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神様が親切すぎて夜に眠れない

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二話『愛川玄人という男』

 
前書き
一部オリジナル設定あります。 

 
愛川玄人という男を一言で表すなら、『ゲームオタリーマン』である。

彼の生きていた時代、環境汚染が進み、『美しい自然』というものが幻と化していた。

そんな時代に生まれた少年だった彼。

単純に外で遊ぶには、大気が汚染されすぎており、汚染されていない『遊び場』は高額過ぎる。

けれども、別に子供期特有の強い欲望、つまりは『遊びたいという欲望』が無くなる訳ではなく、もて余す体と心。

そんな選択肢の狭まった中で、当然の如く彼は、数少ない選択肢から『ゲーム』を選んだ。

一つ幸運であったのは、日本におけるゲームという分野が他国に比べてかなり『発達』していたことか。

夏休みには(バーチャルの森で)虫取りにいそしみ、冬休みには体感ゲームでスノボーを楽しむなど、彼は不自由な世界で、可能な限りの自由を謳歌していた。

成績さえ良ければ、基本その事に口出ししない両親にも助けられ、高校に入る頃には、彼は自然とゲーム会社で働く事を夢見ていた。

ただ、ここで少し問題が発生する。

共働きしているとはいえ、両親の稼いだお金は、あくまで一般的な中流階級を維持するもので…………

ディストピア化した世界で、一部の金持ちしか入れなくなった大学に入るお金には、ちと足りなかったのである。

しかし、玄人は、その事を両親から涙ながらに告げられても、全く気にしなかった。

中卒で働く事が一般的になっていた時代。

自分だけ苦労せず大学に入れるとは、彼は欠片も思っていなかったからである。

結論として彼は、小さなゲーム会社に籍を置きながら、夜学で大学を卒業し、そのまま会社に勤務し続ける事となる。

(それがこんな姿になって、好きなゲームの中にダイブとはね。人生分からないもんだ)

「すぅ…………すぅ…………」

五回戦を過ぎ、疲れて自身の腕枕で寝息を立てるクレマンティーヌの美しい金髪を弄りながら、玄人はひとり心の中で呟いた。

そしてクレマンティーヌから左に視線を外した所にある、鏡のような金属の塊で、自らの顔を確認する。

(そりゃあ、かっこいいに越した事はねーけどさ)

自分が女性用ゲームの攻略キャラに設定した顔で転生させられると、かなり『くる』ものがある。

なぜこんな事になったのか。

ユグドラシル。

ゲームに興味の無い人間も、名前は知っているという大手VMMO(スゴいばっさり言うと、全身でゲームを体感できるタイプのゲーム)のRPGで、ゲーム業界では知らぬものの居ない大型のゲーム。

18禁ゲームとはいえ、一応ゲーム関連の中小企業で勤務していた愛川は、勿論やりたいので申請を出した。

だが、この何気ない行動が、奇妙な立場を彼に与える。

(いや…………俺のユグドラシルの立場はこの際別によい)

問題は、何故俺はサービス終了日が決まったはずのユグドラシルに、『リアル』で来ているのか。

問題はここである。

正直、この姿は過労と睡眠不足で気絶する前に微調整していたモデリングなので、神様が気を利かせて『お気にいり』の姿に転生させてくれました、で済む。

(でも、なんで俺がユグドラシルに…………?)

先程、ユグドラシルを『好き』と言ったが、勿論玄人のような中小企業社員が、大手VMMOのゲーム作成に、メインとして関わった事実は無い。

あるとしたら精々、『アカウント申請』した際に正直に職業を書いたせいで、行った『末端売り子』くらいか。

変な疑いを…………つまりは他企業に対するスパイ行為をしてると思われないように、上長に許可を得た上で、運営にアカウント申請を行う際に自身の来歴を正直に書いた俺。

(まあ…………無理ならはねられるだろ)と、多少後ろ向きに考えていた俺の元には、アカウント登録完了メールと、もう一通のメールが。

開封したメールには、簡潔に言うと、御社の管理している全身モデリングを、ユグドラシル内で販売してみませんか?という内容が書かれていた。

結果、彼はユグドラシルで、一風変わった職業に就くことになる。

プレイヤー兼、全身モデリング販売者。

簡単に言えば、自社で作ったキャラクターのスキン(顔や衣服の立体写真のようなもの。パーツ別販売も可能)を売る事を許された、一風変わったプレイヤーとなったのだ。

(でもそれもオンリーワンでは無いからなあ)

膨大なフィールドとNPC、、職業スキル、種族スキル。
同様に無数にある魔法や技、アイテムに至るまで管理しているユグドラシルが、特にステータスに影響を与えないデザイン系統の一部を外注で済ませることは、非常に面倒くさい『商用に他社のキャラの類似品を売り無駄な裁判に発展する』ことを防ぐために有用な手だ。

(実際、スキップしながら言ったら、他社も沢山いたし)

そのため、『立場』が特別だから転生しました。も無し。

「なんかモヤモヤするなあ…………」

答えが出ない疑問ほど、心がやきもきする物はない。

無意識に呟いていたその言葉に、寝ていたはずのクレマンティーヌが瞼を開いた。

「ううん…………玄人ぉ、ねよーよ。明日は『アレ』を運ばなきゃいけないんだからさあ…………」

胸板に、豊満な乳房を押し付けながら、言うクレマンティーヌの暖かさに、玄人は思った。

(こんな良い思い出来たし、考えるの止めた!ありがとよ神様!)

そう胸中で礼を言うと、玄人はクレマンティーヌを抱き枕代わりに、寝ることにした。

解体し、纏めた『ソレ』の隣で。 
 

 
後書き
愛川玄人作成のゲームキャラ
『真理誠凛丸(まことせいりんまる)』
→玄人の会社が女性向けに作ったゲーム、『ええ!?私みたいな地味子にイケメンが夢中?』のキャラ。
前話で書いたように武芸十八般の高校生で、家は道場。学園四天王の一人と、突っこみ処がありすぎて突っこみきれない謎設定の多さと、幼少期の親の教育で他人に暴力的(但し地味子を除く)というぶっ飛んだ性格設定のせいで、『クラスの口答えした人間を殴っている描写があるのに、何故か解説者キャラには学園有数の人気者と言われる』『道場での稽古で、某テニヌのように後輩や先輩を道場の壁に叩きつけておいて、部活の皆には比較的優しいと言われている』という描写が頻発したキャラクター。
だが真に恐ろしいのは、女性向け雑誌の中堅漫画家に書かせたこの謎ストーリーゲーム。開発費回収どころか次回作分まで稼いでしまったこと。
そのため一部のコアなファンとスタッフの間では、『こいつ真面目でも誠実でもないから、鬼畜外道丸でよくない?』『いたいけな女の子に道を誤らせて、安くないゲーム代を払わせるとか流石鬼畜外道丸』と極めてニッチな人気を誇り、上記ニックネームで呼ばれている。
 
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