IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第409話】
前書き
襲撃ーッ
ヒュンッ――頬を掠めるその弾丸、掠めた箇所からは僅かに出血し、暖かいものが頬を伝うのを感じた。
人差し指でそれを拭い、指を見ると赤い鮮血がそこにあった。
血だ――その事実に、脳裏に過る【死】という言葉。
だが――震えてる隙は無い、拳銃を持つ余裕から来る少女の隙をついた一瞬――俺は地面を蹴り、駆ける。
咄嗟に反応した少女だが、その銃口が俺を捉えるよりも速く、懐に入り込む。
その勢い殺さず、強烈な体当たりをマドカと名乗った少女に食らわせた。
「ちっ」
吹き飛ぶ程の衝撃に、舌打ちする少女。
器用に空中で体勢を整えて着地すると、銃口が俺ではなく、再度一夏へと向けられた。
「……ッ!」
買い物袋から散乱した缶ジュースが一つ、足元に転がってくる。
それを、銃を持つ右手目掛けて蹴る――くるくると横回転しながら、真っ直ぐ狙った右手に突き進むと拳銃を弾き飛ばした。
がしゃっ!と鈍い音が響き、俺とマドカのちょうど真ん中に銃が落ちる。
――銃の暴発が無く、ホッと内心は安心するが、その銃を拾おうとマドカはそれに手を伸ばした。
「……取らせるかよッ!」
恐怖心が襲うより速く身体が動き、拳銃を取られる寸前に俺はそれを壁側へと蹴って距離を離した。
「貴様……ッ」
「ッ……!?」
いつの間にか取り出したナイフの刃が、俺の脇腹を狙うように突く――だが、僅かに体を逸らし、脇腹と腕でナイフを握った右手を拘束、そのまま細腕を押し潰すように腕と脇腹で圧迫し続けると、舌打ちと共にナイフを手放し、俺の腹部目掛けて飛び膝蹴りの一撃。
「ぐ……はッ……!?」
体重の乗った重い一撃に、昼に食べた物が胃から逆流しかける――それを堪えるが、マドカは僅かに緩んだ隙をつき、拘束した右手を抜くと距離を離す。
「ほぅ……少しはやるようだな、有坂ヒルト」
「ゲホッゲホッ……。 はぁっ……はぁっ……」
僅かな時間の対峙だが、既に体力の半分は使った様な疲労感が俺を襲う。
――ISを纏っていた時とは違い、更に学園祭の時に守ってくれたロザリオは身に付けていない。
その事実が、俺に死のイメージを連想させて、内側から来る恐怖に少しずつ足が震えだす。
鎮まれ、鎮まれッ!――そう言い聞かせようと思っても、内から沸き上がる恐怖は、徐々に徐々にと俺の身体を重くさせていく。
「……ふっ、恐怖で足が震えてるぞ」
「…………っ」
見れば、誰が見ても分かるぐらいに俺の足は震えていた。
まるで自分の身体なのに自分のものじゃないその感覚――動かそうにも言うことが全く利かず、震えが激しくなる一方だった。
ISを展開すれば良いのだが、事情聴取後に直ぐにこっちに来たため、打鉄にエネルギーは補給されていない――だから、緊急展開は出来ない。
震えてる間に、俺が蹴った拳銃を拾い上げるマドカ。
「貴様には世話になったからな。 ……織斑一夏からと思ったが、先にお前から始末してやろう」
撃鉄が引かれ、銃口が俺へと向けられる。
命の危機だというのに、全く身体が言うことを聞かない――そして、また住宅街に響く渇いた音――空薬莢が拳銃から排出され、それが落ちていくのがスローモーションに映る。
真っ直ぐ弾丸は俺の右目を撃ち抜く様に飛んでくる――もう終わりかと思ったその時、パスッという音と共に金属同士がぶつかる音が聞こえた。
迫っていた弾丸は視界から消え、一体何事が起こったのか全く理解できなかった。
「……どうやら間に合ったようだな。 危うく俺の息子が殺される所だったぜ」
その声を聞き、俺は内心安堵した――振り向くと、サプレッサーの装備されたUSPハンドガンを構えて親父がやって来る。
「その声――貴様はあの時の……」
「ご明察――というか、まあ声聞きゃ大体分かるだろうさ。 ……それよりもだ、織斑君無事か?」
振り返らず、銃口はマドカに向いたまま親父がそう告げると一夏は――。
「だ、大丈夫ですが……ここは日本ですよ!? 二人して発砲――」
「残念だが織斑君、ここは日本だからという理由でテロリストは発砲しないって訳じゃない。 ……そして俺はちゃんと拳銃所持の特別許可証持ってる。 君が何を言っても意味は為さない」
一夏の指摘に眉を一つ動かさずにそう応える、こんな時まで日本だから撃たれない何て言っていたら殺られるのは自分だと言うのに――。
「さてお嬢ちゃん……。 俺は基本的には温厚だが、息子の命の危機となっちゃ話は別ってね。 ……覚悟、出来てるか?」
言ってから放たれる威圧感――その場にいる全員、呼吸するのさえ苦しく感じた。
「ちっ……このプレッシャー……!」
そう一人でごちると、左手に握られたナイフを親父目掛けて投げるマドカ。
だが親父は、投げ付けられたナイフの刃を指二本で挟み、それを防ぐ――どんな動体視力してるんだよ、親父。
「馬鹿な……ハイパーセンサーの補助も無しでナイフを――」
「返すぜ、お嬢ちゃん」
そのまま同じ様に投げ返す親父だが、そのナイフは明らかにマドカの目を狙って返した――だが。
「ほう、わざわざ手のひらで受けるとは――お嬢ちゃん、少しは自分を大事にしたほうがいいぜ」
「ちっ……!」
手のひらに突き刺さったナイフ――ゆっくり流れ出る血が、アスファルトの地面にポタポタと落ちていった。
痛がる様子すら見せず、それを引き抜く――と、ここでラウラが遅れてやって来た。
「ヒルト、無事か?」
「と、とりあえずな」
真っ先に俺に駆け寄るラウラを他所に、マドカはISを身に纏うと――。
「今日はここで退こう。 流石に私もまだ捕まる訳にはいかないからな」
言ってから一歩退くマドカ、それをラウラはISを展開してAICの停止結界でそれを阻もうとする。
いつの間にか左目を封印していた眼帯は外され、金色の左目が露になっていた。
「待て! ……!?」
マドカの顔を見て、一瞬動きが止まるラウラを他所に、明かりの無い闇へと消えていく。
「ではな。 ……織斑一夏、次はお前の命をもらう……。 ……ふっ」
そう言って、一瞬俺の方を見てから嘲笑する様に笑うとそのまま消えていった――親父は拳銃を直すと、空薬莢を拾い上げてそれをポケットに入れた。
「ヒルト、俺はこのまま織斑君を自宅に送っていく。 ヒルトとラウラは学園に戻れ。 ――悪かったなヒルト、来るのが遅れて」
「……いや、助かったよ。 ……一夏の事、頼むよ」
「ワハハハッ、それは任せな! さて、行くぞ織斑君」
「わ、わかりました……。 いてて……」
そう言って鼻を抑える一夏――俺が壁に押しやった時にしこたま顔面を打ったのだろう――だが、死ぬよりはまだましかと思う。
とりあえず親父はそんな一夏に苦笑を溢しつつ、一夏を送るため反対側の曲がり角へと消えていく――と同時に、ラウラはISを解除し、片膝をつく。
親父がマドカと名乗る少女を見逃したのは気になるが、多分理由としては街中での戦闘は色々弊害が起きる事を危惧してだろう――それよりも、俺はラウラが気掛かりだ。
「くっ……私としたことが……」
「ラウラ、大丈夫か?」
足の震えも止まり、側に駆け寄るとラウラは俺を見て――。
「勿論だ。 ……だが、やはりこの左目を使うと少し疲れるな。 ……すまなかった、私が最後だったな……怪我は無いか、ヒルト?」
言いながら、俺の顔や肩、腕に腹部と触れるラウラ――腹部はさっき、膝蹴りを受けたものの、特に身体の中の器官にダメージを負った形跡はなく、俺は。
「大丈夫だ、何とかな……」
その言葉に安堵するラウラだったが、次の瞬間ぎょっとした表情を見せる。
「……ヒルト、泣いてるのか?」
「え?」
指摘され、気付くと俺は涙を流してるのに気付く――死の恐怖から解放された安堵からなのだろうか、止めどなく流れ出る涙を拭うも、止まることはなかった。
「あ、あれ? ははっ、全然涙が止まらない……」
「……ヒルト」
今頃足腰に力が入らなくなり、へなへなとその場に座り込む俺――そんな俺の頭を抱くようにラウラは抱き締めると、いつもと逆でラウラが俺の頭を撫でる。
「……もう大丈夫だ。 ヒルト、大丈夫だから」
「……そう、だ……な。 ……わ、悪いなラウラ……こんな俺、見たくなかったんじゃ――」
「何を言う。 ……涙は誰でも流れ出るものだ。 安心しろ、誰も今のヒルトを見て嫌いになるはずはない。 居るなら……本当にヒルトの事が好きではないだけだ」
撫でる手を止めると同時に、抱いた頭を解放するラウラ。
ラウラの顔が近付き、ソッと触れる様な口付けをしてくる。
それと同時に、流れ出る様に流した涙はピタリと止まり、俺の目には赤く染まったラウラの表情が間近に映っていた。
「ふふっ、今ので涙は止まった様だな」
「あ、あぁ……。 ……ラウラ、ありがとう」
「ぅ、ぅむ。 ……ヒルト、そろそろこの場を離れるぞ。 流石に今日本の警察が来ると不味いのでな」
言われてからハッと気付く――住宅街で発砲音がしたのだから当然警察は来る筈、そう思うと何とか立ち上がり――。
「帰ろう、学園に……」
「ぅむ。 ……ヒルト、今日現れたあの女は――」
「……さぁな。 何であんな面をしてるかもわからないが……ラウラ、一応この事態、黙っててくれよ」
「無論だ、騒ぎが大きくなる」
俺とラウラはそう言いながら一路学園に戻る道を歩き始め、駅へと向かった。
……また襲撃があるかもしれないと思うと、不安になるが……駅までの帰り道の間には特に何も起きなかった。
……突発的な襲撃だったのだろうか……考えても答えは出ず、俺とラウラは学園行きモノレールを待つのだった……。
後書き
そしてラウラがヒロインしてる(* >ω<)=зハックション!
ちょっとだけオリジナル話続く
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