状態が続いている。

俺としても未だに信じられない――が、シャルルが女の子って事で納得している部分もある。

時折見せる女性らしい仕草や男の裸による過剰反応等々の、理由が――。


「……シャルル?」


声をかけると、シャルルはびくっと身を震わせる――別に何もしないんだがな、俺は。


「そんなにびっくりするなって、お茶いれるから飲むか?流石に喉が渇いただろ?」

「う、うん。もらおうかな……」

「ああ、いれるから待ってな」


笑顔で応えると、シャルルはきょとんとした表情に変わった。

――シャルルが女の子でも、シャルルはシャルル、男だと思ったのが女の子だったってだけでシャルルが変わる訳じゃないんだしな。


電気ケトルでお湯を沸かし、それを急須へと注ぐ。


「茶葉が広がるまで待ってろよ?」

「う、うん……」


シャルルに言い、湯飲みの茶葉が広がるのを見て――。


「……もう大丈夫だな。ほら、シャルル」

「あ、ありがと――きゃっ」


小さく声を上げたシャルル、その原因は湯飲みを渡すときに互いの指先が触れ合ったからだ。

そして、そのままシャルルが慌てて手を引っ込めると、湯飲みを落としそうになり、握り直した反動でお茶が手にかかり――。


「~~~~っ!?あ――――つ――い――っ!?水ーっ!」


直ぐ様湯飲みを机に起き、バタバタと水道の所まで行くと蛇口を全開に開き、流れ出る水で手を冷やした。


「ご、ごめん!大丈夫?」

「ぉぅ……冷やしたから大丈夫とは思うが…これが」

「ちょ、ちょっと見せて。……ああ、赤くなってる…。ゴメンね…」


軽くパニックになっているシャルルは、側まで寄って来ると手を強引に取って、痛々しげな表情でお湯のかかった場所を見つめる。



「すぐに氷もらってくるね!」

「ちょ、ちょっと待てって。流石にその格好で外に出たら大騒ぎになるぞ。後で俺が自分で取ってくるから」


――今のシャルルの格好は、いつもと同じスポーツジャージだが、いつもと違うのは胸があることだ。

おそらく俺にバレたから、特別製のコルセットを外しているのだろう。


「でも――」


そう言い、さっきより密着しているせいか腕がシャルルの胸に当たってイヤでもその事に集中してしまう。


未来ともセシリアとも違う柔らかい感触、正直これは嬉しいが――。


「……?どうかしたの、ヒルト…?」

「ん?いや、至福の一時だなーって」

「…?―――!!!」


最初、何を言われてるのかわからないという表情だったが、自分の体勢を見て理解したのか飛び退くように俺から離れた。

そして、胸を隠すように自分の体を抱き――。


「………………」


その眼は弱々しくあったが、女子特有の抗議の眼差しを俺に送ってかた。


「心配しているのに……ヒルトのえっち……」

「……押し付けてきたのはシャルルなのに俺のせいだと…。まあ…えっちなのは否定しないが…」


しかし、彼女の眼差しは此方に対する抗議だけではなく、全体的に恥ずかしそうで――どこか嬉しそうな表情をしていた。


――よくわからんが、多分気恥ずかしさだろう…。

まだ出会って数日なんだ、シャルルが俺に好意ってのはまずあり得ないしな。


「……とりあえず、ここまで冷やせば大丈夫だな。ほらシャルル、今度はちゃんと取れよ?」

「う、うん」


湯飲みを渡すと、シャルルは一口日本茶を口にした。


「……なあシャルル」

「な、何…?」

「何かしら理由があって男子のフリをしてたんだと思うが――無理して言わなくていいぞ?」

「え?――ヒルト…気にならないの…?」


「ん?気にならない訳じゃないが。――シャルルが俺の友達ってのには変わりないだろ?男子だろうと女子だろうと、俺にとっては君は君――シャルル・デュノアに変わりないんだから」

「ヒルト……。――……ありがとう、でもやっぱり僕はヒルトに隠し事したくないから…全て話すよ」

「……いいのか?」

「うん。……ヒルトだから、ヒルトにだから全部…話したい…」

「……わかった。なら聞くよ。だが、言えない事は無理して言うなよ?」

「……うん、ありがとう…」


聞く準備をし、シャルルは目を閉じ深く深呼吸するとゆっくりと口を開いた――。


「……僕が男の子のフリをしたのは、実家の方からそうしろって言われたの……」

「実家?デュノア社だよな?」


「そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」


シャルルの表情が徐々に曇り出していた。

――何か変な違和感みたいなものを感じるが……。


「父親が娘に命令って…何でそんな――」

「僕はね、ヒルト。愛人の子なんだよ」

「愛人……!?」


――正直、頭に強い衝撃を受けたような感覚に襲われる。

まだガキでたったの十五歳の俺でも、その『愛人の子』という意味がわからないほど世間に疎くはない。


「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適応が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」


――本当は言いたくない話かもしれない、でもシャルルはその話を健気に喋ってくれた。


「父に会ったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね。あはは…」


愛想笑いを繋げるシャルルだったが、その声は乾いていて少しも笑ってはいなかった。

正直、そのシャルルの親父が許せない――自身が愛人であるシャルルの母親を孕ませて、産ませた――のかシャルルの母親が黙って産んだのかは俺にはわからないが、自分の娘に対する対応じゃない。

本妻の人もおかしい、普通なら父親の方を殴らないといけないのにシャルルを殴るなんて――。


拳を握りしめ、怒りを抑えるように俺は堪えた――。


「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

「……?何でだ?デュノア社は量産機ISのシェアが世界第三位で国の援助もあるはずだろ?」


「そうだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発に物凄くお金がかかるのはヒルトも知ってるでしょ?」

「あぁ。母さんも村雲を開発するのに国からの支援はあったって言ってたが――」

「うん。それで、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防の為もあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるんだよ」


――そういや一度、セシリアが第三世代型の開発に関して言っていたな…。


『現在、欧州連合では第三次イグニッション・プランの次期主力機の選定中なのですわ。今のところトライアルに参加しているのは我がイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、それにイタリアのテンペスタⅡ型。今のところ実用化ではイギリスがリードしていますが、まだ難しい状況なのです。その為の実稼働データを取るために、わたくしがIS学園へと送られましたの。そのお陰でヒルトさんとも――』


……最後の方は、俺がどうたらこうたらって言っていたがよく覚えてない。

――ドイツからボーデヴィッヒが転入してきたのも、そのイグニッション・プランの為だと思われる。


「話を戻すね。それでデュノア社でも第三世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、中々形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの」

「……成る程。だがそれがどうしてシャルルの男装に繋がるのかがわからないが…」

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに――」



俺を真っ直ぐ見ていた視線を逸らし、どこか苛立ちを含んだ声で話を続けた――。


「同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人逹のデータを取れるだろう……ってね」

「……成る程、つまり俺か織斑の――」

「そう、でもあの人が最優先で言ったのは白式、次点で村雲・弍式のデータを盗んでこいって言われているんだよ。僕は、あの人にね」



――俺がシャルルの話を聞いた限りだと、シャルルの親父はただ一方的にシャルルを利用している…娘への愛情もなく、たまたまIS適応があった、それなら使おう――そのくらいにしかシャルルを感じていないのだろう。

勿論、俺なんかよりもシャルル自身がそれを一番わかっているはずだ。

だから――父親を他人行儀に話すのだろう。

あれは親父ではなく、他人なのだと――自らの中で区別するために。

俺自身…親父とは円満な関係だから…本当には彼女の気持ちをわかってあげる事が出来ない…。


「――とまあ、そんなところかな。でもヒルトにばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

「…………そうか」

「うん。――ああ、何だか話したら楽になったよ。ヒルト、聞いてくれてありがとう。それと、今まで嘘をついていてゴメン」


深々と頭を下げるシャルル、そんな姿を見た俺はゆっくりと口を開き――。


「謝らなくていい。――シャルルは…シャルルは本当にそれでいいのか?」

「え……?」


その俺の言葉に顔を上げたシャルル、表情は驚いているようだった。


「俺や美冬には親がいてるが、基本二人とも海外でな。年に数回しか戻って来ないが親として俺は尊敬している。――でも少なくともシャルルの親父は君の自由を奪ってると思うんだ。親だから、シャルルの自由を奪う権利があるなんてのはおかしいし、まずあり得ない」

「……ヒルト…?」

「親がいないと子供が生まれないのは当たり前だが。……だからといって親が子供に何をしてもいいなんて事はないさ。……シャルル、君にも生き方を選ぶ事だって出来るさ。それを――娘に愛情を持たない父親なんかに、シャルルの生き方の邪魔されるいわれなんて無い。違うか?」

「ど、どうしたの?ヒルト?」


「……多少熱くなったな、悪い。だが……俺自身、シャルルはそんな親父の言うことを聞いてデータを盗むとかしなくていい。父親として、娘に愛情持って引き取られて二年間育てられた訳じゃないんだ。――まだ俺たちはたったの十五歳だが、自身で考えて行動する事が出来るんだから」

「そう…だよね…」

「あぁ。――何かあれば俺が力になるし。――それよりも、シャルルはこれからどうするんだ?」

「どうって……時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋入りとかじゃないかな」

「……シャルル自身はどうだ?それでいいと思うのか?」

「良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」


そう言って見せたシャルルの微笑みは痛々しいものだった。

――だが、そうやって悲観して諦めているシャルルに俺は――。


「選ぶ権利が無い……だから仕方がない……。――そんなバカな事、あるかよっ!?」

「………!?」


急に声を荒げた俺を、シャルルは戸惑いと怯えの表情をしながら俺の方へ視線を向けて――。


「何で……何で最後まで、出来る事を考えないんだっ!?君は一人じゃないんだっ!!少なくともここに――君の事を、シャルルの事を考える友人がいるんだっ!!」

「あ………」


――気づいたら俺は。シャルルの両肩に手を置き真っ直ぐ彼女の目を見つめていた。



「……悪い、また熱くなってたな。――でもな、ガキの理屈って思うかもしれないが俺自身、選ぶ権利が無いなんて思えないんだよ。――だから諦めるなよ、俺も考えるから。――それにシャルル、時間はかかるかもしれないがここに居ればいい」

「え?」

「……問題を先送りにする形であまり好きじゃ無いが、確か特記事項の第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。そして本人の同意がない場合、それらの外的介入は許可されないものとする――だったかな。この学園に居れば、少なくとも三年は大丈夫って事だが…問題は三年しか無いんだよな。しかも先送りな形だし……」


――何か他に方法があれば……。


目を閉じ、腕を組んで考えていると――。


「ヒルト」

「…?ちょっと待ってくれ、何かいい案があるか考えてるから――」

「そうじゃなくて。――よく覚えられたね。特記事項って五十五個もあるのに」

「ん?――実はたまたま昨日見たのをうる覚えで思い出しながら言ったんだが…何処か間違ってたか?」

「ううん、あってたよ?ふふっ」


柔らかな笑みを浮かべるシャルルを見て、俺は安堵した。

さっきまでの暗い表情よりも、女の子には――というよりも、シャルルには笑顔が一番だと思うしな。


「とりあえず、俺なりに色々調べてみる。先送りな形じゃなく、解決出来るなら直ぐに解決したいしな、これが。――まあ、俺がフランスに身売りしてシャルルの罪を許してもらうって手もあるが――」

「そ、それはダメだよっ!……僕なんかの為に、ヒルトの人生を犠牲にするなんて…」

「…まあそれはあくまでも最終手段って事だ――でもさ、俺はシャルルの為なら何でもするぞ?――シャルルだけじゃない、友人が困ってるなら出来るだけ力になるのが友としての仕事だしな。――金関係はダメだがな。――まあ決めるのはシャルルだから考えてみて」

「…うん。ヒルトの言った最終手段以外で考えてみるね」


――結局、俺は彼女の為に何か出来ただろうか?

俺の独りよがりじゃないだろうか…?

友人が――とは言ったが、迷惑でお節介ではなかっただろうか?


そんなことを考えながら、俺は目を開き、シャルルに再度視線を移した――。 
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