IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第136話】
――風花の間――
「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
そんな親父の作戦に待ったをかけたのは篠ノ之束博士だ。
それも天井のど真ん中から篠ノ之博士の顔がひょっこりと出ていた。
「……山田先生、室外への強制退去を」
そう指示をする織斑先生はこめかみに指を当てていた。
そんな指示を聞き、山田先生は――。
「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」
「とうっ★」
そこから器用にぶら下がり、くるっと縦に一回転して風花の間に着地した。
身のこなしはスゴいが、特別誉める所は無いから無視して俺は福音の3Dモデリングされた全身像を手元に寄せる。
……何かの映画にあったように触れるこの技術の凄さには感心する。
――確か、似たようなパワードスーツを着た社長さんの話の映画だ。
「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」
そんな感じでいきなり親父の作戦を否定する篠ノ之博士。
親父は苦笑しつつ、その様子を眺めていた。
「……出ていけ」
そう呟き、完全に頭を押さえる織斑先生。
そして、山田先生は言われた通りに篠ノ之博士を室外に連れていこうとするが、器用にその手を掻い潜る――と、山田先生が若干転けそうになっていた。
「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」
そんなテンションの高い声が風花の間に響く――篠ノ之のおねだりした新しい機体の出番?
「なに?」
「紅椿のスペックデータを見てみて!パッケージ何かなくても超高速機動が出来るんだよ!」
そんな篠ノ之博士の言葉と共に、数枚のディスプレイが織斑先生を囲むようにして現れる。
「紅椿の展開装甲を調整してほいほいほいっと。ホラ!これでスピードはばっちり!」
そんな感じに説明する篠ノ之博士――展開装甲って……さっきの模擬戦で使用されたでたらめ装甲か?
――等と思っていると、俺達が見ていたメインディスプレイに、篠ノ之の紅椿のスペックデータへと切り替わっていた。
3Dモデリングされたマップと銀の福音はそのままなので、さっきの作戦内容のままで机に広がっている。
「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」
――等という篠ノ之博士、そんな簡単に直ぐ世代交代するのか、ISって。
戦闘機でも十年ぐらいかかるはずなんだが。
「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんの為にね。そこの銀髪は耳栓でもすれば?」
「……悪いが、いちいちお前の馬鹿な発言聞く理由も無いよ」
そんな感じで素っ気なく対応する――少しこめかみが引くつくのが見えるが、それを隠して――。
「……まず、第一世代というのは『ISの完成』を目標とした機体だね。次が、『後付武装による多様化』――これが第二世代。そして第三世代が『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』。空間圧作用兵器にBT兵器、後はAICと――そこの銀髪の迎撃兵器だね。まあ束ちゃんから見たらポンコツだけどね、アハハッ★」
そんな感じに楽しそうに笑う篠ノ之博士を、美冬は睨む。
――母さんは口元に手を当て、あらあらといった感じで眺めていた。
「……で、第四世代というのが『パッケージ換装を必要としない万能機』という、現在絶賛机上の空論中のもの。はい、いっくん理解出来ました?先生は優秀な子が大好きです」
「は、はぁ……。え、いや、えーと……?」
そんな感じで頭が混乱している一夏。
まあ各国がやっと第三世代型の一号試験機が出来たばかりで第四世代だからな……本当かはわからんが。
「ちっちっちっ。束さんはそんじょそこらの天才じゃないんだよ。これくらいは三時のおやつ前なのさ!――具体的には白式の《雪片弐型》に使用されてまーす。試しに私が突っ込んだ~」
「「「え!?」」」
「…………」
篠ノ之博士の言葉に、専用機持ち達が驚きの声をあげた。
……だから零落白夜発動するときに変わった感じに開くんだな。
……つまり、白式も世代分けすると第四世代型って事か…本人が使いこなせてるかは微妙だが。
「それで、上手くいったのでなんとなんと紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼働時にはスペックデータは更に倍プッシュだ★」
「ちょっ、ちょっと、ちょっと待ってください。え?全身?全身が、雪片弐型と同じ?それって……」
「うん、無茶苦茶強いね。一言で言うと最強だね」
「……本当にそうなの?例え機体が良くても、性能を引き出せないと宝の持ち腐れじゃない?」
そんな風に言ったのは美冬だ。
「……なんだ、お前?」
「私?貴方が馬鹿にしたそこに居る有坂緋琉人の双子の妹、有坂美冬です」
臆することなく、真っ直ぐと篠ノ之博士を見る美冬。
「……ふーん、そこの銀髪に妹がいたとは……それはそれは――兄が兄なら妹も妹――だね★」
流石にその発言に反応したのは、美冬と仲良くしてる面々だ。
言葉では何も言わないが、明らかに表情が変わる。
「美冬、座ってなよ。本人が最強っていうならそれでいいじゃん」
「へぇ……まさか銀髪が擁護してくれるとはね★」
「別に擁護した訳じゃない。……美冬、大人しくしてろって」
「……わかった」
むすっと膨れる美冬を隠す様に、俺は座り直す。
……ISってのは確か、長く付き合えば付き合うほどコアがわかろうとするって確か最初の授業で言ってた筈だ。
――機体が良くても、それが絶対の差になるはずがない……。
そう思っていると、突如声が心に響いてくる――。
――そうだね、私もそう思うよ……ヒルト…――。
「……?」
また女の子の声が聞こえた――一体誰なんだ?
――心で聞き返すが、誰も返事はなく、俺は頭を傾げた。
「……全く、変な日本人が多すぎだね~。――話は戻して、紅椿の展開装甲はより発達したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第四世代型の目標である【即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)】ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ぶいぶぃ」
そんな言葉も虚しく響く風花の間。
……まあ俺にはわりとどうでもいいので話半分しか聞いてないが――それよりも、さっきの声の方が気になるし。
「はにゃ?あれ?何で皆お通夜みたいな顔してるの?誰か死んだ?変なの」
……まあ各国代表候補生からすれば【無意味】だったということだろう。
多額の資金を出し、膨大な時間をかけ、その国の優秀な人材をつぎ込んで競っている第三世代型の開発が、この第四世代型によって全て無意味――。
だが本当に無意味なのだろうか?
俺自身、技術というのはある程度人々の暮らしを豊かにするものだと思う。
――まあ、地球を汚染しないとは言えないが。
何にしても、絶対に【無意味】という事はない筈だ。
今は無理でも何か――AIC等は、上手く技術を応用すれば未曾有の災害を防ぐ事だって出来るかもしれない。
空間圧作用兵器だって、そこから新しいエネルギーが見つかるかもしれない。
BT兵器だって、改良すれば届かない箇所に消火剤を撒いて火事を防ぐ事が出来るかもしれない…。
――全部が可能性の段階だし、多分こんな使い方を考えてる開発者はほとんど居ないだろう。
俺は――俺には全て無意味だとは思わないということだ、開発された技術は。
「――束、言った筈だぞ。やり過ぎるな、と」
「そうだっけ?えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~」
そう織斑先生が、篠ノ之博士に告げると黙っていた理由が理解したのか――。
「あ、でもほら、紅椿はまだ完全体じゃないし、そんな顔しないでよ、いっくん。いっくんが暗いと束さんはイタズラしたくなっちゃうよん」
そう一夏に対してウインクし、笑顔になる篠ノ之博士。
「まー、あれだね。今の話は紅椿のスペックをフルに引き出したら、って話だからね。でもまあ、今回の作戦をこなすくらいは夕食前だよ!」
――また訳のわからない夕食前……突っ込む気もないが。
「それにしてもアレだね~。海で暴走っていうと、十年前の白騎士事件を思い出すねー」
そんな感じでニコニコと笑顔で話始めた篠ノ之博士、隣の織斑先生の表情が変わった――。
後書き
ちょい更新遅れるかも…
大丈夫そうならいつも通り更新していきます
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