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ヤザン・リガミリティア

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誰が為に獣達は笑う

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ヤザンがリガ・ミリティアにいる   作:さらさらへそヘアー

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誰が為に獣達は笑う

宇宙におけるザンスカールの制宙圏を確固たるものにしている衛星砲基地。

象徴としても、有無を言わさぬ暴力的実行力としてもその衛星砲は恐怖だ。

ギロチンに匹敵する、ザンスカールの暴威の象徴。名をカイラスギリーといった。

 

だがそれは完成すればの話である。

幸いというべきか、まだカイラスギリーは未完成であり

その建造率は80%であるとリガ・ミリティアの諜報部はみていた。

 

バグレ艦隊の妨害行為で建造は遅延したが、それでも完成は間近。

もはや一刻の猶予もないと判断したリガ・ミリティア幹部、オイ・ニュングは、

太陽電池衛星ハイランドのマイクロウェーブ作戦でもって、

カイラスギリー攻略作戦にGOサインを出したのであった。

 

増強されたバグレ艦隊と合流し、リガ・ミリティアの宇宙戦力は充分。

しかしザンスカール帝国とて無能ではない。

リガ・ミリティアの一連の動きを見抜き、

本国からも増援を出してカイラスギリー艦隊を増強していたのだった。

リガ・ミリティアの戦力はおおよそ艦船14隻、MSは50機程。

対するザンスカールのタシロ艦隊は艦船30、MS100前後。

艦隊と呼ばれる規模の戦力が、

宇宙要塞をめぐり真正面から衝突する事例は紛争続きの宇宙世紀史でも近年珍しい。

古来より城砦を攻略するには攻め手は3倍の戦力を用意スベシと云われるが、

リガ・ミリティアは寧ろ防御側の半分で挑もうというのだから

頭のネジが緩んだ過激ゲリラ組織と言われても仕方がないだろう。

 

今ここに、地球でのジブラルタル決戦に匹敵しようという

大規模宇宙戦が繰り広げられようとしていたのだった。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

もしヤザンがこの時代にいなければ運命の歯車は大分変わっていたに違いない。

それは死ななくていい者が死んだり、死ぬべき者が死ななかったりだろうし、

起こるべき出来事が起きなかったり、或いは起きなくていい事が起きたりだろう。

辿るべき本来の運命と比べて、カイラスギリー戦が起きた日も大分ズレていた。

そして、それは如実に戦場に影響を与える。

 

「よく来たな。もう傷は良いのかな?大尉」

 

「はっ。お陰様を持ちまして」

 

地球で戦傷を負い、

本国で治療を受けていたアルベオ・ピピニーデン大尉がタシロへ敬礼を返し言葉を続けた。

 

「汚名返上の機会を頂きまして感謝の言葉もありません、大佐。

本国から受領したコンティオで、必ずやリガ・ミリティアに泡を吹かせてやります」

 

「コンティオ戦隊か。ピピニーデン・サーカスならば使いこなせようが…、

大丈夫なのかね?」

 

タシロは表情こそ動かさないが、声色には怪訝な色が混ざっている。

 

「やってみせます」

 

「ふむ…」

 

チラリと、手元のコンソールを打てばピピニーデン隊のデータがタシロの目に飛び込んだ。

地上で〝野獣〟にいいようにやられ錯乱気味にまで追い込まれたと…

そういう情報が上官であるタシロの手元にはあるから当然の心配だろう。

微笑みながらタシロはピピニーデンへ語りかける。

 

「リガ・ミリティアをこれ以上調子付かさるわけにはいかん。

ゲリラ共も何か策を弄するだろうが、

カイラスギリーと我が艦隊…そして本国からの君達がいれば難攻不落であろう。

ピピニーデン・サーカスの名に恥じぬ戦いを期待している」

 

「はっ!」

 

ピピニーデンが最初と同じく見事な敬礼で応え踵を返す。

そしてピピニーデンとルペ・シノ両名が退出していくと、

タシロは軽く「フン…」と鼻を鳴らして彼らの背を見送ると卓上の通信機を操作していた。

 

「私だ」

 

小さな通信画面の向こう側には、

いつぞやに会食を共にしたスーツ姿の品の良い初老の男がいる。

タシロの第一声を聞くとその男は、見る人に不快にドロつくイメージを与える笑顔を見せた。

 

『これは大佐。彼女の調整ならば順調ですよ』

 

「そうだろう?彼女は戦士だからな。だが投薬は程々にしておいてくれよ。

筋肉が付きすぎると抱き心地が悪くなる」

 

『羨ましいですなァ。あのファラ・グリフォンを思うがままに出来るなんて』

 

ククク、とタシロは口の中で笑った。

 

「博士…君にそういう欲求があるとは驚いたな。

それに、君だってある意味ファラの体を好きに弄くり回している」

 

『はははっ、ま…そうですな。お陰で良い実験が出来ています』

 

タシロと博士の付き合いは短くはないし、

それに互いにお世辞にも善人と言えない近しい精神性を有している人間同士だ。

野心家である点も共通点で、しかも互いの出世は互いの邪魔にならない他分野である。

だからタシロと博士はこのような軽口を叩き合う仲――気軽に言い合う冗談が、悪質なものであるので見てて気持ちの良い友情ではないが――であった。

互いの野心と人格が噛み合うからこそ、

彼らは共犯となって本国に内緒で色々な〝イタズラ〟にも精を出している。

 

「ピピニーデンだけではな。地上での醜態を見れば怪しいものだ。

私にはファラが必要なのだよ、博士」

 

『焦って調整不十分での出撃は損失となります、閣下』

 

「実戦に出せぬレベルなのかね」

 

『ファラ中佐の安定性にはまだ若干の懸念材料があります。

それとZMT-S29のサイコミュ・ソナー・システムとの同期にも課題が残っていますが、

それは補助機器でサポート出来ればと思っています。

例えば、見た目を彼女の精神と相性の良い物を使うと強化深度が高まるのではと…。

本人の趣味嗜好、人格や、人格形成までの諸事情…

家族との事、家柄、印象的であったり強烈である経験等ですな。

中佐は処刑人の家系ですから例えばグリフォン家の象徴である鈴です。

そういう手法は強化安定に繋がると、

過去にはあのフラナガン機関やオーガスタ研でも実績があるのですよ。

他にも、ファラ中佐にはご執心だった恋人がいたそうですから、

その者に似ている人物を側に置くのも安定性向上には良いかもしれません。

サイコ研の被検体の一人に整形と刷り込みで仕立て上げて―――』

 

「――あ~、………分かった。良い仕事を期待しているよ、博士」

 

長くなりそうな口上にタシロの眉が歪む。

やや間を置いて溜息を吐き出すのと同時にそう言って、さっさと通信を終えた。

気を取り直すようにタイを緩め、高級な卓の引き出しから手鏡を取り出す。

オールバックに塗り固めた黒々とした髪に櫛をいれた。

その、ねとりとした仕草と手鏡を見つめる視線からは彼のナルシストな性分が存分に見える。

そして強固な自意識も。

 

「ふふ…リガ・ミリティアか。愚かな連中だよ。

私・の・カイラスギリーの周りを蚊トンボのようにちょろつくに飽き足らず挑むだと?」

 

デブリ宙域に潜んでいるバグレ艦隊の動きには常に気を配っている。

だからタシロはその動きから彼らが決戦を望んでいる事を察していた。

 

「この要塞に正面から挑もうという気概だけは買うがな」

 

不敵に笑い櫛をしまう。

タシロ艦隊に敵は無いのだ。

いるとすれば…。

 

「ズガン艦隊…か」

 

今後の展望を思い再び笑う。

彼の描く未来図の中ではザンスカールの女王すらも彼の掌中の珠となる予定である。

そしてあの独り身の女王を…

独り寂しく褥を濡らしている熟れた美女を慰めてやりたいものだと彼は思う。

 

「リガ・ミリティアもフォンセ・カガチも、そろそろ御退場願いたいものだが」

 

政治的には強大過ぎる壁として立ちはだかる、老獪な怪人フォンセ・カガチ。

だがここでリガ・ミリティアを潰せば、

軍事的にはザンスカールの英雄ムッターマ・ズガンと並ぶことが出来る。

名さえ売れてしまえば反乱に同調する兵も増加するし、

本国から合流した増援部隊もそのままこちらの戦力に組み込む自信が彼にはある。

 

軍事力さえ握れば政治家であり思想家でしかないカガチは自分には勝てない。

それがタシロ・ヴァゴの青写真であった。

タシロは既にズガンとカガチ、そして女王マリアしか視ていない。

足元に迫りくるリガ・ミリティア等、路傍の石程度にしか視ていなかったのだ。

 

しかしそれも仕方がないのかもしれない。

この時点でタシロ個人が掌握する戦力はかなり強大なものになっている。

本国からのコンティオ戦隊とその分個艦隊。

地上から撤収してきたベスパ地上軍も一部受け入れてタシロ艦隊へと編成し直している。

カイラスギリーとてあと数日で完成であるし、

サイコ研も、例の博士を筆頭にかなりの数をタシロ派に転向させる事に成功していた。

サイコ研が誇るハイエンドMSも既にタシロ艦隊に提供させる事を確約させている。

タシロ・ヴァゴが野心と万能感を増大させるのも致し方無い事だった。

あ・の・ファラ・グリフォンも掌中に収めた事も、彼を増長させるのに大きく買っていた。

タシロ・ヴァゴは我が世の春が間近に迫っているのだと微塵も疑っていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

「話があるのだけど」

 

カテジナが長い金髪を掻き上げながら、ベンチに座ってドリンクを飲むヤザンへ言った。

その男は、金髪のオールバックでありながら

タシロのヘアーのそれとは全く印象の異なる凶相で女を見上げた。

 

「なんだ」

 

「出撃まで後30分ってとこよね」

 

「今度の戦闘は規模がデカくなるぞォ。クク…ジブラルタル以上になるかもな」

 

何とも楽しそうに笑うヤザン。

人の生き死にが懸かっていようが、

それが戦闘技術を磨きあった兵士同士でヤり合うならスポーツと同じ…。

ヤザンは常々そう思っている。

試合前に高まる血潮と緊張感を、ヤザンは楽しんでいた。

 

「…はぁ。全くあなたって呆れた人よね。

あなたの部下が初陣しようって戦いが大規模になるかもっていうのに、

何か部下私に掛ける言葉でもあるでしょう?」

 

カテジナは座るヤザンを見下すようにしながら細い鼻をフンと鳴らす。

 

「なんだァ?俺にお優しい言葉でも掛けて貰いたくてわざわざ話しかけに来たのかよ」

 

「自惚れないで。一般常識を言っただけよ。

普通、ま・と・も・な・上官ならそうするって」

 

「俺がそこらのまともなつまらん男に見えるか?」

 

「見えないわね」

 

「フッ…言ってくれるぜ。こちらだってま・と・も・な・新兵相手ならそうもしてやるさ。

だが相手がお前じゃな。そんな必要なかろう」

 

「…どういう意味?」

 

少女はムッとした顔で男を睨んだ。

 

「お前は俺と同じニオイをさせる奴ってことだ」

 

カテジナは睨んだままヤザンの言葉を脳で咀嚼し考える。

考えた結果、生まれてきた感情はやはりいつも通り二つの系統のものであった。

一つは、生まれと育ちの良い自分が

戦場で人殺しをする粗野な男と同類と思われた屈辱と怒り。

二つは、温室育ちのあ・ま・ち・ゃ・ん・な自分が、

逞しい戦士に認められたという大きな喜び。

 

「…っ」

 

カテジナの表情が何とも複雑に歪んだ。

怒っているような、笑っているようなもの。

破顔させて喜びたいのに無理やり意地になって怒っている…そんなへそ曲がりな子供の顔。

 

「だ、誰がアンタなんかと同じもんですか」

 

「同類さ。少なくともそうなりつつあるぜ、お前」

 

「…私はまだ戦場で人を撃っていないわ。何を根拠に」

 

ドリンクを飲み干したヤザンが、ぐしゃりと空の器を握りつぶしてダストボックスへと投げる。

 

「暇さえあればシミュレーターに乗っている。良い心掛けだ」

 

切れ長の瞳でヤザンを見ながら、少し頬を染めてそっぽを向いて言い返す。

 

「そんなの、あなたが言ったのよ。戦場で生き残る為にはトレーニングを欠かさない事って」

 

「ハッ!あぁ言ったな。けど見てりゃあ分かるんだよ。

兵士には色んな人種がいる。当たり前だが肌が黒いだの白いだのじゃない。

考え方だ…分かるな?」

 

カテジナは黙って上官であり先達の戦士のレクチャーに耳を傾けた。

沈黙を肯定と受け取ったヤザンは言葉を続ける。

 

「自分が死にたくないから引き金を引く奴と、

敵を殺したいから引き金を引く奴だ。

戦場にはこの二種類しかいない。

そして大部分が前者だが…俺はもちろん後者だ。

俺のような奴は決まって引き金を引く時、こういう顔をする」

 

そしてヤザンは己の片頬を釣り上げて見せた。

彼は笑っていた。

 

「シミュレーターでもそうなるのさ。実戦を想像して、同じ顔が出てくる。

カテジナ…お前、トリガーを引く時笑っていたぜ」

 

「私が…笑っていた?」

 

まるで自分が人殺しに快楽を覚える精神破綻者だと宣告されたようで、

その言葉は少女にとって大きなショックだった。

 

「あの顔は好きな顔だ。今のお前の匂いは嫌いじゃない」

 

だが、この男が続けてこう言うものだから少女のショックはまた違う毛色を帯び始める。

カテジナの顔はまた鋭く歪んだが、一方で鼻っ柱も頬も紅潮していた。

 

「な、何よ私の匂いが好きって…!そんな変態みたいなフェティシズムやめなさい!」

 

少女の言葉に今度はヤザンの眉が歪んだ。

そういうつもりで言ったわけでは無かったのだが、と男は口の中で笑った。

 

「別にいいだろう。匂いってのは本能だからな。

男と女ならそれを気にするのは当然だって事だ」

 

そしてこれ幸いにヤザンはいつものカテジナ虐めからかい癖が首をもたげてきていた。

案の定、カテジナの反応は素直で苛烈で面白い。

 

「お前の匂いを嗅いでいると滾ってくるンだよ」

 

目の前に立っている少女の手首を掴んで、座している己へ強く引き寄せる。

「あっ」と声を漏らしながらカテジナがヤザンと対面するように密着して座ってしまった。

カテジナの首筋に鼻を埋め、わざと大きな鼻息で深呼吸をしてやる。

カァっと少女の首まで赤くなって、冷や汗だか脂汗だか分からぬ汗でジトリと湿る。

カテジナの心臓は高鳴って体温が急激に上がっている証拠が、

しっかりと男に味わられてしまう。

 

「なっ、なにして…!――んっ」

 

しかも向き合い密着してしまった股間部も問題だった。

ヤザンの男のモノの丘陵が、少女の無垢な園を圧迫していたからだ。

そのでっぱりに自分の女の場所を押され、

思わずカテジナは変な声が漏れて咄嗟に口を閉じる。

 

「ははっ!貴様も滾っとるようだなァ!」

 

ノーマルスーツの上からカテジナの双丘を無遠慮に掴み揉み解す。

少女の口から隠しきれぬ女の声が漏れた。

 

「ちょ、っと…!なに、してるのよ!っ、んっ…!」

 

「貴様、緊張を解して貰いたかったんだろ?だからしてやっている」

 

「こんなの、っ、ふ…ぅ…頼んでいないわ…!」

 

金色の睫毛は伏せ気味になっていたが、それでもカテジナは強く男を睨んだ。

離れようと男の胸板を両手で強く押してもいた。

しかしそれは今一歩、本気の嫌悪が足りないで野獣の網から逃れきれないでいるのだ。

 

「あっ!ちょっと!?」

 

ヤザンの無骨な手がノーマルスーツのマグネットファスナーを乱雑に下ろすと、

カテジナの、思ったより着痩せする豊かな乳房が薄着のインナー越しに野獣に弄られる。

慌ててカテジナは男の手を掴んだが、やはり止めきれないのは腕力が足りないせいか、

それとも別の理由かは彼女には分からない。

だがニヤリと笑っている男にはその理由が分かっているらしかった。

 

「う、ぁ…や、やめ、て…!…っ」

 

突起を摘まれて乙女の背が跳ねた。

野獣の侵略は乳房より更に下へ伸びてくる。

白い肌を滑り、慎ましい臍を一周りし、数度その窪みを楽しまれて更に下へ。

カテジナはうわ言のように「やめて」と呟くが、頬は蒸気して熱い吐息が唇からこぼれた。

 

「…これ以上は、だめ」

 

必死に鋭い目を作って、鼻と鼻がくっつきそうな程に近い距離にいる男を睨む。

目はやや潤んで、淡麗な顔を赤くし汗で湿らせた様ではあまり説得力もないが、

少女は何とか野獣に意地を見せようとそう足掻いてやった。

 

「これ以上ってのはどんなだ?ンン?」

 

ヤザンは余裕たっぷりに、やはりからかうように悪辣に笑う。

この自信たっぷりな所を崩してやりたいと少女は思い、

しかしこの不敵な野性味に乙女の魂と無垢な肉体は絡め取られてもいた。

 

「っ、あぁ」

 

カテジナの顎が仰け反り背が反る。

彼女は初めて女の場所を男に弄もてあそばれていた。

熱を持ち、潤ったそこを男のごつごつとした指でまさぐられ、

開いた唇を男の口で塞がれた。

口内まで獣に跋扈される。

彼女の強固な意地が砕け散って霧散し、

白い波に呑まれそうになったその時、ヤザンは彼女を解放してやった。

小さなあえぎ声を漏らしながらカテジナは男の目を見ていた。

凶悪なその目からカテジナは目が離せない。

見惚れていた次の瞬間、獣が笑った。今度の笑いは豪放磊落なものであった。

 

「ははは!上も下も縮こまっとらんようだなァ!

やはり貴様は大した肝っ玉だぜ、カテジナ。

初出撃前にこんだけ盛れりゃ上出来だ」

 

「なっ…!」

 

カテジナは桃色の靄に霞みかけていた意識を正気に戻し、はっとし言葉に詰まった。

自分の痴態に全身を赤くし恥じて、次の瞬間には怒りを爆発させていた。

 

「わ、私を哂って…バカにして…!あなたって人は!下劣なケダモノよ!」

 

口づけ出来そうな距離にいながらヤザンの頬へビンタを見舞う。

きっとビンタが来ると予想がついていたヤザンは、

いつぞやのように簡単にその攻撃を捕捉して抑え込むとまた深くキスをして女を黙らせた。

 

「んん…!んむぅ…!んん~~~っ!ん、んん…!ん…っ、ん……」

 

今度のキスは長い。

カテジナの烈火は、絡みついてくるベロに掻き消されていくのが彼女自身分かる。

彼女は、扱い辛く面倒な自分を心のどこかで理解している。

だがその面倒な自分の扱いを、第三者に…この男に心得られているというのが、

カテジナには悔しいような、それでいて安心感があった。

 

「ん…んぅ……ぷは」

 

口が離れ、ほおけた顔になりそうな自分を叱咤し目の前の男を睨みつける。

男はいつものように悪人面で笑っていた。

 

「生きて帰れよ、カテジナ。そしたら続きをしてやるよ。今度は最後までな」

 

「……自惚れ屋。あなたなんかに、抱かれてやらないわ」

 

獣のオスとメスは互いに視線を交わらせ続けていた。

 

 
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