IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第140話】
――上空300メートル地点――
俺と篠ノ之は一気に上空300メートルまで飛翔――俺の方がスラスター出力が大きいのか、少しずつ距離が開く。
ハイパーセンサーで後方確認すると、篠ノ之も信じられないといった表情――それもそうだな、姉曰く、最強の筈が現に抜かれて追い付けない。
――一夏を降ろすとわからないが、乗せていても多分俺なんかが追い付く筈もないと思っていただろう。
そうこうしてる数秒の間に、目標高度500メートルに達すると同時に衛星とのリンクを開始する。
「暫時衛星とのリンク開始――コンタクト、リンク確立、それと同時に情報照合開始。――一夏、篠ノ之、銀の福音の現在座標及び予測進行ルートをそっちに送る」
「うるさい!お前の指図等受けん!!」
送ったデータの受け取りを拒否し、自身で衛星とのリンクを開始した篠ノ之。
そんな篠ノ之を一夏が――。
「おい箒!せっかくヒルトが送ってくれたんだ、今からリンクするよりかはこっちを使えよ!」
そう言って一夏は、俺が渡したデータのコピーを直ぐ様篠ノ之に送ると――。
「……わかった。一夏がそういうのならそうする」
……これは、一夏を経由して渡す方が得策だな。
そう思い、プライベート・チャネルを開く。
『一夏、聞こえるか?』
『おぅ、どうした?』
『次からは一夏経由で篠ノ之にデータを渡してくれ。こういう実戦でのタイムロスは後々に弊害が起きるからな』
『わかった。ヒルトが送ったデータ、直ぐに箒に送るようにするぜ』
それだけを言い、プライベート・チャネルを切ると――。
「OK、このまま予想進路と重なるように行くぞ、一夏、篠ノ之!」
「お、おう!」
「だから私に指図するなっ!――一気に行く!」
言うや急に加速させる篠ノ之。
紅椿の脚部及び背部装甲が開くと共に強力なエネルギーの放出――否、噴出させた。
少し出遅れ、全身のスラスターを加速力に加え、篠ノ之の後ろから追従する形で追うと共に、セシリアから借りたスターライトmkⅢを構える。
――と同時に、ハイパーセンサーの視覚情報に銀の福音が映し出された。
「見えたぞ、一夏!」
「!!」
言ったのは篠ノ之だ――声かけが俺に無いのが気になるが、文句を言ってる時間はない。
視覚情報に映し出された【銀の福音】は、その名を表すように全身が銀色一色という目立つ色をしていた。
3Dモデリングによる全身像からわかっていた事だが――頭部から生えた一対の巨大な翼が異質な感じがする。
まるで海送り、海還りでもしてきたのかよって突っ込みたいが、彼方は神になる過程であり、此方はパワード・スーツだ。
――本体と同じく、銀色に輝く翼は作戦前に更に詳細なデータが取れた事もあって間に合った資料によれば大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムとのこと――。
内蔵型のビットでも備わってるのかとも思ったのだが――資料に載っていた多方向同時射撃という攻撃を行うらしい。
――まずは見なければわからないが、多方向というからには多分鈴音の衝撃砲みたいな射角無制限射撃の可能性が高い。
「加速するぞ!目標に接触するのは十秒後だ。一夏、集中しろ!」
「ああ!でも箒、ヒルトと足並み揃えないと――」
「アイツを待ってたら、チャンスを逃す!」
オープン・チャネルでの会話のため、丸聞こえなのだがそんなことはお構いなしと言わんばかりに徐々に出力を上げていく篠ノ之。
――俺は、長期戦に備えてこのまま五秒遅れで戦闘区域に入る。
高速で飛行する福音との距離を詰めていく篠ノ之――そして。
「うおおおおっ!」
そんな雄叫びが海上に木霊する様に轟く。
それと同時に零落白夜を発動、同じタイミングで瞬時加速を行い一夏は間合いを詰める。
――鈴音の指摘を忘れたのか、いきなりの同時発動に苦笑しつつも、構えたスターライトmkⅢで狙いをつける。
一夏の零落白夜によって形成された光の刃が福音に触れようとしたその瞬間――。
「なっ!?」
「何!?トップスピードのまま反転した!?」
最高速度を維持したまま、反転、そのまま一夏と対峙するかのように相対速度を合わせて身構える福音。
そんな福音を見た一夏は、反撃される前に一撃を加えようとそのまま突撃をかけていく――だが。
「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘(シルバー・ベル)》、稼働開始」
「!?」
福音からのオープン・チャネルによる機械音声――だがその声に敵意を感じた一夏の表情が変わる。
そして、零落白夜の刃が当たるその寸前、福音の身体が一回転――一瞬掠めたかと思ったのだが、何と僅か数ミリ精度で避ける離れ業を披露する。
その技術は慣性制御機能を標準搭載しているISであっても、かなり難度の高い技術だ――資料で見たモンド・グロッソ大会でも、何名かが使用していた。
「ちぃっ!あの加速力、村雲の上を行くのかよっ!?――一夏、援護する!篠ノ之、一夏を背中に乗せろ!!」
「貴様に言われる迄もない!!一夏ぁっ!」
言うや、一夏を背中に乗せたまま福音に肉薄する篠ノ之。
そんな福音の動きを止めようと俺は、福音の辿る軌跡を読み――牽制射撃を行った。
ビーム粒子が尾を引き、その射撃によって一瞬動きを止める事に成功するのだが、一夏の振るう雪片による一撃を半身をずらしただけで避け、更に横一閃による一撃を、上半身逸らすだけで避けきる。
「くっ!このっ……!」
そんな一夏の声も虚しく、その斬撃は福音に触れるどころか、まるで猫にちょっかいを出す蝶々のようにひらりひらりと回避していた。
そんな動きに翻弄され、憤りを感じ、更に使用していた零落白夜の残り時間――シールドエネルギーの消耗が近く、時間が少ない事に焦る一夏は大きく振りかぶり、袈裟斬りによる一撃を浴びせようと構えた。
「―――――」
「!!」
大振りの一瞬の隙――そこに狙い済ましたかのように行動する福音は、その銀色の翼――その装甲の一部が開くと、まるで翼が広がるように展開した。
その一瞬、一夏の目が見開くようにその翼を見たその瞬間――銀色の翼を前へと迫り出す。
刹那、まるで輝きを放つかのように翼が光ると、無数の光の弾丸が一夏に向けて撃ち出された。
「ぐぅっ!?」
「一夏!離脱しろぉ!援護する!!」
放たれた光の弾丸は、白式の装甲に触れるとそのまま突き刺さり、次の瞬間には一斉に爆ぜ、無数の爆発が一夏を包み込む。
その射撃を此方に向かせるため、狙い済まし――トリガーを引いた。
スターライトmkⅢの砲口が光を放つ――その一撃が福音に直撃した。
「こっちだ!――逃げ回れば、当たりはしないんだっ!!」
福音は急上昇しながら回転し、無数の光の粒子を生み出す。
それが直ぐ様収束するや、その弾丸は此方に迫る。
その射撃に直ぐ様反応し、急降下――。
弾丸が一直線に並んだ所を射撃――。
先頭の光の弾丸と、放たれたビーム射撃は衝突すると共に爆発――そこから連鎖するように福音から放たれた弾丸は次々と爆ぜていく。
一瞬の輝きを放つ閃光が花開く様に咲き――消えていった。
「一夏ぁっ!篠ノ之ぉっ!左右から攻めろ!俺が真ん中を行く!!」
「わかった!俺は右を行く。箒、左は頼んだ!」
「了解した!有坂、せめて私たちの代わりにその弾丸の囮になるんだぞ!!」
――囮扱いかよ……だが、それであいつらがダメージを与えてくれるなら……!
スターライトmkⅢを左手に持ち、右手には新たに天狼を構えて一気に加速――正面から突撃をかける。
一夏、篠ノ之と左右に展開――それを察知した福音は、両面に光の弾丸を放とうと動くが――。
「一撃――入れさせてもらうぞ福音!!」
「………ッ!!」
更に加速した俺を察知――それと共に一回転するとまた光の弾丸が無数に現れ、此方に迫る――。
と、八式・天乃御柱がその無数の弾丸に反応し、スライドした箇所から無数のレーザー砲口から一斉にレーザー照射――福音を巻き込む形で爆発する光の弾丸は爆ぜていく。
爆発による衝撃を突き進み――爆炎を潜り抜け、俺は福音に肉薄した。
「福音ッ!!」
「――――」
右手で縦に振るう天狼の一撃、それを超反応で左に避ける(ヒルトから見ると右に)福音に――。
「――ぉぉおおおっ!!」
「―――!?」
縦に振るった天狼の軌道を変え、避けた先に無理矢理刃を振るう――。
まるで腕の神経が切れるかの様な衝撃に襲われ、苦悶の表情を浮かべるがそのまま振り切ると、福音のシールドバリアーが触れた刃から崩壊するように弾け、切っ先が装甲に触れると激しく火花を散らせた。
「もらったぞ、福音!!」
そんな篠ノ之の声が聞こえ、意識をそちらに傾けると二刀流によるエネルギー弾丸とエネルギー光波、及び腕部装甲から発生したエネルギー刃が福音と俺に襲いかかってきた。
「――――」
「なっ!?」
福音は、その急加速を利用して一気に離脱――一瞬の驚きで反応が遅れた俺に、篠ノ之から放たれたエネルギー弾、光波、刃と次々直撃した。
「ぐぅっ……!!」
「……っ!福音の近くにいる貴様が悪いのだ!私は悪くない!!」
それだけを言い、また再度福音へと攻撃を行う篠ノ之。
……今の攻撃でかなり減らされたな…文句は今言っても仕方がない。
残りシールドエネルギーは450――今の攻撃で減らされたのは150。
――と、機械音声が頭の中に響く。
『プロペラント・タンクの燃料の燃焼終了。――空になったタンクは強制パージします』
それと共に、金属音が鳴ると空のプロペラント・タンクが海へと落ちていき、新たなプロペラント・タンクから推進剤を得る。
やっぱり、三人じゃ数が少なすぎる――。
旅館花月荘に居る織斑先生へとプライベート・チャネルによる通信を行う。
『どうした、有坂?何か問題が起きたのか?』
『いえ、このままだと長期戦になって此方がじり貧になります。その前に増援を派遣してくれませんか?』
『……すまないが、まだオルコット達のパッケージインストールは終わっていない』
『では自衛隊は?駐留してるアメリカ軍の戦闘機による支援をお願いします』
『無理だ。日本政府もアメリカ政府も首を縦に振らない。悪いがそのまま作戦を続行しろ』
『……了解…ッ』
プライベート・チャネルによる通信が切れると、俺は奥歯を噛み締めた。
――が、そうしていても意味が無いので戦っている二人の元へと向かう。
――だが、ハイパーセンサーに海上を航行する船をキャッチした。
――何でこんなところに船が……というか、今までハイパーセンサーに反応しなかったぞ――。
そう思い、船を拡大して見ると――。
「ちっ、あの船、ハイパーセンサーに捉えにくい装置を積んでるな……」
――じゃなきゃ、ISがもっと前に反応してる筈だ。
後で通報することにして、今は福音を止めないと。
そう思い視線を福音へと向けて加速――ちょうど篠ノ之が、福音の光弾の雨を紙一重で避け、福音へと迫撃をかける。
その一瞬――福音の動きに隙が出来たのだが一夏は福音とは真逆の直下――海面へと瞬時加速した。
「一夏!?」
「うおおおっ!!」
「何……っ!?」
一夏が向かう先には一発の光弾――そして、その先にあるのはさっきの船――だが、光弾のコース、爆発の範囲を計算しても波を被る程度の被害しか見えないのは明白だった。
だが、既に一夏の目には、その光弾が当たり、沈みゆく船のイメージしかなく――迷うことなく光弾を切り払った――。
「何をしている!?せっかくのチャンスに――」
「船がいるんだ!海上は先生たちが封鎖したはずなのに――ああくそっ、密漁船か!」
「一夏!あのコースなら船には直撃しなかったぞ!――くっ、あの船…」
船に視線を落とすと、慌てたようにこの海域を離脱していく。
――だが、もう通報したから捕まるのは時間の問題だろう。
――と、光の刃を放つ雪片弐型から刃が消え、装甲が閉じると実体刃が現れた。
「過ぎたことをいつまでも言っても仕方がない、一夏、篠ノ之。言い争いは後にして今は体勢を――」
そう言葉を続けるが、それを遮るように篠ノ之は――。
「馬鹿者!犯罪者等を庇って……。そんなやつらは――!」
「箒!!」
「ッ――!?」
「箒、そんな――そんな寂しい事は言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱いヤツの事が見えなくなるなんて……ヒルトの事にしてもそうだ。……どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」
「わ、私、は……」
「一夏、篠ノ之――今は実戦だぞ。言い争いは後にしろ――」
そう更に言葉を続けようとし、篠ノ之を見ると今まで見たことがないぐらいの、明らかな動揺した表情を浮かべ、それを一夏や俺に見られまいと両手で顔を覆う。
その時に落とした二振りの刀は、海面に落ちる途中で光の粒子となり消えていく。
それを見た俺と一夏の表情に、焦りの色が浮かぶ。
具現維持限界――俺もそれを応用した技を持っているが、この具現維持限界はそれとは違い――操縦者の動揺による強制的エネルギー切れを意味する。
――戦う意思がなくなった人によく起こる現象だ。
「箒ぃぃぃっ!!」
そんな一夏の叫びが辺り一帯に響く――それと同時に、一夏は雪片を捨て、瞬時加速体勢に――。
その視線の先には、福音が一斉射撃を行おうと構え――照準を篠ノ之に絞っていた。
「………!?」
自然と俺も身体が動く――考えるまでもなく、全てのスラスター、及び背部ブースターを点火し、篠ノ之の元へ向かうが――それよりも速く一夏は瞬時加速で篠ノ之の元へと向かった。
――何で、こんなときに俺は瞬時加速が使えないんだ。
――一夏との距離が離されていく……足掻いても、その距離は縮まらない。
――何で、俺には才能が無いんだ。
才能があれば――一夏みたいに瞬時加速だって……。
弾除け代わりになると言って……結局俺は――。
全てがスローモーションに映る――一夏が篠ノ之を庇うように福音との合間に入るその姿。
福音から放たれる光の光弾も――ゆっくりと突き進むその瞬間も――そして。
「ぐああああっ!!」
「――一夏ァァアアアッ!!!」
篠ノ之を庇うように抱き締めた一夏は――福音からの攻撃全てを背中に受け止めた。
容赦なく突き刺さる様に爆ぜていく光弾――その一撃一撃が一夏に降り注ぐと共に苦悶の表情を浮かべ、鼻につく人の皮膚が焼けたような臭いが漂う。
「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」
「ぅ……ぁ……」
「―――――ッ!?」
海へとまっ逆さまに墜ちていく一夏と篠ノ之――その姿も俺の瞳には、スローモーションでしか映らず――そして――大きな水音と共に立ち上がる水柱――。
「――――ァァアアアッ!!」
そんな叫びが、辺り一帯に響く――叫びにもならない声かもしれない。
――だが、叫ばずにはいられなかった。
「篠ノ之……聞こえるか…」
「ぅっ……ひっく……いち…か……ぁ…」
オープン・チャネルによる通信で、俺は篠ノ之に語りかける。
「今なら……まだ間に合う。……一夏を連れて離脱しろ。――お前たちが花月荘に着くまでの時間…作るから」
「……いち……か…いちかぁ……」
茫然自失といった感じに、一夏の名前を呟く篠ノ之――。
「――しっかりしろォォッ!!篠ノ之っ!!」
「……!?」
虚ろな瞳で、海面から見上げる篠ノ之は――どうしようもなく弱っていた。
「篠ノ之……お前は一夏を連れて早くここから離脱するんだ。時間は稼ぐ」
「でも……でもぉっ!!」
「―――邪魔なんだよッ!そんな所に居られたら!!」
「――!?」
響く怒声に驚きの表情を浮かべる篠ノ之は、その泣き顔を晴らさずに一夏を抱き抱え――空域から少しずつ、少しずつ速度を抑えて離脱していった――。
そんな篠ノ之に対して、砲口を向ける福音――次の瞬間。
空気を切り裂く音が鳴り響くと共に――その一撃は、福音によって回避されたが、俺は射線上に立ち塞がる。
「……悪いが、あいつらが離脱するまでは俺が相手だ」
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