IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第316話】
――一組教室――
休憩時間が終わり、俺達全員改めて接客業に勤しむ(成樹含めて)。
調理班の方も、材料の仕入れも終え、雑務班もある程度忙しさが緩和した為、現在休憩中だが――。
「笹川くーん。 執事がご褒美セット、二番テーブルから指名ー」
「了解です。 ……お待たせ致しました、お嬢様」
「キャーッ! 笹川くんにお嬢様って言われちゃった♪」
……何故休憩を一組教室で取り、しかも成樹指名なのだろうか……。
てか、他の出し物見に行かないのだろうか?
「くっ……! か、顔が良いだけではないか……普段は一夏一夏と言ってるのに……!」
成樹を見ながら愚痴を溢す篠ノ之。
「……なあ、お前……俺の友達だからって批判してるなら流石に俺も怒るぞ?」
「フンッ! 私が誰をどう批判しようと勝手だろう。 接客に戻れ、有坂――そういえば、まだ指名が無いのだったな」
……若干どころかかなりイラッとしたが、こんなことで怒れば折角の学園祭が台無しになるということで自重する。
とはいえ、全然仲良くなれない辺りはアイツが俺を毛嫌いしてるからなぁ……。
……一夏以外は駄目みたいな事を言ってたが、余程何かあったのだろうか?
――まあ、もしかすると竹刀で男子を叩くぐらいはしてたかもしれないが。
……臆測で考えるのは止めにするか。
そう思い、気持ちを払拭させると俺はまた来たお客様を席へと案内していく。
指名が無い以上は、こういった事をメインにやらなければ、ただのサボりにしかならないからな。
――と、ふと前を見ると――。
「じゃじゃん、楯無おねーさんの登場です」
そう言って、先程と同じ様にまたメイド服を着た楯無さんが現れた。
「楯無さん、お疲れ様です」
「うん♪ ……それはそうと、ヒルト君って相変わらず指名が無いのね? ……うーん、お姉さんから見ても君の執事っぷりは素晴らしいと思うんだけど……ほら、君のお友達にも負けないぐらい」
そう言ってちらりと成樹を見る楯無さん。
クラスの子と神経衰弱をし、まさかの無双状態だった。
「……いや、成樹には負けますよ。 本職の接客業ですし」
「あら、そうなの? ……ところでヒルト君。 おねーさん、君の教室手伝ってあげたんだから、織斑君といっしょに生徒会の出し物にも協力しなさい」
……何気に言い切った辺り、半ば強制の様だ。
「……まあ、確かに楯無さんのおかげで並んでいた列の子もあまり待たずにすみましたしね」
「うん♪ 分かってるなら話は早いわね。 織斑君には後で説明するとして、まずは君から説明ね?」
そう言って鼻先をツンッと指でつつく楯無さん。
からかってるのだろう、一々狼狽していたらキリがない。
「それで、出し物って一体何でしょうか?」
「ウフフ。 演劇よ? え・ん・げ・き♪」
口元を扇子で隠すように覆い、微笑む楯無さん。
……生徒会主催の演劇なのだから、多分普通のとは違うような気もするが。
「……演劇って、普通のですか?」
当たり障りのない質問に、小さく首を振ると口を開く――。
「ううん。 観客参加型演劇よ?」
「観客参加型?」
……観客も演劇のキャラの一部ということだろうか?
「まあとにかく、君はおねーさんと一緒に来なさいな♪ 織斑君、君もね? はい、決定!」
「は? な、何で俺まで――」
聞こえていた様で軽く反論する一夏だが、それに割って入ったのがシャルだ。
「あ、あのー、先輩? た、確かにヒルトは指名があまり無いんですけど、やっぱり連れて行かれると色々困るんですが……。 ほ、ほら、クラス代表ですし!」
最もらしい意見で俺を連れて行かせまいとするシャル――と。
「……別に有坂なら居ても居なくても問題はないだろ、デュノア」
「……そんなこと無いよ。 ヒルトって、皆のフォローとかさりげなくやってるんだから。 雑務班のやりたがらないゴミ出しも進んでやってるんだし」
「……ふん、その程度、誰にでも出来るだろう?」
「……なら篠ノ之さん、ヒルトの代わりにゴミ出ししてきたら?」
「断る。 私はあいつと違って忙しいのでな」
そう言ってスカートを翻してまた戻る篠ノ之に、シャルは複雑そうな眼差しで見つめてから再度楯無さんを見て。
「と、とにかく、ヒルトを連れて行かれると僕達が困るので……」
「あら? ……シャルロットちゃん、少し耳を貸してくれる?」
「ふぇ……?」
いきなりの事に、首を傾けるシャル――楯無さんはシャルに近づくと、そっと耳打ちで何かを伝えている。
「……という訳で、綺麗なドレス、着せてあげるわよ?」
「あ、あぅ……ど、どうしよう……。 ぼ、僕がお姫様でヒルトが……」
内容がわからないのだが、何故か恍惚とした表情でシャルは真っ直ぐと俺を見つめてきた。
「……うぅ……。 わ、わかりました。 一演目だけなら、僕も抜けられますので」
「うふふ。 シャルロットちゃんは素直で可愛いわね~。 ……でも、もう少し配役が欲しいわね~。 って訳で、セシリアちゃんにラウラちゃん、美冬ちゃんと未来ちゃん、序でに箒ちゃんも耳を貸してくれるかしら?」
そう言って手招きし、まずはセシリアに耳打ち――と。
「わ、わかりましたわ♪ ……うふふ、わたくしがお姫様でヒルトさんが……」
……セシリアも説得されたようだ。
次に接客を終えた美冬がやって来て、楯無さんがこっそり耳打ち――少し擽ったそうにするも、内容を訊いてハッとした表情になる。
「……お兄ちゃんとシンデレラ……」
表情を見る限り、美冬も落ちた様だ。
そして、ラウラ、篠ノ之とやって来て――。
「むぅ……。 悪く……ないな、嫁と一緒に……」
「い、一夏と……。 こほん、い、良いでしょう」
……篠ノ之まで落とされる演目って何だろうか?
最後に未来がやって来て――。
「……シンデレラ……えぇ。 ……ヒルトが? ……わ、わかりました」
一瞬驚き、俺に視線を向ける未来――ふと、さっきのキスを思い出してしまい、熱が上がったかのような感覚に襲われ、手で扇ぐ。
「うふふ、後は二組の鈴ちゃんにも言わなきゃねー」
実に楽しそうに言いながら俺に寄ってくる楯無さん。
……てかよくよく考えたら接客班ほとんどいなくなるような……。
「鷹月さん、俺達が抜けたら不味くないですか?」
「んと、ちょっと待ってね? 今外の列を確認してくるから」
そう言って慌ただしく外の列を数え始める鷹月さん。
「……成樹、大丈夫か?」
「ん? 僕なら大丈夫だよ。 休日の忙しさに比べれば、今ぐらいのお客様を捌くのは難しくないしね?」
「あら? 君ってスゴいのね、流石はヒルト君の友達ね♪」
「いえ、ヒルトには小さい頃から今まで助けられてますから」
何気なく自然と会話する二人――二人が並ぶと何だか画になる気がする。
「ヒルト君、お待たせ。 とりあえず笹川君が残ってくれるなら大丈夫かな? ……というか、先輩の言ってた演劇開催が近いからか、それほど並んでないの。 これなら多分後で他の子達も演劇を見に行けると思う」
「……成る程。 じゃあ残りのお客様、成樹と鷹月さんに任せるよ。 悪いな」
「……ううん。 任せてもらってありがとう、ヒルト君」
ニコッと微笑むと、またやって来たお客さんを席へと誘導し始める鷹月さん。
「……そう言えば、演目は何をやるので?」
「ん? うふふ、演目は――」
勢いよく開かれた扇子に書かれていた文字は『追撃』の二文字――追撃?
「シンデレラよ」
「シンデレラって……硝子の靴の?」
「ええ、そうよ♪」
開いた扇子を閉じ、その足で教室を出た楯無さん。
……観客参加型演劇、シンデレラってどんな内容何だろうか?
……まあ、多分だが俺の配役は硝子の靴を持って回る家臣か兵士その一辺りだろう。
そう思い、気楽な考えで俺は窓から外を眺めるのだった。
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