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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第262話】

 九月。

 そう聞くと皆は何処か夏が終わって少しずつ涼しい季節を感じる者も多い事だろう。

 ……だが、それはあくまでも九月の半ばを過ぎた辺りの話であって、今日は九月三日。

 つまり――まだまだ夏の残暑真っ盛りという事だ。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 俺は今、少し後悔していた。

 現在、バーベル四十キロを担いでグラウンドを走っている途中。

 噴き出す汗に視界が覆われ、滝の様に流れてはISスーツが吸収するも、額から落ちる汗の量が半端なく、後悔の真っ最中――だが、一度言ったのだから成し遂げるつもりではあるが。

 グラウンド中央では既に授業が始まっていて、午後の授業内容は一学期に習った内容のお復習と、基礎の歩行訓練及び飛行訓練がメインだ。

 基礎と聞くと、大体の人は嫌がるものだが、俺は基礎こそ一番大事だと考えているため、特訓メニューからも外した事はない。

 応用技や高等技等も、基礎があるからこそ成り立つのであるから重要だと思うのだが……。


「ぜぇっ……ぜぇっ……。 ……キツいな、ヒルト……」

「はぁっ……はぁっ。 ……てか一夏、遅いぞ……。 バーベル担いだ俺が追い付くって……」


 何と気付くと遥か先を走っていた筈の一夏に追い付いていた。

 一夏も全身から汗が吹き出ていて、ポタポタとグラウンドの土を濡らしている。


「ぜぇっ……ぜぇっ……。 ……てか、何で……バーベル……担いでんだ?」


 並走する一夏は、担いだバーベルに気付くとそれを指摘した。


「……俺が自ら望んだんだよ。 ……はぁっ……はぁっ……キツいな……」


 バーベル担いで走るだけでもキツいのに、一夏が話しかけてくるのでそれにも答えると余計に体力を奪われてしまう。

 現在、折り返し地点の十キロ地点だが、まだ残り十キロあると思うと軽く絶望しそうになる。


「ぜぇっ……ぜぇっ……。 ……何で……わざわざ、……バーベル担ごうって思ったん……だ?」

「……別に、ただの基礎体力向上の為だよ……。 ……悪いが、あまり喋らせるな……」


 余計に体力を奪われ、息も途切れ途切れに何とか走り続ける。

 だが……徐々にだが並走していた一夏が遅れ始める。

 バーベル担いだ俺より遅れるって、どういう事だ?


「はぁっはぁっ……はぁ……。 ……一夏、置いていくぞ?」

「……あ、あぁ。 ……わりぃが、ヒルトのペース……着いていけねぇ。 ……しかも四十キロのバーベル持ってるのに……」


 息も絶え絶えに、最後の方は聞こえなかったが一夏を置いて自分のペースを維持して走り続ける。

 グラウンド中央に視界を移すと、前に行われた様に皆が歩行訓練を行い、それを専用機持ちがサポートしているのだがどうも篠ノ之組のペースが悪い気がした。

 ……そういや、あいつの教えかたって擬音オンリーで多分こんな感じで教えてるのでは無いのだろうか……。


『ここに足をガッと掛けて、腕でぐぐっとする感じだ!』

『違う違う! 歩行はもっとドシンドシン!って感じで歩くのだ!』

『飛行はビューンっと飛んで旋回はグンッと曲がる感じだ!』


 ……ヤバい、容易に想像出来すぎて篠ノ之組が可哀想になってくる。

 鈴音等も感覚論ながらも、基礎などを教えてくれたときは案外丁寧な印象だったが。

 ……だが、一番変わったのはやはりラウラ組だろう。

 皆がラウラに何処をどうすればいいのかを聞いてるのが目に映り、容易に想像しやすかった。

 ……他だと、やはりシャル辺りだろうか?

 六月当初は男子という事もあって殺到したものの、今は女の子だと解ってるために皆落ち着いている。

 ……だからって、シャルとクラスメイトの仲が悪いわけではなく、人当たりの良い彼女の女子人気も高く、男装させたがる女子も多い。

 ……悪くはないと思うが、男装だとまた本のネタにされないかが心配になるが。

 そんな考えも他所に、皆の授業は続き、俺と一夏の懲罰によるグラウンド一周も続いていくのだった――。


――四十分後――


「はぁっ! はぁっ! ……疲れたーッ!! 距離は大したこと無いのに、バーベルががが」


 ゴトン……と、鈍い音をたててグラウンドにバーベルを落とすと、グラウンドの土に膝からつき、腕で支えて四つん這いのまま息を整える。

 額から流れ出る汗が土を濡らしていく――と、頭上から声が聞こえてきた。


「有坂くん、お疲れ様です。 タオルとスポーツドリンクですよ」

「あ、ありがとうございます……。 山田先生……」


 顔を上げると、山田先生が前屈みになってスポーツドリンクとスポーツタオルを手渡してきた。

 その際、たわわに実った乳房が揺れ、内から力が込み上げてくる思いだった。

 ……現金なエロパワーだなと苦笑しつつ、タオルで顔を拭い、スポーツドリンクを一口飲むと身体全体に行き渡るのを感じた。

 それだけ体内の水分が身体から出ていたのだろう。

 ……走り終えたからか、吹き抜ける風が心地好く、実に清々しい気持ちが心を満たしていく。

 懲罰とはいえ、やっぱり走るのは気持ち良いものだ。

 ……だが、バーベルは今度から遠慮しようとは思うがな、これが。

 よくよく考えたら、腰を痛める気がしなくもないし。

 グラウンド中央では、歩行訓練は終えて、飛行訓練を行っていた。

 一斉に飛翔する複数の打鉄と複数のラファール・リヴァイヴの姿は壮観で、IS学園グラウンドを出てからモノレールの下か上を抜けて各種チェックポイントを抜けていくので、一種のレースみたいにも感じる。

 そんな光景を眺めつつ、スポーツドリンクを一口一口飲み、暫し俺は身体を休めるのだった……。 
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