ヤザン・リガミリティア
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宇宙の魔獣・カイラスギリー その2
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ヤザンがリガ・ミリティアにいる 作:さらさらへそヘアー
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宇宙の魔獣・カイラスギリー その2
「姐さん!奴らの動きが戻ってきてる!」
ペギーがジュンコのガンイージに取り付いてそう言った。
ジュンコ・ジェンコは、トリガーを引くことを止めることなく努めて冷静に返す。
「マイクロウェーブ照射が終わって大分経つから、もうじき奴らも立ち直る頃だ!」
タシロ艦隊は精鋭揃いだ。
醜態を晒そうとも、そのリカバリーは早いのは明白だった。
収束させたフェダーインライフルでまた1機、
ゾロアットをビームシールドごと撃ち抜くと夜空よりも暗い暗黒に炎の華が開いて消える。
(呆気無く死ぬものね)
命の終わりはもっとドラマチックだと思っていたけれど、
戦争に参加するようになって命とは呆気無く終わるものなのだと痛感した。
だからこそ命は大切にしたい。
死にたくない。
ジュンコ・ジェンコは他者に死を強要することで、己の生を紡ぐ。
ペギーとマヘリアが、〝三段撃ち〟の要領で
ローテーション撃ちをし射撃の隙を無くしてくれる。
シュラク隊のフェダーインライフルは
恐ろしい威力と精度でゾロアットを次々に火花に変えていった。
順調に敵を掃討していく中で、
マヘリアが自機を射撃体勢のままアポジで平行移動させ指揮官ジュンコ機の肩に肩をぶつけた。
「姐さん、すごい速さでこっちに来る連中がいるよ!」
熱源が急速に接近中。
そのスピードはゾロアットよりもずっと速い。
ペギーも、音の振動が自機に伝わってマヘリアの触れ合い通信は受け取っている。
素早く熱源センサーを読み取ったが正確な機数は分からない。
「大型の1機…?モビルアーマーかも」
「あの光…!下方、10時方向…!」
「あっちのフィールドにはブラボー隊がいたはずだけど」
ペギーの言葉には「あの光点は味方かもしれない」という心配があるように思えたが、
ジュンコの決断は早かった。
ブラボー隊はジャベリンで構成された隊で、ゾロアットよりもスラスター出力は低い。
ゾロアットより速いとセンサーが言っている時点でブラボー隊ではない。
(あの速さで動くMSは味方ではヤザン隊長のアビゴルだけ……敵ということ!)
「敵だ、撃ちな!」
ジュンコが言えば、ペギーもマヘリアも迷いなくフェダーインライフルを構えた。
そして躊躇わずにトリガーを引き斉射。
通常のビームライフルよりも強力で弾速も速く、
貫通力ならビームバズーカを超えるフェダーインライフル。
今ではリガ・ミリティアのMSが多く装備しており、
フェダーインライフルを装備すればジェムズガンの小隊でさえ
ザンスカールMSと良い戦いが出来るほどだった。距離を詰められなければ、の話であるが。
シュラク隊の放ったフェダーインライフルの長距離攻撃。
斉射すれば戦艦の主砲をゆうに超えるパワーとなって迫りくる光点を貫かんとする。
しかし光点は、メガ粒子の光が迫る寸前に離散して、
7つのスラスター光となって更に速度を上げてこちらへと迫った。
「7機!?」
「あいつら新型だよ!」
ペギーとマヘリアが忌々しいという口ぶりでそう言った。
言いつつライフルで予測射撃を敢行しているが尽く外されるが、
急に散開されれば凄腕パイロット集団でもそう簡単に当てられないものだ。
特に、的が今までの敵よりも速ければ。
シュラク隊の中で最も百舌鳥に相応しいと評されヤザン的な獣のセンスに秀でるヘレンは、
その7つの機影の、複雑且つ連動した有機的機動を見て眉を歪め吐くように言う。
「ジュンコ達の狙撃を避ける…良い動き。エース隊だね、不足はないよ!」
ヘレンのガンイージがいきなりフルスロットルで飛び出し、
敵新型に競うようにランダムで鋭い軌道で距離を詰めていった。
「ヘレン、お・調・子・に乗るんじゃない!相手のペースに嵌るな!」
コクピットでジュンコが大声を上げるも、当然このミノフスキー濃度ではそれは独り言だ。
ヘレン機は通常のライフルを連射しながら、戦隊のうちの1機を狙っているようだった。
それが付き合いの長いジュンコには分かる。
ジュンコは絞ったフェダーインライフルで連射しつつ他の新型を牽制し、
ヘレンが1対1で標的とやり合えるようにしてやりたかったが、しかしそう上手くはいかない。
ガンイージに引き金を引かせようとしたその時だった。
「っ!?なに!?」
突然横から現れた〝巨大な爪〟にフェダーインライフルが噛みつかれた。
「こいつ!」
叫んで、ジュンコは半ば反射的にサーベルの柄発振機を握りしめたが、
だがその瞬間に〝爪〟もビームの牙で砲身を引き裂いていた。
「この!」と忌々し気に言って、ガンイージがビームサーベルを振るうもそれは空を切る。
頭部バルカンで追撃をかますも、
数発は当たったが〝爪〟はチョロチョロと動いて直撃を避けていた。
「…これは…!」
戦場を素早く見渡すジュンコ。その脳裏にヒヤリとしたものが走っていた。
シュラク隊を遠巻きに囲む躑躅つつじ色の新型達とは別に、
同じ躑躅色の無数の〝爪〟達が乱舞しているのだ。
ペギーが舌を鳴らす。
「囲まれたのか…」
ガンイージの熱源センサーが真っ赤になってアラートを連発する。
四方からメガ粒子砲の嵐がシュラク隊に撃ち込まれた。
「ああ!?」
ペギーのガンイージの腕が消し飛ぶ。
胴にもビームが迫るが、コニーは歯を食いしばってスラスターを全開にし
ガンイージの胴をひねれば、無茶な機動でガンイージは何とかそいつを躱してくれた。
しかし、急にガンイージの挙動が止まる。いや、止められたようだった。
「脚が!く、くそ!」
〝爪〟が脚に噛み付いてペギー機を引っ張る。
「こんなものっ」と焦りが浮かぶ声色で、爪を引っ張りつつ無理矢理にブースト。
質量と推力の違いで当然ガンイージが引っ張り合いには勝つが、
爪の反対方向に加速する為に動きの予測はされ易い。
巧みに〝爪〟…ショットクローを操るルペ・シノはほくそ笑む。
「もらったよ」
ペギーのガンイージに狙い澄ましていたルペ・シノのコンティオ。
その胸部メガ粒子砲が雄叫びを上げる。
強烈な粒子光を放ってペギーのガンイージに突き進む熱線が、
まるでスローモーのように他のシュラク隊には見えていた。
「ペギー!」
その時最も近くにいたマヘリアが叫びながら、ペギー機のバックパックを己から撃ち抜く。
爆発がペギーのガンイージを吹き飛ばす。
コクピットを狙っていたルペ・シノのメガ粒子は、
ペギー機の下半身を消滅させる事には成功したが、
食いついていた〝爪〟までが共に消し飛んでしまった。
かなり際どい助け方だ。死んでいる確率も高く、生きていても相当の負傷は追うだろう。
戦力は削れたが己の手で殺し切ることが出来なかったルペ・シノは唇を薄く噛む。
「仲間を撃つ事で助けた…咄嗟にそこまで出来るか!やるねぇ!」
乱回転して飛んでいったガンイージの上半身を捨て置いて、
しかし、とルペ・シノは尚も不敵に微笑んだ。
「このコンティオのショットクローは2基あるんだよ!」
もう1基のショットクローを、邪魔をしてくれたマヘリア機へと猛スピードで突っ込ませる。
爪の間に展開されたビームサーベルがマヘリア機を突き刺す。
ガンイージの右肩が根本から抉られ、小さな爆発がそこで巻き起こった。
「あぅっ!!?」
コクピットまでその損傷は響きマヘリアの右腕と右太ももを、激しい火花が焼いていた。
(く、そ…危なかった…!ヤザン隊長のシゴキが無ければ反応できなかった!)
あの血反吐吐く訓練に、マヘリアは今心底感謝している。
コクピット狙いの際どい攻撃をスレスレで躱すのは、
ヤザンが最も力を入れた訓練項目の一つ。
MSが小型化した現代、胴部狙いの攻撃はその殆どがコクピットのダメージに…
延いてはパイロットの負傷に直結する。
そしてジェネレーターを誘爆させて核爆発を起こさない為にも
パイロット狙いの攻撃は頻度を増す。
MSの手足も勿論狙われるが、パイロットと比べれば致命傷足り得ない。
MSの手足は一朝一夕で作れるが、パイロットの育成はそうはいかず、
「金と時間がもったいないだけだ」と顔を背け気味に言っていた姿は、
ヤザンには内緒だが女心がくすぐられるとシュラク隊で騒いだものだった。
しかし、コクピット狙いの攻撃による振動で、打撲、裂傷、摩擦傷、火傷etc…
それらで乙女の柔肌を傷つける容赦ない訓練は今思い出しても恐ろしいものだが、
そのお陰で今自分は生きているとマヘリアは痛感出来るのだから幸いだ。
「あの隊長に、結局女の一番大事な血まで流されるなんて想像もしなかったけど…。
ぅ、ぐ…今夜もめいっぱいイイこと教えて貰うんだから…死んでられないのよ!」
独り軽口を叩きつつ痛む足で必死にフットペダルを踏み込み、
痛む腕でレバーを引きつつコンソールを打ち込む。
推進剤にまで引火するダメージでない事を祈りつつも、
マヘリアは推力を落とすことなく損傷したガンイージをちょこまかと動かし続けた。
ルペ・シノはまたも唇を軽く噛んだ。しかしその咬合力は幾分強まっているようだった。
「また仕留めきれなかった!?こいつら…ちょこまかと!!4番機、私に合わせろ!」
ショットクローを手近な僚機に取り付けて接触通信で挟み撃ちに引き込む。
2機のコンティオがダメージ著しいガンイージの前後を、
まるで獲物が弱ったかを確認するハゲタカのように観察し、そして時折ライフルを放つ。
「…っ!今度は二人がかり!?しつっこい!」
マヘリアも火を吹くガンイージで必死に避け続けるが限界は近かった。
メインカメラで周囲の仲間の様子を伺えば、誰も彼もが苦戦の真っ只中。
ガンイージと比べて性能差は一目瞭然だ。
カニのハサミを使う新型は脅威の一言で、未だシュラク隊が戦死者を出さず粘っているのは
やはりヤザンとのサバイバルの経験が生きているのだろう。
シュラク隊の誰もが、勝つための戦闘から
〝敵エース部隊の足を止める〟為ののらりくらり戦法に切り替えているのだった。
ヘレンだけは未だ五体満足だが、
それ以外のシュラク隊は既に四肢を幾らか喪失しAMBAC能力を低下させている。
(自分達は料理されている)
シュラク隊の誰もがそう思ったが、
敵のエース部隊をここに貼り付けていれば
他の戦域の仲間が楽になるのだから彼女らは諦めずに抗い続けていた。
ジュンコがガンイージの残った左腕でシールドを展開し、
残された射撃武器である頭部バルカンで必死に牽制を繰り返しつつ心で叫んでいた。
(…っ、た、隊長…!)
射撃トリガーを引いてももはやバルカンは出ない。
コンピューターが〝EMPTY〟の文字を赤く明滅させていた。
真正面から迫ったメガ粒子砲がビームシールドに直撃し機体が大きく揺れた。
モニターの一部の映像に砂が走って機能を消失していく。
「なんて威力だい!このままじゃ…一矢も報いれないのか…!?」
時間を稼ぐだけで全滅だなんて、そんなのはエース部隊を期待されたシュラクの名が泣く。
エース部隊同士の激突なのだ。
敵が新型だからって一方的に殲滅されるのは、教官でもあるヤザンの名にも泥なのだ。
「こんなとこで終わるもんか!」
ジュンコには生きる意味があった。
死に急ぐようなことはしない。
絶対に生き延びて、そして子を生んで母親になってみせるのだと女は意地に魂を燃やす。
それは執念だ。
7機のコンティオは未だ無傷。
その戦闘は圧倒的にコンティオ戦隊のものだった。
しかし隊長たるピピニーデンは己の隊に不甲斐のなさを感じるのだ。
「…えぇい、どういうことだ!こちらが攻め続けているのだぞ!
奴らはこっちに手も足も出ていないというのに何故仕留めきれん!」
安全策をとって、オールレンジ攻撃が出来るショットクローで〝囲い漁〟を選択した。
遠近両用こなせるショットクローで敵部隊をかき乱し、
コンティオ達本体は安全な場からビームライフルとメガ粒子砲でショットクローを支・援・する。
(本命の野獣退治の良いトレーニングだと思ったが、こんな雑魚にここまで手間取っては…)
ピピニーデンにもまた、シュラク隊と同じように焦りが浮かんでいた。
「ジャベリン共よりはガンイージは手強いと理解していたが、
…もしや、リガ・ミリティアのシュラク隊とはこいつらか?」
ザンスカールの諜報部から齎されたリガ・ミリティアのデータ。
そこには〝野獣〟ヤザン・ゲーブルが率いる
ガンイージで構成された精鋭部隊の名があったとピピニーデンは記憶している。
(だとすればこいつらはリガ・ミリティアの準エース部隊ではないか)
ベスパとしてはエース部隊とはヤザン直率の〝ヤザン隊〟である。
嘘か真か、リガ・ミリティアお得意の噂戦法か、
ヤザン・ゲーブルとは約70年も前に存在したという
連邦軍の伝説的部隊ティターンズの戦闘隊指揮官のヤザン・ゲーブルと同じだという。
その情報を得た時、
ただの同姓同名の者にそういう噂を付与して
噂を流布したのだとベスパの誰もが思ったが当たり前だろう。
ヤザン・ゲーブルが生きていれば90歳を超える老人であり、
生きていてもおかしくない年齢だがとてもMSパイロットは務まらない。
いくら対G性能が上がっている現代でも、MS戦に老体が付いてこないのだ。
だが、老体を薬物投与や機械化で補えば老人でもMS戦は不可能ではなく、
万が一にもティターンズのヤザン本人の可能性はあるし、
一度本人と手合わせしたピピニーデンは野獣の強さを知っているから可能性は感じた。
そしてその可能性があるのなら、
シュラク隊はティターンズのDNAを受け継ぐ隊だとピピニーデンは思う。
「しかし、ジェヴォーダンの獣が本当にあのティターンズの残党ならば、
ザンスカールの前に立ち塞がるのは悪名高きティターンズの残光なのだ!
私達ザンスカールの正義をベスパが示せる良い機会ということだろう。
ティターンズの薫陶を受け継ぐ悪しき連邦の残り香はこのピピニーデンが一掃する!」
眼前のMS達がシュラク隊ならば手柄首かもしれぬと思えた。
そう思って見ればこのMS隊の粘り強さも納得できるというものだ。
「フフフ…!全機焦るなよ…このまま包囲網を堅持すれば葬れるぞ!」
「大尉、敵は消耗しています。ここは一気に殲滅した方が良いのでは?」
ピピニーデンの横にまで来ていたルペ・シノが、
コンティオの肩を擦り寄せて言った。
ピピニーデンは副官をたしなめる。
「焦るなというのだ。手負いのネズミに噛まれても面白くなかろう」
「しかしシャッコーが私達の狙いです。
今、フルにショットクローを使いすぎると隊の者も消耗してしまいます。
有線式クローの連続使用は負担が大き過ぎます」
そう言われてピピニーデンは「む」と小さく唸った。
確かにコンティオのショットクローは非常に強力だ。
ケーブルが届く範囲であれば戦場の好きな位置に配置でき、
遠距離から近距離まで奇襲強襲何でもこなせる。
過去、遠隔兵器に必要とされた『ニュータイプ』という才も要らず、
誰でもオールレンジ攻撃が出来るスグレモノだった。
が、それだけに操作が複雑で、自在に使いこなせるのはピピニーデンとルペ・シノのみ。
地上でベテランの隊員を多く失ったピピニーデン・サーカスの追加パイロットは優秀だが、
戦闘中のショットクローの長時間使用は操縦の負担となっているのだった。
ピピニーデンは副官の進言に一理あると頷いた。
「…確かに3番機以降の動きが悪くなってきたかもしれん。
よし、ルペ・シノ…一気に仕留めるぞ」
「はっ!」
ルペ・シノのコンティオが離れると同時に隊長機が信号弾を撃ち出して、
宇宙に二色の光が瞬いた。
その途端、コンティオ戦隊が行動パターンを急変させる。
シュラク隊も勿論気付く。
「なに?」
「動きが変わった…!」
弾も切れ損傷が深まったジュンコ機を拾い上げたケイトが、
ジュンコを庇うようにライフルでなけなしの牽制をし続け、
ジュンコのガンイージは残ったシールドで懸命にケイトの死角を防御する。
ジュンコは決して自分を見捨てろとも言わぬし、ケイトも言わせない。
互いに生き延びてみせるという執念がシュラク隊には根付いており、
野獣から受け継いだ極限生存者サバイバーのしぶとさがそこにはある。
パターンを変えたコンティオがビームライフルと胸部メガ粒子砲を絞り連射しつつ突っ込む。
5機が突撃パターンとなり、2機が支援の形だ。
コンティオ戦隊の先陣を切ったのは、
ピピニーデン・サーカスの生え抜きであり叩き上げの副官ルペ・シノ。
彼女は肉感的な唇を舌舐めずりで濡らして目を見開き、
それはコンティオの複合複眼式マルチセンサーと連動し心通わすが如くであった。
「今度こそ仕留めてあげるよ…ふふ」
ほくそ笑むルペ・シノに率いられたコンティオ達がスラスターを眩しく噴かし踊るように翔ぶ。
「く、そぉ…!」
リップを塗った唇から血が滲む程にジュンコは噛み締める。
いよいよその時が迫っていた。
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