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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第276話】

 出し物も決まり、俺は職員室へと足を運ぶ――のだが。


「……何で一夏が着いてくるんだ?」


 振り向き、後ろから着いてくる一夏に聞くと――。


「あぁ。 最近俺の部屋のシャワーの出が悪くてな。 千冬姉に言って業者を呼んでもらおうかなって」

「……それって結構重要な事じゃないか。 いつからだ?」

「確か……夏休み終わる前ぐらいだな」


 ……おいおい、そういうのは早く申請した方が良いのに――これから学園祭の準備で忙しくなるのだから。


「……まあ、今更言っても時間は返らないからな。 早めの申請が一番だぞ?」

「わかってるって。 ……いつもシャワー浴びる時に気がつくんだよなぁ」


 暢気な声をあげる一夏に、少し呆れつつも職員室へと向かっていった……。


――職員室内――


「――という事で、何とか意見を纏めた結果、一組は喫茶店になりました」


 簡単な報告をする俺。

 織斑先生は座ったまま足を組み、一夏を見ながら。


「……成る程。 で、お前は何か用でもあるのか、織斑?」

「はい。 最近シャワーの出が悪いので修理の業者を呼んでほしいのですが」


 敬語を使い、説明する一夏。

 ここで千冬姉と呼べば、確実に叩かれるのは目に見えてるからな。


「……成る程。 だがこれから学園祭の準備が始まる。 それが終わってから業者を呼ぶことになるがそれでいいか? ……何分、最近不穏な噂を聞くのでな……」


 そう小さく呟く織斑先生に、俺は聞き返す。


「不穏な噂とは?」

「……下手に生徒を不安がらせる訳にはいかないから言えない。 ……とりあえず、織斑には有坂の部屋に移ってもらう。 シャワーの出が悪いというなら、お前も汗を流せないだろ」


 ……まさかの一夏と同室がこの場で下されるとは……。

 軽く目眩を起こしそうになる中、一夏は――。


「流石千冬姉ッ! やっとヒルトと同室だぜ! サンキュー――いてぇっ!?」

 はしゃぐ一夏の脳天に直撃する出席簿の角。

 衝撃が凄まじかったのか、頭を抱えて悶絶していた。


「職員室ではしゃぐな馬鹿者。 ――それと、これは一時的な措置だ。 学園祭終了後は速やかに自室へ戻れ。 ……そういう訳だ有坂。 迷惑だろうが私の愚弟をよろしく頼む」


 そう言って立ち上がり、頭を下げる織斑先生を見ると俺も慌てて――。


「わわっ、あ、頭をあげてください! ……わ、わかりましたから……」


 流石に織斑先生が頭を下げると、嫌だとは言えないので了承をした。

 ……まあ学園祭終了迄だ、それまで我慢すれば大丈夫。

 そう心に言い聞かせ、貞操の危機に対しての対策を早速練ろうと心に誓った。


「……すまないな有坂。 ……どうにも織斑は過剰なスキンシップを行うらしくてな。 本人は嬉しいのだろうが……姉としては複雑なものだ」


 軽く溜め息を吐く織斑先生――やはり、一夏の中学時代とかにも似たことがあったのか、はたまたシャルが織斑先生に訴えかけたのかはわからないが。


「――それはそうと、喫茶店か。 ……また無難な物を選んだものだな」


 再度椅子に座り、足を組む織斑先生のその姿は何処か色っぽく俺の目に映った。

 これが大人の女性の色香なのだろうか?


「――と言いたい所だが、勿論ただの喫茶店ではないのだろ、有坂?」


 見据えた瞳はまるで全てを見透かしてる様に思える――。


「んと、単純なコスプレ喫茶って感じですかね?」

「ほう? コスプレ喫茶か……立案は誰だ? まあ大方、田島かリアーデ辺りだろう。 二人とも、そういったのが好きだからな」


 ふっと微笑を溢したと思うと表情をにやにやし始める織斑先生に面を食らいつつ――。


「えと、立案者はラウラです」

「………………」


 きょとんとした表情の織斑先生は、沈黙したまま二度瞬きをする。

 そして、次の瞬間には盛大に吹き出していて、頭を抱えていた一夏もびっくりした表情で織斑先生を見つめていた。


「ぷっ……ははは! ボーデヴィッヒか! それは意外だ。 しかし……くっ、ははっ! あいつがコスプレ喫茶? よくもまあ、そこまで変わったものだ」


 まさか織斑先生が盛大に笑うとは思わず、職員室に居た教師陣も目をぱちくりさせ、母さんはあらあらといった感じで口元を手で隠すように微笑していた。


「……意外なのですか、織斑先生?」

「それはそうだ。 私はあいつの過去を知っている分、可笑しくて仕方がないぞ。 ふ、ふふっ、あいつがコスプレ喫茶……ははっ!」


 目尻に涙を浮かべるほど笑う織斑先生。

 ……意外なのだろうか?

 確かに、親父が出会った当初のラウラは感情が乏しかったとは言ってたが、ドイツを発つ最終日にはぎこちないものの笑顔を見せたと前に言っていた。


「……俺には、意外とは思わないですよ。 ラウラの事」

「――んんっ。 ほう? 私が向こうで教官をしていた頃は、ボーデヴィッヒは感情が希薄だったが……」


 昔を思い出すかの様に腕を組み、瞼を閉じて俺の言葉を聞く織斑先生。


「……親父が言ってたのですが、ドイツを発つ最終日には……彼女はぎこちないものの笑顔を見せたって言ってました。 ……何があったかは知りませんが、本来の彼女は多分……俺は普通の女の子の様に笑い、怒り、泣いてと出来る女の子だと思いますよ」

「……成る程。 ……そうだとしたなら、私はラウラの全てを理解していた訳ではない……という事になるな」


 寂しそうな微笑を一瞬溢すも、直ぐ様いつもの織斑先生に戻る。


「さて、報告は以上だな、有坂?」

「はい。 出し物に関してはこれで確定しないと、『織斑一夏のホストクラブ』等といった内容が罷り通る事になりますので」

「む。 ……それは由々しき事態になりそうだな。 ではこの申請書に必要な機材と使用する食材、その他必要な物等を書いておけ。 一週間前には提出する様に。 いいな?」

「了解です」


 そう短く返事をすると、軽く一息つく織斑先生は机の上にあった申請書を俺に手渡してくる。

 それを受け取ると、クリアファイルに納め――。


「有坂、織斑も。 学園祭には各国軍事関係者やIS関連企業等多くの人が来場するだろう。 一般人の参加は基本的には不可だが、生徒一人につき一枚配られるチケットで入場出来る。 渡す相手を考えておけよ」


 ……既に渡す相手は決まっていて、美冬と未来もチケットは俺にくれるからそれを成樹やたっくん、信二の家に郵送する事になっている。

 本当なら、未来は親を呼ぶ予定だったのだが学園祭の日はおじさんもおばさんも忙しくて無理だって未来が言っていた。


「大丈夫ですよ、呼ぶのは俺の親友ですから」

「へぇ~、ヒルトにも親友って居たんだな?」


 ……その意外そうな言い方はやめてほしい。

 俺はどちらかと言えば、男にモテるタイプ――と言っても、ホモではなく、友情的な話で、サッカーをしたり野球をしたりと色んな男子と遊んだものだ。

 逆に、今女子にモテてるこの状況こそ、中学の同期が見たらひっくり返る事態だろう。


「有坂くん、少し良いかしらぁ?」

「……母さ――じゃなく、はい、何でしょうか有坂先生?」


 ふわふわとした声で俺を呼ぶ母さん。

 多分昨日言っていたクサナギの件だろう。

 ――因みに一夏は、織斑先生に怒られている。

 職員室ではしゃいだ事に対してだろう――二度怒られるとは。


「うふふ。 昨日言っていた件の書類よぉ? 三枚だけだから直ぐに終わるわ」

「わかりました。 ――ここで良いのでしょうか?」

「えぇ。 判子はもう押してあるので、サインだけよぉ」


 笑顔でサインする箇所に指を指す母さん。

 フルネームで一枚目、二枚目と名前を書いていき、最後の一枚――。


「……これで大丈夫ですか?」

「えぇ。 ご苦労様、有坂くん。 ……うふふ、自分の息子を名字で呼ぶのはなかなか慣れないわねぇ」


 若干苦笑しつつ、受け取った書類を纏める母さん。


「……うふふ、もう大丈夫よぉ? 気をつけて帰りなさいな」

「あ、はい。 ……では失礼しました。 織斑先生、後日提出に伺います」

「うむ。 ……お前も早く戻れ、荷物はあまり多く有坂の部屋に持っていくなよ」

「わ、わかってるって」


 そんな一夏を連れ、俺と一夏は一礼をしてから職員室を出ていった――。 
 

 
後書き
一時的措置で一夏との同居となったヒルト

果たして彼の処女は守られるのだろうかΣ(゜∀゜ノ)ノ

次回、第277話【『え? 何だってヒルト?』『アーーーッ!?』】に続く(嘘) 
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