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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第330話】

 
前書き
オリジナル 

 
――視聴覚室――


 あれから数時間、陽は傾き、太陽が地平線の彼方へと吸い込まれていく。

 場所は視聴覚室、何故この場に居るのかと言うと理由があるからだ。

 ――と、視聴覚室の扉が開いた。


「すまない、待たせたな有坂」

「いえ、織斑先生もお疲れ様です」

「あら? 私には言ってくれないのかしらぁ?」

「うふふ、おねーさんもお疲れなんだけどなぁ~」


 織斑先生の後ろから覗き込む様に顔を出す母さんと楯無さん。


「お、お疲れ様です、有坂先生。 更識先輩」

「うふふ、お疲れ様ぁ。 事後処理はまだ残ってるけどねぇ~」


 相変わらず間延びし、ふわふわとした口調の母さん。

 一方の楯無さんはというと――。


「あん。 ヒルト君ってば意地悪ねぇ~。 いつもみたいに楯無って呼んで?」

「せ、先生方が居るのだから仕方ないでしょ!」

「あはは、冗談よ冗談♪」


 普段通りにおどける楯無さんに、僅かながら微笑を溢す織斑先生。


「……後は美冬と未来の二人か……」

「あの二人ならそろそろ来るだろう。 ……有坂、少しは更識から事情は訊いている。 ……その子の事で話があるのだな?」


 腕組みしたままちらりと視線を移す織斑先生――視線の先にいた女の子――ムラクモはビクッと身を震わせると俺の後ろへと隠れた。

 ――コア内で会った時とは違い、借りてきた猫の様な状態のムラクモ。

 だが、不安な気持ちも仕方ないだろう……知り合いが俺しかいないのだから。


「うふふ、それにしても可愛い子ねぇ~♪」

「あ……は、はぃ。 ぁりがとぅござぃます……」


 消え入りそうな声で返事をするムラクモ――と、扉をノックする音が視聴覚室内に響き渡る。


「失礼します」

「有坂美冬、飯山未来。 来ました~。 ……お兄ちゃん、その子の事で話があるの?」


 入るなりそう言う美冬に、小さく頷くと何やらジト目気味に睨まれてしまった。

 未来はジト目では無いものの、何だか機嫌が悪いような気がした。

 視聴覚室内の椅子に座る二人を見て、俺は口を開く。


「いきなりですみませんが……先生方も含めて、コアに意識があるという事――信じられますか?」

「む? 唐突だな有坂――。 ……一応、研究した結果には意識に似た物があると一学期内の授業でやったはずだが――」

「えぇ、それは知ってます。 ……まあ、信用してるかどうかは人それぞれでしょうが――」

「……? ヒルト君? 簡素に説明してくれるかしら? 織斑先生も有坂先生も、まだこの後事後処理や役員会議とかあるから。 おねーさんも、今回の事でやること増えちゃったし」


 そう言う楯無さんに、母さんと織斑先生は静かに頷く。


「了解しました。 では簡素ながら説明します。 先ず――」


 俺のこれ迄のムラクモとの経緯を簡素に説明する。

 福音戦での初の対話から今日のコア擬人化までの経緯を――。

 もちろん、実際に体験してない人ばかりなので信用されないと思うのだが――。


「――って事はお兄ちゃん、その子は村雲・弐式のコアって事なの?」

「……あぁ、まあ信用するかしないかは任せるが。 ……事実だからな。 現にこの子は村雲を纏う事が出来るし。 ……やってみてくれるか?」

「ん。 了解」


 小さく返事をすると共に頷くと、身体が光に包まれ、村雲・弐式を纏ったムラクモ。

 目をぱちくりさせる美冬と未来の二人に、織斑先生は腕比べしながら小さく声を上げ、母さんは少し驚いた表情をするも、直ぐにいつも通り絶やさない笑顔を見せた。


「……だからあの時、彼女がヒルト君のISを纏えたね?」


 納得するかの様に頷く楯無さん。

 開いた扇子には何故か納得の文字――。


「んと……フラグメント・マップの構築に支障は無いの?」


 未来がそう言うと、俺は頷き――。


「あぁ、俺が見た限りだと支障は全く無いな。 ……でも念のため、母さん後で調べてくれるか?」

「えぇ、もちろんよぉ~」


 にっこり笑顔で応える母さん――。


「……成る程。 とりあえずコアの擬人化に関してはわかったが。 ……有坂、お前はその子をどうしたいのだ?」

「え? ……とりあえず、この学園の生徒に出来ないですか?」

「えっ!? ひ、ヒルト……?」


 まさかの発言に、一同驚きの表情を見せた中、一番驚いたのはムラクモ本人だった。


「うふふ。 ヒルトは何故そういう考えに至ったか……説明してくれるかしらぁ?」

「あぁ。 ……まず、コアが擬人化したっていうのは世界的に見れば大発見だろうし、トップニュースにもなる。 この辺りは俺自身バカでも思い付きましたが……そうなると、擬人化したこの子の待つ未来はどうなると思います?」


 ムラクモの肩に触れ、俺はその場にいる全員の表情を伺う。


「……確実に言えば未来は無いと言える。 コアが擬人化した事実が世界に発表されたならば……。 確実に研究対象として保護という名目の名の元、完全隔離され、モルモットとして多様な実験材料にされるだろうからな」


 腕組みしたまま真っ直ぐと見据える様にムラクモを見る織斑先生。


「えぇ。 多分何処の国でも同じ様な考えに達する筈です。 更に言えばコアは人間では無いから人権侵害にも当たらないとか屁理屈捏ねて色々な理屈を並べようとしますからね。 人類の未来の為にだとかね」


 事実、俺がされた実験以上の事がムラクモにさせられる可能性も高く、下手すると解剖さえ……。

 一瞬脳裏にムラクモの結末が過るも、払拭する様に軽く頭を振った。


「だから現状、この事は今この場にいる人だけの秘密にしてほしいのです。 ……他の代表候補生には折り合い見てから伝える形にしますので」

「……成る程。 ……まあ国家代表候補生ならば口も固いだろう洩れる心配は無いだろうが――一般生徒には口外しない方が良いだろうな。 ……十代女子の噂好きは、あっという間に話題を広めるだろうからな」


 ふぅっと小さく溜め息を吐く織斑先生。


「……そうだね。 私もクラスの子から色々な噂聞くもん。 誰々に彼氏が出来たとか、あの子が悪口言ってたとか」


 頬杖をつきながら答える美冬――多少変顔になってるが、突っ込むのは止めよう。


「あはっ♪ でも仕方ないわよ、女の子なんだし」


 美冬の言葉に賛同する様に楯無さんが笑顔で言った。


「……まあ学園への編入に関しては何とかしてみよう。 だが……その子の戸籍はどうする? そもそも名前は?」

「名前? ……あるにはありますが、彼女曰く『可愛くないからやだ』とのこと――なあ?」


 そう言って振り返ると少し頬を染めながらムラクモは――。


「し、仕方ないじゃん。 じ、自由に名前名乗るわけにはいかないんだし……むぅ」


 軽く頬を膨らませるムラクモ――少しだが、いつものムラクモに戻った気がした。


「……成る程。 まあ名前はお前が名付ければ良いだろう。 しかし……戸籍等をどうする――」

「うふふ。 戸籍やその他の件でしたら私がなんとかしますわぁ」


 にこりと笑顔で告げる母さんに、軽く息を吐くと織斑先生は――。


「……わかりました。 では戸籍諸々の件は有坂先生に一任致します」

「えぇ。 ……うふふ、せっかくだから養女として家に迎えようかしらぁ?」

「お、お母さん!?」


 驚いたような声をあげる美冬に、相変わらずふわふわした声で母さんは――。


「うふふ、いいじゃない~。 義妹が出来るんだし~」

「そ、そんな簡単に……。 お、お父さんだって急にだとびっくりしちゃうよ!?」

「あら? ……うふふ、あの人なら最初はびっくりしてもいつもみたいに笑って『まあいっか! わははははっ!』って言うわよ~」


 ……容易に想像出来る親父の笑い声。

 ……流れ的にムラクモが義妹になるのは必然な気がしてきた。


「美冬ちゃんは反対かしらぁ? あの子を養女として迎えるのは?」

「べ、別に反対じゃないよ? き、急に家族が増えるって訊いたらこうなるわよ! ねぇ、お兄ちゃん!?」

「ん? ……かもな、だが……戸籍が無いとダメだし、良いじゃん。 母さんに任せようぜ」

「も、もぅ……。 はぁ……わかったわよ」


 ――という訳で美冬も納得したという事もあり、戸籍や養女の件は母さんに一任する事にした。


「……話は纏まったようだな。 では私はこれから今日起きた事件の事後処理があるのでこれで――」

「あ、織斑先生? ……俺や一夏の処遇はどうなるのですか? 一夏……許可を取らずに来たらしいですが」

「……それに関してもこれから話し合う予定だ。 お前の処遇に関しては多分大丈夫だろう。 アラクネを奪い返したのもあるしな」

「……そうですか。 ……コアに関してはどうなるのですか?」

「ん? ……とりあえずコアを初期化した後に、有坂先生に預けるつもりだ。 ……本来なら奪われた国に返さないといけないのだが、どの国も『被害届』を届けてないからな……奪われたとなっては、国家の恥と考えるらしいからな」


 やれやれといった感じで喋る織斑先生――まあ確かに貴重なコアが奪われたとあっては国家の警備体制に批判が集中するだろうから黙るのが普通かもしれない。

 とはいえ、目を閉じてからまた開いて見ても有ったものは奪われてその場に無いのは事実なのだから、国家間の連携を取れば良いものだが――生憎と人間、簡単に手と手を取り合えるのなら昔から戦争は起きないものだ。

 国際的立場から考えても、わざわざ不利になる事を纏めて報告するよりは黙っておこうという事だろう……多分。


「まあ何にせよ、話し合いもこれから暫くは続くだろう。 ……もしかすると、上層部からの圧力で今回の織斑の無断出撃はうやむやになるかもしれんがな……。 今さら私の名前に傷がつこうが私は気にしないのだが、上はそうとは考えていないようだ。 ……ふっ、まるで中間管理職みたいな立場だな……私は……」


 自嘲するかの様に呟く織斑先生――色々気苦労が多いのかもしれない、俺達生徒や他の教師の目の届かないところで。

 ……そう考えると、一概に色々責める事も出来ないように感じる――とはいえ、俺が責める立場ではないが。


「それではな。 ……書類は明日までに用意しておく」


 そう言い残し、視聴覚室から立ち去った織斑先生。


「……先生も気苦労が多いのね。 まあ生徒会長の私も、同じぐらい気苦労多いけどね、アハッ♪」


 お茶目に笑う楯無さん――そういえば、色々な片手間の合間に俺や一夏、篠ノ之の訓練に付き合ってくれてるんだよな……。

 いつか、ちゃんとお礼をしないと……。


「ところでさヒルト君。 その子の名前、どうするの?」

「え? そ、そうだな……うーん……」


 直ぐに名前が思い付かない――と。


「ふふっ、責任重大ね、ヒルト?」

「お兄ちゃん、いぬきちみたいな名前は止めてよ? お兄ちゃんの友達の犬にその名前をつけて、犬も目を丸くしてたんだから」


 ……いや、いぬきちみたいな顔してたからなぁ……あのワンコ。

 もう既に事故で無くなったが、当時の友達の犬を思い出すと自然と笑みが溢れた。

 ……と、犬の話はその辺りに置いておき、ふと村雲・弐式を纏ったのが確か四月の春爛漫な季節だったなと頭を過った。


「……んじゃ――美しい春で『美春』でどうだ?」

 一瞬の静寂――変な名前では無いとは思うのだが……。


「……ヒルト? ど、どうしてその名をつけようって思ったの?」


 目をキラキラと輝かせるムラクモもとい、美春。


「……単純だが、村雲・弐式と出会ったのが春だから。 後は日本の四季の中でも春は桜とかで綺麗だしな。 ……まあ四季折々、他の季節にも良いところもあるがな、これが」


 ちゃんと残りの四季のフォローも入れてみる。

 夏は女の子の水着とか、秋は紅葉や焼き芋とか、裸婦の絵画とか、冬はウィンタースポーツ――スキーウェアを着た女の子の異常な可愛さやスケートで転んだ時の女の子のパンチラ等々――。


「……えいっ!」


 いつの間にか隣に来ていた美冬に、脛を本気で蹴られてしまう。


「ぐおぉぉぉ……な、何をする美冬……」

「……お兄ちゃんがえっちな事考えてるからでしょ」


 ズバリと指摘する美冬に、ギクリとしてしまう。

 ……最近はエロい事を考えても蹴られなかったから油断してたぜ……地味に痛い。


「あらあら? ヒルト君ってば思春期真っ盛りねぇ~。 ……そういう事は、部屋で一人の時に考えないとね? アハハッ♪」


 茶化す様に言う楯無さんの姿は、まるで弟をからかう姉のような姿にも見えた。


「……ともかく! これからは美春だ! わかったな? 今更名前が気に入らないは無しだぞ?」

「あらあら? ヒルトってば今回は強引ねぇ~。 うふふ、他の子が見たら惚れ直しちゃうかもねぇ~」


 ――等と言いながら茶化す母さんの言葉に、少し顔が赤くなる。


「……へへっ、強引なんだから……わかった。 これからは『美春』ね! 皆、よろしくね♪」


 目映いばかりの笑顔を見せた美春。

 さっきまでは借りてきた猫の様だったが、嬉しさからか素の自分を出していた。

 そんな美春を皆も微笑ましく見ながら各々に自己紹介を改めて行った。

 窓から外を眺める。

 太陽がゆっくりと沈んでいく。

 長かった一日の終わりが近く、一番星が空に燦然と輝いていた――。 
 

 
後書き
そろそろキャラと村雲・弐式更新かな

そして――微妙にまだ一夏の問題解決してないorz

まあこのあとに……書けるかな

あまり根を詰めすぎたらエターナる可能性も出そうだし、纏めて書ければ……φ(..)

批判等は感想にてお願い申す 
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