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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第九十八話】

――一組教室――


突然ラウラに唇を奪われた俺は、何がどうしてこうなったのか全くわからない状況だった。

軽く唇を開けと言わんばかりに、ラウラの舌が唇に何度も当たると、既に思考が麻痺した状態の俺は、何も考えずに軽く開く――と同時に口内に侵入してきたラウラの舌が、俺の舌を絡めとろうとゆっくりと絡ませてきた。

その度に逃れようとするが、触れ合った唇と唇の間からは互いの吐息が漏れるだけだった――。

端から見ると、明らかに恋人同士がする深い口付けを交わしている状況だが――。


「ん……ふっ……」


そんなくぐもった吐息がラウラの口から漏れると、角度を変え、何度かついばむ様に唇を重ねてくる――そして隙あらば口内に舌を入れ、くちゅくちゅと互いの舌が絡む音が脳内に響いてきて――甘美な時間が流れている様に感じた――が。


パンパンと、ISを纏ったラウラの肩を俺は叩く、理由は簡単、窒息しそうだからだ。

だがそれでも止めず、更に首に腕を回す始末――それと同時に、明らかに俺に突き刺さる視線が多数――怖くてその視線を辿ることが出来ず、ギュッと目を閉じてしまう。

そして再度肩を何度か叩くが、まだラウラは俺を解放せず、深くキスを続けて――そして、此方の舌を吸い上げるようにラウラは唇で吸ってきた――。


「んんっ!?――ぷはぁっ!――ゴホッゴホッ…死ぬかと思った…」


突然の事に驚いた俺は、そのまま無理やりラウラから顔を離すとそのまま咳き込んだ。

危うく窒息死しそうなぐらいの深いキス――と、やっと解放したラウラが俺に言った言葉が――。


「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」


そんなラウラの宣言が、教室を木霊した――。

そして、教室中が静まりかえる中――。


「いやいやちょっと待て、嫁じゃなくて婿だろう!――じゃねぇっ!?危うく死ぬかと思ったじゃねえか、ラウラ!」

「む?――私はヒルトが喜んでキスをしていると思ったのだが――」


そう頬を更に赤く染め上げ、見上げるように俺を見つめるラウラ――ISを纏っているとはいえ、まだ俺の方が目線が上にあるからだろう。

だから――片目――金色の瞳は眼帯に隠されているが俺と同じ色をした瞳が上目遣いの様に見上げる形になっていた。

そんなラウラの視線に照れた俺は、思わず顔を背ける。


いや、まぁ……初キスであんなのは色々ヤバいと思ったが――それ以上に、女の子の唇の柔らかさにびっくりしたのが事実――。


「よ、喜ぶとかじゃないって……てか嫁って何だよ…」

「む?ヒルトは知らないのか?日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだとクラリッサから聞いた。故に、お前を私の嫁にする」


そう言い切るラウラ――てかクラリッサって人、何を間違えた知識を教えてるんだよ……。

そんな心の突っ込みはさておき――。


「いやいや、ちょっと待って。何か色々日本の事を勘違いしてるぞラウ――」


途中俺の言葉が止まる――何故か?

俺の足を踵で思いっきり踏まれていて、あまりの痛さで言葉が喋れなくなっているからだ――。

そして、足を踵で踏んでいる犯人は――。


「お・に・い・ちゃ・ん♪」


そう、俺とラウラのキスを間近で見ていた妹の美冬だった――。


「うふふ、お兄ちゃん?後で説明をお願いするねぇ?」

「……わ、わかったから、踵で踏まないで…!」


ギリギリと踵で踏まれる足のあまりの痛さに若干涙目になる俺。

そんな中、ラウラが何故美冬が怒っているのかを聞き始める――。


「む?何故怒っている美冬?」

「ぼ、ボーデヴィッヒさんがお兄ちゃんとキスするからでしょ!?…あ、あんな深いキス……はぅぅ…」


間近で見ていたせいか、思い出したかのように美冬が真っ赤になった、まるで完熟したリンゴの様に――。


「……美冬、私の事は義姉ちゃんと――」

「よ、呼ばないよッ!?まだお兄ちゃん、あげるなんて言ってないもんっ!」


そう言って腕を絡ませて美冬の元に引き寄せられる俺――妹ながら、腕に伝わる柔らかな感触に気持ちが落ち着かない状況だ…。



「だが美冬…もう私は決めたのだ。ヒルトを私の【嫁にする】と」

「わ、私が許可しないもんっ。そ、それにお父さんやお母さんだって反対すると――て、ていうか男子は十八歳にならなきゃ結婚出来ないんだからッ!」


言い争いがヒートアップしたのか、腕を組むように離さなかった美冬から解放された俺なのだが…言い争いを続ける二人を他所に、俺にはまた新たな問題が出来た。


「おほほほほ、ヒルトさん?少しよろしくて?」

「せ、セシリア……」


イギリス代表候補生、セシリア・オルコット――先ほどと同じような笑顔を見せているものの、目が笑って無く、ぴきぴきと血管マークが浮き出る程ふるふると震えていた。


「えぇ、セシリアですわよ?――ヒルトさん、実はわたくし、どうしてもお話をしなくてはならないことがありまして。早急に、出来れば今すぐにでも――」

「い、今は勘弁してくださいセシリア様…ほ、放課後!放課後にこの私めがご説明を致しますので…」



折り目正しく、思いっきり勢いよく頭を下げる俺。

正直、俺にも何故こうなったのか、理解も出来ず今こうして何故セシリアに頭を下げているのかも全くわからない状況だからだ――。


「……わかりました。では【放課後】に貴方のお部屋へ伺いますのでよろしくて?」

「は、はぃ…正座して待ってます」

「そ、そこまでしなくてもいいですわよ!――では、放課後に」


そう言い、スカートを翻して自分の席へと戻っていったセシリア――それに安堵したその時、今度は――。


「ふふっ、ヒルト?」

「にょっ!?」



今度は未来から声をかけられた――てかホームルーム中なのにたち歩くなよ――何て言ったら多分色々と言われそうなので押し黙る事にした。

――てか突然だったから美冬や未来みたいににょっって言ってしまった…。


「ふふっ、もちろん私にも【説明】してくれるよねぇ~?ヒルトが、何で、そんなに無防備にキスを許したのかを――ね?」


そう言うと腕を組み、ジト目で睨んでくる未来。

山田先生には負けるが、組んだ腕の上に乗っかっている胸がより強調されていた。


「ほ、放課後に……説明をしますので未来も大人しく席に――」

「戻るわよっ!!バカバカバカバカバカ…バーカッ!」


怒濤のバカ連続発言、バカなのは事実だが…幾らなんでも未来、怒りすぎだろ。

……まあ俺も、未来が同じような状況だったらわからないが……複雑な気分になるかもだし。


何にせよ、未来も席に戻ったことだし…後は平行線な言い争いしてる美冬とラウラを――。

……と思っていると、制服の裾をくいくいと引っ張られるので誰かと思い、振り返ってみると――。


「えへへ」

「しゃ、シャル……」

制服の裾を引っ張ったのはシャルだった、いつものように微笑みの王子様――改め、微笑みの王女様の様な素敵な笑顔を見せるのだが――目に光が無く、虚ろな瞳をしていた。


「ヒルトって他の女の子の前でキスしちゃうんだね。僕、びっくりしたなぁ…あはは」


そんな乾いた笑い声と、虚ろな瞳が逆に物凄く怖い印象を俺に与えた。


「い、いや、言い訳になるがあくまでも俺からではなく、ラウラからされたんだぞ?不可抗力だ、うんうん」

「へぇー…不可抗力でボーデヴィッヒさんとあんな深い――まるで恋人同士で交わすキスをするんだぁ…」



多分……何を言っても今は意味が無い気がしてきた…。


「へ、部屋に戻ったらさっきの事について説明をしますのでそれまでご勘弁を…シャル」


……正直、今は時間を置くしか無いと思う。

時間を置いて誠心誠意説明をすれば皆もわかる!――筈だと思うのだが…。


「……わかったよ。その代わり、僕の荷造りも手伝ってね?」

「あ……そういやそうだったな。了解、手伝いながら説明するよ」



シャルが学園に実は女の子でしたってカミングアウトしたから、必然的にシャルは俺の部屋から他の部屋へ移るのは自明の理ってやつだな。

……あの広い部屋で一人は少し寂しくも感じるが――少なくとも一夏と同じ部屋で同居よりはましだと思う。

同じ部屋だと身の危険を感じるからな。

……てかフランス政府はどう反応するのだろうか?

もしシャルが強制送還ってなるなら……何かしら手を打たないといけないが…。


そんな難しい表情をしながらも、織斑先生の一声で。


「小娘ども、そこまでにしろ。今はホームルーム中だ、後で有坂に詰め寄ればいいだろう」


そんな一声で、言い争っていた美冬もラウラも押し黙り――。


「凰、お前も自分のクラスへ戻れ。――それと後日、反省文の提出しろ。理由はわかっているな?」

「は、はぃ…」


流石に織斑先生に言われると鈴音も反論は出来ないようだ――てか反論すれば反省文の枚数増えるだけだが。

――何にしても、朝からまさかキスされるとは思わなかった……ラウラの真意がわからないが…また時間がある時に聞くか……正直、ドキドキしてるから上手く聞くことが出来るかわからないが――。


俺も席へと戻ると、刺さるような複数の視線に冷や汗が流れつつ、朝のホームルームが再開された――。 
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