IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第275話】
放課後の教室内。
まだ一年一組の生徒は帰らず、現在学園祭で出す出し物を決めるために皆が居残っていて、俺はクラス代表として意見を取りまとめていた。
「有坂くん! 私は『織斑一夏のホストクラブ』を提案します!」
「へいへーい、織斑一夏のホストクラブね~」
チョークを手に、黒板に書き連ねていく俺はやる気も無く――。
「はい! 私は『織斑一夏とツイスター』を提案します! 本気です!」
「はいはい、織斑ツイスターね」
適当な返事で返すと、クラスメイトの一部からブーイングが聞こえるも、難聴の振りをして無視しつつ、書いていく。
「有坂くん! もっと真剣に書いてよ!」
「……こんな内容でか?」
書き連ねた内容を見ると、何れも織斑一夏メインの出し物で、明らかにどうでも良いような内容だった。
まず、『織斑一夏と王様ゲーム』。
一夏は絶対参戦で、グループ毎に王様ゲームを行うらしい。
……こんなのをクラスの出し物にした日には、来賓客に笑われる。
次に『織斑一夏とポッキー遊び』。
これはよくあるポッキーの両端から食べて、キスする手前でポッキーを折るチキンレースだ。
下心のある男子にとっては夢みたいな話だが、現実は厳しく……その前に女の子が折るという罠。
……こんなのを出したとしても、一回最低金額を千円単位でやらないと意味がない。
故にこれもあり得ない。
そして『織斑一夏のホストクラブ』。
ホストに扮した一夏が客である女性をもてなすが、一夏しか居ないのでは回転率が悪すぎるのでボツ。
後は『織斑一夏とツイスター』。
これも同上で回転率が悪い。
――と、一夏がプルプルと震えながら短く。
「却下だ却下!」
そんな一夏の却下要求に、クラスの女子から大音量のブーイングが教室中に響いた。
「「「えええええー!!」」」
「何でよ! 良いじゃない!? 織斑君綺麗所に囲まれて嬉しくないの!?」
耳をつんざく様な女子の声にうんざりしつつ、様子を見ると――。
「あ、アホか! 誰が嬉しくて徳すんだ、こんなもん!」
お前だよお前。
誰がどうみても一番徳してるのは接待されてるお前しか居ないじゃないか。
出し物としては陳腐だが、普通に指定された男子としてはIS学園の子から食べさせて貰えたり公式セクハラ出来たりと――何処のハーレムだよ。
「あら? 少なくとも私は嬉しいわね。 織斑君に餌付け出来るし!」
一人の女子が立ち上がり、握りこぶしを作って力強く言葉を口にした。
「う、ウーパールーパーかよ! 俺は!」
「ウーパールーパーは知らないけど、織斑一夏は女子を喜ばせる義務を全うせよ!」
ウーパールーパーを知らないと言われ、ポカンとする一夏を他所に、ヒートアップしていく女子は――。
「織斑一夏は共有財産である!」
「他のクラスから言われてるんだってば。 有坂くんはどうでもいいから、織斑くんを主役にする様にってうちの部の先輩もうるさいし」
……何気にどうでもいいって言われた俺の立場は一体……。
「ほら! 織斑君、私達を助けると思って!」
「メシア気取りで!」
……新たな宗教でも発足したのか?
織斑教祖――胡散臭さMAX過ぎて頭が痛い。
徐々にクラスの中が騒がしくなるが、生憎織斑先生は――『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る。 有坂、後で結果報告に来い』――という事で、副担任の山田先生しか居ない。
とりあえず騒がしくなったクラスメイトを静める為、手を叩いて注目させる。
「静かにしろ。 ヒートアップした所でクラス代表の俺としてはこんな案件を織斑先生に提出出来ないんだから。 それに、一部騒いでるが来賓客やチケットで来る一般の人達も居てうちのクラスの出し物がこんなんじゃ、笑われちまうぞ? 故に提案された織斑一夏シリーズは却下だ」
「「「ブーブー!」」」
ブーイングされるが、そんな事をいちいち気にしてたらいつまでも進まない。
「山田先生。 山田先生は何か提案とかありますか?」
座っていて暇そうにしていた山田先生に振ると、狼狽しながら――。
「えっ!? わ、私に振るんですか!?」
まさか振られるとは思わなかったのか、アワアワとした表情で何を思ったか――。
「え、えーと……わ、私はポッキーの何か良いと思いますよ……?」
「はい? ……提案を聞いたのですが?」
「はぅっ!? ご、ごめんなさーい! 先生何も浮かびませんでした!」
今にも泣きそうな顔で見つめてこられると、まるで俺が苛めてるみたいで後味が悪すぎる。
「……いえ、思い付かなかったのならばそれでいいので。 ……やっぱりここはベタに飲食関係かな? 甘味処とか――誰か、提案あるか? 何でもは良くないが、意見があれば聞くぞ?」
そんな俺の提案に、ざわざわと話し合うクラス一同――と。
「ヒルト、私に提案がある」
そう言って立ち上がったのはラウラだった。
無造作にのばしたプラチナの前髪が揺れ、赤い瞳が俺を見据えていた。
「おぅ。 ラウラ、言って良いぞ?」
「うむ。 私の提案というのは、メイド喫茶だ」
腕を組み、いつもの淡々とした口調でいい始めるラウラを、周りのクラスメイトはポカンとした表情で見ていた。
「ヒルトの言った甘味処もいいが、ここはやはりメイド喫茶だろう。 何より客受けはいいはずだ。 飲食店は経費の回収が行える。 ――という点では、甘味処も同じだが、メイド喫茶だと割高になっても来る客は多いはずだ。 それに――ヒルトの言った通り、来賓客も外部から来るし、招待券制で一般の客も今回は入れるのだろう? それなら、休憩場としての需要も少なからずあるはずだ。 ――ヒルト、どう思う?」
一通り言い切ったラウラは、俺に今言った事についての思いを訊いてきた。
「そうだな。 メイド喫茶ならうちのクラスは可愛い子も多いし、外部から来た男性客も喜ぶだろう。 中々の名案じゃないか、ラウラ。 流石は俺の夫だ」
「う、うむ」
俺の言葉に照れたのか、ラウラは視線を逸らした。
美冬や未来、セシリアやシャルは俺がこうしてラウラの事を「流石は俺の夫だな」と言っても、聞き慣れた為か反応はしない。
理由は、ラウラが俺を嫁というのに対する返しだとわかっているからだ。
それはそうと、そんなラウラとのやり取りをするも、未だにラウラの言った事を理解できてないのかポカンとしたままの一同。
「……俺としては名案だと思うが、皆はどう思う? 少なくとも黒板に書いた一夏シリーズよりかは良いと思うぞ?」
そんな俺の言葉に、いち早く反応したのはシャルだった。
「僕は賛成だよ。 それに、メイドがありなら執事もあり――ヒルトと一夏には執事を担当してもらえば良いと思うけど、どうかな皆?」
ラウラの援護射撃を行ったシャル。
一夏の執事姿が見られるという事もあってか――。
「織斑君、執事! いい! ナイスアイデアだよシャルロットさん!」
「それでそれで!」
「メイド服はどうする!? 私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」
一夏が執事になるという事で、一気に盛り上がりを見せる女子たち――。
一方――。
「ヒルトさんの執事姿――あぁ、想像するだけでわたくし、胸が高鳴りますわ……」
両頬に手を添え、紅潮させるセシリアは妄想の真っ最中――。
「……ふふっ、またヒルトの執事姿が見られる……♪」
笑みが溢れるシャルも、前の@クルーズでの事を思い出してる様に見える。
「…………ふふっ」
静かに笑みを溢すラウラだが、瞼を閉じてる所を見るとやはり@クルーズでの事を思い出してる様に見えた。
「お兄ちゃんの執事……。 お兄ちゃん、試しに私の事をお嬢様って呼んでみて?」
「は? ……お嬢様、お戯れが過ぎますよ?」
「…………」
何故か顔を真っ赤にさせる美冬。
言われなれてないお嬢様という呼び方で照れたのだろう。
「ヒルト、私もついでにお願い~」
「またお嬢様は……。 この私を困らせる事も無いでしょうに……」
「……何だかんだで乗り気じゃん。 ふふっ♪」
楽しそうに笑うと、舌をペロッと出す未来――。
「ヒルトが執事か……。 俺には中々想像出来ねぇが……に、似合ってるんじゃないか?」
そんな理央を見ると、少し頬に熱を帯びてる気がした。
「おー。 私も楽しみー。 ヒルトー、当日は指名してやるー」
「ははっ、サンキューな、玲」
マイペースな玲に反応すると、ここでラウラが咳払いし――。
「こほん! メイド服ならツテがある。 執事服も含めて貸してもらえるか聞いてみよう」
ラウラの言葉に、クラス一同の視線がラウラに集中した。
そんなラウラは、またも咳払いすると――。
「――ごほん。 シャルロットが、な」
注目された事が恥ずかしいのか顔を赤く染め上げたラウラ。
そして、いきなり話を振られたシャルの表情は困ったように眉を下げ――。
「も、もしかしてラウラ? それって、先月の……?」
「うむ。 ヒルトはクラス代表だ、これ以上仕事を頼むのは酷というものだ。 わかるだろ?」
「そ、そうだね。 ……訊いてみるけど、無理だった時はごめんね?」
不安そうな表情のシャルに、俺は――。
「ははっ、そんな事で怒る奴が居るとは思わないさ。 ……んじゃ、シャルに任せたぞ?」
「……うん♪」
輝くような笑顔で応えるシャルを見てから、黒板消しで書いた一夏シリーズを消し、でかでかと『御奉仕喫茶』とチョークで書く。
メイド喫茶ではなく御奉仕喫茶の訳は、執事が入るからだ。
そこそこ難航したものの、一組の出し物は御奉仕喫茶に決まって、俺もホッと胸を撫で下ろした。
……何で、俺を中心にしたヒルトシリーズを提案されなかったのか、疑問には思うが。
後書き
一夏シリーズ(* >ω<)=зハックション!
あれを仮にやったらどうなることやら……
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