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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第259話】

 突然の一夏の言葉に、真っ先に反応したのは鈴音だった。


「そんなの当たり前でしょ? アンタと美冬じゃ、天と地程の差があるに決まってんじゃん。 それに、アンタの白式燃費悪すぎだし。 ――只でさえシールドエネルギーを削る仕様の武器なのに後先考えずバカスカ撃って、零落白夜発動してってやれば美冬に拳一発でやられるのも必然よ」


 幼なじみならではの痛烈な指摘といったところだろうか?

 だが、厳しい事を言うのも敢えて一夏の為を思っての事だと俺には思えた。


「うーん……」


 そんな鈴音の指摘を解ってるのか解ってないのか、とりあえず腕組みして瞼を閉じ、考え込む一夏。

 一夏の白式は背部ウイングスラスターの大型化に伴ってか、更に燃費を食う仕様になった上に瞬時加速多用した結果かチャージタイムは短く、最大速度は一.五倍。

 ただ……肝心のこいつの無計画な運用のせいで、幾ら機体がパワーアップしても本人の頭が脳筋な以上は無理かもしれない。

 荷電粒子砲も考えなく撃つし、まあ当分勝ち星もつかないだろう。

 零落白夜の発動を制限しながら戦えば経戦能力もあがるが――。


「前にも指摘したかもしれないが、一夏は零落白夜に頼りすぎだな。 ……自分で前に一度言ってただろ? 零落白夜は諸刃の剣だって。 ……それに、正直この中の誰かがいつその零落白夜の刃で生身を傷つけられるかわからないから俺としてはもう少し考えてから使ってほしいが?」

「……それだと、試合の巻き返し出来ないだろ? ……それに、ちゃんと寸止め出来るさ」


 ……その自信、一体何処から来るのだろうか?

 雪片自体にもバリア無効化攻撃が備わっているのにわざわざ一発大逆転を狙う事も無いだろうに……。

 ――と、突如篠ノ之がわざとらしい咳払いをし――。


「ごほんごほん。 ま、まあ、アレだな! そんな問題も私と組めば解決だな! 私には単一仕様の【絢爛舞踏】がある。 故に共に組めば一夏の能力を最大限にまで引き出せるぞ!」


 ……まあチート同士で組めば勝てるのは必然だろう。

 直撃を当てたら相手は一発アウト(下手したら命も)。

 んでエネルギー切れかけたら篠ノ之は自身のシールドエネルギーも回復しつつ、一夏も回復っと……。

 ――つくづくチートな能力だなと思う……まあ俺の第三世代兵装もそうだが。


「……また箒とか。 たまにはヒルトと組みたいぜ……」


 そんな何気無い一夏の呟きに、篠ノ之は怪訝そうな表情で一夏を見ながら――。


「なっ……!? わ、私と組むのが嫌だと言うことなのか!? 一夏!!」

「ぐぇっ。 く、苦しい……」


 頭に血が上ってか、胸ぐらを掴む篠ノ之に苦しそうな表情の一夏――。


「あ、あいつと組むよりは私の方が一夏の実力を遺憾無く発揮させてやることが出来るのだぞ! それに、アイツの何処が良いというのだ!?」

「お、落ち着けって箒……な?」


 俺に指差しながら、ゆさゆさと揺さぶる篠ノ之は、端から見たら恐喝してるようにしか見えなかった。


「……箒も見る目無いわね、ヒルトの良さがわかんないって。 ……私も、最近気付いたから箒に言えた義理じゃないけどさ……」


 そんな呟きが耳に届く――まさかな、鈴音の気になるのが俺って有り得ないだろ。

 そんな考えを他所に、ラウラが――。


「とりあえずあの二人の事はその辺りに置いておくとして……組むといえば――ヒルトは私と組む方が良いだろう。 私のAICを戦略的に組み込めば優位に戦える。 それにヒルトは私の嫁だ。 だから私と組め、いいな?」


 そう言って頬をぷにぷにとつついてくるラウラ。

 確かにラウラと組むのは良いかもしれないな……。

 ――と、考えてると、顔を此方に向けた鈴音が。


「ふふん。 残念だけど今回はあたしと組んで貰うわよ。 クラス代表同士だし、何より衝撃砲は目に見えないのが特徴――あたしとヒルトが組めば、三國統一も夢じゃないわよ」


 ――と、まさかの鈴音の参戦にラウラは驚きを隠せなかったが直ぐにいつもの表情に戻るや。


「ふっ……。 私のAICの前には衝撃砲も意味を為さない……。 だからヒルト、私を敵に回すよりは人生のパートナーとして選べ」

「な、何よッ! まだアタシは本気出してないだけなんだからねッ!? だからヒルト、アタシと組みなさいよッ!!」


 そう迫る二人に待ったをかける人物が現れる――それは……。


「ふ、二人とも何を勝手な事を仰有ってますの!? ……ヒルトさんと組むのはこのわたくし、セシリア・オルコットですわよ!! わたくしの機体は遠距離型ながらもオールレンジ攻撃を可能とした傑作機。 わたくしとヒルトさんが組めばスペインの無敵艦隊ですら灰塵に期しますわよ」


 名乗りを上げたセシリアは、立ち上がるといつものように腰に手を当て、髪をかきあげる仕草をする。

 ふわりと舞う金色の髪は靡き、辺り一帯をキラキラと輝かせていた。


「ふっ……そのオールレンジ攻撃も、私のAICの前には無力だ。 だからヒルト、迷う必要はないはずだ」

「ら、ラウラさん? あの時は少し油断をしていただけですわよ? 今こそブルー・ティアーズの真骨頂、特とお見せ致しますわ。 ……それに、お母様――有坂先生にブルー・ティアーズを見ていただいてからはすこぶる調子が良いですもの……」


 確かに、一度夏にセシリアのテストを見学した時に見たが模擬戦を行った頃よりも旋回性や上昇力等が向上している様に思えた。

 ……母さんって、本当に謎だな……名整備士?

 またはイギリスの整備士がぼんくらかのどっちかだな。


「むぅ……ズルいぞセシリア。 私だってママ先生に機体を見てもらいたいのに」


 少し悔しそうに呟くラウラだが、ママ先生って……。


「……アンタのお母さん――真理亜さんって、何者なの?」

「……一応俺と美冬の母さんだぞ。 なあ美冬?」

「うん。 お母さん――先生に訊いてもいつもそう言うよ?」


 美冬は言いなれないのか、たまにお母さん先生って言ったりする。

 それはゆゆしき事態だろう……。

 ――と、ここでシャルが口を開き――。


「ぼ、僕も立候補しようかな? ほ、ほら。 一度ヒルトと組んでるし、僕と組めば武器もいっぱい使えるから」


 遅れて名乗りを上げたのはシャルで、首を傾けながら笑顔で言ってきた。

 話を聞くよりも考え事していたらしく、多分今の会話は聞いてなかったかもしれない。

 それはさておき――まあ、シャルも確かに悪くはないよな。


「シャルロット、一度組んだのならここは遠慮してもらおうか? 確かに私とシャルロットの仲とはさっき言ったものの、ヒルトを巡ってなら私は誰にも譲る気はないのでな」

「な、何よッ! ち、ちょっとヒルトとキスしたからってヒルトはアンタのものじゃ無いんだからッ!!」


 ラウラに指を指し、顔を真っ赤にしながら言う鈴音はそういえば目の前で俺とラウラの濃厚なキスを見た目撃者でもあったなとふと思う。


「ふむ。 ……だがそれは変わらない事実だ。 ヒルトと初めて交わした口付けの相手が私という事実は永遠に変わらないし、ヒルトの心にも確りと残っただろうしな」


 腕組みし、当時のキスを思い出してか頬を紅潮させるラウラ。

 ……あれ、時々夢で見るんだよな……。

 しかもその後高確率で夢の中だがラウラと一線越えてるし……。

 ……夢精しないだけいいが、朝起きたらいきり立っててめちゃくちゃ痛い……。

 ……またそれもラウラに何度か目撃されてるからなぁ……。


「……僕だってまたヒルトと組みたいから遠慮はしないよ? ……遠慮したら、きっかけ無くなるもん」


 そう静かに言い、水を一口口に含んで飲み込むシャル。


「……ですが、やはり二回も組まれますと益々ヒルトさんとシャルロットさんの仲が深まりますわ……。 ――ですから、わたくしも引くわけにはまいりません事よ」


 セシリアも負けじとそう言い放つ――と、ここで今まで黙々と食事をしていた未来が――。


「私だって譲らないよ? それに……ヒルトとは幼なじみだからね。 阿吽の呼吸ってやつかな? だから連携も取りやすいし、何より天照なら互いにカバーしあえるからね」


 ここで参戦する未来に、流石に幼なじみと聞かされて一同は――。


「ず、ズルいですわ! わたくしだってヒルトさんとは幼少の頃に御会いしていれば幼なじみでしたのに……!」


 ……無茶じゃないか?

 セシリアってイギリスの貴族で俺は日本の一般人何だし、ホームステイしたならいざ知らず、してないからなぁ……。


「くっ……! ここに来て幼なじみの強大な壁を感じるなんて……ッ。 ……アタシも、小学校の時に会えてたら幼なじみだったかもしれないのに……ッ」


 ……まあ、小学校四年でも幼なじみって言えるなら俺の幼なじみは百人いることになるがな。


「……はぁ……。 やっぱり未来が一番手強いよ……」


 ため息を吐くシャル。

 諦めてはいないようだが、改めて未来が最大のライバルだと認識したのだろうか?


「……ふむ。 なら私もヒルトの幼なじみみたいなものだな。 何せ私は小さい頃に教官から一度ヒルトの事を聞いていたからな。 ……ま、まぁ……実際は忘れていたのだが」


 ……ダメじゃん、ラウラ。

 ……でも、ある意味では親父の娘かもしれないな、ラウラの人格形成に一役買ったという意味では。


「……てかさ、皆立候補は嬉しいが俺と組むと優勝遠ざかる気がしなくないか?」


 ここで素直に言ってみる。

 正直、俺と組んで優勝を目指すなら実力のある相手と組む方が良いと思うが――。


「そんな事ありませんわよ? ヒルトさんは四月の頃よりも遥かにレベルアップしてますわ。 今なら大魔王ですら倒せましてよ?」


 ……どんな持ち上げ方だよ。

 てか大魔王って誰だよ……。


「ふふん。 それに関しては同意件ね。 代表戦の頃よりもアンタ、強くなったし」


 ……あまり嬉しい事ではないがな。

 ……まあでも、扱える以上は多少は腕を磨かないと足手まといにしかならないからな、俺。

 ……まだまだ弱いと思うが。


「そうだよ。 ヒルトは強くなったからもっと自信を持っていいんだよ?」


 シャルも俺を持ち上げてくれる。

 嬉しいのだが、流石に照れくさく感じるのも事実で――。


「ふむ。 六月に合間見えた頃より、確かに強くなった。 ……あの頃の私は、お前が嫌いだったというのに今は私の心を全て持っていって……。 ふふっ」


 ……出会いもそんなに良くなかったもんな。

 確か一夏にビンタしようとしたのを俺が防いだのがきっかけだったな。

 今だと、そのまま見過ごすかもしれないが……。


「あの頃のラウラは周り全員敵ーって感じだったよね? 私も話し掛けたら無視されちゃったし……」

「う……す、すまない未来……」

「ううん。 今は仲良くさせてもらってるからいいよ♪」


 申し訳なさそうに眉を下げて謝るラウラに、未来は気にしてない様子だ。

 ……何だか話が逸れた気がしなくもないが。


「まあ、何にしても次にペア大会があるなら美冬かな、選ぶのは」

「にょっ!? わ、私……?」


 驚いた表情で見る美冬は、目をぱちくりさせて――。


「へへっ。 まさかお兄ちゃんに選ばれるなんて思ってなかったなぁ……。 ……何で私なの、お兄ちゃん?」


 何かを期待するような眼差しと表情で見つめてくる美冬に、俺は――。


「ん? ……この中で誰か選べば納得しない子も居るし、美冬なら皆も納得するだろ? 兄妹だしな、これが」


 そう言うと、花開くような笑顔に陰りが落ちる。


「……そ、そうだよね。 ……妹だから……かぁ……」


 訊いてからしょんぼりする美冬だが、選ばれた事自体は嬉しいらしく――。


「ま、まあでもせっかくお兄ちゃんが選んでくれたんだし、そこは喜ばないとね♪ えへへ♪」


 そう言ってはにかむように笑顔で応えるが、美冬は何を期待していたのだろうか?

 ……妹……だからなぁ。

 妹に恋をするわけにはいかないもんなぁ……身体つきは女になったけど。


「……美冬さんでしたら、わたくしも問題はありませんわね」


 胸に手を当て、ホッと胸を撫で下ろすセシリア。


「そうね。 ……てかあんた達って仲良いわよね? アタシにも妹か弟いたらなぁ……」


 そんな感じで一人っ子の鈴音が言うものの、確か中国は一人っ子政策というのがあるらしいからな。


「ふふっ。 美冬みたいな妹なら、確かに可愛いかも。 ……妹、かぁ……」


 一瞬シャルの表情に陰りが落ちるが、直ぐに何でもないように笑顔に戻る。

 ……そういや、本妻が居るって言ってたからもしかしたらシャルには腹違いの兄、姉、妹、弟のどれかが居るのかもしれない。

 ……訊いてもいい内容なら今度、訊いてみるかな。


「ふむ。 ……美冬は私の義妹だから、既に居るようなものだな」

「……まだラウラの義妹じゃないよ、私」


 ラウラの言葉に直ぐ様突っ込む美冬。

 でも前ほど拒絶してないところを見ると、ラウラが義姉になっても嫌では無いのだろう。


「私は小さい頃から美冬と一緒に居たからなぁ……。 姉妹に近いかも」


 確かに、小さい頃から俺達三人いつも一緒だったからな……てか。


「一夏! ちゃんと説明しろ!」

「ぐえっ……。 み、皆も見てないで助けてくれよ……」


 そんな一夏の助けを、俺達は完全放置してそろそろ午後の実習が始まるという事で先にアリーナに向かうことにした。

 ……助けても良かったが、一悶着もダルいのでここは一夏を見捨てる方向が正しいだろう……。

 必要悪ってやつだな、これが。 
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