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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第329話】

 爆発の衝撃に地面が小さく揺れるのを感じる。

 篠ノ之が居た地点には黒い爆煙が立ち込め、ミサイルの残骸がパラパラと落ちてくる。

 ふと、一陣の風が吹く――立ち込めた煙の中からは、篠ノ之の紅椿が現れ、周囲に張ったエネルギーシールドが完全に防ぎきった様だ。


「……この程度、紅椿にとってはダメージにもならんッ!」


 残った煙を張らすかの様に大きく左手で横へと薙ぎ払う様に振るった篠ノ之。


「あぎゃ、まあこの程度のミサイルランチャーでどうこう出来るとは思ってなかったからな。 ……だが、次のミサイルは特別製だぜ!」


 手に持ったミサイルランチャーをかなぐり捨て、粒子化されると四散して消え去る。

 そして、新たに呼び出されたミサイルランチャーは先程と同型の様にも見受けられるのだが――。


「あぎゃぎゃ! 喰らいなッ!!」


 装填されたミサイルを全て一斉に撃ち出すと、凄まじいバックブラストがランチャー背部から放出された――火薬の臭いがここまで漂ってくる。


「クッ……! この程度で紅椿を抜けると思うなッ!?」


 再度防御体勢を取る篠ノ之――ミサイルは先端部分が割れ、中からは更に小さな無数の小型ミサイルが射出。

 噴煙をあげ突き進む無数の小型ミサイル――それが紅椿のエネルギーシールドに触れると小さく爆発した。

 爆発の規模が小さいのは、ミサイル同士の誘爆を避ける為だろう。

 もろに直撃を受け続ける篠ノ之――小さな爆発が紅椿に少しずつシールドエネルギーを削っていく。


「くっ……この程度……!」

「あぎゃ、幾らこの程度って言っても無駄だぜ。 一般火器は通用しない――何て言うのはお前の姉の篠ノ之束の話だが、残念ながら一般火器でも充分抜けるんだよ」

「抜かせ! ISがそんじょそこらの銃で傷つけられるものか!」

「あぎゃぎゃ、なら何故ラファール・リヴァイヴ用パッケージ、【クアッド・ファランクス】は存在する? あれなんざ、まんまCIWSの砲身だぜ? ――まあ、言っても理解しないだろうがな、あぎゃ」


 無数の小型ミサイルが爆ぜ、また立ち込めた煙の中から紅椿が現れるが周囲を覆っていたエネルギーシールドは解除されていた。

 ――それはつまり、紅椿のエネルギー切れが近いということだ。


「……データとしては二割弱って所か……。 あぎゃ、もう少し録りたい所だが、扱う奴が未熟じゃこれが限界ってやつかな」


 小さく呟く男――ハイパーセンサーでも拾えないぐらいの呟きだが……。


「何をごちゃごちゃと!」


 エネルギーが少ないことを理解してかわからないが、攻勢に出るため展開装甲を機動モードに切り替える。

 圧縮された粒子が開いた装甲から放出されるや、爆発的な加速で真っ直ぐ突き進んでいく。

 その間、雨月の打突から放たれるエネルギー刃で連続攻撃を行うのだが――。


「無駄だ無駄だ!」


 盾の装甲が開くと、やはり粒子エネルギーを吸収している。

 盾を前面に構えたまま篠ノ之に突撃をかけつつ、先程出したチェーンソー型の大剣を右手で構え――。


「あぎゃぎゃ! 神すら葬る最強の武器の味、味わえよモップ!!」

「貴様……! モップでは無いと言ったァァァッ!!」


 交差する互いの刃――重なりあった瞬間、火花が舞い散る。

 ――そして、チェーンソーの刃部分が高速回転すると更に辺りに火花が舞い散る。


「くっ……!? パワー負けしているだと!? どうした紅椿!?」

「あぎゃぎゃ! エネルギー切れが近いんだろ!? 俺様がそのまま削り切ってやるぜ……エネルギーをなッ!!」


 更に刃が高速回転すると、先程とは比にならない火花が舞う。

 徐々に、徐々にと刃が篠ノ之へと押し当てられていき――そして。


「あああッ!? あ、紅椿がッ!?」

「あぎゃぎゃぎゃぎゃっ! パワーダウンしやがったぜ!!」


 一気に力負けすると同時に高速回転するチェーンソーの刃が絶対防御の発動する生身部分へと押し当てられた。

 高速回転する刃一つ一つが絶対防御を発動させていく――ものの二秒で紅椿は沈黙した。


「あぎゃぎゃ! 最高性能の機体を使ってこの様とはなァッ!!」

「く……くそっ……。 何故だ!? 私だって特訓はしている……紅椿搭乗時間だって既に百時間は越えたのに……!」

「あぎゃぎゃ、幾らごちても結果はこの通りだ。 ちなみに俺様はこのユーバーファレン・フリューゲルに乗ってまだ十時間足らずだぜ?」

「「「……!?」」」


 その言葉に全員耳を疑う。

 ISは搭乗時間に比例して専用機が搭乗者をわかっていくと一学期に習っていたが……僅か十時間程で既に戦闘能力の高さを見せるというのは、あいつ自身のスキルと自身から来る経験の高さを物語っているからだ。

 ……多分、生身での戦闘も相当なレベルなのかもしれない。

 あの機体、仮にAICや背部の自律兵器を積んでいなくてもあの男が駆れば――。

 考えただけでも背筋が寒くなる思いだ――。


「あぎゃ……さて、作戦としては白式の奪還だが――。 ……リムーバー使った後の様だし、奪ってから直ぐに離脱をして搭乗者から五キロ離れないと完全に奪えないしな……。 下手に奪うよりかは、ここは見逃して次の機会を待つ方がいいだろうな……」


 何やら小さく呟く男――。


「……このままこいつらの相手をし続けても特に旨味もねぇ……。 村雲・弐式……あいつは纏ってねぇし……ふむ」


 腕組みしながら呟く男――チャンスにはチャンスだが、相変わらず動けず、更に下手するとISが解除された篠ノ之に手が及ぶかもしれない――と。


「皆! 大丈夫!?」

「お兄ちゃん!」

「あぎゃ?」


 声のする方に一瞬気を取られた男は空を眺めた。

 そこには美冬、未来の二人がちょうどやって来た所だった。

 一瞬見せた隙を逃す手は無く、直ぐ様セシリアへとアイコンタクトを送る――それに直ぐ様反応したセシリアは、狙撃銃の引き金を引いた。

 砲口から放たれた粒子ビームは俺へと一直線――と。


「あぎゃ! フリューゲル・アインス!!」


 直ぐ様反応した男は、俺を捉えたままの自律兵器に命令を送ると直ぐ様その自律兵器はエネルギーシールドを形成した。

 それと同時にAICの拘束から解除される――その一瞬、予め溜めていた瞬時加速のエネルギーをスラスターから放出。

 背部スラスターから伝達するかの様に一気に装甲表面温度が上昇した――。


『主君。 打鉄は量産機故に村雲とは勝手が違う。 ……主君ならわかってると思うが』

『わかってる。 ……だがそれでも、限界まで引き出さないといけないんだ!』


 撃ったビームは、張られたエネルギーシールドによって阻まれたその一瞬、瞬時加速を行う。

 まるで俺の思いの分だけ、加速力が増すかの様に肉薄していく。


「――――貫けぇぇぇえええッ!!!!」


 加速の最中に近接ブレードを呼び出し、加速をつけた突きによる一撃――だが、装甲に触れる少し前でピタリと止まる。


「あぎゃ、惜しかったな? ……あぎゃぎゃ、どうやらお前もマスコミが流した情報とは少し違うようだ。 ――動きでわかる、お前は先の二人よりも動きがいい」

「くっ……!」


 AICによって固定されてしまった。

 押しても引いてもびくともせず、AICの完成度の高さはラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのそれよりも高いのが明白――なら。


『雅、全パワーを背部スラスターに集中。 絶対防御のエネルギーもだ!』

『主君! それでは主君が――』

『いいからやれッ! やらなきゃ、何も出来ずにやられる!!』

『……ッ! 承知した!』


 エネルギーバイパスが背部スラスターに接続された――刹那、まるで爆発するかの様にスラスターから大量の推進エネルギーが放出される。


「……何!?」

「このまま――届けぇぇぇえええッ!!!!」


 徐々に――近接ブレードの切っ先が男のISに触れ、そして――強制的に解除されたAICの反動から、加速力の乗った突きは、打鉄の近接ブレード自体が威力に耐えられずに全損――粉々に散っていった。

 だが、その一撃は届き、大きくシールドエネルギーを減少させる事には成功した。


「……あぎゃぎゃ、やるじゃねぇか。 今のは打鉄のカタログスペックを上回る程の加速力だったぜ」

「ハァッ……ハァッ……!」

「……あぎゃぎゃ、今回はここまでにしといてやるぜ」


 何処かまだ余裕のある声でいい放つ男は、指を鳴らすとラウラと一夏を拘束していた自律兵器を戻す。


「さて……これで俺様は退散するとするかな」


 そう言ってふわりと空中を舞うように浮かぶ男。

 美冬と未来の二人は、セシリアと篠ノ之の二人に駆け寄っていて既に地上にいた為、逃亡の阻害は出来ない。


「待てよ! まだ勝負はついてねぇぞ!」


 そんな中、エネルギーが底をついた白式で無理矢理立ち上がると、物理刀に成り下がった雪片を構える一夏。


「あぎゃ? ……けっ、殆ど何も出来なかった奴が意気がるなよ」

「意気がってねぇッ! このままお前みたいな奴を見逃せば、千冬姉の名前に傷がついちまう!」

「……あぎゃ。 そのてめえの行動が織斑千冬の名前に傷付けてるって事に気づかない辺り、道化だな……」


 小さく呟く――追撃しようにも俺もエネルギーが底をついた為、下手に刺激するわけにはいかないのだが。


「一夏、止せ! 下手に追撃して白式奪われたらどうするんだ!?」

「……ッ!!」

「あぎゃぎゃ、まあお前の軽薄な行動がこういう事態を招いたかもな。 ……仲間を守りに来た? 自分すら守れないガキじゃ、誰も守れねぇよ! あぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!」


 そんな高笑いをその場に残し、上空へと一気に急上昇し、そのまま離脱していく男。

 その時の加速で砂塵が舞い、砂煙が立ち込めた。


「……撃退したで良いのか?」

「……お兄ちゃん、今の人……IS――」

「……あぁ。 三人目の操縦者だ」


 静かにそう呟くと、俺は空を仰ぐ様に見つめる。

 男が去っていった方向には飛行機雲が延びていくのが目に映った。 
 

 
後書き
未来が空気にΣ(゜∀゜ノ)ノ

いや、まあそれ以上にシャルと鈴音の二人を出さなかった俺もあれだが 
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