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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第321話】

 
前書き
またまた遅れました

 

 
 ガシャンッ!――そんな音が更衣室に響き渡る。

 装甲脚の関節部に一撃を決め、破壊した脚部が地面に落ちる音だ。


「ば、バカな……!? こ、こうもあっさりアラクネの……ッ!!」


 オータムは落ちた脚部を信じられないといった感じに見て、狼狽えた表情を見せた――。


「……とっくに一分たったが瞬殺出来なかったな、おばさん?」

「あ、悪夢だ……わ、私がこんな低ランク相手に一撃も与えられねぇなんて……!!」


 俺の言葉が聞こえないのか、一人でごちるオータム――だが、わざわざそれに付き合うつもりもない。

 倒れたロッカーを持ち、そのまま振り下ろす――鈍い音と共に、衝撃の苦痛に苦悶の声を上げたオータム。


「ぐあっ!? ……クッ……!? これ以上好き勝手やらせねぇぞ、ガキがァァァッ!!」


 振り下ろしたロッカーを残った装甲脚で押しどけるや、直ぐ様その脚部での連撃を行ってきた。

 空を斬る音が響き渡る――冷静さは取り戻していないらしく、突き、振り上げ、振り下ろし、薙ぎ払いといった攻撃全てのモーションが大振りの為、避けるのは容易い事だった。


「クソッ! クソッ!! 当たれよ! ちょこまかしやがってぇッ!!」

「そう言って当たる馬鹿はいないだろ! おらよ!!」

「何!?」


 七基全ての装甲脚による大振りの突きを跳躍して避け、そのまま二基のの脚部関節部に乗ると、メキメキと音と紫電をたて、更に使用不可能にした。

 ――このアラクネの特性は、装甲脚八基による手数押しなのだろう。

 まあそれも、こうやって破壊すれば手数も減るし――長所を潰せば手数押しも無くなるだろう。

 ――これも、人型ではなく、昆虫型にしたISの定めってやつだな、これが。

 更に二基潰れ、明らかに狼狽える様子のオータム。


「……あ、有り得ねぇ……! こ、このオータム様が、こんな雑魚に……!」


 ……どうしても認めたくないようだ。

 とはいえ、経験値は俺よりある癖に冷静さが無く、満身過信する辺りは何処と無く篠ノ之に似ている気がする――まあ、このおばさんは大人だから成長する機会は少ないかもしれないがな。


「あり得ないなんてことは【あり得ない】。 ……現実ってやつは残酷なのさ、おばさん?」

「くっ……! なめるなァーッ!?」


 単純な指摘にも反応し、大きく装甲脚を縦に振るうオータム。

 モーションの大きな攻撃に当たるほど俺は耄碌してはいなく、半身を横にずらして避けると更衣室の床に突き刺さる装甲脚。

 もちろん、それを逃さずに関節部に掌打による一撃――鈍い音と共に、突き刺さった装甲脚は折れ、機能を停止させた。


「く……! き、距離を離して――」

「……させるかよッ!!」

「なっ――アグッ!?」


 その場から距離を取ろうとしたオータムに追撃――腹部や脚部など、生身を晒した部分へと執拗に攻撃――何度も何度も絶対防御を発動させ、確実にエネルギーを削っていき――。


「があッ!? ちょ、ちょっと待っ――」

「待つかよ! テロリスト何だろ? ……何が理由で白式狙ったかは知らないが、単独で来たのが間違いって奴だ!」

「ガフッ!? ゲホッゲホッ……!」


 腹部に拳がめり込むと、苦しそうに咳き込むオータム――と。


「ひ、ヒルト!? 幾らなんでもやりすぎだろ!?」

「……一夏、何を甘いこと言ってる? ……自分から悪の組織何て名乗りながら人を殺してるんだぞ、この組織は。 ……こいつだって、その手で誰かを殺してるかもしれないんだ。 ……女だからとか、そんな考えは捨てろ。 ……油断すれば、【大事なもの】が失うぞッ!?」


 現実が見えてない訳ではないのだろう……だが、敵に情けを掛ければいつか自分に跳ね返る。


「ゲホッゲホッ……ハハッ、仲間割れか?」


 不敵な笑みを浮かべるオータム――。

 腹部を押さえてる辺り、生身に相当なダメージを与えたのだろう――もちろん、罪悪感何てわかない。

 敵意を示す相手に情け何かかけるつもりもない。

 そう思っていると、何かを思い付いたのかオータムは口を開いた。


「……へっ、せっかくだからそっちの織斑一夏に教えてやんよ。 ……第二回モンド・グロッソ。 覚えてるよなぁもちろん?」

「……ッ!?」


 一夏の表情が変わる――当時、誘拐された時の事が脳裏にフラッシュバックされたのだろう。

 奥歯を噛み締める様に口を一文字に結び、オータムを睨み付けた一夏――それを見たオータムは、更に言葉を続ける。


「あの時、お前を拉致したのはうちの組織なんだぜ? まさに感動の御対面ってやつだなぁ、ハハハハ!」

「――!!」


 ……こいつの狙いは何なんだ?

 突然一夏に対して当時のことを持ち出すのは……。

 だが、その答えは直ぐにわかった――こいつの狙いは一夏を挑発することだ。


「……そうか、そうかよ。 ……お前らが俺を――だったら、あの時の借りを返してやらぁ!!」

「一夏! 挑発に乗るな!? ……チィッ! このままさせるかよ……!!」


 怒りに身を任せ、真っ正面からオータムに突っ込む一夏を見、天狼を粒子形成させつつ縦に振るう。

 縦ならロッカーに引っ掛かる事もない――だが、この攻撃が当たる直前、押さえていた腹部の手から何かが転がる――これは……フラッシュ・バン!


『ムラクモ! 対閃光防御だ!』

『わかっ――』


 ムラクモとのやり取りの途中、強烈な閃光が視界を包む。


「ッ!!」


 一瞬意識が飛びそうになるも、何とかギリギリの所で踏み留まる。


「クッ……! なんだ!? 目が……!!」


 一夏のそんな声が聞こえる――耳鳴りがする中、オータムは――。


「やっぱりガキだなぁ……こんな挑発に乗って真っ正面から突っ込む何てよぉ! ……お前もだ有坂! 敵を目の前にして好き放題に喋らせるんだからな! ハハハハ!!」

「チィッ……!」


 舌打ちをしても遅い――俺の判断の甘さが招いた結果だ。

 まだ視界が戻らず、ふらつき、ロッカーに手を当て凭れると少し視界が戻ってきた。

 何をしてるかはまだ鮮明には見えないが、一夏に何かをしようとしてるのが見え、そして――何かを一夏に投げつけた。


「くっ! 動けねぇ……! このっ――!!」

「一夏!」


 視界が少し戻りはしたが、まだぐらぐらと視界が回るような感覚に襲われ、まともに相手を捉えることが出来ない。


「ハハハ! 少々もたついたが楽勝だぜ、まったくよぉ! ……有坂、そこで大人しくしてな! 直ぐに終わらせるからよぉ!!」

「クッ……!」


 完全に視界が戻ると、俺の目に映った光景は何かのエネルギー糸でがんじがらめに動きを止められた一夏と、手に謎の機械を持ったオータムがその機械を一夏の胸部装甲に取り付けていた。


「ハハ! 視界は戻っても平衡感覚はねぇだろ有坂? ……至近距離での威力が絶大な特殊なフラッシュ・バンだからなぁ!! もちろん、私は対閃光防御したがなぁ? ギャハハ!」

「ッ……!」


 普通のフラッシュ・バンとは違う、特殊なタイプだったのか、はたまた試作品なのかはわからないが――厄介な事に、まるで脳みそを常に揺らされてる感覚でまともに歩けない。

 この状態で飛翔しても、壁に激突する未来しか見えない――だが、何もしない訳には……!


「ほぉ……? 大した精神力だな……だが、もう遅いぜ! 織斑一夏、お別れの挨拶はすんだか? ギャハハ!」


 まるで勝ち誇ったかの様に笑うオータムに、一夏は睨み付けながら――。


「なんのだよ……?」


 そう短く言葉を口にする。

 俺は俺で何とか近付こうとするが、平衡感覚が全く戻らず、またもロッカーに凭れかかる始末――。

 そんな俺を満足そうに一瞥し、一夏の問いに――。


「決まってんだろうが、てめーのISとだよ!」


 その言葉に、俺は思わず目を見開く――それと同時にムラクモから――。


『ヒルト! あれは《剥離剤(リムーバー)》って呼ばれる装置よ! ISを強制的に持ち主から解除するっていう使用厳禁の!』

「何だと!?」


 思わず言葉を口にする――次の瞬間、一夏に取り付けられた装置から青白い光を放ったかと思えば――。


「がああああっ!!」

「一夏ッ!?」


 一夏の悲痛な叫びが響き渡る――。

 青白い電流が見え、それが収まると同時に一夏の身体からは白式が解除されていた。


「さて、これで白式奪還の任務は完了だな。 最初からこうすれば良かったぜ、ハハ!」


 装置のロックとエネルギー糸が解除され、膝をつく形で倒れ込む一夏――俺の方も、やっと平衡感覚が戻ってきた。

 軽く頭を振り、視線を定める――オータムが手にする菱形立体のクリスタル。

 直接見るのは初めてだが、あれが第二形態移行したコアだというのは専門書に記載されていたのは知ってる。

 第一形態時のコアは、球型コアが一般的――というか、俺自身それ以外見たことがない。

 一瞬オータムが一歩前に足を出した次の瞬間、俺はオータムの手に持つコア目掛けて手を伸ばす――だが。


「動くな! へっへっ、動けばこいつを殺すぜ?」

「……チィッ!」

「……!?」


 そう言ったオータムの空いた右手にはマシンガンが形成されていて、その銃口が一夏のこめかみ部分に押し当てられていた。

 流石の一夏も、この状況では目を見開き、驚きを隠せずにいた。


「ざまあねぇなぁ……! お前も、さっさと逃げてれば人質にされなくて済んだのにさ!」

「くっ……! 敵に背を向ける何て……俺には出来ねぇからな!」

「ハハハ! そのお陰で私もこうやって任務が遂行出来たって訳だなぁ? ……感謝するぜ、お前の馬鹿な考え方によぉッ!?」


 悔しそうに唇を一文字に結び、睨み付ける一夏――それを見ながらオータムの高笑いが更衣室に響き渡る。


「……せっかくだ。 お前の機体も渡して貰おうかな、有坂?」

「ッ……!」

「おっと? ……断れば、こいつの命は無いぜ?」


 引き金に指を当て、それに力を込めようとするオータム。

 ……一夏を見殺しにするわけにはいかない、こうなったのも、途中の俺の判断ミスが原因だ……。


「……わかった。 機体は渡すから一夏には何もするな」

「は? てめぇ……立場がわかってねぇのか? 『お願いします、オータム様』だろ! 殺すぞ!!」

「……ッ!!」


 下手に刺激をすれば、本当に引き金を引きかねないこの状況――。


「……い、一夏には手を出さないでください……! お、お願いします……オータム……様……ッ!!」

「ん~? ……まだ反抗的な様だなぁ……? この銃の引き金は軽いからなぁ……うっかり殺すかもな、ギャハハ!!」


 愉しそうに笑うオータムの笑い声が更衣室に響き渡る中、懐から何かを取り出すとそれを俺に投げ付けてきた。


「その装置、自分で胸部装甲に取り付けろ」


 ……この装置は、さっき一夏に取り付けられた物と同一の物だった――。


『……ムラクモ、すまない』


 ムラクモに一言謝る――今の俺にはそれしか言えなかった。


『……ううん。 ――助けに、来てよね、いつか……。 私のマスターは、ヒルトしか居ないんだから……』


 そんな寂しそうな声が聞こえ、俺は奥歯を噛みしめながら装置を取り付ける。


『……ヒルト、忘れないで? ……願えば、私はいつでも側に――』


 そんな言葉の途中、取り付けられた装置から電流が放たれた。

 全身を駆け抜ける様に襲う激痛――だが、この程度で俺は根をあげるつもりはない。


「…………グッ……!」

「ほぉ? なかなか我慢強いじゃねぇか。 こいつでさえ叫び声をあげたのに、それを我慢するたぁ大した奴だぜ」


 感心したかの様に呟くオータム――刹那、目映い閃光が更衣室一帯を包み込み――。


「キャアッ!!」


 そんな女の子の様な声が耳に聞こえたと同時に、全身を駆け抜けていた電流が収まった――。

 流石に立っていられなく、ガクッと膝から崩れ落ちる。


「……!? てめぇ!? 何処から入って来やがった!?」

「あ、あれ……? わ、私……」


 そんな声が聞こえ、俺は顔を上げる。


「……!?」


 そんな俺の目の前には、女の子が居た――。

 しかも、見覚えのある女の子だった――。 
 

 
後書き
女の子Σ(゜∀゜ノ)ノ
 
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