副部隊長と戦技教導官の色ボケな日々
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<2:if編>
ティアナの場合 CASE-1
それは、ある冬の日の出来事だった。
ティアナはたまの休暇をクラナガン中心部の繁華街で
ウィンドウショッピングをして過ごしていた。
この日は一際寒い一日で風も強く、ティアナの着込んでいる白いコートのすそは
ひらひらとはためいていた。
(ったく、なんで一人寂しくウィンドウショッピングなんかしなきゃいけないのよ。
はぁ・・・・・)
彼女は自分の置かれた境遇に対して心の中で悪態をつきつつ、通りに面した店の
ショーウィンドウに目をやりつつ
歩道に積もった雪をヒールのつま先で蹴飛ばしながら闊歩する。
(まったく。 ついてないわよね、あたしもスバルも)
実のところ、彼女は最初から独りで休暇を過ごす予定ではなかった。
当初は親友であるスバルとランチを食べ、夕方までいろいろと遊び歩く
予定にしていた。
ところが、クラナガンには珍しい大雪のせいで交通事故が多発し、
救助隊に所属するスバルはランチを終えたあとに
呼び出しを受けてしまったのである。
かくして取り残される形になったティアナではあるが、さりとてすぐに
帰る気にもなれず独りで街を闊歩することに決めた。
(やっぱり、一人で出歩いてもつまんないわね)
夕方が近くなり、気温が下がってくるにしたがってティアナの気分も
降下してきていた。
(もういいや。さっさと帰ろう・・・)
最寄の駅に向かうべく踵を返そうとしたティアナであったが、雪の積もった路面と
ヒールの間の摩擦力はその動きを支えるには些か不足していた。
即ちティアナのヒールは路面の上を滑り、ティアナはバランスを崩してしまう。
(うそっ!)
一度崩れてしまったバランスを立て直すには、雪が積もった歩道もティアナが
ヒールを履いていたのも悪条件すぎた。
すぐにティアナの身体は後ろに向かって倒れていき、ティアナは転倒の衝撃を
覚悟した。
(あれ?)
ところが一向に衝撃が襲ってくることはなく、不思議に思ったティアナは
自分の身体が誰かに支えられていることに気がついた。
「大丈夫ですか?」
後から男の声が聞こえてきて、ティアナは自分の足で立つと後を振り返った。
「すいません、ありがとうございます・・・ってゲオルグさんじゃないですか!?」
「ティアナだったのか。 全然わからなかったぞ」
機動6課時代には彼女の上司であったゲオルグがびっくりした様子で
ティアナを見ていた。
「だめだぞ、雪道はすべりやすいんだから気をつけないと」
「はい・・・すいません」
ゲオルグの説教めいた言葉にティアナはシュンとして肩を落とす。
そんなティアナの様子を見かねたゲオルグは、殊更明るい声でティアナに
話しかけた。
「ところで、どうしてティアナは独りでこんなところを歩いてるんだ?
しかもこんな天気の日に」
「実は・・・」
そういってティアナは自分がここにいる経緯を説明し始めた。
ティアナの話を聞き終えたゲオルグは苦笑しながらティアナの肩に手を置いた。
「ついてないな、お前」
「ほっといてくださいよ!」
ゲオルグの言い方が癇に障ったティアナは、恨めしそうな目でゲオルグを
見ながら声を荒げる。
「悪かったよ。 できればお詫びをしたいんだが、何か望みはあるか?」
ゲオルグにそう尋ねられ、ティアナはしばし考え込む。
そして何をねだるかを決めると、ゲオルグの顔を見上げてその目をまっすぐに見た。
「じゃあ、ディナーをおごってください。 とびきり美味しいのを」
微笑を浮かべるゲオルグにティアナがそう言うと、ゲオルグは少し困ったような
表情を浮かべる。
「ディナーか・・・・・」
「ダメ・・・ですか?」
上目遣いでゲオルグの顔を見上げながらおずおずとティアナが尋ねると、
ゲオルグは降参というように小さく両手を挙げた。
「わかったよ。 俺の知ってる店でよければ」
「本当ですか? ありがとうございます」
ティアナは満面の笑みを浮かべてぺこっと頭を下げた。
その様子を見ていたゲオルグの顔には苦笑が浮かんでいた。
「はいはい。 じゃあ店に連絡を取るからちょっと待ってくれな」
ゲオルグはそう言うと懐から通信端末を取り出し、ティアナから少し離れた場所で
ティアナに背を向けて電話を掛け始めた。
その背中を見るティアナの顔は、ほんのりと赤く染まっていた。
(ゲオルグさんとディナーかぁ・・・・・ふふっ)
ティアナは高揚する自分の気持ちを抑えつけるように胸の辺りに手を当てた。
(うわっ、ドキドキしてる・・・・・。 そりゃそうよね。 好きな人と
2人きりでディナーなんて、デートみたいだもの)
そうこうしているうちに店への連絡を終えたゲオルグが振り返って
ティアナのもとへと戻ってくる。
その顔には笑みが浮かんでいて、親指をグッと立てた右手をティアナのほうに
突き出していた。
その笑みを見たティアナは自分もゲオルグに向かって微笑みながら、
高鳴りを増す自分の胸に不安すら覚えていた。
(今かなりドキッとしちゃった・・・。大丈夫かしら・・・・・)
そしてティアナのそばまで戻ってきたゲオルグは、にこやかな表情を崩すことなく
ティアナに話しかける。
「店はとれたから、少し早いけど行くか?」
「そうですね。 お店はどのあたりなんですか?」
「ここから歩いて20分くらいのとこだけど、タクシーで行くか。
また足を滑らせてさっきみたいになるのもイヤだろ?」
ゲオルグに尋ねられたティアナは、少し考えた後で首を横に振った。
「よかったら歩きませんか? それに私が足を滑らせても、またゲオルグさんが
助けてくれますよね?」
「そりゃもちろん助けるけど、いいのか?」
再びゲオルグに尋ねられ、今度は首を縦に振る。
「じゃあ歩きますか」
そう言ってゲオルグは歩道をゆっくりとした歩調で歩き始める。
ティアナはゲオルグの隣を歩きながらゲオルグの顔を見上げた。
穏やかな目でまっすぐ前を見つめるゲオルグの横顔。
本来は白い肌を持つゲオルグであるが、寒さゆえか頬が赤く染まっていた。
(うぅっ・・・幸せ。 スバルには悪いけど雪に感謝ね)
そのとき、ティアナの視線に気がついたゲオルグがティアナのほうに目を向ける。
「どうした?」
急に目が合ってびっくりしたティアナの頬がとたんに朱に染まる。
「えっ!? な、なんでもないです・・・・・」
そう言って慌てて前を向くティアナ。
その様子を不審に思ったゲオルグは正面に回りこんで、ティアナの顔を
じっと覗き込む。
「お前、顔赤いぞ。 大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですって!」
そう言って目線をそらすティアナ。
するとゲオルグはつけていた手袋を外してティアナの頬に片手を添えて
顔を近づける。
(ええっ!?)
驚いたティアナは思わず眼をつぶった。
次の瞬間、ゲオルグの手がティアナの額に触れる。
恐る恐る目を開いたティアナの目の前にゲオルグの顔があった。
「熱はないみたいだな・・・・・」
真剣な顔をして言うゲオルグの顔を間近で見ることになり、
ティアナは身を固くしていた。
(顔近いですって!)
想い人の顔を間近で見せられることで、胸の鼓動が早くなる。
耐え切れなくなったティアナはゲオルグの肩に手を置くと、
ぐっと突っ張るようにして距離をとった。
「だから大丈夫って言ってるじゃないですか!
顔が赤いのは寒いせいですよ、きっと!」
慌てて言ったためにティアナの言葉は少し怒気を含んでるような響きもあった。
「・・・ならいいけど」
ゲオルグもそうとったようで、肩をすくめて再び歩き出した。
ゲオルグの隣を歩きつつ、ティアナは少し肩を落として内心でため息をつく。
(はぁ・・・。 せっかくゲオルグさんが心配してくれたのに、
さっきの態度はないわよね。
なんでアタシっていっつもこうなのかしら・・・・・)
無言のまま雪道を歩く2人。
さすがに重い空気に耐え切れなくなったティアナは、その空気を打破しようと
ゲオルグに話しかける。
「ところで、ゲオルグさんはなんでこんなところに一人でいたんですか?」
「ん? ああ、晩飯でも食おうかと思ってね」
「え? 夕飯ですか? 家で食べてるんじゃないんですか?」
以前シュミット邸を訪ねたときになのはの手料理をご馳走になったことのある
ティアナはゲオルグの言葉を意外に思って尋ねる。
すると、ゲオルグを苦笑を浮かべてティアナに顔を向けた。
「なのはが子供たちを連れて実家に帰っててね。 一人分の飯を作るのも面倒だし
侘しいから外で食べようと思ったんだよ」
「でも、だったらなんでこんなところまで?」
シュミット邸からここまでは近いとはいえない距離にある。
車でも電車でも約30ほどで、遠いとはいえないまでもちょっと食事を摂るのに
出かけるには近いとはいえない距離である。
それを知るティアナが尋ねるとゲオルグは肩をすくめた。
「最初は近場で済ませようとは思ってたんだよ。 けどな、せっかく外出するなら
美味いものを食べたいだろ」
「それでここまで来たんですか?」
ティアナが呆れたような目を向けるとゲオルグは苦笑して頷いた。
「なんか、贅沢ですね」
「かもな。 でもそのおかげでティアナと会えて、一人寂しく晩飯を食べるのを
回避できたんだからハッピーだよ」
「なら私はそのおかげでゲオルグさんにおごってもらえるんですから、
感謝しないといけませんね」
「雪道でしりもちをつくのも回避できたしな」
ニヤッと笑いながらゲオルグが言うと、ティアナはムッとした表情になった。
「もう、茶化さないでくださいよ!!」
そう言って頬を膨らませるティアナの頭をゲオルグは笑いながらぽんと
軽くたたいた。
それから20分ほど歩いたところでゲオルグの足が止まった。
そこには石造りの外装をした、伝統的なベルカ様式の建物が建っていた。
ニスの光沢で鈍く光る木製の扉には、落ち着いた雰囲気とは裏腹に凝った装飾が
施されていた。
その脇には店名を示す木製の看板が控えめに軒から下げられている。
ゲオルグは扉を引いて開けると、ティアナのほうを振り返る。
「どうぞ、お嬢様」
芝居がかった口調で言うゲオルグにティアナは苦笑する。
「ありがとうございます」
店内に入るとティアナはその雰囲気に目を見張った。
外装と同じく石造りの壁には木でできた窓枠にすりガラスがはめられた窓がある。
奥には暖炉があり、正面には木製のカウンター。
10個ほどあるテーブルはどれも木製で、それぞれにランプを模した照明が
置かれていた。
「落ち着いた雰囲気のお店ですね」
ティアナが後を振り返りながらそう言うとゲオルグはニコッと笑って頷く。
「いらっしゃいませ」
そのとき、カウンターの奥からウェイターが出てきて会釈をしてから
話しかけてきた。
「シュミット様、お待ちしてました。 今日は奥様とご一緒ではないのですね」
「ええ。 妻は少し出かけてましてね。 今日は彼女が代わりに寂しい俺の
相手をしてくれるんです」
「左様ですか。 お席へご案内しますのでコートをお預かりします」
ウェイターの男性にそう言われ、2人はコートを脱いで預けると
男性の後について歩く。
「こちらへどうぞ」
ウェイターに案内された席は、窓際の一番奥の席だった。
ゲオルグは椅子を引くと、手でティアナに座るように促した。
「ありがとうございます」
少し恐縮しながらティアナが座ると、ゲオルグはその向かい側に腰を下ろした。
「どうだ、この店は?」
ゲオルグに店の印象を尋ねられたティアナは、
店の中をぐるっと見回してから答える。
「落ち着いた雰囲気のお店ですね。 ゲオルグさんがここを選んだのは
ちょっと意外ですけど」
「そうか?」
「ええ。 私の中でゲオルグさんはもう少しモダンな雰囲気が好きっていう
印象があったので」
「そういうわけでもないんだけどな」
ゲオルグはそう言って苦笑する。
そのとき、先ほどのウェイターがメニューらしき冊子を持って現れた。
「本日のメニューでございます」
ゲオルグとティアナはそれぞれにメニューを受け取ると、
革張りの分厚い表紙をめくって眺め始める。
スープ、前菜、メイン、デザートの順に並んだ数々の料理の名前を
ひとつひとつ読み始めるティアナ。
一方のゲオルグはさっと一通り目を通すとウェイターの顔を見上げた。
「メインは肉料理がいいんだけど、オススメは?」
「そうですね・・・本日はよい牛フィレ肉が入っておりますので
ステーキなどはいかがでしょう?」
「じゃあそれで。 前菜はサラダを適当に。 スープはポタージュ。
デザートは・・・後でもかまわないかな?」
「かしこまりました。 そちら様は・・・・・」
ウェイターはそういってティアナに目を向ける。
「えっと、じゃあ私も同じで」
「かしこまりました。 お飲み物はどうなさいますか?」
ウェイターはゲオルグとティアナの両方を見ながら尋ねる。
「赤ワインでいいか?」
ティアナが頷くとゲオルグはウェイターからワインリストを受け取り、
ざっと眺めるとティアナも知っている銘柄を伝えた。
ウェイターが一礼して去るとゲオルグはティアナに話しかける。
「よかったのか? 俺と同じで」
「ええ。ゲオルグさんはこのお店の常連さんみたいなので、
あわせておけば安心かと思いまして」
「なるほどね」
そう言って、ゲオルグは納得顔で頷いた。
それから2人は近況報告や6課時代の話などの雑談を交わしながら食事をし、
気がつけば2時間ほど経っていた。
「さて、そろそろ行くか」
「そうですね」
酒にそこまで強くないティアナであったが、足元が少しふらつきつつも
椅子の背を支えにしてなんとか立ち上がった。
2人が店を出るとあたりはすっかり暗くなっていた。
「ちょっと遅くなっちゃったな・・・タクシーでも拾うか」
ちょうどタクシーが通りかかり、ゲオルグが手を上げると2人の前で
タクシーが停止した。
ゲオルグが後部座席のドアを開けてティアナを先に乗せる。
そしてゲオルグも後部座席に乗りこんだ。
ゲオルグがティアナの自宅があるあたりの住所を運転士に告げると、
タクシーは静かに発進した。
「ゲオルグさん・・・いいんですか?」
驚いた表情をしたティアナがゲオルグに向かって尋ねると、
ゲオルグは首をひねった。
「何のことだ?」
「送ってもらっちゃって・・・」
「いいんだよ。 お前、ちょっと飲みすぎたんだろ。
心配だから玄関先までは送ってくよ」
「いいですよ! さすがに一人で帰れますって」
「いいから。 こういうときぐらい甘えとけって」
「・・・・・はい、ありがとうございます」
そんな会話を交わしている間にもタクシーは進んでいく。
10分ほどしたところで、ティアナは少し身を乗り出す。
「あ、次の交差点を右に行って、100mくらい走ったら
とめてください・・・・・あ、ここで」
タクシーが止まると、ゲオルグは支払いを済ませてドアを開けて外に出る。
さほど強くはないもののつめたい風が頬をなで、ゲオルグはぶるっと身を震わせた。
続いてティアナが降りてくる。
ティアナは地面に足をつけて立ち上がろうとするが、
酒の影響が残っているせいかふらついてゲオルグの身体に寄りかかってしまう。
「おっ・・・と、大丈夫か?」
ティアナの身体を抱きとめたゲオルグが声をかけると、
ティアナは慌てて身体を離そうとする。
だが、ゲオルグはそんなティアナを自分のそばに引き寄せた。
「いいから俺につかまってろ。 危なっかしくて見てられないからな」
「はい・・・」
そう言ってうつむくティアナの顔は真っ赤に染まっていた。
ゲオルグのコートの袖を掴み、頭をゲオルグの肩に預け、
ティアナはエレベータに乗り込む。
自分の部屋のある階のボタンを押して扉が閉まると、わずかな衝撃とともに
エレベータは上昇を始めた。
刻一刻と変わっていく階数表示を眺めていると、あっという間に目的階へと到着し
ドアが開いた。
エレベータの中にも風が吹き込んできて、ゲオルグが少し身体を震わせたことを、
ティアナはコート越しに感じ取る。
寒風にさらされた廊下にはうっすらと雪が積もっていて、酒のせいか、
はたまた現在の状況のせいかぼーっとしていたティアナは足を滑らせてしまう。
「おっ・・・・・と」
後ろ向きに転びかけたティアナの身体をゲオルグが腰に手を回して
やさしく抱きとめる。
「お前、実は相当酔ってるな?」
ティアナの身体を支えるゲオルグが尋ねるが、ティアナは焦点の合っていないような
目線でゲオルグの顔をじっと見つめるばかりだった。
ゲオルグはそんなティアナの様子に対して小さくため息をつくと、
少しかがんでティアナのひざの裏辺りに腕を回すと、
そのままティアナを抱き上げた。
急に近くなった想い人の顔におどろきティアナは我に返る。
「へっ!? えーっ!?」
慌てて身をよじろうとするティアナを支えようとゲオルグは足を広げて
踏ん張りつつ、ティアナに声をかける。
「あんまり動くな。 うっかりお前を落としたら大変だろ」
真剣な顔で言うゲオルグに対してティアナは小さく頷くと、身動きするのをやめた。
「あとな、俺の首に腕をまわしてくれると助かるんだけど・・・できるか?」
ティアナはその問いにも無言で頷き、ゲオルグの首に腕を回す。
腕にかかる体重が少し軽くなったのか、ゲオルグは安どの表情を見せた。
そしてそのまま歩き出すと、すぐにティアナの部屋の前まで来た。
「あっ、ここです」
ティアナの言葉にゲオルグは足を止め、ティアナはドアの脇にあるプレートに
右手の親指を押し当てた。
指紋認証と魔力パターン認証を併用したロックシステムがロックを解除し
ドアを開けた。
「ここからは大丈夫だよな?」
ティアナの顔を覗き込むようにしながら尋ねるゲオルグに向かって首を横に振る。
するとゲオルグは苦笑を浮かべて肩をすくめた。
「甘えすぎ。 ま、今日だけな」
そう言ってゲオルグはティアナを抱き上げたまま部屋の中へと入っていく。
ティアナの部屋はワンルームタイプの部屋で、入ってすぐに小さなキッチンと
バス・トイレへのドア、奥にはそれなりの広さをもつメインルームがある。
ティアナをお姫様抱っこしたゲオルグはそのメインルームへと足を踏み入れた。
照明がついていないために暗い部屋ではあるが、こぎれいに整理されている
部屋であった。
その片隅におかれたベッドに歩み寄ると、ゲオルグは抱きかかえていたティアナを
そっとベッドに下ろした。
「ふぅ」
ゲオルグは小さく息を吐くとグッと背伸びをして腰をトンとたたく。
さすがに大の女性一人を運ぶのは堪えるようである。
「じゃあ、俺は帰るからな」
そう言ってゲオルグはティアナに背を向ける。
(あ、帰っちゃう・・・)
ゲオルグが振り返る姿を見て、ティアナはとっさにゲオルグの手を掴んだ。
歩き出そうと一歩を踏み出しかけたゲオルグはその感触に足を止めて向き直った。
「もう遅いですし・・・泊まっていきませんか?」
ティアナがそういった瞬間、ゲオルグはその表情をゆがめる。
「何言ってんだ。 そんなことできるわけないだろ」
「でも、外はまだ雪だからタクシーを拾っても時間はかかるし、
電車ももう走ってないですよ。
それに、家に帰っても誰もいないんですよね?」
「そういうことを言ってるんじゃない。 女性の一人暮らしの部屋に泊まるのは
拙いって言ってるんだ」
「・・・私はいいですよ、ゲオルグさんとなら。 だって・・・」
ティアナはゲオルグの手を引っ張って自分のほうに引き寄せると、
その唇に自分の唇を合わせた。
時間にして数秒。 短い口付けのあと唇を離すとゲオルグに笑いかけた。
「ずっと、あなたのことが好きだったから」
「なっ・・・」
突然のキスに驚きしばし硬直するゲオルグ。
その硬直が解けたとき、ゲオルグは狼狽した表情を見せる。
「な・・・何をバカなこと言ってんだ。 俺は帰る」
そう言って立ち上がりかけたゲオルグの手をティアナは強く引いた。
中途半端な姿勢で手を引かれ、酒の力も手伝ってゲオルグは
ベッドに向かって倒れこむ。
ふよんという柔らかな感触がゲオルグの顔を包む。
それもそのはず、ゲオルグはなのはやフェイトに比べれば小ぶりとはいえ
十分に豊かといえるティアナの胸に顔をうずめる格好でいた。
その事実に気づきあわてて身を起こそうとするゲオルグ。
だがその行動は、ティアナが彼の頭を抱え込んだことで果たせなかった。
「さっき、言いましたよね。 今日は甘えてもかまわないって。
だったら最後のお願い、聞いてもらえませんか?」
「・・・何を?」
呆然とした表情で訊くゲオルグ。
彼女の顔を見上げるその顔に向かって、ティアナはふわりと微笑む。
「あたしの初めて、奪ってください。 キスも、その先も、ぜんぶ」
ティアナが笑顔のままそう言い切ると、ゲオルグは呆然とした表情のまま固まった。
しばし、無言の時が流れる。
1分ほど経ったときだったであろうか、ゲオルグはゆっくりと口を開く。
「でも・・・そんなこと・・・・・」
そう言いつつ、ゲオルグは自分の下半身が膨らみつつあることを自覚していた。
なのはが実家に帰ってもう1週間はたつ。
妻子ある身とはいえ、ゲオルグもまだ若い男である。
まして、なのはとは毎日夜の営みを交わしていた。
それが1週間絶えているのである。
性欲が通常よりも旺盛になっているのは自然の摂理だ。
その状態でティアナの胸に顔をうずめているのである。
ゲオルグの理性の檻は少しずつその力を失いつつあった。
「ダメ、ですか?」
潤んだ瞳でゲオルグの見つめながら、
頬を紅潮させて舌足らずな口調で問うティアナ。
その瞬間、ゲオルグの理性は本能に負けた。
自分を抱え込むティアナの手を優しく握り、丁寧に解きほぐすと
その身を起こしてティアナの上にまたがるような格好になる。
そして、ティアナが着ているコートとブラウスを丁寧に脱がし始めた。
ややあって、ティアナの胸を包むブラと白い肌が露出し、
ゲオルグはティアナの顔をじっと見た。
「後悔・・・しないな?」
「するわけないです。 本当に好きな人に初めてを捧げられるんですから」
「わかった」
ゲオルグは掠れた声で小さくそう言うと、ティアナのブラに手を掛けた。
その瞬間、ティアナは固く目をつぶり両手で顔を覆った。
ゲオルグの手はティアナのブラを捲り上げ、その乳房を空気にさらす。
ティアナの身体はわずかに震えていた。
それが羞恥によるものか、あるいは恐怖によるものか、
ゲオルグには判断が付かなかった。
「ティアナ・・・」
小さく囁くような声で呼びながら、ゲオルグはティアナの顔を覆う手に触れる。
優しい手付きでティアナの顔の上から手を動かすと、目を開けたティアナが
微笑を浮かべてゲオルグの顔を見つめていた。
「顔、こわばってますよ」
ティアナはそう言うと、ゲオルグの首に両腕を回す。
それに応じるかのように、ゲオルグはティアナの頬に手を添える。
直後、2人の唇は重なり合っていた。
「んっ・・・」
ゲオルグの舌がティアナの歯牙に触れ、彼女は小さく声をあげる。
そしておずおずと舌を突き出し2人の舌は触れあう。
「んんっ・・・」
2人の舌が絡み合い、湿った音がティアナの部屋の中に響く。
ティアナの頬に添えられていたゲオルグの手が、彼女の首そして肩へと滑り下り
その下にある柔らかなふくらみに触れる。
「あっ・・・」
その瞬間、ティアナはわずかに身を固くして肩を震わせる。
「大丈夫・・・心配ないよ」
唇を離しティアナの耳に口を寄せて囁くゲオルグの言葉を聞き、
ティアナは自分の心が落ち着いていくのを感じた。
「はい・・・」
ゲオルグはティアナに向かってニコッと笑いかけると、彼女の唇に再び口づける。
「んっ・・・」
そしてゲオルグの手がゆっくりとティアナの胸を撫でる。
下からすくいあげるように揉みあげるゲオルグの手の動きに反応して、
ティアナが小さく身体を震わせる。
「あっ!」
そしてゲオルグの指が柔らかな2つの丘の頂上にあるピンク色の蕾に触れると
ティアナはビクッと大きくその身を震わせた。
「んっ、あんっ・・・! ああっ! やっ・・・」
だんだんとゲオルグの手が動くスピードが速くなり、
ティアナは周期的に甲高い声をあげはじめる。
ティアナの乳首は硬さを増し、きゅっと立ち上がる。
首筋に口づけを落としていたゲオルグの唇から湿った舌が顔を出し、
ティアナの白い肌を舐め下ろしていく。
そして、片方の乳首へと達するとその蕾をチロチロと転がす。
「やあっ! ゲオルグさっ・・・・んんっ! あんっ!」
さらにゲオルグはティアナの乳首を上下の唇ではさみ込み、吸い上げる。
「んぅうううんっ! ゲオルグさんっ! ダメですっ、あたしっ!!」
ティアナは腰を浮かせて悲鳴のような声をあげる。
ゲオルグは散々ティアナの乳首を嬲り倒すと、最後にチュポンと音を立てて
ティアナの胸から顔をあげた。
目を閉じて荒い息をするティアナの頬に、ゲオルグが手を添える。
「大丈夫か?」
「っ・・・はあ、はあ、は・・・い。大丈夫、です・・・」
息も絶え絶えなティアナの様子を見て、ゲオルグはさすがに心配そうな表情をする。
「無理するなって。 少し休むか?」
優しい口調で勧めるゲオルグに対して、ティアナは首を横に振った。
「いえ、大丈夫。 続けてください」
「わかった」
ゲオルグは笑顔を浮かべて頷くと、その手をティアナのお腹から腰、
そしてその下へと滑らせていく。
スカートと下着を脱がせると、ティアナの秘所がゲオルグの視線にさらされる。
そこは既に濡れそぼり、割れ目はわずかにひくついていた。
「濡れてるよ、ティアナ」
「あんまり、じっくり見ないで・・・」
顔を真っ赤にして消えるような声で言うティアナ。
普段の凛々しい姿とはギャップのある姿に、ゲオルグは自身の鼓動が高鳴るのを
しっかりと感じ取っていた。
「触るよ」
「うん・・・」
ティアナが小さく頷くのを確認し、ゲオルグはティアナの割れ目をそっと
上から下へとゆっくりなぞった。
「ふぅうううんっ。 やあっ・・・はずかし・・・・・」
羞恥から開かれた両脚を思わず閉じようとするティアナだったが、
他ならぬゲオルグの身体によってそれは阻まれてしまう。
しばらくするとティアナの脚から力が抜け、だらんとベッドの上に投げ出される。
割れ目に沿って指を何度か往復させたゲオルグは、今度は割れ目の合わせ目にある
突起に優しく触れた。
「んっ、やああああああああああっ!!」
その瞬間、ティアナの全身を快感が貫き背を大きくそらしてのけぞる。
予想していなかった激しい反応に驚き、ゲオルグは不安げにティアナを見る。
「悪い、最初から強すぎたか?」
「・・・ちょっと」
そう言って、ティアナは弱々しく笑う。
「指はちょっとキツかったか・・・じゃあ」
ゲオルグはニヤッと笑うと、ティアナの秘所に顔をうずめて割れ目に舌を這わせる。
「ちょ、ちょ、ちょっと!な、なにやってんですか!って、ひゃあああああっ!」
ゲオルグの行動に驚き、慌てて足を閉じようとするティアナだったが、
ゲオルグの舌が突起に触れた瞬間、再び甲高い声をあげて大きく腰をはね上げる。
ゲオルグは構わずにティアナの突起を舌で責め、包皮を器用に剥くと
固く立ち上がり始めた中身を転がし始める。
「ふわぁああんっ! や、あんっ! だ、だめえっ!!
んぁあんっ!! な、なんか、きちゃぅうっ!!」
切迫感を増すティアナの声に応えるかのように、ゲオルグは舌の動きを速める。
結果、ティアナはさらに激しい声をあげ、両手で頭を抱えた。
「げ、ゲオルグ・・・さ・・・んぅっ! な、んかきちゃいま、すってぇええ!」
イヤイヤをするように首を激しく横に振りながら嬌声をあげる。
「あ、あ、あ、あ、ああああああっ!!!」
やがて、一際大きな声をあげると大きく身体を震わせながらティアナは果てた。
ようやくゲオルグがティアナの秘所から顔をあげるが、ティアナはぐったりと
ベッドに倒れ込み、時折ぴくっと身体を震わせていた。
そんなティアナの髪を優しく梳くようになでるゲオルグ。
その顔は慈しむような笑顔に満ちていた。
しばらくしてティアナの呼吸が落ち着いてくると、
ゲオルグはティアナに話しかけた。
「盛大にイッたな」
「うぅ・・・すごく恥ずかしいです。 あんなとこ見られちゃって・・・」
「そうか? すごく可愛いと思ったよ、俺は」
「ふぇ? ほんとですか?」
驚いたように目を見開くティアナにゲオルグは笑顔で頷く。
「・・・ありがとう、ございます」
小声で感謝の言葉を口にするティアナの顔はほんのり赤く染まっていた。
「さて、と」
ティアナの呼吸が落ち着くまで待っていたゲオルグの声で、ティアナは
少し身を固くする。
「いいか?」
最低限の言葉で尋ねるゲオルグに対し、小さく頷くことで返事を返す。
「わかった」
そう言って真剣な表情を浮かべたゲオルグが、ティアナの脚を割って
屹立する自身のシンボルをティアナの割れ目にそっとあてがう。
その瞬間、ティアナの身体はちいさくビクッと揺れた。
その手は胸のあたりで固く合わせられていた。
ゲオルグはその手をそっと握る。
かすかに伝わる震えがティアナの緊張をゲオルグに伝える。
「ティアナ」
ゲオルグの声にティアナは固く閉じていた目を開く。
その視線の先には優しく微笑むゲオルグの顔があった。
「痛いとは思うけど、ちょっとガマンな」
「・・・・・・はい」
ティアナの返事に対してゲオルグは頷き、その手をティアナの腰に添える。
そして、自身の腰をゆっくりと前に押し出していく。
「んんっ・・・」
ゆっくりとゲオルグのモノがティアナの中へと飲みこまれて行く。
やがて、先端がティアナの処女膜に触れる。
「いくぞ」
ゲオルグは小さく言うと、一気に腰を押し出した。
つっ・・・という感触とともにゲオルグのモノが根元までティアナの中
奥深くへと侵入する。
「くぅううううううっ!」
苦痛に表情をゆがめながらティアナは苦しげな声をあげる。
ゲオルグのモノで広げられた割れ目から、つーっと赤い筋が垂れた。
「大丈夫か?」
「痛いです・・・」
「動かすと辛いよな?」
「はい・・・しばらくこのままで・・・・・・」
「わかった」
ゲオルグはティアナに向かって頷くと、そっと身体を折り曲げて
ティアナの唇に口づける
舌を絡めることもない、ただ唇同士を触れあわせるだけのキス。
だが、そのことが自身の痛みを軽くしてくれるようにティアナは感じていた。
ややあって、ティアナはゲオルグの頬に手を当てると、腕を突っ張るようにして
ゲオルグの顔を自分の顔から引き剥がす。
「もう、大丈夫です。 動いていいですよ」
「わかった。 最初はゆっくりな」
ティアナがこくんと頷くと、ゲオルグはベッドに手をついてゆっくりと腰を引き
モノが完全に抜ける寸前までティアナの中から引き抜く。
そして同じようにゆっくりと押し込んでいくと一番奥で一旦止め、
再び引き抜いていく。
それを何度か繰り返していくうち、最初は圧迫感から苦しげな声をあげていた
ティアナが艶っぽい声をあげ始める。
「ちょっと、速くするぞ」
ゲオルグはティアナの返答を待たずに腰の動きを少しずつ速める。
「あっ、あっ、あっ・・・やあっ、んっ」
ゲオルグの動きに合わせて声をあげるティアナ。
その顔は徐々に上気し、呼吸も浅くなり始めていた。
一方のゲオルグも時間をかけたセックスですっかり快感が限界近くまで
押し上げられていた。
(そろそろ、限界・・・)
フィニッシュに向けて徐々にピッチをあげていくゲオルグ。
「あっ、やあっ、んあっ! ふぁっ! はああんっ!」
ティアナとゲオルグの身体がぶつかり合い、パンパンと小気味いい音を立てる。
「ティアナっ・・・そろそろっ!」
「ああっ、はいっ・・・きてくださいっ、中にっ!」
ティアナが息も絶え絶えに放った言葉に、ゲオルグは首を横に振る。
「バカ言うな。 そんなことできるわけないだろ!」
そう言って引き抜こうとしたゲオルグだったが、その腰にティアナの脚が絡みつく。
「なっ!? 待て待て! さすがにまずいだろ、さっさと脚外せ!」
「いやです!」
ティアナは叫ぶようにそう言うと、動きを止めたゲオルグの代わりと言わんばかりに
激しく腰を動かし始める。
「ああっ、やあっ、ふぁあっ! やぁあああああああんっ!!」
すぐにティアナは絶頂に達し、ゲオルグのモノをギュッと締め付ける。
「くぅううううっ! ああっ!」
ゲオルグは苦しげな声をあげると、ついに忍耐の限界を迎える。
次の瞬間ゲオルグの腰が跳ね、ティアナの膣内にどくどくと精が放たれる。
「ああっ! ふわぁあっ!! あつぅ・・・いぃっ!」
やがて、射精が終わるとゲオルグはティアナの体内から自分のモノを引き抜いた。
割れ目から、ティアナの血と愛液、そしてゲオルグの精液が混じった液体が
どろっと垂れてくる。
その淫猥な光景に目を奪われつつ、ゲオルグはどさっとベッドに倒れ込んだ。
「はあっ・・・はあっ」
隣で肩を上下させて息をするティアナの頭に手を当てると、
ゆっくりと優しく撫でた。
「ゲオルグさん・・・きもち、よかったです」
「俺もだよ」
ゲオルグが小さく返事をすると、ティアナはニコッと笑ってから目を閉じた。
そして、ゲオルグもそれに続くように目を閉じる。
いつの間にか雪はあがり、雲も晴れて月光が二人の裸体を青く照らす。
翌朝目覚めたとき、この2人の関係がどのようなものに変わるかは
当の二人にも判ってはいない。
だが少なくともこの瞬間、ティアナは無上の幸福感に包まれながら
眠りに落ちて行った。
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