ヤザン・リガミリティア
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獣の安息 その3
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ヤザンがリガ・ミリティアにいる 作:さらさらへそヘアー
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獣の安息 その3
太陽は高くジブラルタルの海を煌々と照らしている。
だと言うのにその部屋はカーテンで締め切られ暗く、
その暗がりの柔らかなベッドの上で男と女が体中に蒸れた体液を迸らせて絡み合っていた。
健康的な肉付きと褐色の肌が汗で滑り、
赤いポニーテールが男の狩猟本能を刺激するように揺れる。
(イイ女だ)
ヤザンはそんな感想を懐きつつ女の弾力ある尻を掴んで腰を打ち付け続け、
その度に揺れる赤いポニーテールと乳房にヤザンは男の本能を昂ぶらせた。
「ッ…あっ……ん……ふッ、うゥ…………んッ………あ゛!」
女は手触りの良いシーツを力一杯握りしめ忘我し焦点もあっていない。
最初こそ少し痛がり、
乙女の証でシーツを赤く汚したが今ではそれも違う色の液で濁って撹拌された。
女は自分から腰を動かして男を迎え入れていた。
(部下に手を出すのはナンセンスだ。だが、こうも誘われちゃ断るのも野暮だろう?)
部下を抱くことに後悔は無い。
初々しく控えめながらしつこくセックスアピールを仕掛けてきたのはあちらさんだし、
ヤザンとてMS戦だけで発散しきれぬ溜まりに溜まったものはある。
これだけ良い女が据え膳で転がっていれば、それを食わぬのは男ではない。
「ぅあッ!…ふっ、うっっ!」
女が顔を枕に埋めて、尻を持ち上げて震える。
ヤザンは女の顔を掻き毟るように引き寄せて胸に抱いて言った。
「せっかくお前が慣れない誘いを仕掛けてきたんだ…恥はかかせんよ。
まだまだ貴様をよがらせてやる」
女…ケイトは紅潮しきった頬の上の虚ろに潤んだ瞳を瞬かせてコクコクと頷いた。
まだまだヤザンとケイトのベッドの上での実戦訓練は続く…という時に、
ヤザンの部屋を無遠慮に開け放った侵入者達がいた。
それぞれが酒瓶を片手に騒いでいて、
「ヤザン隊長ー飲みましょう」
「ケイトがいないんですけど、ひょっとして先飲んでまし…た…――え?」
「あっ」
「これは…あは、は…あちゃー」
酒気で赤ら顔だった端麗な顔を、違う意味で赤くして固まった。
部屋の中は、むわりとする男と女の臭いで満ちているのを
今更ながらジュンコ・ジェンコは気づいた。
が、当事者二人は気にせずに何度目かの再戦を始めて、
ケイトは首を振って呻きながら見るなと叫んだりもしたが直ぐに正気を失って男の下で喘ぐ。
ヤザンは端から気にも留めないで目の前の女を貪った。
言葉を失って、妙な雰囲気になってしまった観戦者達をギロリと一睨みして、
また眼下の女の汗で光る褐色の尻を鷲掴む。
「相手してほしけりゃ、そこで待っていな」
男が眼光鋭くそう言ったのを聞いて、女達はごくりと息を呑んだ。
◇
ザンスカール領ジブラルタルは陥落した。
とはいえ、ジブラルタルがザンスカールの領土だったのは僅か10数時間の事であった。
残敵は掃討され、或いは散り散りになって逃げ去っていったが、
逃げ去る敵全てを追う程の力はリガ・ミリティアには存在せず、
また協力してくれた連邦軍も極一部である為追撃は形式だけで終わってしまった。
後々、逃げたベスパはゲリラ化し潜伏したり、
他都市へ流れ民間シャトルで宇宙に帰る者もいるだろうが、
それはもう仕方がない事として捨て置くことがリガ・ミリティア首脳陣の間で決定していた。
主戦場が宇宙へ移るのは目に見えていたからだ。
街と公社からはベスパカラーが一掃されて元の様子を取り戻しつつある。
だが、ザンスカールの物資と人員を満載したシャトルの殆どは
宇宙に上がってしまい帝国の目論見は達せられてしまったと言える。
宇宙引越公社が提供した打ち上げデータによれば、無事上がったシャトルは8隻。
2隻が乱戦の中で爆破炎上し墜落したが、戦略目的としては帝国の勝ちだろう。
しかし解放を喜んだ引越公社のジブラルタル局がリガ・ミリティアを受け入れて、
先の戦闘映像を世に公開したものだから帝国のイメージダウンは甚だしい。
今も、オイ・ニュング伯爵はマンデラと忙しく打ち合わせ等をしていて、
対ザンスカールへの抵抗運動に宇宙引越公社を引き入れるのはほぼ確実だった。
連邦に籍を置くゴメス大尉も、
ヤザンに活を入れられて燻っていた気力に火が着き始めていた所に
この激戦での勝利を目の当たりにし、
初対面での無気力無関心さが嘘のように働きだしている。
電話を専有し、
「そうだよ!戦艦でも巡洋艦でもいい!2、3隻寄越してくれよ!
アァッ!?いや違うだろうが!先に手を出したのはザンスカールだ!
奴らがさっきまで引越公社を占拠していたんだぞ!
…そうだよ!永世中立のジブラルタルをだ!動かにゃならんだろう!!」
何度も何度もどこぞの連邦基地に電話をしがなり立てていた。
このように実際のドンパチが終われば伯爵やゴメス、老人達の方が忙しい。
パイロットもMSの整備の手伝いや、戦闘で得た新たなデータから
モーションパターンの最適化やより洗練されたものにする入力作業があるが、
政治的な動きまで引き受けるオイ・ニュング等に比べるとやはり時間的余裕があった。
これにはリガ・ミリティアの戦力に直結するパイロットの心身を休ませる目的も当然ある。
だからパイロット達は負い目を抱くこと無く、
短い休みをそれぞれが満喫することを許されていた。
ウッソ少年も、余暇を得てジブラルタルを自由に彷徨く者の1人だ。
パイロット達はジブラルタル戦後、
ジブラルタルを救った英雄としてマンデラに直接面会し謝辞を送られていた。
それらの一連の会話の中でウッソは両親の事を思いがけず聞くこととなったのだった。
曰く、「君を一目見て、活躍ぶりとエヴィンの名まで聞けばすぐに分かった」との事で、
ハンゲルグ・エヴィンとミューラ・ミゲルとは浅くない知り合いが宇宙引越公社には多くいた。
かつてここで働いていたのだ。
そういうことがあり、ウッソはシャクティもおらず自由が利く身でもあるので
独り公社中を彷徨いて両親の事を聴き込んでいた。
(やった!父さんと母さんの事、知っている人がこんないるなんて!
マンデラさんは、二人はきっと月にいるだろうって!)
ホクホク顔のウッソは、
本局ビルのゲストエリアの廊下を走ってヤザンの部屋へと向かっていた。
大した用事ではない。
ただ、両親の情報を念願叶って得たという喜びを誰かと共有したかった。
共感し、喜びを噛み締められるならば誰でも良かったのだが、
身近なシャクティと同年代のオデロ達は
エステル婆さん達残留組と共にカリーン工場からこちらに向かってきている最中だ。
カリーンからジブラルタルに拠点を移すらしく大量の物資と来るのでまだ数日はかかる。
なのでウッソの足は自然とヤザンの元へと向かっていたのだ。
「ヤザンさん。ヤザンさーん」
高そうなドアを叩き、ブザーも押すが反応がない。
ウッソは首を傾げた。
「おかしいな。ヤザンさんは街に出てないってロメロさんも言ってたのに。
……ヤザンさん?いませんか?」
ドアに耳を当てる。
街を救ったMS隊のリーダーにあてがわれた部屋だけあって防音もしっかりしているらしく、
中から音は聞こえてこない。
と思いきや、ウッソの超人に片脚の先っぽを突っ込んだ身体能力は聴力も抜群で、
微かな音をその部屋から聞き取っていた。
苦しむような女性の声が微かに聞こえる。
(…?今のは…ケイトさんの声…?他にもいるの?)
聞き耳を立てて伺うウッソ。
ケイトのらしい苦悶の声が聞こえ、
他にも女性の…やはり苦しみ呻くような声が微量に耳に届く。
「…っ!こ、これって」
ハッと合点いき、ウッソはドアから飛び退いた。
顔が真っ赤になり鼓動が速くなる。
勉強家であり読書家であるウッソは色恋沙汰に関する知識も同年代より豊富だ。
ウーイッグのカテジナに恋慕し、
盗撮紛いの事までしてしまうくらいには異性への関心だって芽生えてきている。
だからヤザンの部屋から微かに響く女性の苦悶の声が、
そ・う・い・う・時・の声なのかもしれないと思考が結びついてしまった。
スペシャルだニュータイプだと言われても
思春期に入りつつある少年の好奇心は普通の人間となんら変わらない。
どきどきしつつウッソはまた、こっそりと扉に耳を当てた。
ヤザンの声が聞こえ、その直後にケイトの苦悶の声が聞こえる。
会話の内容までは分からない。
だが、荒く短い呼吸で言葉にならぬ嗚咽染みた声が聞こえる度に、
ヤザンに組み伏せられるケイトの姿を夢想してしまう。
(…あっ、い、今の…ヘレンさんの声じゃないの!?う、うわ…他にも聞こえるぞ…)
ひょっとしてシュラク隊全員と?
ウッソがごくりと唾を飲み込んだその時、
「ウッソ、どうしたんだ?盗み聞きなんて趣味が悪い」
「う、うわっ!?オリファーさん!?」
またウッソは扉から飛び退いた。
オリファーはそんな少年の様子を怪訝な顔で見ていた。
「んん?なんだ、本当に盗み聞きしていたのか?」
片眉をしかめてオリファーが言った。
彼は片腕で大きな紙袋を抱えていて、
その中をガサゴソと漁るとウッソへ何かを投げて寄越す。
「わっ」とそれを受け取ったウッソが見るとそれは天然素材のチョコレートだ。
「ヤザン隊長と酒でもと思ってな。街で買って来たんだ」
「貰っちゃっていいんですか?」
「あぁ、ついでに買っただけだしな。もうすぐオデロ達も来るから菓子も欲しがるだろ」
「あ、ありがとうございます」
「で…なんで部屋に入らず盗み聞きしてるんだ、ウッソ」
「えっ!あ、あの!それは…」
ヤザンの部屋の前まで来て、ウッソの目を見るオリファーはそのまま扉をノックした。
だが、やはりウッソの時と同じく部屋の中から反応は無かった。
「…おかしいな。隊長は部屋にいるはずなんだが。
シュラク隊も部屋にいないからてっきり隊長の部屋で先に………
って、なんだ。開いてるじゃないか」
そう言いつつオリファーは部屋に入っていく。
「あっ、や、止めたほうが――」と言いかけたウッソの制止も間に合わない。
数瞬の沈黙。
そして開いた扉の隙間から、よりはっきりと聞こえてくる女性の色気たっぷりの声。
オリファーは「鍵をしておいて下さいよ!」と叫びつつ走って飛び出てきた。
「……ウッソ」
「は、はい」
「お前、まだあんなの聞くのは早い!
ああいうのは1人を相手にして、愛し合った上での行為であってだな!
あんな複数を相手に、ましてや美人揃いのシュラク隊相手に
ベッドでも蹴散らすなんてのはさすがヤザン隊長だというもので…!
って、いやいや、違う。そうじゃない!
あー……その…とにかく、い、今は帰ろう。都合が悪い」
「そ、そうみたいですね」
さすがのオリファーも嫌な汗をかいていた。
メガネを掛け直し泳いだ目を隠してウッソの頭を軽く小突いた。
「いて」
「おい、ウッソ」
「な、なんですか」
「あんなのは普通じゃないんだからな?
もっと普通の恋愛を、お前はしろよ」
「わ、わかってますよ!」
「あと、興味があるのは分かるが…あんなのはシャクティに嫌われるぞ」
「しませんって!
オ、オリファーさんこそ、マーベットさんがいるのにあんな事したらダメですよ!」
「バカっ!す、するわけないだろう!」
したくても出来ないよ、と言いかけた言葉を飲み込んで
オリファーはウッソの手を引きヤザンの部屋から離れていく。
(マーベット1人だって持て余しているんだ……。それにしても…)
オリファーは思い返して静かに息を飲む。
引き締まりながらも女性的な丸みを持つ豊かな尻を、
髪を振り乱しながら男の腹の上で揺らしていたあられもない美女の姿を思ってしまう。
(ふぅ…まったく隊長はスゴイな)
オリファーは、その夜、マーベットと仲睦まじく過ごしたのは言うまでもない事だった。
また、ウッソ少年もその夜は幼馴染のシャクティの事を想いながら独り過ごすのであった。
――
―
その日、リガ・ミリティアの主要メンバーはジブラルタル海峡を見渡せる波止場に揃っていた。
ヒョコヒョコとどこかぎこちなく歩いている何人かのシュラク隊メンバーを見、
ウッソは思わず顔が赤くなってしまって
(ああいうの…初めてだと女性は違和感で歩くのおかしくなるって読んだことあるけど…)
つまり大人のお姉さんだと思っていたけど何人かはそうだったのかと思うと、
また耳年増なウッソは妙に鼓動が速くなってしまってそれが己の耳にも煩い程だった。
女性陣が、
「昨日はさぁ~、まっさかケイトが抜け駆けしてるなんて思わなかったけどね」
「うっ…。だ、だってさ……」
「酔った勢いでなだれ込んじゃってゴメンね、ケイト」
「まさか初めてがあんな乱痴気騒ぎの中だなんて思わなかったわよ!」
「私はジュンコはともかくコニーがもう済ませてたのがショック大きかったかな。
あんた、いつのまにそういう相手いたのよ!意外とやり手なのね。どこで見つけたの?」
「うるさいよ!あんたら!」
そういう風に姦しく騒いでいるのも、
昨日の生々しい声を聞いていると少年の心がざわつくのだった。
オリファーもどこか落ち着き無く咳払い等していて、
当事者の筈のヤザンは落ち着き払って我関せずの顔を決め込んでいて流石の図太さだ。
そんな騒がしい中、
潮風をびゅうびゅうと切りながら波を掻き分けて海上をやってくる船影が見えてくる。
「来たぜ来たぜぇ!クラップ級だ!」
一番喜んではしゃいでいるのはゴメス大尉。
クラップ級艦リーンホースが2隻のサラミスに曳航されてジブラルタル海峡に入る。
この宇宙戦艦がジブラルタルにやって来て、
人員もそっくりそのままリガ・ミリティアへプレゼントされるのだ。
その手柄は全くゴメスのものであるから、彼がここまではしゃぐのも当然だった。
オイ・ニュングも老人達も、
そしてウッソもシュラク隊もリーンホースを感嘆込めた瞳で見つめる中、
ヤザン1人がタグボート役のサラミスに目を奪われていた。
「フッ…やっこさんも健在か。俺も老け込んでいられんぜ」
一般的によく知られている宇宙艦艇としてのサラミスは宇宙世紀0070年代に就航し、
0060年生まれのヤザンの方が10歳ばかり年上だ。
しかし、ミデアといいサラミスといい自分とほぼ同年代の古株が最前線で頑張っているのは、
新世代への不甲斐なさを感じると共に誇り高くもあった。
もっとも…新世代の連邦側のマシーン共が不甲斐ないのは
偏に連邦政府の怠惰のせいであるので、ヤザンとしてはより一層複雑な面持ちではある。
(嫌って程世話になったが……
まさかサラミスが1G環境下でも稼働する日を目の当たりにするとはな)
細かいディテールは変わっているが、大まかは全く一緒だ。
カラーリングまでも見慣れたグレーとレッドのライン。
フと、まるで自分がまだ1年戦争の中にいるかのような懐古感がヤザンを襲う。
「老け込んでいられんって?そんな心配ないでしょう、た・い・ちょ・う?
昨晩、私達相手にあんな事しちゃってさ」
ヤザンの肩にヘレンがしなだれてもたれかかる。
彼女の唇にひかれたリップも、気のせいかいつもより艶めかしい。
「俺が1人で酒飲んでいた所になだれ込んできたバカ共はどこのどいつだ」
「私じゃないですよ。最初はケイトでしょ」
やかましいと小突かれて肩からどかされるヘレンは、
それでも嬉しそうに笑ってヤザンを熱い目で見ている。
そんな女の目線を切って捨ててヤザンは皆を振り返って大声で言った。
「全員、乗船準備!あの〝リーンホース〟が今日から俺達の寝床だ!」
皆の視線が、サラミスに曳航されるクラップ級艦に注がれる。
リーンホースはジブラルタルの陽に照らされて古ぼけた外装を鈍く輝かせる。
鋼鉄の老いた巨馬は波間に頼りなく漂うのだった。
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