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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第134話】

――IS試験用ビーチ――


「やあやあ箒ちゃん、お疲れ~。最初はどうなることかとおね~ちゃん、心配したよ~。――まあ、予想通り最後は箒ちゃんの圧勝だったね~」

「ありがとうございます」


そんな感じに機嫌よく篠ノ之を出迎える篠ノ之博士。

生意気言った俺を負かせたのだから、気持ちもスカッとしたのだろう。

篠ノ之も、口調は堅いが声色は喜色に満ちていた。


「ふっ、やはり私も専用機を持てば有坂なんかには負けないということだな。何か私に言うことはあるか、有坂?」

「………………」


俺は黙ったまま篠ノ之を見るだけにした。

敗者が何を語ろうと、負け犬の遠吠えととられるのは明白。


見ることしか出来ない俺を見た篠ノ之は、満足そうに笑みを浮かべるだけだった。

本人の考えはこうだろう。


『あれだけ色々と私に文句を言ってこの様だ。もう有坂も私の専用機の事にいちいち突っ掛かってくることもないだろう』


――多分こんな所だろう……わからんが。

――と、篠ノ之博士がわざわざやって来て。


「やあ、無様に負けちゃったね~銀髪?これに懲りたら、もう二度と箒ちゃんの専用機の事、文句言わないでね~」

「……………」


何も言い返さない俺を見て、満足そうに戻っていく篠ノ之博士。

この姉にしてこの妹って事か……間違いなく姉妹だよ、この二人。

篠ノ之も、俺に勝って嬉しいのか一夏の元へ行ってわざわざ報告している――と、織斑先生が篠ノ之に近づき。


「篠ノ之、さっきの模擬戦――『本当に自分が勝った』と思っているのか?」


質問の意味が少しわからないのか、頭に疑問符を浮かべたが直ぐに――。


「はい。もちろん『私が勝ちました』」

「そうか。――もう少し、『周りを見る努力』をするように……な」

「は、はぁ……わかりました…」



そんな曖昧な返事をした篠ノ之、それを見た織斑先生は静かに目を閉じ、腕を組んで此方に近付いてきた。

篠ノ之は、そんな織斑先生が少し気になったものの、直ぐに一夏との会話に戻った。


「有坂、模擬戦ご苦労だったな」

「いえ、まあ結局偉そうに言って負けましたがね。はははっ。位置取りも失敗した結果ですし」

「ふっ。……だが、あそこでお前が避けていれば、誰かが怪我をしていただろう…」


篠ノ之には聞こえないように呟く織斑先生――そして、まるで敵を見るかのような視線で篠ノ之博士を睨む――一夏も、その様子に気づいたのか少し表情が変わっていた。


「ともかく、ご苦労だったな。後は――」

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」


突然の山田先生の慌てた声に、織斑先生は山田先生の方へと振り向き、近付いていった。

この慌てよう――尋常じゃないな、一体どうしたんだろう。


「どうした?」

「こ、こっ、これをっ!」


慌てながら小型端末を渡す山田先生。

それを受け取り、画面を見るとその表情が曇り始める。


「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた――」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」


――事実、俺には聞こえていた。

ハワイ沖で試験稼働――ここまで聞こえて、織斑先生が山田先生を黙らせたから状況が今一わからないが、緊急を要する内容だというのは理解出来た。



流石にまずいと思ったのか、山田先生はその場で頭を下げて謝った。


「す、すみませんっ……」

「専用機持ちと代表候補生は?」

「よ、四組の更識簪さんが欠席していますが、それ以外は」


……そういえば、彼女見かけなかったな。

――何か参加できない理由でもあったのだろうか?

――と、俺や一夏、他数人の生徒の視線に気がついたのか、会話ではなく手話にゃるやり取りを始めた――と。


「……どうやらトンでもない事が起きたようだな」

「……親父?わかるのか?」

「あぁ、全てがわかる訳じゃないがな。あれは軍関係の手話――それをもう少し複雑化したものだ。内容は言えないが……」


いつもふざけたようにしている親父の表情が真剣そのものだった――。

正直、こんな親父を見るのは初めてだった。


「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」


「了解した。――全員、注目!」


山田先生が走り去った後、直ぐ様手を叩いて生徒全員を振り向かせる。


「現時刻より、IS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

「え……?」

「ちゅ、中止?何で?特殊任務行動って……」

「状況が全然わかんないんだけど……」


不測の事態に慣れてない一年生女子一同が、ざわざわと騒ぎ始める。

無理もない、いきなり特殊任務行動と言われてざわつかない方が無理ってものだ。

……俺が今落ち着いているのは、五月の無人機、六月のラウラのIS暴走の経験があるからだろう。

――と、いつまでも騒ぐ女子一同を、織斑先生が一喝した。


「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出た者は我々で身柄を拘束する!いいな!!」

「「「はっ、はいっ!」」」


その織斑先生の怒号で、全員がビクッと反応し、慌てて動き始める。

打鉄やラファール・リヴァイヴに接続していたテスト装備を解除、IS起動終了させてカートに乗せた。



「専用機持ち、及び代表候補生は全員集合しろ!有坂緋琉人、有坂美冬、飯山、織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!――それと、篠ノ之も来い」

「はい!」


そう返事をした篠ノ之の声は、自信に満ち溢れ、気合いのこもっていた。

――そんな篠ノ之の様子に俺は、正直不安しかなかった。


――と、織斑先生が俺に近づいてくる――いや、正確には親父に、だ。


「有坂さん。貴方の経歴、詳しく調べさせてもらいました。――今回の作戦、貴方は部外者ですが…是非とも参加していただきたい」

「……かぁーっ、よくもまあ俺の経歴をこと細かく調べたものだな…。感心するぜ」


そう言い、織斑先生が手渡した経歴書には親父の経歴が全て載っているのか、呆れたように呟いた。


「……いいだろう、ただ――母さんも同席させてもらってもいいか?――少なくとも、IS関連に関しては母さんはプロだ」

「……わかりました。ですが、この事は他言無用でお願いします」

「それに関しては問題ない、母さんも俺も口が堅い方だ――俺から母さんに伝えるので、後で合流する。作戦室は何処に?」

「宴会用大座敷・風花の間です」

「了解した、では母さんに話してくる」


そう言い、親父は母さんの元へと歩いて行った――。


空は青く、晴れ晴れとしていたが――何か良くない事が起こる。

そんな直感がした――。 
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