『外伝:青』崩壊した世界に来たけど僕はここでもお栄ちゃんにいじめられる
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三笠の偉い人達に尋問される話
前書き
どうもこんにちは、クソ作者です。
このお話は少し真面目なお話ですね。
時系列的には三笠防衛戦が終わった頃。
舞くんが葛城財団代表と血の繋がった兄弟ということが判明したあたりのお話です。
ではどうぞ。
三笠の偉い人達に尋問される話
神奈川県横須賀市。
そこにある三笠記念艦は今、居住区などの複合施設となりついこの前までは姫路城が乗っかった無敵の要塞となったりしていた。
そうなったのには訳があり、ついこの前ここで大きな戦いがあったからだ。
三笠の人達VS葛城財団。
それから僕や葵ちゃん。飛び入り参加した強力な助っ人の武蔵ちゃんを連れた強いマスター、竜胆大和さん。
その他にもハインド商会やホテル、オーシャンビューの面々など様々な協力者が現れ、一時は敗北しそうになったものの、こうして逆転勝利を収めた。
この様々な組織が一つとなり、葛城財団に挑んだ最初の大きな戦いは後に『三笠防衛戦』と呼ばれることになる。
今回の僕のお話は、その後のお話……。
「葛城舞…確かに個人情報はどこにもない。本人の言う通り別の世界からやってきた異世界の住人というわけだね?」
僕の前には今、何人かの偉い人が座っている。
今僕にそう聞いてきたのは院長先生。
ここ三笠記念艦で一番偉い人だ。
その周囲には、院長先生と契約した複数騎のサーヴァントがいる。
「はい。僕はこことは全く違う世界から来ました。」
「違う…と言うと?」
もう1人、彼女はホテル、オーシャンビヨンドの支配人である真壁さん。
そして傍で立っているのは彼女のサーヴァントである孔明だ。
2人とも、ずっと疑いの目を僕に向けている
無理もない。
「文明のレベルとか、そういったものに違いは無いです。強いて言うなら…世界の崩壊、もとい女神が降臨しなかった世界です。」
「そう…じゃあ…」
だって僕は
「実の兄である葛城恋。彼について色々教えて欲しいのだけれど、いいかしら?」
この世界で多大な迷惑をかけてる諸悪の根源、葛城恋の血の繋がりがあるれっきとした弟なのだから。
「彼を言い表すならば、傍若無人。何事も自分が1番じゃないと気が済まない人です。」
「まぁ…そうね…。」
三笠防衛戦終盤。
奴は直接姿を現した。
その時にこの人達はあいつの振る舞いを見ていたから分かるだろう。
自分は偉くて当たり前の尊大な態度。
デリカシーのない下品な物言い
そして、自分こそがこの世界の頂点に君臨するにふさわしいと信じて疑わない自信。
いいところを見つける方がものすごく苦労しそうな、小説にもそうそういなさそうな悪人っぷり。
そうして僕は、あいつがどういった人間で、どのようにしてああなったのか説明を始めた。
●
僕が生まれたのは神奈川のとある街。
次に産まれてくるのは女の子に違いないだろうという両親の期待を見事に裏切り誕生した。
そうしてそのまま、「こういう名前も悪くないだろう」と用意していた女の子用の名前を付けられてしまった。
物心ついた時から、僕は冷遇されていた。
よく出来た2つ上の兄の存在。
勉強ができ、賢く、テストなんかではほぼ必ず満点を取ってくるし。親戚一同からは神童だの将来は博士か総理大臣だとやたら持て囃された。
対して勉強のできなかった僕は良くされて貰えず、何をやってもダメな人間だった。
勉強はできず、両親の思うような成績は残せず、生まれた瞬間からこうして両親の期待を裏切り続けてきた僕は家庭において厄介者のような扱いも受けた。
それを見て、兄はどんどん調子に乗る。
自分は素晴らしい人間だ。
他より優れている人間なんだ。
だから両親がしているように、自分も劣っている人間を差別していい。
勉強ばかりでストレスは溜まる一方なんだ。
何も出来ないなりに俺のストレスを発散させろと、無茶苦茶な言いがかりをつけられたこともある。
そういったこともあり、兄の人間性はどんどん歪んでいく。
幼少期から持て囃されてきたせいでその自信は傲慢へと代わり、当たり前のように人を見下し、
何かあれば議員である母に頼み込めばなんだってしてくれる。
受かって当たり前の受験に合格し、医大でモテまくり、そして父親の病院を継ぐ。
そんな順風満帆の人生設計図を思い浮かべていた彼だが、ここであまりにも脆いその設計図は崩れ落ちる。
僕、葛城舞が家を飛び出したことによって。
●
「いわゆる、エリートってことか。」
一通り僕の話を聞き、院長先生が頷きながらそう答えた。
父は医者、母は政治家。そんな優れた人間から生まれたのだから兄は間違いなくエリートだ。
「ところであなたは?」
「得意なことなんてありませんでした。絵を描くことが好きなだけで。」
と、笑って答える。
勉学は秀でてないし、運動もまるでダメ。
親戚の集まる場所では本当にあの二人の子か?と疑われたし、何より両親から「うちの子だと思われると恥ずかしいから私達のことは名前にさん付けで呼びなさい。」とまで言われた。
「現状が嫌になって、それから家を出ました。」
何かを打破すべく、僕はこの地獄のような家庭から抜け出した。
荷物をまとめるだけまとめて、あてもないけど出ていく。
ホームレスになることだって考えた。
家がないくらいなんだ。
こんな地獄にいるよりかは死ぬほどマシだと思い、出て行った。
「両親は?止めなかったの?」
「母からは気をつけていきなさいと言われ、父からは寂しくなるな。と新聞を読みながら言われました。」
「……。」
僕一人が居なくなっても、この家庭はなんの問題もないんだ。
両親の言葉からそう察し、なんの後悔もなく出て行った。
しかし、
僕が居なくなっては困る人が、ただ一人いたのだ。
●
「出てく…つったのか?」
一応家族全員に別れの言葉は告げておこう。
そう思い。嫌々ながら僕は最後に兄にも出ていくと伝えた。
ああそう。とか野垂れ死ね。とかそんな言葉を想像していたけど、本人からの答えは思っていたものと全く違った。
「俺は…どうなるんだよ?」
「えっ?」
「俺の!ストレスは!何処で発散すりゃいいんだよ!!」
「……。」
以前、兄は言っていた。
出来ない奴は出来ないなりに俺に尽くせと。
せめてストレス発散に使わせろと。
「バカはいいよなぁ…難しいこと考えねぇでボケーッと生きてるだけでいいからよ。お前だよ、お前。」
意味もなく殴られたり蹴られたこともあった。
「俺はな、楽しいこと我慢して勉強だのなんだのやってんだよ。それ傍目にお絵描きごっこなんていいご身分だな。だから燃やしてやるよ。いらねぇだろこんなもん。」
描いた絵を燃やされたこともあった。
僕が泣く度、悲しくなる度に奴は笑う。
絵を描くことは非生産的であるといい、とことん僕を責めた。
さらに友人を使って何十人かの人間になりすまし、SNSで僕の絵を片っ端から叩いてトラウマを植え付けられた。
トラウマのせいで描こうとすると手が震え、絵が描けなくなると奴は面白そうに腹を抱えて笑ってた。
そうして、気づいたことがある。
僕がいたからこそ、僕というサンドバッグがあったからこそ奴は普通の人間でいられたのかもしれない。
いなくなってからは、酷いものだったと聞いた。
成績が目に見えて落ち、両親に小言を言われては逆ギレして家の中のものを壊して暴れ回る。
ストレスから来る暴飲暴食のせいで、元々肥えていた彼の身体はさらに醜く肥え太った。
猫などの小動物をバットで殺していたとも聞いた。
ある日警察に見つかったものの、お得意の母親のコネで逮捕には至らず、多少の金額を支払って有耶無耶になった。
学校ではその傍若無人な性格が露となり、どんどん孤立していく。
そんな中、唯一良くしてくれた同級生に対し、何を勘違いしたのかレイプまがいのことをしたと聞いた。
警察沙汰になったらしいが、これもまた母親のコネを使った。
被害者側が悪いということとなり多額の慰謝料を支払わせた。
外見も中身もどんどん醜くなり、友達も失い、母親からは
「もう騒ぎを起こさないで」と生まれて初めて本気で怒られ、
更に父親からは
「今のお前には病院を継がせたくない」と告げられる。
永遠に絶頂期を保っていられるだろうとタカをくくっていた奴は、
こうして見事に転落した。
●
「それから…どうなったの?」
真壁さんが続きを話すように言う。
院長先生も兄の生い立ちに気になっているようだった。
「それから、受験には見事に落ちました。一応別の大学には受かったそうですが、俺はこんなところにいていい人間じゃないって周囲を見下して孤立してたそうです。」
「いえ、そうじゃなくて…。」
「?」
と、兄のそれからを話すも首を横に振られる。
「あなたよ。あなた。」
聞きたいのは僕の話だったらしい。
とは言っても、話してもなんの面白みもないものだ。
「家を出て行ったことは、祖父母の耳に届いたみたいで、持ってるアパートに住まわせてくれました。」
「そう、なのね…。」
「親戚一同みーんな冷たかったけど、父方の祖父母は優しくて、なんにもできない僕をよく気にかけてくれたんです。」
そう聞くと、どこかホッとした様子の真壁支配人。
隣の孔明からは、「話を逸らしてすまないな」と謝られてしまった。
「じゃあ、その頃兄貴は?」
「半ば親に見捨てられて、今までの勉強漬けの監視体制から自由の身になったような状態だったんでしょうね。〝弾けました〟。」
「弾けた…?」
院長先生から兄のその後を聞かれる。
言うなればそれ以降の兄は、弾けた。
「弾けた…というと?」
「僕も兄も、幼少期の頃からずぅっと勉強勉強でしたから。アニメや漫画は見るとバカになるからダメ。ゲームは以ての外。勉強のことだけ考えなさい。そうすれば、結果は自ずとついてくるし私たちみたいにいい家庭を持てるようになる。そう言ってましたね。」
抑圧され続けた欲望は、消えることは無い。
溜まりに溜まり、歪む。
僕はそれから高校で友達ができ、今までしてこなかったゲームをしたり、オススメされたアニメを夜通し見たり、普通の他愛ない会話をしたりした。
えっちなこと…まぁ性欲に関しては…ここでは言わない方がいいだろう。
対する兄は…
「キャバクラとか、風俗とか、そういうところに入り浸ったって聞きました。」
孤立した彼は、友人すらいない。
だから話し相手を求めた。
たまる欲情をぶつけてもいい相手を求めた。
おそらくあいつの事だ。
自慢話とかそんなものをしていたんだろう。
俺は医者になる男だ、とか。成績優秀だったんだ。とか。
母親は議員で頼めばなんでもしてくれる、とか。
中身のない空っぽで外見だけ飾り立てた話を、何度も何度もしていたんだろう。
ああそうだ。
AVを沢山見たとも聞いた。
こんなものがあるということは、女性はみんなセックスが大好きなんだっていう変な価値観を持っていた。
「ある時キャバクラで、お触りをしようとしてつまみ出されたそうです。」
真面目な話の中、何人かが思わず吹き出す。
「お店の人の怖いお兄さんにビビりまくって、殺されるって勝手に勘違いして、周りも見ずに一目散に逃げ、信号無視で轢かれて死にました。」
なんとも間抜けな死に様だと笑いたいが
、ここで偉い人達一同にはてなマークが浮かぶ。
「死んだ…って?」
「ええ、文字通りです。葛城恋という人間は、そこで1度死んでます。」
「…?」
葛城恋は車に轢かれて死んだ。
だとすれば、三笠防衛戦にて現れたあの男は?
葛城財団のトップである彼は…何者か?
「今いるのは生まれ変わりとかクローンとか、果てはサーヴァントでもないです。正真正銘、本物の葛城恋ですよ。」
そう、葛城恋。
偽物では無い本物の彼。
死んだ彼は、復活したのだ。
いたずらに、ほんの気まぐれに。
「変な能力を貰って、蘇ったんです。」
こうした方が面白くなると、蘇らされた。
「変な……能力?」
「精液をサーヴァントに注入すれば自分の意のままに操れる力は、そこで貰ったそうです。」
葛城恋の厄介極まりない能力、
『霊基書換』
サーヴァントの体内に己の精液が一滴でも入れば自分の支配下に置けるという恐ろしい能力。
出された精液はいつまで経っても効果を失うことは無い。
だから葛城財団のメイン兵器である〝洗脳弾〟として利用されている。
「皆さんご存知洗脳弾もそこから来てますし、それにあいつは333画の令呪ももらったんです。」
「ちょっと待って欲しい。」
院長先生が話を止めた。
「その能力を貰ったとか、令呪ももらったとか、そもそも生き返ったとか一体誰からそんなふざけた能力を貰ったんだ?」
その質問に対し、僕は答える。
「〝這い寄る混沌〟…。」
「這い寄る…混沌?」
奴の名前を。
「人のいざこざや争いが大好きな迷惑極まりない旧神。彼はアイツに面白さを見いだし、蘇生して力を与えました。」
そうして第2の人生を歩むことになった奴は、暴走を始める。
●
手始めに両親を殺した。
自分を苦しめた元凶だから。
それから気ままに女性をレイプした。
何十人もの女性が、性のはけ口として犠牲になった。
それから人のサーヴァントを奪い取った。
僕のお栄ちゃんも、一度彼に奪われたことがある。
霊基をぐちゃぐちゃにされ、二度と戦えない身体にさせられた。
奴は全てを滅茶苦茶にした。
這い寄る混沌の筋書き通り、好き勝手暴れ、傍若無人の限りを尽くし、己の欲望を満たす為だけに何十人もの死者が出た。
まさに王。それも悪逆非道の限りを尽くす暴君の方だ。
でも僕らは負けなかったんだ。
足掻いて足掻いて、犠牲を出しながらも勝ったんだ。
奴を倒し、這い寄る混沌を退け、勝ったんだ。
でも…
●
「這い寄る混沌が作り出した『歪んだ聖杯』。それを世界の危機だと反応してサーヴァントが召喚されるようになった。それが僕の世界でサーヴァントが存在していた理由です。」
「……。」
崩壊世界以外でもサーヴァントが存在することを知り、唖然とする偉い人達。
それと、もうひとつ説明しなきゃならない。
僕はスっと右手を上げ、手のひらを見せる。
「僕の右手には、かつて『黄衣の王』がいました。」
「またその…旧い神様?」
「そんな感じです。這い寄る混沌を追い掛けて来て、相性のいい僕の身体に入り込んで来ました。」
黄衣の王。邪悪の皇太子。風の旧支配者…
呼び名は沢山あるけど、ここは黄衣の王で統一させてもらおう。
「いました。というと今はいないのか?」
「はい。そもそも僕と黄衣の王を切り離すためにとった手段が、僕がここにいる理由なんです。」
かつては〝いた〟
でも今はいない。
この右手は正真正銘僕のものだ。
けど、元は1つになっていたから接続は途絶えていない。
身体から離れただけで、縁は切れていない。
「アビゲイルが取った手段。それが僕という存在を別の世界線…全く違う次元に飛ばすというものでした。」
這い寄る混沌を退けた後、
アビゲイルに三つの選択を迫られた。
1つ目が黄衣の王の右手を切断し、これまであったことを忘れて普通の人間として生きるか。
2つ目は腕をそのままにして、新たな〝黄衣の王〟として永遠に生きるか。
そして三つ目が
悩んだ末にアビーが提案したもの。
こことは全く異なる、サーヴァントが当たり前に存在する世界に逃げることだった。
言ってしまえば、黄衣の王の手の届かない所まで逃げるというもの。
そうして僕は、3つ目の選択肢を選んだんだ。
お栄ちゃんと過ごした日々を忘れるのなんて嫌だし、
永遠に戦い続けて、段々と皆のことを忘れていくのも嫌だったから。
だったら、みんなのことを覚えていて、そしてお栄ちゃんと一緒に暮らせる方がいい。
楽な世界ではないと忠告はされた。
でも、お栄ちゃんと一緒ならどんな困難でも乗り越えられる。
這い寄る混沌だった倒したんだ。僕達ならなんでもやれる。
そう思っていたけど、現実っていうのはそう上手くは行かない。
「邪魔が入りました。」
ここで、僕の幸せを快く思わない奴から邪魔が入る。
●
崩壊世界に来る直前。
何も無い空間。
そこには荘厳な扉だけがあり、目の前には僕とお栄ちゃん、そしてアビーが見守っていた。
「この扉の先が、別の世界…。」
ギイィ…と扉が開く。
冷たい風が流れ込み、僕は握っているお栄ちゃんの手を強く握った。
「…怖いのかい?」
「…ちょっとだけ。」
「大丈夫だ。おれがそばにいる。」
「…うん。」
扉が完全に開き、アビーが最後の忠告をする。
「ここを入れば、もう元の世界には帰れない。それでもいいのね?」
その問いに、僕とお栄ちゃんは力強く頷いた。
が、
「……ぇ」
「?」
声が聞こえた。
「認めねぇ…認めねぇ…!!」
「!!」
振り向くとそこには黒い靄が。
声はそこから発せられていて、その声は…
「お前らが幸せになって、俺様が不幸になる?ふざけんな!!認めねぇぞおおおおおおおお!!!!!!!」
「こいつ…まだ…!!」
ヤツだ。
葛城恋だった。
肉体はとうに滅び、奴は死んだ。
だが彼は思念だけでこの空間に留まっていたんだ。
僕を恨む気持ち、その一心で。
「うあああああああああ!!!!!!」
「こいつ…!!」
奴を形作っていた黒い靄が襲いかかる。
しかしそれは僕にではなく
「お栄ちゃん!!」
お栄ちゃんに。
そのまま靄に包まれ、お栄ちゃんは強引に扉の中へと奴と共に落ちて行った。
「お栄ちゃん!!」
手を伸ばすも、届かなかった。
あっちも手を伸ばしていたけど、それを嘲笑うかのように奴は勝ち誇った笑みを浮かべて扉の中へと消えていった。
「いけない!これはいけないことよ…!」
取り乱すアビー。
当たり前だ。予想外のアクシデントが起きたんだから。
「舞さん!!」
「!」
そうするとアビーは僕の後ろへ回り、背中を押す。
「急いで!このままだとアレはあっちの世界で何をするか分からないわ!」
「!!」
元いた世界であれだけの事をしたんだ。
次は何をしでかすか、分からない。
だから、
「お栄さんを追いかけて!それであいつをやっつけて!!」
「…わかった。」
1人になった僕は、意を決して扉に足を踏み入れる。
お栄ちゃんを助けるために。
あいつを…今度は完全に倒すために。
「あっちの世界にはフィルターがかかってて、私は入ることが出来ないの…でも、必ず後で行くから…!だからまずはお栄さんに会って!!」
「うん。行ってくる…!」
アビーの不安そうな視線を背中に受けながら、僕は何も無い空間を落ちていく。
そうして僕は、崩壊世界へやってきたんだ。
●
「こんな感じで、こちら側にやって来たんです。」
そうして全ての経緯を話し終える。
ここに来てから今に至るまでの話は、そこまで重要じゃないしここでは割愛しておく。
別の世界から来たこと。
兄と自分の生い立ち。
前居た世界で起きたこと。
そして、
「あんなものをこの世界に招き入れた責任は取ります。必ず。」
葛城恋という病原菌を、この世界に持ち込んでしまったこと。
それらを全て話した。
そして僕は、責任を取らないといけない。
この世界に奴を連れてきてしまった事。
奴は葛城財団なるものまで設立し、予想以上の脅威になった。
もう、個人の手に負えるものでは無いほどの大きさになってしまった。
でも、それでもだ。
「奴を倒すためなら、葛城財団を潰す為なら、僕の命を喜んで差し出します。それこそ本望です。」
「あのねぇ…。」
そこまで言うと、真壁さんが呆れながら口を開いた。
「馬鹿。馬鹿も大馬鹿者。」
「分かってます。僕のせいでみんなが…」
「違う、そうじゃないの。そう簡単に命をかけるとか差し出すとか言うものじゃないってこと。」
「……。」
そうして彼女は話を続ける。
「責任は全く無い、とは言いきれないかもだけど、あなたはただサーヴァントと一緒に暮らしたいからここに来た。それだけでしょ?」
「そう…ではありますけど…。」
「なら、悪いのはあなたなんかじゃない。お兄さんの方よ。」
「……。」
何も、言えなかった。
「それと、あなたのお友達はそんなんじゃないって思ってるけど?」
「お友達…?」
そうすると、僕が入ってきたドアが開き、彼女らが倒れ込んで来た。
「揃いも揃って聞き耳を立てていたのだ。入りたければ入れば良いのに。」
そこにいたのは院長さんのサーヴァント、タマモキャット。
そして彼女の言う聞き耳を立てていた彼女らは
「お、お兄様は悪くありません!!悪いのは全部あいつです!!ゴッホが証明します!!」
ゴッホちゃんに
「そうだよ!マイマイに悪いとこなんて一つもないもん!!」
ユゥユゥに
「だったら私にも責任があるわ!ここに招き入れたのはそもそも私なのだし、罪を問うなら私の方が…!」
アビー。
そして
「大丈夫だって言ったろう。もしかしたら死刑になるかもなんて妙な噂信じちまってヨゥ。」
後ろの方にお栄ちゃんがいた。
「みんな…!」
「随分と沢山のサーヴァントを…それもフォーリナーばかり…。」
と、仮契約を結んでいる彼女らを見て院長先生はそう言葉を漏らした。
「その…奇妙な縁と言いますか…。」
「まぁ不思議な縁だ。それもかなり慕われている。これに関してマスターはどう思う? 」
その様子を見て孔明がマスターである真壁さんに問う。
「悪い人には見えないでしょ。どう見たって。」
「まぁ、そうは見える。」
そうしてみんなは僕の周りに集まった。
心配そうに僕を見る彼女らに対し、僕は大丈夫だよと笑顔を向ける。
「お兄様…お、お怪我などは…!」
「何もされてないよ。本当に質問に答えただけ。」
「変な検査とかは!?恥ずかしい所とか隅々まで調べられたりとかは!?」
「何も無いよユゥユゥ。」
「よかったぁ…。」
安堵する3人。
それから振り向くと、そこにはお栄ちゃん。
「アイツの兄貴ってだけでなにかするような連中じゃ無いって事だナ。とりあえずは安心したヨ。」
「そう。もしかして私達信用されていなかった?」
難しい顔をしていたけど、お栄ちゃんも少し安心した表情にはなった。
大丈夫だと言っていたけど、やっぱり心配はしていたみたいだ。
「まぁ、これでいい。マイにあるのは兄貴と同じような野望じゃなく、アイツを倒したいって気持ちだけサ。」
「ええ、分かってる。その思いはさっきまでのお話で十分伝わったから。」
緊迫していた空気が、少しだけ緩む。
真壁さん、孔明、院長先生にも少しだけ笑顔が生まれ、僕の疑いは完全に晴れたみたいだ。
でも、
「でも僕は…僕らは必ず責任は取ります。」
やらなきゃならないことは、やるべきだ。
「協力は惜しみません。どんなことだってやります。必ず…必ず僕はアイツを倒します。」
そう言い、僕は改めて葛城恋を倒す決意を固めた。
後書き
かいせつ
●何故舞くんがこんなことになったか?
あの葛城恋と血の繋がった兄弟なんだし、もしかしたら似たような野望を持っているのでは?
そんなデマを払拭するため、舞くんは自ら尋問を受けることにしました。
それとやっぱり、自分がどれだけ奴を恨んでいるのかを知ってもらいたかったのもありますね。
さて、次回はまた外伝『青』らしくスケベなお話に戻ります。
各々の舞くんのいじめ方だったり、ユゥユゥが新たな性癖に目覚める話だったり、世にも珍しいドS舞くんだったり、
次回もお楽しみに。
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