IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第324話】
人質に取ったムラクモがISを纏うと、オータムの表情が変わった――。
「て、てめぇがあいつのコアを隠し持ってやがったのか!?」
振り下ろされたカタールが止まることなく、村雲の胸部装甲に切っ先が触れ、鈍い音と共にその刃が折れ、床へと落ちていく。
「……隠す? それはちょっと違うわよ、おばさん!!」
腹部に肘鉄を入れるムラクモ――その衝撃に、表情を歪ませ、苦痛の声を上げた。
「ゲホッ……!? ぜ、絶対防御を突破しやがった……!?」
慌ててムラクモを解放し、距離を取る――だが。
「ハアァァアッ!」
「ッ……!?」
脚部ランドホイールを起動させ、オータムに後退しながらまたも肘鉄――加速力のついたその一撃に、膝から崩れ落ちた。
「ガホッ! ゲホッゲホッ!! ……チィッ! エネルギーが残り少ねぇのかよ……! ――あぐっ!?」
一人ごちるオータムに対し、その場の体勢から逆サマーソルトによる一撃が顎にクリーンヒット――それも、ランドホイールを起動しながらだから、威力と衝撃は凄まじい物だった。
「……ヒルトくん。 何で彼女が貴方のISを使ってるのかしら? ……それも、まるで自分の手足の様に」
「……後で説明しますよ。 今はまだ……」
「うふふ。 ……おねーさんに秘密だなんて、いけない子ねぇ♪」
ちょっとだけおどけて見せた楯無さんは、周囲が水浸しになった水を操作すると、それは少しずつ蒸発し、うっすらと更衣室を霧で包み込んでいた。
その間も、ムラクモの攻めが続いている。
「ちょ、ちょっと待て! タイ――」
「言ったでしょ! 貴女は許さないって! ヒルトにあんな事した上に、死んだ人をまるで冒涜するように!」
あまりの苛烈な攻撃に、オータムは待ったをかけるが聞く耳も持たずに攻撃を行うムラクモ。
一撃一撃の衝撃に、徐々に装甲が砕け、破片が金属音を鳴らしながら落ちていく。
流石のオータムも、徐々に焦りの色が見え始めた。
――ムラクモ自身がISを展開出来るのは、彼女自身、村雲・弐式の装甲が俺達でいう服と同じような物だからだろう。
……もちろん、俺は専門家じゃないからわからないが――。
「ぐあッ!? ――調子にのってんじゃねぇぞクソガキがぁッ!!」
装甲脚を交えた連続攻撃も、軽く受け流しつつ的確に生身へと一撃を叩き込むムラクモ――。
「……経験値が貯まる……!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!? オラァッ!!」
苛立ちを隠さず、ひたすら攻撃を続けるが――次の瞬間、腹部に突き刺さる様な鋭い蹴りの一撃に、ロッカーへと叩き付けられたオータム。
その衝撃でロッカーごと後ろに倒れ込む――ムラクモは、天狼を呼び出し。
「……覚悟は出来てる? ――少なくとも、貴女はヒルトを傷つけた……だから、聞かせてもらうわ――貴女の、心からの悲鳴をね」
「ひっ……!?」
天狼の切っ先が砕けた装甲の隙間から覗き出る生身部分へと向けられ、絶対防御が発動するギリギリの所で止めた。
小さく悲鳴を上げるオータム……すると――。
「や、やめてくれ! た、頼むから!」
「…………?」
「も、もうお前たちに刃向かうつもりはこれっぽっちもねぇ! た、頼むから……その刃を引っ込めてくれよ!」
……あろうことか、まるで命乞いをするかのような態度をとるオータムに、ムラクモは一瞬困惑した。
「あら? ……テロリストともあろう人が、まるで命乞いだなんて……。 誇りはないのかしら?」
「へ、へへ、へへへへ。 な、何なら組織の概要も言ってやるから」
その姿は情けなく見える――先程まで、いきがっていたのが嘘の様に思えた。
「……お前、都合が良いとは思わないのか? お前がこれまで奪った人達も、こんな感じで命乞いをしたと思うんだが」
そんな俺の指摘も、オータム自身の自分本意な言い分を続けていく。
「へへ、へへ、ま、魔が差したってやつだよ。 さっきのだって、私は上から言われてヤっただけで、本心じゃ嫌々だったんだぜ? へへ」
「――黙れ」
「う、恨むなら組織の上の人間だろ? わ、私なんか恨んでも――」
「黙れと言っている!」
あまりの自分勝手な言い分に、俺の怒声が響き渡る。
「ひっ、ひぃ……!?」
情けない声を出すオータム――ブラフかもしれない、油断は禁物だろう。
「そんな自分勝手な言い分、俺達には通用しないしさっきまでやっていた自分の行いは自分自身の責任だろ!? ……大人しく捕まって、絞首台にいけ。 それがお前の運命だ」
「い、嫌だ!? な、何で絞首台なんだよ!? ち、ちょっと魔が差してISを奪おうとしただけじゃないか!?」
……段々と苛々させるその態度に、哀れとすら感じさせた。
「……天狼の切っ先、放してやれ」
「……いいの、ヒルト?」
「……こんな奴、斬る価値も無いだろ? それに……洗いざらい吐いてもらわないといけないしな」
そう言うと、天狼が粒子化し、虚空へと消えていく。
――と、その時。
「へへ……馬鹿が! 死ねッ!!」
そう叫ぶと同時にもう一本のカタールを抜き、俺に強襲してくるオータム。
さっきムラクモが言ってた……望めば、ムラクモはいつでも側にいる――と。
「……展開ッ!!」
理屈はわからないが――村雲が俺に応えてくれる。
そう思い、俺はいつもの様にISを展開する。
ムラクモが纏っていた弐式が光の粒子となって四散――直ぐ様俺の身に纏うように村雲・弐式を纏う。
「なっ!?」
目の前で起きた現象を信じられないといった表情で見るオータム――カタールの刃を掴み、村雲のパワーだけで握り潰すとその刃は粉々の金属片へと変わり果てた。
「ば、馬鹿な!? ……ど、どうなってやが――あぐっ!?」
拳がオータムの顔面を捉え、覆っていた頭部装甲が砕け散る。
「……大人しく捕まってれば良かったものの。 ……余計な怒りを買ったようだな、おばさん?」
「ひ、ひぃっ……!? ち、ちょっとした冗談じゃねぇか!? ほ、本気にするなよ……へへ」
……心底救い様のない馬鹿の様だ。
怒りを通り越し、哀れにしか思えない。
「……悪いが、冗談は通じないんだ。 ……お前みたいなゲスな奴、正直殴る価値もないがこのまま野放しにするわけにもいかないからな!」
「……チィッ!」
軽く舌打ちをするオータム――屈んで跳躍する体勢になったその瞬間、指を鳴らす音と共に爆発がオータムを包み込む。
「ガハッ!? ……ッ! 何だ!? 何しやがった!?」
「うふっ♪ ちょっとした水蒸気爆発みたいなものよ♪ まあわざわざ能力を言うつもりも無いし、このままエネルギー切れるまで爆発させても悪くはないんだけど……うふふ♪」
更衣室を覆っていた霧が少しだがはれていく――詳しい能力はわからないが、限定空間内での能力だろう。
「ヒルトくん。 このままあのおばさんをボコボコにしなさいな♪ 少しなら、おねーさん見逃すから♪」
「……そうですね。 殴る価値は無くても、色々後悔させる必要はありますから。 ――特に、母さんを悲しませる様な事をしたんだし……な!」
「ぐぇっ!!」
深々とみぞおちに蹴りを入れると、またもロッカーに叩き付けられたオータム――と、ハイパーセンサーに突如表示された項目が現れた。
「ヒルト! 経験値が貯まったよ!! 村雲の力――解放して!!」
ムラクモの声に従うまま、パネルをタッチする――新たに出た項目は――【形態変更(フォルム・チェンジ)】。
「……フォルム・チェンジ!」
俺の言葉に反応する様に、村雲・弐式は光に包まれる。
辺り一帯目映い光が包み、一気に収束すると機体の形状が変化していた。
【草薙】――表示されていた名称だ。
項目欄説明によると、強化外骨格【クサナギ】を纏った時に特殊なフラグメント・マップを構築した結果と出ているが――見た目はクサナギではなく、軽量化された格闘専用の特殊形態の様に思えた。
……もしかすると、最近よく格闘戦を行っていたからだろうか。
「……っ、姿が変わっただと……!? な、何とか脱出しねぇと……!」
オータムが立ち上がり、逃げようとするのが映る――。
「逃がすかよッ!!」
「何!? あぐっ……!?」
反対側のスライドドアへと逃げようとするオータムよりも速く回り込み、再度顔面に拳の一撃。
俺の反対側は、楯無さんと一夏が居るため、そっちは任せても大丈夫だろう。
「くそッ! こんな所で捕まるわけにはいかねぇんだよっ!!」
残った装甲脚による連携攻撃も、スピードの上がった村雲を捉えることが出来ない。
……過敏な反応だが、どうやら一夏の見本でシューター・フローを何百回と行った成果が出てるのがわかる。
これが一月前の俺なら、この速さに振り回され、まともに扱いきれなかった筈だろうし。
冷静に考え事をしつつ、天狼を呼び出そうとするもエラーの表示が出て一向に呼び出せない。
……もしかすると、本当に格闘専用なのかもしれない。
内臓武器項目欄にも、何やら【シャイニング・コア】といった表示しかされていなく、それも説明を見る限り音声入力が必要だとか――。
「迷っても仕方ない! ……シャイニング……コアァァァアアアッ!!!」
手のひらをオータムへと翳す――刹那、目映い光を放つと共に粒子の散弾がオータムへと襲いかかった。
粒子圧縮量の凄まじさからか、アラクネの装甲が破壊されていき、周囲一帯が金属片だらけになっていった。
「ぐあぁぁあああっ!?」
この攻撃でエネルギーが底を尽いたのか、紫電を放ちつつ機能が停止した。
放たれた粒子散弾の一部が壁を破壊したのか、向こう側の通路が目に映った。
「ち、ちくしょぅ……! こ、ここまで破壊されちゃあ自爆出来ねぇ……! せめて、コアだけでも……!」
ぶつぶつと小さく呟き、アラクネ内部から何かを抜き取るオータム――その手に持ったのがコアだとわかった瞬間、俺は直ぐ様そのコアを持った手を蹴りあげる。
「グアッ!? し、しまった!?」
空を舞うコアに手を伸ばすオータムだが、速さで俺に勝つことが出来ず――俺はコアを両手で抱えて着地した。
「……悪いな。 盗んだコアはこの通り」
「クッ……クソッ! に、逃げるが勝ちって事かよ!!」
そう言って懐から何かを取り出す仕草をするオータム。
「一夏! そいつを捕らえてくれッ!」
「わ、わかった!」
本来なら俺がやりたいところだが、コアを奪取した所で村雲のエネルギーが残り少ない事に気付いた。
一夏の白式なら、まだ残り200程エネルギーがある筈だから苦なく捕らえれる――そう思ったのだが。
「ヘッ! 遅ぇよ!」
懐から取り出すと同時にピンを抜くオータム――それが転がると、目映い閃光が更衣室を覆った。
「チィッ! まだ閃光手榴弾持ってやがったか……!」
全員の対閃光防御が間に合わず、みすみす逃す形になってしまった――だが。
「ヒルトくん、落ち込まなくて良いわよ? 外には他の専用機持ちどころか、上級生も含めて辺り一帯を警戒してるから。 ――それよりも、お手柄じゃない♪ まさかコアを奪取するなんて!」
信じられないといった感じで言うものの、何処と無く嬉しそうな表情を見せた楯無さん。
――一夏は、もろに対閃光防御が出来なく、至近距離だったためかふらふらしながらロッカーに凭れかかっていた。
……まあ仕方ないだろう、あの距離で対閃光防御が間に合わないのは。
「……楯無さん、俺はこのままあいつを追撃します。 だから彼女を有坂先生――母さんの元に送ってほしいのですが。 ……このISと共に」
そう言って解除すると、光の粒子はムラクモの周囲を漂い、身体の中へと消えていった。
「……わかったわ。 ちゃんと後で説明してね、ヒルトくん?」
「……はい。 ですが、この事は外部に洩らさないようにお願いします」
「大丈夫よ? お姉さん、口は堅い方だから♪」
楽しげにそう言うと、楯無さんもISを解除した――と。
「……ヒルト」
不安げな表情を浮かべたムラクモが俺を見上げる形で見つめてきた。
「……安心しな。 楯無さんならちゃんと任せられるし」
「……わかっ……た」
不安な気持ちでいっぱい何だろう――だけど、このままあいつを放っておくわけにもいかない。
「コアはお前が預かっててくれ」
「……うん。 ――あ、ヒルト? ――『助けてくれてありがとう』って言ってるよ……」
「……あぁ!」
そう短く返事をすると、俺は壁に空いた穴から通路へと出ていく――と、後ろから楯無さんの声が聞こえてきた。
「ヒルトくーん! 第四アリーナ正面入口に展示用の『打鉄』があるからそれを使いなさい! ――無理は禁物よーっ!」
その言葉を聞き、手を振り替えして俺は第四アリーナ正面入口へと向かった。
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