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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第331話】

「さて、そろそろおねーさんは一旦書類に目を通しに戻ろうかしら」


 楯無さんはそう言うと、両手を天に掲げ、軽くストレッチをした。


「あ、ヒルト君。 後で君の部屋に行くから鍵は閉めないでよ? 織斑君にもちょっとお説教しなきゃいけないしね」


 軽くウィンクしながら手をひらひらと振ると、そのまま楯無さんは視聴覚室を後にした。

 ……説教……無断出撃の件かな?

 ……まあ俺も福音の時に先行して行ったからなぁ……。

 それはそうと、視聴覚室に残ったのは俺と母さん、美冬に未来に美春となったのだが……。


「……そう言えばヒルト? 村雲・弐式はこのまま美春ちゃんに譲る形で良いのかしらぁ?」

「え? ……あぁ、村雲に思い入れがない訳じゃないが――だからといって編入する美春が専用機無しでの編入はまた色々面倒な気もするし」

「……でもそれだと、ヒルトが専用機剥奪されたって思われちゃうかもしれないよ?」


 少し不安げな表情の未来が、上目遣いで見上げてくる。


「……専用機有る無しで俺という人物が変わる訳じゃないだろ? 俺自身はどう思われても大して気にもしないさ、これがな」


 腰に手を当ててニッと笑顔で応える。


「……っと、母さん? そんな訳だから村雲・弐式の登録者を俺から美春に変更してくれるか?」

「えぇ。 登録者変更はそれほど手間じゃ無いから大丈夫よぉ。 ……あ、美春ちゃん? 一応貴女はこのあと検査室に私と来てくれるかしらぁ?」

「え……?」


 不安げな表情を浮かべた美春、それを見て母さんは柔らかな笑みを浮かべながら――。


「うふふ、そんな実験とかじゃないわよぉ? 見た目的には人間でも、何処か違う箇所があるかどうかを調べるだけだからぁ~」


 ……それはそれで確かに調べないといけないかもしれない。

 見た目も肌触りも人のそれと同じだが、内臓器官等違っていたらまたそれ用の対策を考えないといけないし――。


「美春、受けて損は無いさ。 母さんなら別に変な事はしないし」

「うふふ♪ 少し愛でるかもしれないけどね~」


 ――多分ハグやら頭なでなでといった類いの行為だろう。

 じゃなきゃ、何をするんだってなってしまう。


「わ、わかりました。 よろしくお願いしますっ」

「うふふ、硬いわよぉ? まだ戸籍に入ってないけど、お母さんになるのだからもっと気楽に――ね?」

「あ……う、うんっ」


 まだ少し硬さは残るが、それでも笑顔で答えた美春。


「……そういや母さん、少しこれの事について訊いていいか?」


 俺の言葉に、母さんは顔を横に向けて俺に視線を移す。

 それを見てから、首にぶら下げていたロザリオを取り出すと手のひらの上に乗せて、そのまま見せる。


「今日の襲撃の時、これが光を放って銃弾から俺を守ってくれたんだが――」

「うふふ、そうよぉ? プレゼントした日に言ったでしょぉ? 貴方を守ってくれるって――ね?」


 可愛らしくウィンクする母さん。

 美春は母さんに捕まってか、母さんの膝の上に座らされ、ギュッと後ろから抱き締められていて少し表情が赤かった。


「……IS搭乗者が狙われやすいのは、ISを解除した生身の状態なのよぉ。 そのロザリオがあれば、離れた狙撃手からの凶弾どころか、自爆テロからもその身を守ってくれるわよぉ♪」


 その言葉に、美冬も未来も首にぶら下げていたロザリオを取り出し、それを眺めた。


「……そっか……。 でもさ、それなら他の子にも用意した方が――」

「えぇ、それは分かってるんだけど……その、作るのに時間がかかっちゃうのよねぇ……それに、あまり作りすぎると悪用しようって人も出てくるはずだし……要人を守るにも最適だけど、テロリスト一人一人がこれを身に付けたらパワーバランスが崩れて、世界が大混乱しちゃうかもしれないから……」


 ……確かに、銃弾から身を守る障壁が展開されるのなら、これを持ってない側の一方的な虐殺になるのは明白だろう。

 ……何気に母さんって、世界のパワーバランスを握るような物を開発してるよな……まあ、家族を守るためかもしれないが。


「……だから三人とも、それはお風呂の中でも手離さないようにね?」

「う、うん。 わかったよ、お母さん」

「わかりました」

「……あぁ、アクセサリーとか俺にはあんまり似合わないが……」

「うふふ、男の子でもたまにはこういったものを着けるのも良いものよぉ」


 ……まあ、確かにそうだが。

 シャルから貰ったブレスレットも時折着けるようにしてるし――てか着けないと、シャルが凄く悲しそうな顔をするからなぁ……。

 ラウラのナイフに関しては、机に飾るという形で置いているが……流石にあれを身に付けながら街へ外出出来ないし。

 セシリアからもらったエインズレイのティーカップは時折使わせて貰ってる。

 ……が、ティーカップが換わったぐらいで味が良くなったかはわからないが。

 舌がバカなのか他の要因もあるのか……。

 とりあえず貰った誕生日プレゼントの話は其処らに置いておこう。

 首のチョーカーを外す――着けるのも外すのも、それほど難しくないので案外手際よく外せる。


「はい、美春。 元々はお前のだが――」

「……うんっ。 村雲はこのまま私が扱うね?」


 俺の言いたい事がわかったのか、頷くとチョーカーを手に取り、着けた。

 いつも着けていたチョーカーが無いというのは何だか不思議な感じがするが、これもいつか慣れるだろう。


「うふふ、それじゃあ私と美春ちゃんは色々検査するから検査室へ行くわねぇ~」

「あ、お母さん? 私とみぃちゃんも行ってもいい? もっと美春ちゃんの事、知りたいし♪」

「うん。 美春ちゃんさえ良ければ……私達も良いかな?」


 美冬、未来の二人が母さんと美春に着いていくと言い始めた。

 二人としてもやはり早く仲良くなりたいのかもしれない。


「う、うん。 私は良いよ? ヒルトの妹に幼なじみ――わ、私も色々聞きたいことあるしっ」

「うふふ、じゃあ四人で向かいましょうかぁ~。 ……ヒルトはこれからどうするのかしらぁ?」

「一旦部屋に戻るよ、成樹達にも連絡しないといけないしな」


 ズボンから携帯を取り出すと、何件かの着信とメールの通知が来ていた。

 メールは――鈴音とシャルの二人からで、件名を見る限りは今日援護出来なくてごめんってタイトルに表示されていた。


「わかったわぁ。 じゃあ視聴覚室閉めちゃうから出ましょうかぁ~」


 その言葉に促され、俺達全員視聴覚室を出ると既に夕闇が訪れていた。

 少しヒヤリとした風が窓から入り込む――夏の日差しが嘘の様な涼しさだ、これから秋本番だろうと頭を過る。

 視聴覚室の扉に鍵の掛かる音が廊下に響き渡る――くるりと母さんが振り返ると。


「じゃあ、お母さん達は検査室に行くからねぇ~」

「あぁ、じゃあ皆、またな」

「うん、またねお兄ちゃん♪」

「ヒルト、ちゃんと歯磨きして寝るのよ?」


 未来のそんな指摘に、軽く頭をかきながら俺は――。


「毎日磨いてるってば、磨かないとか出来ないし」

「うんうん、偉い偉い♪」


 ……微妙に子供扱いしてる気がするが、気にしないでおこう。


「……私もヒルトの事、お兄ちゃんって呼んだ方が良いのかな?」

「ん? それは美春に任せるさ」

「そ、そっか。 ……とりあえず、暫くはヒルトって呼ぶよ」


 ニコッと笑顔で応える美春、少しドキッとしたが一応義理とはいえ妹になるんだ、自重しなければ。


「じゃあ行きましょうかぁ~。 じゃあヒルト、また明日ねぇ~。 明日は振替休日だけど~」


 そう言い残し、母さんは皆を連れて廊下の向こう側へと消えていく。

 楽しげな声が、静寂に満ちた廊下に響き渡るのを感じながら俺は携帯を取り出す。


「……メールの返事するよりかは直接鈴音やシャルにかけて訊く方がいいかな」


 そんな呟きが廊下の彼方へ吸い込まれていく――着信履歴から、俺はまず鈴音に電話をかけることにした――。 
 

 
後書き
まだ解決しない

文章稼ぎではなく、必要な内容だったからと書いてみるφ(..) 
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