IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第九十三話】
前書き
ラウラとの対戦編終了です
もう少しで二巻終わります
そこそこバトルで最後は謎空間こと残念空間の話になります
――第三アリーナ――
辺り一帯を包む閃光――徐々にその光が収束へと向かい始める。
光の中――俺の頭の中で【村雲・弐式】の機械音声が聴こえてくる――。
『《単一仕様【天叢雲剣】》開放、発動します』
その音声と共に最初に村雲を起動した時と同様の、視界がクリアになり、全方位が見える――意識出来る。
その瞬間、周囲に眩い光を放っていた光りが収まる――否、天狼の刃のみがエネルギーによって覆われ光を放っていた。
その光が収まるや直ぐ様襲い掛かる黒いIS。
振り下ろす刀による斬撃、咄嗟に判断し、構えて刃を交え――そのまま受け止めると直接その衝撃が全身へと駆け巡る。
一撃による重さに、ミシミシと全身の骨が悲鳴を上げる――だが不思議と痛みを感じない。
人間、突然の出来事が起きたときに信じられない様な力を発揮するという話は良く聞くが――もしかしたらこの時の俺も、俗にいう【火事場の馬鹿力】というものを発揮していたのかもしれない。
黒いISはその一撃が効果が無いと判断したのか、俺の背後を取るように回り込む。
そして、直ぐ様刀を縦に振るう――だが。
「――!?」
その切っ先は俺の背中のISスーツを軽く触れただけで致命傷を与える事が出来なかった――それもその筈、ギリギリ切っ先が当たるか当たらないかの所まで避けていたからだ。
触れた切っ先はISスーツを小さく裂き、そこから出来た刀傷からじわりと血が滲み出る――だが、痛みを感じるよりも速く、振り向き様に天狼を横一閃に振るう――。
その一撃を雪片で受け止めた黒いIS、高音の金属音がアリーナ中に鳴り響く。
受け止められた衝撃が腕に伝わり、痺れるが何とか力を込めて握り直した。
「……ッ…!」
「―――!」
受け止められた天狼を刀身を抑え込む様に雪片を下ろしていく――刹那、一気に雪片で天狼を弾き飛ばした黒いISは、その体勢のまま俺の肩に上段蹴りによる一撃を浴びせる。
「があっ……!?」
ミシミシ軋む様に食い込むその一撃により、横に吹き飛ばされ、背中からその衝撃をもろに受けると呼吸が詰まりそうになった。
「「「ヒルトッ!?」」」
そんな皆が俺の名を呼ぶ声が聞こえるも、追撃に来た黒いISは、地面に転がっている俺に対して無情な突き刺し攻撃を行おうとしてきた。
「クッ…!」
ドスッと突き刺す黒いIS、だが横に転がるように俺は避けた――それを更に追撃するように突き刺し攻撃を行い続ける黒いIS。
ゴロゴロと転がるように避け続けているが、徐々に刃が腕に触れそうなぐらいに近づいてくるのに焦りを感じながらもシャルルの破壊された武装近くまで転がり回る。
そして、シャルルの破壊された武装まで近付くや、手近にある破壊されたマシンガンを手に取るとそのまま黒いISに投げつけると同時に勢いつけて立ち上がった。
投げつけたマシンガンを雪片で弾き飛ばす黒いIS、その一瞬を狙って破壊されたショットガンを俺は足で持ち上げ、空に浮かせると勢いつけた蹴りでショットガンを蹴り飛ばすとくるくる回りながら黒いIS目掛けて飛んでいく――。
だがそれもやはり効果は無く弾き飛ばされた――が、今回はそれが狙いだった。
ショットガンを蹴り飛ばした俺は直ぐ様右方向へとローリングし、くるっとアリーナ地上を回るとその途中でアサルトライフルを手に取り構えた。
――このライフルだけは、シャルルの武装の中で唯一無事だった武装だ。
既に試合開始時から使用許諾は出されているので問題なく撃てる――だが、別の問題があった。
残り残弾数が何と三発、だがそんなことを言っていられない。
ライフルを構えた俺に対して直ぐ様近接戦闘をしかけようとする黒いISに対してライフルをセミオートにし、トリガーを引く。
乾いた音と共に放たれた弾丸は一直線に黒いISの胸部目掛けて飛んでいく――だがこの時、もし貫通して生身のラウラを傷付けたらという後悔の念も抱くが――。
その弾丸はシールドバリアーを突破し、胸部装甲にヒビを入れただけだった。
それに安堵した俺は続けざまにトリガーを二度引く――。
バスッバスッと特徴のある射撃音が鳴るや二発の弾丸はシールドバリアーに阻まれ、塵となって消えていった。
そして勢いそのまま、再度斬撃を加えようと横一文字に放たれる一閃。
弾切れをおこしたアサルトライフルを縦に構えて一撃を何とか受け止めるがその衝撃でアサルトライフルがぐにゃりと曲がった。
「何て衝撃だよ!?このっ!!」
曲がったアサルトライフルで腕部装甲に打撃を与えるが、更にぐにゃりと曲がって完全に銃としては使い物にならなくなっていた。
「……ええぃっ!これも食らえッ!!」
曲がったアサルトライフルを投げつけると、今度は弾くこともせずそのまま頭部フルフェイス装甲にコンッと当たって地面へと落ちた。
それを皮切りに、再度横一閃に振るう――。
「クッ…!?徒手空拳でやるし――一夏!使用許諾出せ!!」
そう叫んで一撃をバックステップで避けた後、走って向かう――一夏が手放した【雪片弐型】の元へ。
向かう途中も容赦の無い斬撃が俺を襲い、腕や脚に切り傷がどんどん増えていった――そこから血が流れ出し、アリーナの地を少しずつ赤く染めていく――。
「し、使用許諾ってどうやって出せばいいんだよ!?」
「織斑君!武器項目欄開いて雪片の項目を選んで!そこからヒルトに使用許諾すれば大丈夫だからっ!!」
「お、おぅ!」
その間も、横一閃に振るう一撃を屈んで避け、脚払いを仕掛けるが――。
「~~~~~っ!?痛てぇっ!!」
忘れていた訳では無いのだが、少しぐらいは効果があると思って脚払いを行ったのだが硬い金属の装甲だったためもろに自分へのダメージになってしまった。
「ヒルト!使用許諾出したぞ!」
そんな一夏の声を聞くや直ぐ様地面に落ちていた雪片を拾い、それを構える――。
「【天叢雲剣】発動!――ハァァアアアアッ!!」
雪片の実体刀身が光を放つ――それが形成されると雪片を振るった。
「――――!?」
振るった雪片から放たれたのはエネルギー光波――エネルギー状の刃がアリーナの地を這う様に進み、黒いISへと迫る。
「――ギ、ギ…」
その一撃が当たると、黒いISを守っていたシールドバリアーは崩壊し、消えていく――。
【天叢雲剣】――近接戦闘におけるあらゆる攻撃にバリア無効化攻撃が付加され、近接ブレードからはエネルギーブレードをそのまま放って中距離をカバー出来る【単一仕様】。
遠距離の相手には効果が薄いが中距離までならバリア無効化攻撃によるエネルギー光波で攻撃が可能でシールドバリアーを崩壊…その後絶対防御を強制発動させる強力な単一仕様だが…刀や剣を振るわなければ使えない。
その光波が当たった黒いISだが、持ちこたえたのか体勢を整えると瞬時加速の体勢へ――そして一気に肉薄するや勢いそのままに俺の腹部に蹴りによる一撃を受け、吹き飛ばされた拍子に雪片もアリーナのバリア発生装置に突き刺さった。
「がっ……はっ…!?」
吹き飛ばされた俺は、そのままアリーナの壁へと叩きつけられ、その衝撃で口の中を切り、激しく吐血した。
そして再度瞬時加速で迫る黒いIS――雪片を構え、俺の腹部を狙うように突きの体勢で迫ってきた――。
「……そう簡単に命やるかよっ!!ラウラを助けると約束した!果たせずに死んでたまるかッ!!」
そう叫び、ギリギリの所で身を捩って避けるとアリーナの壁に突き刺さる雪片――。
攻撃のチャンスなのだが――天狼は反対側のアリーナ壁際に転がり、シャルルの武装は全て破壊され、一夏の雪片に至ってはバリア発生装置に突き刺さり、とても届かない場所の為手が出なかった――。
攻撃のチャンスなのに攻撃が出来ない――しかも眼前に居る黒いISも雪片を抜きにかかろうと動き始める。
アリーナの壁に突き刺さった俺の脇にある雪片を引き抜こうとする黒いISの威圧感――状況がどんどん悪い方向へと流れ始める。
そんな歯痒い状況の中、観客席から聞き覚えのある声が聞こえてきた――。
「ヒルトさん!これを受け取ってくださいな!!」
その声の主はセシリアだった――上を見るや直ぐ側の足元の地表に突き刺さるセシリアのブルー・ティアーズの格闘用ブレード【インターセプター】だった。
――この際、俺に当たったらどうするんだとか野暮な事は言わずに援護してくれるセシリアに感謝しないと――。
「ヒルト!あんた男ならちゃんと決めなさいよッ!!」
鈴音の声が聞こえる――勿論だ、ちゃんと決めるさ。
「ヒルト!ラウラを頼んだぞ!!」
「あなた、私たちの子供ですよ?大丈夫ですよぉ」
親父と母さんの声だ――俺の耳に届き、安心感を与える。
「お兄ちゃん!ボーデヴィッヒさんを…お願いっ!!」
――美冬の声――全試合が中止になったからか、いつの間にか此方に来てたんだな。
そんな皆の声を聞き、脚でインターセプターを空へと浮かすとそれを片手で構え――。
「皆が俺に力を与えてくれる――これで……最後だあぁぁああああっ!!」
構えたインターセプターによる斬り上げ攻撃――胸部装甲にヒビが入った箇所から紫電が走り、その黒い装甲がゆっくりと割れ――真っ二つとなった中からラウラが出てきた――。
そして、眼帯が外れ露になった金色の左目と視線が合うと意識が別の箇所へと飛んだ――。
――???――
気がつくと、俺は裸だった。
それも全裸だ、しかも都合が良く俺の欲望の塊が見えないというよくアニメとかである現象だ。
辺りをキョロキョロしながら歩いていくと――三角座りで俯き、眼を閉じたままのラウラ・ボーデヴィッヒを見つけた――しかも全裸だ、だが残念な事に何も見えない、全裸の意味がない。
そんな残念空間にがっかりしていると――ラウラが問い掛けてくる。
『ヒルト……お前にとっての強さとは――なんなのだ…?』
『…強さ?……また難しい質問だな、ラウラ。――そうだな、生きる意思とか、誰かを想う事とか、そんなんじゃないのか?人によって答えが違うからまあ正しいかはわからんがな、これが』
『……そう、なのか?』
『そりゃそうだろ?強さなんて千差万別、人によりけりってやつさ。まあただ……強いやつも、弱いやつも歩き方を知らないとダメだがな』
『……歩き、方……』
『その道をどうして向かうか、何故向かうか、そして何処へ向かうかってね』
『……どうして向かうか……』
『あぁ、まあ人生何事にもチャレンジって奴かな?遠慮や我慢しても何も始まらないしな、それに――楽しいこといっぱいあるぞ、人生ってさ』
ニッと笑顔で応えると、ポカンとした表情になるラウラ――そしてまた口を開いた。
『――では、ヒルト……?お前は何故強くあろうとする?どうして人として強い?』
『俺が強い?ハハッ、俺が強いはず無いだろ?寧ろ弱い方だよ――でもさ、ラウラが俺を強いって言うなら多分それは――』
『――それは……?』
『家族や友達との絆って奴かな、そういうのが俺に力を与えて――ラウラにとって俺が強く見えるんだよ』
『あ……』
『そんなわけだ、そう言った想いが意思の強さに…それがラウラにとって俺が強く見えるだけさ。まあ俺は全く強いとは思えないがな、はははっ――てか出口何処だよ』
『……ヒルト?』
『おぅ、どうした?』
『こんな私でも……お前の力になれるか?』
『……何言ってるんだよ。友達だろ?俺の友達だからもう俺の力になれてるんだよ』
笑顔で応えると、まるで恋する少女の様に赤面するラウラ。
『はははっ、それはそうとさ――お前の眼ってオッドアイって奴なんだな?』
『う、うむ…。ヒルトは…どう思う?』
『ん?綺麗じゃないか、俺は少なくともラウラの眼、好きだぜ?』
『……っ…』
好きという言葉に反応したのか、更に赤くなるラウラを見て――。
『ふっ、俺に惚れたのか、ラウラ?』
『……っ。な、な、な!?』
『ハハッ、冗談だよ冗談。本気にするなって――お?あそこの光が出口か?――ラウラ、出るぞ?』
『う……わ、私はもう少しここに…』
『…そうか?まあ何にしても、いつまでもこんな残念空間に居るなよ?後、俺とお前が言ったハルト教官との関係はな――――現実で教えるさ、じゃあ後でな、ラウラ』
そう俺は告げ、ラウラの返事を待たずに光差す道を走っていった――。
――第三アリーナ――
あの空間で長く居た様な気がしたのだが、現実世界では一瞬だったみたいでもたれ掛かるラウラを見て――。
「何にしても、助かったなら良かったよ、ラウラ」
――そう呟くと、俺の身体の異変に気づく。
――切り傷や、受けた痛みなどが全く無くなっていた。
確かにさっきまではミシミシと悲鳴を上げてたのだが――正直、声が出せなくなりそうなぐらい痛かった筈だが。
――まあ、小さな問題だしいいかな。
そう結論付けると、上を見上げる。
今日も、良い青空だな――。
後書き
第二形態移行すると思った方は挙手を
残念
そうしても良いかなと思ったのですが、最初から単一仕様発現って決めてました
ページ上へ戻る