IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第370話】
木曜日の朝、一組教室。
今日は珍しくラウラが夜這いに来なかった(夜這いといっても、実際は隣で俺と一緒に寝るだけ)為、美冬に説明せずに済んだのは少し助かった。
朝から一悶着あるのも面倒だからな……まあ、俺が決着つけないのが非情に悪いのだが。
昨日言われた通り、青アザのある箇所にナチュラルメイクを施してもらい、目立たなくさせて学校へと登校、教室へと一番乗りの俺と美冬の二人。
咥内のキズも、ラウラのナノマシン効果か痛みも傷痕も無く、今日は昨日食べれなかった分を今朝、大量に食べて美冬に笑われてしまった。
何にしても、ご飯は美味いって訳だな、これが。
まだ痛む頬を軽く指で触ると、痛みが脳天を突き抜けていく。
……喋る分には問題ないが、笑うと痛むかもな――。
「ヒルト、おはよう♪」
「おぅ、美春。 おはよう」
いつもの様なポニーテールではなく、今日はサイドアップにした美春に少し新鮮さを感じた。
女の子何だから、いつも同じ髪型ってのも飽きるだろうしな。
少し離れた席へと座る美春は、授業の用意をし始める――と。
「よぉ、ヒルト。 おはよう」
頭上から聞こえてきた一夏の声に見上げる俺、昨日俺を殴った事を忘れたような爽やかな笑顔を俺に見せていた――と、美冬が立ち上がると一夏に詰め寄る。
「織斑君」
「へ? ……なんだよ美冬、そんな怒った表情して、どうしたんだ?」
美冬の怒った表情には気付いたが、原因がわからないのか首を傾げている一夏。
「お兄ちゃんに何か言うこと無いの?」
「へ? ……おはようの挨拶なら、今したぜ?」
「……織斑君、貴方が昨日お兄ちゃんに何をしたのか、全部訊いたんだからね? それでも何かお兄ちゃんに言うことは無いの?」
「昨日……?」
そう言われて、腕を組み、首を傾げて考え込む一夏。
その様子に、美冬は苛立ちを隠せずにいた――と、手をポンッと叩き、思い出したかのように一夏は――。
「あぁ! そういや昨日殴ったんだっけ? でも、顔を殴ったのに青アザ出来て無いなんてヒルトも結構頑丈だな。 まあ何にしても怪我が無くて良かったよ」
満面の笑みでそう言う一夏――次の瞬間、教室内に響く乾いた音。
「――えっ?」
「………………」
一夏の言葉が許せなかった美冬の平手打ちが、一夏の頬に当たるとその箇所が手のひらの形に真っ赤になっていく――。
美春もその音に気付き、何があったのかと二人の様子を窺っていた。
「い、いきなり何しやがる!」
「いきなり何しやがる? なら、貴方はお兄ちゃんにいきなり殴るのを正当化するの?」
平手打ちを食らった頬を触りながら、一夏は美冬に声をあげるも、美冬はたじろぐ所か更に強気な態度を見せていた。
「正当化するも何も、こいつが俺を弱いって言うのが悪いだろ! 俺は弱くねぇのに……」
「何で弱くないって、貴方は言えるの?」
「当たり前だろ! 白式だって第二形態移行したんだ……。 たった三ヶ月で第二形態移行したやつってそうは居ないぜ? 今は負け込んでるけど、それは白式の燃費の悪さが原因なんだ」
確かに白式の燃費の悪さは結構な割合でウェイトを占めてるだろう、だが……俺はそれよりももっと根本的な部分に原因があると思う。
一つは零落白夜の多用、発動してるだけでエネルギーを食う零落白夜の二刀流何か、ただの大飯食らいだ――二倍減るのに二刀流を止めない辺り、刀が二本あれば強い、二丁拳銃すれば強いと考える様な物だ。
刀の二刀流は、利き手じゃない手にも気を配らないといけない上に、正直零落白夜の光刃は自身のシールド・バリアーに触れていつか自分が自爆する気がしなくもない。
そして二つ目は瞬時加速の多用。
一気に間合いを詰めるのに役に立つ瞬時加速とはいえ、一夏は正直あれを多用し過ぎる。
しかも第二形態移行してからはチャージ時間が短く、更にダブル・イグニッション・ブーストとなって更に燃費の悪化が目立つのに、試合配分を考えずに突っ込む。
勿論短期決戦を狙うのであればわかるのだが、一夏の太刀筋は正直見極め自体難しくなく、腕の動きで大体わかるのだからまず短期決戦で決着はつかない――まぐれ当たりで、シールドバリアーに触れない限りは。
三つ目は武装腕の機能の全て――零落白夜の光刃は説明したが、月穿と霞衣はまだだ。
月穿――荷電粒子砲だが、基本一夏は最大出力で放つ癖がある(最近は出力を絞って撃つ事もあるが)。
最大出力で撃って当たらなきゃ意味がないのに無駄撃ち、仮に無駄撃ちでもそれで相手の動きを止めて次に繋げるのならば良いのだが、それを行わない。
現状、月穿は無駄な機能の一つと言える、次に霞衣だが――これは機能的には零落白夜の盾で、粒子エネルギーを無効化する盾を前面に張るのだが、生憎とエネルギー系統の武装を持つのは限られている上に、その対戦相手と戦うときは雪片に零落白夜の光刃を纏わせ、前面に零落白夜の盾を張り、更に瞬時加速を多用しての接近戦ごり押しという頭の悪い戦いかただ。
九月初頭にセシリアに勝てたのも、彼女が接近戦を不得手とし、更にほぼ武装がエネルギー系統ばかりという一夏にとって相性がよく、セシリアにとっては最悪だというのが要因だ。
――結論、単一仕様や瞬時加速を多用する一夏自身が悪い。
だが一夏自身、今言ったように白式の燃費の悪さが原因だけというのなら多分成長は見込めないだろう、幾ら才能があっても、機体の燃費の悪さを原因にするなら正直ラウラだってAICの燃費の悪さは一夏の零落白夜に次ぐのだから。
「てかさ、それだとお兄ちゃんだって第二形態移行してるじゃん。 でも織斑君、いつもうちのお兄ちゃんを見下すような上から目線で言ってるし」
「別に上から目線で言ってねぇよ。 てか、そんなつもりで言ってる訳じゃねぇし」
そう言う一夏だが、明らかに俺自身、下に見られてる様に感じる事が多々あるのだが……。
「……まあいいわ、多分貴方と言っても平行線にしかならないと思うし。 話は戻すけど……じゃあ、貴方は燃費さえ悪くなければ他の代表候補生――ううん、専用機持ってない子にも勝てるって言うの?」
「おぅ。 俺だってこの半年、遊んでた訳じゃねぇんだ。 努力だってしてる、そうそう負けねぇよ。 ……それに、専用機と訓練機じゃ、機体性能の差が歴然だぜ? 昨日ヒルトに負けたのだって、ただカウンターをモロに受けて倒れた俺への追撃で負けただけなんだし」
何となく言い訳にしか聞こえないのは気のせいだろうか?
……一夏って、今思うと四月辺りはまだまともだった気がするのだが……確かに男がどうだのウザい事は言っていたが。
「そう言うならさ、次に来た子と今度模擬戦してよ。 貴方が強いのなら、楽勝でしょ?」
「おぅ。 何ならハンデを付けても良いぜ。 機体性能の差、あるんだしな」
「ハンデ? 何を言ってるのよ。 両者共にハンデ無し、機体機能制限も無しのいつも通りのレギュレーションに決まってるじゃん」
「良いのかよ? 俺のワンサイドゲームになるかもしれないぜ?」
一体本当に何処からその自信が来るのかが本気で知りたくなる。
確かに専用機持たない子ばかりだが曲がりにもIS学園生徒、ランクも最低でもDランクで入学し、普通に一夏のBランククラスは一組でも半数以上居るし、A-評価を含めても十人以上はいる。
中には燻って操縦者への道を諦める子も居るが、少なくとも諦めずに訓練機を借りて必至に練習に明け暮れる子も居るのだ。
「良いわよ? 強いって言うならワンサイドゲームにしても。 ……でも、専用機持ってないからって、自分より下に見ると痛い目見るよ?」
美冬がそう言うと、廊下の向こう側から複数の話し声が聞こえてきて教室に入ってきた。
「おー? ヒルトー、美冬ー、織斑ー、おはよー。 美春もおはよー」
「お、おっすヒルト。 おはよう……てか美冬、織斑もこんな所で何してんだ?」
「ヒルト君、おはよう♪ ……何か、一触即発な空気?」
入ってきた順に玲、理央、鷹月さんだ――教室の入り口付近で居れば、疑問にも思うだろう。
「あ、ちょうど良かった。 あのさ、急で悪いんだけど、三人とも今日の放課後空いてるかな?」
「「「え?」」」
教室に入ってきた三人に手を合わせ、お願いする美冬に互いに顔を合わせる三人。
「おー、放課後なら空いてるから私は大丈夫ー」
「俺も問題ないぜ? てか美冬にお願いされるのって初めてだよな」
「そうだね。 あ、勿論私もOKだよ?」
三人からめでたく許可を貰った美冬は、嬉しそうに三人の手を取ると耳打ちする様に放課後行う一夏との模擬戦の説明を行った。
一方の一夏は、首を傾げて見ているだけで、未だに俺へ謝ろうともしない。
まあ、もうこいつが謝るのすら想像できないし、どうでもいいかなと思い始めた。
「――って事なの、いいかな?」
「おー? 勿論だー。 ワンサイドゲーム、されないぞー」
「俺も良いぜ? 正直、織斑の実力もちゃんと見たかったしな。 ヒルトとは以前模擬戦したが、俺的に結構強かったし」
「うん。 じゃあ放課後第二アリーナで、ワンサイドゲームにならない様に頑張ります」
そう三人が言うと、一夏は――。
「どうやら決まったようだな。 じゃあ放課後に第二アリーナ向かうぜ」
そう言って平手打ちされた頬を擦りながら自分の椅子に座る一夏、他の三人も自分の席に座るや、美春がやって来て。
「……ヒルト、美冬、織斑一夏と何かあったの?」
「あ、まあな。 でも美春が知れば一夏を殴る気がするから聞かない方がいいかも」
「……人間社会で、知らない方が幸せって事もあるって何かの書物で読んだよ。 わかった、でも放課後、模擬戦見学は良いよね?」
美冬に視線を移す美春――その言葉に、小さく頷くと。
「勿論だよ。 お兄ちゃんはどうする? 確か今日はシャルと訓練だよね?」
「見学するよ。 シャルには後で説明するし、多分納得してくれる筈だから」
そう言うと、美冬はまた小さく頷く。
美春もとりあえず放課後来ると決まったからか、自分の机に戻っていった。
「……結局織斑君、お兄ちゃんに謝らなかったね?」
そう言って一夏へ視線を移した美冬につられて俺も一夏を見る。
よほど強烈な平手打ちだったのか、まだ頬が手のひらの形で真っ赤になっていて、何やらぶつくさと独り言をごちっている。
「……だな、多分青アザが見えないからだろ? てか青アザあるまま登校する方が問題になるし」
「……うん。 でも誰も気付かない辺り、美冬の腕もなかなかでしょ♪」
ニッと白い歯を見せて笑う美冬。
「……まあな。 とりあえず、今日は試合見学だな」
「うん。 ……んと、お兄ちゃん? 私、勝手に理央や玲ちゃん、しずちゃんを選んじゃったけど良かったのかな? 私、実力知らなくて……」
「あ、実力なら心配しなくていいぞ? 正直、三人とも何で代表候補生に選ばれないのかが不思議なぐらい強いから」
言ってから前の模擬戦を思い出す俺、レギュレーションの取り決めは無いものの、彼女達なら大丈夫だろう。
零落白夜の光刃だけ気を付ければ問題ないし。
そう思っていると、続々と教室に入ってくる一年生生徒。
「……そろそろ座ってごろごろしてるね?」
「おぅ。 んじゃまたな」
自分の机に戻る美冬――と、シャルとラウラの二人が教室に入ってきた。
「ヒルト、おはよう」
「む? ……ふむ、どうやら目立たなくなっているようだな。 安心したぞ。 ……っと、おはようヒルト」
「あぁ、二人ともおはよう。 ラウラには心配かけたな、とりあえず目立たないだろ?」
「うむ。 ……とはいえ、傷が目立たないだけでその下には残っているのだな……」
そう言ってラウラは一夏へと視線をやるが、当人は机に突っ伏していた――平手打ちされた頬でも冷やしてるのだろうか。
「……二人とも、何の話をしてるの? 僕に内緒で話してると、何だか寂しいな……」
そう寂しそうな笑顔を見せるシャルに、困った様な表情を浮かべるラウラ。
「シャル」
「え?」
軽く俺は自身の耳たぶを二回叩くと、意味が通じ、プライベート・チャネル通信が繋がった。
――というか、とりあえず他の人に訊かれたくない場合はこうやって機能をフル活用したりしている――学園の特記事項に違反はしてるが、必要悪というやつだ。
『実は昨日――』
昨日の美冬と同様の説明をする俺。
説明を終えると悲しそうな眼差しで一夏を見てから、俺へと視線を戻す。
「そうだったんだ……。 まだ痛むの?」
「あぁ、でも内密にな? 騒ぎを大きくしたくないし」
「ぅ、ぅん……」
頷くシャルに、笑顔で応えると俺は更に――。
「あ、そうだ。 今日の訓練中止していいか? ちょい模擬戦見学したくてな」
「あ、勿論大丈夫だよ? 怪我してるなら無理しない方がいいし、模擬戦見るのも勉強の一つだもん」
いつもの笑顔でそう言うシャルに、内心ホッと一息つくと――。
「ふむ。 ならば今日は私も模擬戦の見学といこうか。 場所は?」
「第二アリーナ」
場所だけを言うと、ラウラは忘れないようにメモを取り出して記入した――シャルもだが。
「僕も見学するよ。 あ、そろそろ席につかないと」
「……そうだな。 ではヒルト、昨日の約束……私はいつでも大丈夫だからな?」
そう言って頬を朱色に染めるラウラは、先に自分の席に戻った。
ラウラの言葉に、欲望の塊が素直に反応し、半突起状態に――節操なさすぎだ、俺。
「……? ヒルト、ラウラと何の約束したの?」
「え? あ、あぁ……ちょっとな?」
「……ふーん。 あ、そうだ、ヒルト」
顔を寄せてシャルはそっと俺に耳打ちをする。
「……こ、この間の続き……ヒルトの時間の都合があれば……僕はいつでも良いからね……?」
喋る度に呼吸が耳に吹き掛かり、ゾクゾクすると同時に今の言葉で半突起状態から完全突起状態に――朝からこんな状態がバレたら去勢されかねん。
「じゃ、じゃあね?」
耳打ちを終えたシャルは、ラウラ同様頬を朱に染めたまま自分の席に戻っていった。
……何だか、脱童貞の日が近い気がする。
そう思いながら机に突っ伏すと、ひんやりした机の感触が心地よく、俺は軽く瞼を閉じながらHR開始を待つのだった。
後書き
とりあえず無理なくモブ子と模擬戦入れれた気がする
そして下がる一夏の評価
てか原作もあんな感じだし、イメージしやすいはず
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