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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第373話】

 
前書き
模擬戦三戦目 

 
――第二アリーナ自動販売機コーナー――


 コーヒー二本とお茶を買い、俺は美春へと顔を向ける。


「美春は何が飲みたい?」

「あ、んと……ふ、フルーツミックスで」

「了解」


 小銭を入れ、フルーツミックスを購入すると取り出し口に落ちるペットボトル。

 それを取り出し、美春に渡すと俺はスポーツドリンクを購入しようとボタンを押す。


「……ヒルト、今少し大丈夫?」

「え? あぁ、でも一応皆待ってるからな」

「うん。 ……んと、さっき少し白ちゃんと話したんだけど――――あ、白ちゃんって分かる?」


 首を傾げて訊いてくる美春に、俺は頷くと――。


「分かるぞ? 白式のコアの子だな。 まだ会ったこと無いが……」

「良かった、二ヶ月前の事だから忘れてるかと思っちゃった。 んと、その白ちゃんなんだけど……今凄く落ち込んでるみたい」


 そう告げる美春の表情に少し陰りが落ちる――白式のコアが落ち込む原因は、連敗中の一夏の事だろう。


「……白ちゃんね、一応織斑一夏に対応しようって事で今も必至にフラグメントマップを書いてるの、機体の燃費が悪いから少しでも軽減出来るようにコアの方で書き換えていってるの。 ……でも、それもなかなか上手くいかない上に連敗続いちゃってるから、少し責任を感じてるみたい……」



 そう話す美春だが、正直白式のコアが気に止む事はないはず――というか、基本一夏の運用が悪いんだし。


「……コアは乗り手を選べないが、白式のコアはどう思ってるんだ?」

「え? えと……健気にマスターである織斑一夏に尽くそうとしてるよ? 前の白騎士の時はお姉さんみたいな人だったけど、此方は健気な感じ……初期化されても私達コアって、見た目は変わらないんだけどね? 性格とかは変わっちゃうけど」


 ……今の話、美春に訊いただけだと白式のコアには前の白騎士と今の白式の二つのコア人格が入ってるって言い方だが――。

 あくまでも俺がそう思うだけだから、勝手に決め付ける訳にはいかないが。


「……んで、白式のコアをどうすればいいんだ?」

「あ、んと……今は大丈夫だけど、もしこれ以上落ち込むならどう慰めればいいのかなって……」

「……うーん、慰めても一夏が変わらない限りは落ち込むことばかりにならないか? だからといって一勝してそれで落ち込まなくて済むってのは何かコア自身が傷付きたくないだけにしか思えないんだが……」

「ぁぅ……。 そ、そうだよね……」


 少し落ち込んだ表情を見せる美春に、軽く頭を撫でながら俺は――。


「優しい言葉を掛けて慰めるのは簡単だが、だからといってそれを常套手段にするのは安易だからな。 ……どうしようもなく落ち込んだ時は、力になるといいんだよ」

「そ、そっか……。 ごめんね、ヒルト。 優しい言葉掛けるだけでもって思ったんだけど……ちょっと安易過ぎたね? 反省反省……えへへ。 でも話を聞くのは悪くないよね?」


 顔を上げて見上げる美春に、力強く頷く。


「あぁ、話を聞くのは悪いことじゃない。 コアでも話を聞いて欲しいときはあるはずだしな、これが」

「うん。 ――あ、長々とごめんね? ヒルト、もう模擬戦始まってるみたいだし、行こっ?」


 そう言って手を取る美春に連れられ、来た道を戻ると徐々に模擬戦を行っているであろう金属音が耳に届いてくる。


 観客席ゲートの階段を上がると視界に映ったのはつばぜり合いをする一夏と鷹月さんの姿がそこにあった。

 慌てて皆の元へと戻り、飲み物を手渡すと俺は現状をラウラに聞く。


「ラウラ、試合は――」

「大丈夫、さっき始まったばかりだ。 今はつばぜり合いの最中で試合は拮抗している」


 コーヒーを開けると一口飲むラウラ――入ってきた時から変わらず、つばぜり合いのまま二人が拮抗した状態が続いていた。


「クッ……」


 一夏の表情が少し険しくなる――それを見た鷹月さんは。


「やあッ!」


 拮抗した状態のまま、脚部、脇腹と左脚部で二枚蹴りを入れる鷹月さん。

 その姿に、いつもの大人しさは見えなかった。

 つばぜり合いが解除されると同時に、速攻による突きがシールドバリアーを突き破り、絶対防御を発動させてエネルギーを削る。


「クッ……このォッ!」

「……!」


 接近戦は一夏の間合いだが、雪片の一撃は鷹月さんには当たらず、避けた彼女は更に突きによる攻撃でダメージを与えていく。

 ヒラヒラと舞うように一夏の攻撃を避け、的確に絶対防御を発動させてエネルギーを削る戦法は前と変わらない印象を受けるが、少し一撃が鋭くなってるのは気のせいだろうか……?


「ッ! 俺の得意な接近戦だってのに……何で当たらねぇんだよ!」


 二連敗してる為か、冷静さを欠いた一撃は鷹月さんには見極められ、避けたと同時に強烈な突きが何度も絶対防御を発動させる生身の箇所に当たり続ける。

 これだけ動けるのであれば、下手に離れて戦うよりかは離れずに攻勢に出る方が理に叶ってるだろう。

 冷静に一撃を加える鷹月さんとは真逆に、どんどん冷静さを欠く一夏の攻撃は、段々と大振りが目立ち始める。

 威力の高い一撃で振り出しに戻したい意図は分かるが、あれでは誰でも見極められるだろう。


「……勝負は決まったな」

「……だね。 明らかに一夏、冷静に対処出来てないもん」


 ラウラの言葉に、シャルも同意して言葉を告げる。

 ……確かに、今の現状で一夏が鷹月さんを捉える事は無いだろう――実力もそうだが、頭に血がのぼって冷静さが欠けた状態の相手を手玉に取るのは訳無い事だし。


「ッ……! こうなったら当たって砕けろだ!」

「え――キャアッ!?」


 離れずにいたことが仇となったのか、一夏の体当たりに簡単に吹き飛ばされる鷹月さん。

 体当たりは予想出来なかったらしく、空中でバランス姿勢制御を行い、体勢を整えるや直ぐ様――。


「これで――狙います!」


 粒子形成させ、左手に握られたのはIS用ハンドガンだった――サブウェポンとして選んだのだろう。

 引き金を引きつつ、一夏へと射撃し、ゆっくりと後退――それを見た一夏は。


「後退する? ――なら、ここで攻勢に……!」


 そう言ってから雪片の展開装甲が起動し、零落白夜の光刃がそこから現れた――三試合連続の零落白夜戦法に、既に目新しさは無く、不覚にも大きな欠伸が出てしまった。


「む? ヒルト、眠いのなら私の膝で寝るか?」


 そう言ってポンッと軽く自身の膝を叩くラウラ――それを見て慌ててシャルも。


「ひ、膝枕なら僕の方がいいよッ!? ほ、ほら、生足だし」


 そう言って生足アピールするシャル――スカートが短いため、色々不味い気がする。


「膝枕なら美冬の方が良いんじゃない? 妹なら気兼ね無く大丈夫でしょ?」


 ニコッと笑顔の美冬も、ラウラと同じく膝を叩いてアピールした。


「わ、私だって膝枕出来るよ! ほらヒルト! 私の膝、柔らかくて心地良いよ!」


 そう言って美春はぷにぷにと自身の足に触れる――確かに弾力もあって良さそうだが、たかが欠伸をしただけで何故膝枕の話になったのやら――と、激しい金属音が鳴り響き、またアリーナ中央へと意識を向けると空を舞う雪片が、縦に回転しつつ地表へと落下していった。


「なっ……!? 試合中に得物を弾くとは……幾らルームメイトとはいえ鷹月……卑怯だぞ!」


 ……またとんちんかんな自分ルールを言う篠ノ之に半場呆れつつ、声は聞こえてないよと心で突っ込む、そしていよいよ模擬戦の決着が目に見えてきた。


「ッ……なんで……なんでこうなるッ!?」


 一夏のその言葉に、苦笑を溢しつつ鷹月さんは――。


「……えと、どう答えたら良いのかわからないけど……。 織斑君、正直言うともう少し他の人からも教わる方がいいかな? ほら、デュノアさんとかに頭を下げて頼んでみるのは――」

「……そう簡単に男が頭を下げるなんて出来ねぇよ」

「そ、そうなんだ……」


 乾いた苦笑が漏れ出る鷹月さん――と、篠ノ之が。


「うむ。 それでこそ男というものだぞ、一夏。 男子が簡単に頭を下げては威厳が保てないからな。 無論、私には頭を下げてもいいがな」


 ――よくわからない理屈に、目を白黒させる俺。

 仮に俺が今の台詞を言ってみるとどうなるか、試してみよう。


「そうだな! だから俺は篠ノ之に頭を下げないぜ!」

「何!? 貴様は私に対しての非礼を詫びろ! 馬鹿者!」


 ――と、凄く分かりやすい一夏贔屓、ありがとうございます。

 というか、やっぱり一夏の脳内では未だに男尊女卑なのだろう――それか、女尊男卑の風潮に逆らう俺に酔いしれてるか。

 軽く息を吐くと、美春が口を開く。


「……篠ノ之箒って、本当にヒルトの事が嫌いなんだね?」

「そ、そうだね……。 まあヒルトぐらいだもん、専用機の事表立って言ったの。 僕達も篠ノ之さんが専用機を与えられるのに相応しいかと言われれば、首を横に振るし……ね、ラウラ?」

「そうだな。 ……人である以上、未熟な面があるのは仕方がない。 私やシャルロットも、色々未熟な面も多々ある。 ……だが篠ノ之は、アラスカ条約や学園の特記事項に違反してでもISは展開する、刀で器物破損をする。 でもお咎めが無いのは篠ノ之博士の妹という事もあるからだろう。 ……そんな中でもヒルトは関係無く色々言ってるからな……恐れ入る」


 ラウラの言葉が褒めてるのかどうかわからず、軽く頬を掻くだけで態度を示す。


「……篠ノ之の不幸は、怒ってくれる大人が居ない事だな。 または友達。 一夏には篠ノ之を甘やかすのではなく、間違ってる所を指摘してほしいものだ」


 そう吐くように呟く俺――一夏の言葉なら、流石に篠ノ之も聞くだろうし、俺が言っても基本聞く耳持たずだからな、篠ノ之。

 ――それでも、言わないと伝わらないから言うんだが。

 また再度アリーナへと視線を移すと、近接ブレードの切っ先が白式の装甲の隙間――生身の絶対防御が発動する所に触れていた。


「このまま少しの体重移動だけで絶対防御、発動するけど……。 織斑君、どうする? 降参……する? それとも私が試合の決着つけようか?」

「……ッ。 どっちも……俺には選べねぇ……。 ――だからッ!」


 武装腕がブレードモードに切り替わり、光刃が形成されると雄々しく輝きを放つ。


「ハァァアアアアッ!」

「――!?」


 下から逆袈裟斬りを行う一夏に対して、直ぐ様近接ブレードを手離して後ろへと緊急回避をする鷹月さん。

 逆袈裟斬りで斬り上げた光刃は、一夏の頭上で更に輝きを放つと光刃を粒子形成させていたエネルギーが四散――と同時に、試合終了のブザーが鳴り響いた。


「……これで三連敗だけど、最後は俺の自爆で負けたんだ。 ……ッ! もう少しエネルギー消費が少なければ……!」


 一人でごちり、ぽかんとその様子を見ていた鷹月さんは、一夏がピットな戻る様子をただただ眺めていた。

 ……自爆で負けたという言い訳は非常に苦しい言い訳にしか聞こえない。

 俺はスポーツドリンクを飲みながら、今なおぽかんとしている鷹月さんを眺めるだけだった……。 
 

 
後書き
一夏の負け

潔い自爆

じゃないね 
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