藤村士郎が征く
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第23話 因縁対決!? 藤村士郎VSロリコニア門番
「ただいまー」
「お帰りなさい、シロウ」
士郎が帰宅すると、待っていたのは肩の部分まで露な黒の無地の夏服に纏い、ジーンズを履いたメリッサだった。
「お帰りなさい、士郎!メリッサ、似合っているでしょう?」
「あ、ああ・・・」
久しぶりに見たからもあるのか、素で見とれる士郎。
士郎が衛宮士郎だった頃は、これがライダーの夏用の基本的な服装だった。
あまりに着飾ってしまうと間桐桜が霞んでしまうから、出来るだけ地味な服装にと選んでいたようだが、美人は何を着ても似合う為に意味は無かった様だった。
事実、士郎の見惚れぶりに機嫌を急速に斜めに傾けていくジャンヌが居た。
「ねぇ、士郎さん。如何して頬を朱に染めてるのですか?」
びくぅ!と士郎は背筋思わず伸ばしてから、自分のしでかしたことに気付いた。
「ま、待ってくれ、ジャンヌ!?俺は何もしてないぞ!」
「ふふふ、何かしていたらこんなモノでは済みませんよ・・・し・ろ・う♡」
ガシャン!
「う」の時点で、ジャンヌのフロンタル・ストレートが士郎の顔面に決まり、玄関の戸を巻き込みつつ、石畳みの上に吹き飛んでいった。
その音に何事かと玄関に一瞬で飛んできた雫。
そんなイベントの最中、居間のテレビであるニュースが流れていた。
『――――続きましては、〇〇県〇〇〇市の路上で、〇〇〇〇〇高校の男子学生2人に女子学生3人が血を流して倒れているのを地元住民に発見されると言う事件が起きました。その後に、病院に搬送され全員命を取り留めましたが、学生達全員全治一年以上の重症だと言う事です。傷の痕からして、学生全員に刀で切られたような痕跡があったと言う事です。警察は殺害未遂事件と言う事で地元住民に話を聞いた処、犯人は青い髪に時代錯誤の侍の格好をした人物と、黒のパーカーで頭から被っていた160センチ位の背の人物の怪しげな2人が目撃されているらしく、犯人の特定を急いでいます。ええ、次に――――』
彼らは明日この似たようなニュースを見ても、気づくかどうか・・・。
この事件を発端に、世界各地を混乱の渦に巻き込むことを彼らはまだ知らなかった。
-Interlude-
翌日の早朝。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
川神院の朝稽古中、百代は道着に身を包んだまま唸っていた。
そこに何時もの様に鉄心が近づく。
「コレ、モモ!何をさぼっとるか!」
「最低限の鍛練は熟したぞ、ジジイィィ」
このやり取りも何時もの光景。
「まったくぅ、一子は鍛錬をとっくに熟してから士郎君の下へ修行しに行ったと言うのに・・・」
孫の態度に溜息をつく鉄心。
そんな鉄心の言葉の中の、『士郎』と言うキーワードに百代がピクリと体を震わせた。
(ん?)
百代の僅かな反応に訝しむ鉄心。しかし、解らないので会話を進める。
「それにしても如何したんじゃ、モモ?今日の夕方からは、義経達に対する外部からの挑戦者の選定と言う事なら、何時ものお前なら勇み足じゃろうに?」
「・・・・・・・・・そう、だ。私にはもう、戦いしかないんだ。戦いしかないんだ、戦いしかないんだ、戦いしかないんだ、戦いしかないんだ、戦いしかないんだ――――」
――――と、暗い表情のまま、ぶつぶつと呟く百代。
(これは、士郎君と何か有ったのぅ)
片方の瞼を開きながら実孫を眺めながら、考えに浸る。
(一子の方の悩みを解決してくれ取る様じゃから、モモの方もどうにかしてくれるんじゃないかと期待しておったんじゃが、流石に虫が良すぎたかのぅ?)
先月に言われた、旧友の嫌みを思い出す鉄心。
(確かに、堕ちたと指摘されれば、その通りじゃワイ。少子化対策による新たな法令に乗っかって、士郎君をくっつけてモモの闘争心を抑え様としたんじゃからのぅ)
そんな思いに浸りながら百代に慈しみに眼をかける。
(しかし、仕方なかろうぉ。藤村雷画が子供や孫を可愛がっていると同じように、ワシも孫のモモも可愛くて仕方ないんじゃぞ?)
鉄心の思いとは裏腹に、未だにぶつぶつと呟き続ける百代。
そんな時、川神市内の何処かで強い氣と氣のぶつかり合いを感じ取る。
(むぅ?今のはヒュームと・・・・・・釈迦堂?じゃのう。な~にしとるんじゃ?こんな朝っぱらから・・・ハァ)
今の感覚は、マスタークラス前後の実力者たちなら気付けて当然の波動。
しかしながら余程気分が落ちているのか、百代は相変わらず鬱状態だった。
「ホント、如何したもんかのぅ?」
天を仰ぎながら困り果てる鉄心。
だが、そんな愚痴に返ってくる答えは当然なく、聞こえてくるのは川神院修行僧たちの鍛錬中の声と孫の呟き声だけだった。
-Interlude-
川神学園、昼休み。
2-Sにて、皆それぞれ好きなように休み時間を過ごしていた。
無論、絶世の美少女ジャンヌ・オーリックもその一人だ。
外国人とは思えぬほどの箸の使い方は勿論、料理の一品一品を口にまで運ぶ所作すらも巨匠の芸術品の如くだ・・・・・・・・・但し、ジャンヌの弁当は十段積みの重箱で、如何すればそんなに体内に収まるのか解らないほどの量を、次々と蝕していくのだ。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
2-S生徒達も最初は圧倒されていたが、今ではもう慣れたのか日常風景化されていたが、編入生4人の内1人は何処かへ行き、1人は身内同然なので最初から動じる筈も無い。
そして残り2人の弁慶と義経は二日目とは言え、未だに驚いていた。
そんな2人に声を掛けたのは、冬馬と小雪だった。
「御2人とも、まだ慣れませんか?ジャンヌさんの食事風景には」
「ま、まあね。何所にあんなに入っていくのか、不思議でしょうがないさ」
冬馬の気安さにも気づかず、苦笑で返す弁慶。
「ジャンヌの胃袋はブラックホールだからねぇ~♪」
「だが、もしかすれば、オーリックさんの強さの秘密は、アレにあるのかもしれないぞ?弁慶!」
そんな風に駄弁っていると、廊下に続くドアが開き、紋白がツルッパーーーー井上準と井の中のかわ――――武蔵小杉を引きつれて来た。
早速、兄の下に近づき挨拶をする紋白。
それを元気よく向かいいれる兄、英雄。
富豪の一族では、昼ドラなど目じゃないほどにドロドロした関係が珍しくも無いらしいが、九鬼兄弟はその“例”から外れて仲が言い様だ。
「学校内での挨拶を済ましていないと思い、参上しました。兄上!」
「うむ。判らない事があれば何でも兄に聞け」
可愛い妹から頼られるのが余程嬉しいのか、心なしか何時もよりも胸を張っているように思える。
「お義兄さん、安心してください。公私ともに俺がサポートします」
しかし、その清らかすぎる瞳は逆効果だった。
明らかに犯罪者予備ぐ――――ペドフィリアの瞳で英雄に語り掛ける準。
「鉄球を弟に持った覚えなどないわ、あずみ!」
「ハーイ☆お任せ下さい、英雄様!」
英雄の呼びかけにより、あずみ手ずから準への尋問&執行が行われ出した。
しかし、このロリコンは、ロリが絡むと誰が相手だろうと一歩も引かない態度で迎撃態勢になるので、反省する気が無いのか性質が悪かった。
「てめぇは、2-Fの甘粕委員長を見てればいいだろうが!しかも公私ともだと!?図々しいにも限度があんだよ!!寝言は寝ながらほざけ――――いや、お前にはその権利もねぇ!!」
「委員長は恋愛対象、紋様は仕えたい対象なんだ!!理想は委員長と結婚し、職場では紋様の部下。・・・ああでも、若の葵紋病院があるんだよなぁ。チクショウ!俺は一体如何すればいいんだ!!」
自分にそんな選択肢が与えられていると思う事すらも、重ねて図々しい。
準の行き過ぎるロリコンぶりに、弁慶は溜息を漏らし義経は余計な事を学んでいた。
それ以前にお互い、言いたい事を口にし合っているだけで会話になってない。
「失礼する」
そんな時、2-Sに銀髪浅黒肌の長身の男、士郎が入って来た。
普段は、鷹の眼を周囲が恐れるのではないかと考慮して、黒縁の伊達眼鏡をかけている。
「アレェ~?シロ兄、如何したの?」
「若、如何しました?」
「藤村先輩!?」
士郎の登場に、ピョンピョン跳ねるウサギと忠犬と人懐っこい犬が、すかさず反応した。
他も、それぞれ別な形で反応していた。
(あれが藤村士郎ですか。なるほど、噂通りのかなりの手練れの様ですね)
(藤村の直系まで来るとは、この学園も日に日に魔窟になっていくのぅ)
士郎は色んな意味で有名であったが、昨日の多対一での決闘で一気に学年問わず有名になったのだ。
「いや、ジャンヌと雫にな。今日は俺だけ遅れて学校に来たから、デザートのケーキを渡せなかったことを思い出して来たんだよ」
「え~!?シロ兄が作ったケーキ、ボクも欲しいなぁ~!」
「そう言うだろうと思って、ワンホール作って来たから複数切り分けて来たから、食べていいぞ」
士郎の気づかいに歓声を上げる小雪。
士郎に運び役をさせてしまって、恐縮する雫。
「どうも有り難うございます、士郎。義経さん達も如何ですか?」
ジャンヌも、士郎の届けられたケーキを受け取りつつ、義経と弁慶にも勧める。
と言うか、既に十段積みの重箱弁当完食したようだった。
「い、いいんですか?」
「いいって言ってくれてるんだから素直に貰おうよ、義経。それじゃ、遠慮なく」
「すいませんね士郎さん、それでは私も。それと、私に会いに来てくれたんですか?」
爽やかな笑顔でチャッカリケーキを取る冬馬。
「なんでさ?ケーキを届けに来ただけって言っただろう!だからさり気無く、俺の体を這うように触るのを即刻辞めろ!」
「フハハハハ!我が友は相変わらずであるな」
「なんと!?兄上のご友人は同性愛者でしたか」
何時もの平常運転ぶりの友、冬馬の反応に笑いながら寄ってくる英雄と紋白。
「英雄と紋も如何だ?まだあるぞ?」
「士郎が作ったのであれば遠慮なく貰おう!」
「わ、我も良いのか?」
「当たり前だろ?ほら」
士郎から受け取る紋白は、甘いものに眼が無くて油断しすぎたのか、士郎に感謝の言葉を述べる際に口を滑らす。
「では頂くぞ!礼を言う『シロ兄』!・・・・・・・・・・・・・・・じゃなかった!?し、士郎!」
遅れて訂正するがもう遅い。
紋白の可愛い発言を知らなかった者達で、限度を見極めながらいじる生徒諸君。
「紋よ、何故言い直したのだ?」
「何の事です兄上!?我は、初めから士郎と呼び捨てにしましたよ!?」
「いやいや、今確かに紋白は、藤村先輩だったか。あの人の事を『シロ兄』と呼んでいたよ」
「弁慶!?」
「そうか。紋白は藤村先輩の事を、その呼び方で慕っているんだな」
「義経!?」
しかしながら、それを聞き捨てならないと思う者が1人だけいた。
「如何したの、ジューン?」
体全体をプルプルと振るわせている準に向けて、何気なく尋ねる小雪。
「・・・・・・・・・・・・っ!もう、我慢ならねぇ!藤村士郎、この俺と決闘しろォオオオ!!」
あずみから解放されていた準が、唐突にそんな事を大声で士郎に向かい宣言する。
当然、心当たりのない士郎は一瞬呆然とするも、直に正気に戻る。
そして――――。
「なんでさ?」
――――と、何時もの口癖を呟くのだった。
-Interlude-
あれから、昼休みがもうすぐ終わるだろうから、決闘を何故か放課後に受ける羽目になった士郎は、自身の教室に戻るため廊下に出た。
「まったく、準の奴は一体如何したって言うんだ・・・」
ワケも分からず、受けないとならない理不尽にぼやく士郎。
そこに、つれしょんでもしてきたのか、大和と源忠勝の2人がトイレから出てきたとこに遭遇する士郎。
「よっ!忠勝」
「っと、士郎さん?如何したんですか?下の学年に」
士郎の挨拶に、まるで上官に遭遇したかのように背筋をピシッとさせる忠勝。
「ジャンヌにちょっとな。それ以前に如何して、忠勝が俺がこの学園に編入されていることを知ってるんだ?」
「本気で言っているんですか?士郎さんは昨日、決闘したことで学園で一気に有名人になったそうですよ?そうなんだろ、直江?」
「え?う、うん。そうだけど・・・。ゲンさん、この人と知り合いなの?」
「まぁな。・・・それにしても、相変わらず自分の事に成ると鈍いですね?」
忠勝の皮肉に「ほっとけ」と、短く返す士郎。
しかし、蚊帳の外状態になっている大和からすれば、そんな何気ない会話から士郎と忠勝の親交の良さと言うモノが滲み出て来るようで、忠勝を慕っている身としては少々妬けるモノだった。
「呼び止めて悪かったな。俺も教室に戻るから、忠勝と直江大和君だったな・・・・・・出来るだけ直に戻るんだぞ」
それだけ言って士郎は階段を上って行った。
-Interlude-
「――――と、言う事があったんですよ」
放課後、第2茶道室。
大和は、人間学兼2-S担当のダメ人間を絵に描いたような教師?、宇佐美巨人と将棋を指して遊んでいた。予備の茶道室を私物化してしまうような駄目っぷりである。
そんな似非教師に大和は、雰囲気が父親に似ているからと言う理由から懐いているので、序でに今日の出来事の相談中でもあった。
「なるほど・・・。だがそりゃ、当然だな。忠勝は士郎の事を尊敬しているからな」
「ゲンさんが、特定個人を尊敬してるんですか!?初耳ですよのんな事!」
(お?)
知らなかった事実に、悪手を無意識に指した大和の手を見逃さず、姑息に話しながら攻め込む巨人。
「それに、宇佐美代行センターも何度か助けてもらってたりしてな。藤村組の関係者としても個人としても、それ相応に親交があるんだよ。最近は監視の目が厳しいって事で、抜け出せない様だが」
「監視の眼?」
「ああ、アイツは藤村組の次期総組長候補なんだよ、つまり坊ちゃんだ。だから、アイツを昔からお守していた藤村組の構成員なんかに、立場を考えてくれって小姑のように言われてるんだとさ。既に一躍有名になったから、耳に届いてるだろうが、EU全土をまたにかけるオーリックカンパニーの現CEOの孫、ジャンヌ・オーリックとも婚約中だからな」
「え?あっ、はい・・・」
(ん?)
自分の説明に何故か気落ちする大和に対して、訝しげな眼を剥けると同時に、また悪手を指していたので姑息な以下略。
「そ、そういえば、武士道プラン何かで先制疲れてるんじゃないですか?」
「2人きりの時は敬語はいいって。・・・・・・思ったほどは疲れてねぇーな」
無理矢理な話題変更ではあったが、特に突っ込む理由も無いので流れに合わせる巨人。
巨人から見た3人の特徴なんかも交えて話す巨人が、与一の事で相談すると、触れられたくない部分に掠ったのか、苦虫を噛み潰したよう顔をする大和。
そんな話を続けていると、廊下から誰かの足音が聞こえてくる。
「先生、誰か近づいて来るよ?」
「通り過ぎんじゃね?こんな空き教室に用なんて無いだろ」
「ところがどっこい、興味あるのさ」
言葉と共に入室して来たのは、噂をすれば何とやらの弁慶さんだった。
そんな自堕落が似合いそうな3人が揃った時、物語が始まる・・・・・・のかもしれない。
-Interlude-
物語が始まるか否かはどうでもいいが自堕落3人組が茶道室に揃った頃、第2グラウンド上にて準と士郎の決闘が行われようとしていた。
ギャラリーは、いたって少ない。
葵冬馬に榊原小雪、ジャンヌ・オーリックに暁雫の4名だけだ。
因みに審判役は冬馬だ。
武士道プランなんかで多忙だろうと気を遣ったのと、身内ごとだから必要ないと断った結果だった。
「遂にこの日が来たっ!けじめを付けさせてもらう、藤村士郎ぉおおおおお!!」
今にも跳びかかってきそうな剣呑なオーラを纏わせる準の表情は、鬼神の如くぎらついていた。
「なぁ?そろそろ理由を教えてくれよ、俺が留学から帰ってきた時から避けてた事にも関係あるんだろ?」
嫌な予感がしたので聞きたくは無かったが、一応理由について答えを要求した士郎。
「ああ、その通りさ。士郎さん、アンタがEUの〇〇〇〇〇〇〇の王女様に求婚された事さ!」
「アレ・・・・・・ですか」
ジャンヌは思い出したかのように嘆息する。
そう。士郎は留学中に、お忍び中の在る国のやんごとなきお方がトラブルに巻き込まれているのを助けた上、何時もの女誑しっぷりをいかんなく発揮して誑し込んだ事があったのだ。
「あ、あれについては、俺には婚約が既に決まっていたジャンヌが居たって事で、諦めてもらったんだぞ?」
「そう言う事じゃねぇのさ。俺が言いたのは、あの王女様は俺達ロリコニア建国同盟にとって希望の星だったんだよォオオオオオオオ!!!」
「は?」
準の言っているのは王女様の体型がロリコン好みだったと言う事だ。
「だが、確かにあれはもう終わった事だ。だから俺は何も言わなかったじゃないか」
「その代わりにふて腐れて士郎さんを避けてたんですか?準」
「若、もう少しオブラートに言葉を選んでくれてよ・・・」
冬馬に向けて会話している時に士郎は、溜息をついた。
「それでは何故、今になって士郎さんに対して決闘を挑むなどと言う、無謀な事をしたんですか?」
「それは――――に―――――――」
「何だ?もうちょっとハッキリ言ってくれ」
「紋様に、『お兄ちゃま』って言われてたからだぁあああああああ!!!」
『は?』
準の言葉に、物の見事に全員揃ってはもった。
「しらばっくれる気かぁああああああ!!昼休みで紋様に『お兄ちゃま』って呼ばれてただろうがぁああ!!」
紋白が士郎に対して口にした愛称は『シロ兄』だった筈だが、如何やら彼の聴覚から神経を伝って脳に行きつくまでに、『お兄ちゃま』に無理矢理変換されながら認識されたようだ。
「何言ってるの?このハゲ!紋白はボクと同じで『シロ兄』って言ったんだよ!」
「な、何だと!?」
如何やら誤解が解け――――。
「若だけでなくユキまで、お得意の天然ジゴロで誑し込んだのか!?家族同然と公言していた妹分にまで手を出すとは、この鬼畜外道!それでもあんた人の子か!!?」
「何言ってるんだこの丸坊主!ボクは確かにシロ兄の事は好きだけど、あくまでお兄ちゃんとしてだー!」
「フフフ、やっぱり分かっちゃいますか?そうなんですよ!私は士郎さんに身も心もメロメロに魅了されてしまったんです。例え、ジャンヌさんと言う番が居ようと、簡単に諦めきれるものではありません」
「やっぱり誑かしていたのか!し~か~も~っ、ユキにお兄ちゃんと呼ばせて妹プレイをさせるだと!?ユキを女として見れないから興味なんて無いが、俺だって紋様や甘粕真与に『お兄ちゃま』って、呼ばれたいんだぁああああああああああああ!!!」
「一々ぎゃあぎゃあ煩いよ、このペドが!・・・・・・って言うか、そんなに大声で公言してるくせに年上にしょっちゅう挑発するって事は、実は年上好きでマゾだったりして♪」
「――――だと言うのに、士郎さんは私のこの純真に振り向いてくれない事は勿論、報いも無いんです。これでは欲求不満の上、狂ってしまいますよ。ですからお障り位OKして下さい」
「俺はロリコンだって言ってんだろっっ!!!?年増何ざ願い下げだ!!あと、相手が幼女なら俺はSだろうとMだろうと、どんな要求にも応えてみせる!!」
「うわーーーん!ハゲが変なキレ方をしたよーーー!こうなったら今すぐ、あずみとかマルギッテとかモモ先輩とかにハゲが文句言ってたって送信しちゃうもん!」
「――――それで士郎さんは、受けと攻めどっちが好みですか?私はどちらもイケるのは勿論、士郎さんに抱いてもらえるなら、どんな激しいプレイにも応えてみせます!何なら今此処で――――」
「やーーめーーろーー!?俺の命が風前の灯火になるじゃねぇか!悪かったから許してくれ!?どんなお願いでも聞くから!な!?」
「なんでも?じゃ、じゃあ、ロリコニアの建国を今から中止して!それなら許すよ」
「――――それとも獣〇プレイが好みですか?最近興味を持っているのは、いやお恥ずかしい話・・・・・・実はエイなんで――――」
「そんな事をするなら俺は死を選ぶ!!!」
「即決!?なんてロリコンなのだ・・・」
「――――ですから最近は、人間以外の交〇の仕方もよく観察したりしてるんですよ?何事も経験ですからね」
士郎と対面しているはずの準は、観客側と審判側に居る冬馬と小雪と混沌な会話を繰り広げている。
この3人だけでも、風間ファミリーのエキセントリックさに匹敵するんじゃないかと思われる位の、濃厚さだ。
特にさっきから冬馬がカミングアウトし過ぎである。
この状況に深いため息をつく士郎と、名前すらも会話の中に出てこない蚊帳の外状態のジャンヌと雫。
気の運用法をいつの間に修得したのか、冬馬がウインク時に送られてくるハート型の具象気体を腕で払うように横薙ぎで消し飛ばす士郎。
そんな士郎に気付いたのか、人差指をびしっと向ける準。
「何を呑気にリラックスしてやがる!俺の本気を見せたらぁな!」
言うと同時に素早い動きで駆けてくる準に、一切の動きを見せずに待つ士郎。
「オォーーール、ハーーーィル、ロリクォーーーニィアアアア!!」
意味不明な叫びと共に準は、スクリューアッパーを繰り出す。
それを楊の如く躱して首に手刀を一発入れる。
「うぐっ!?」
その強い衝撃に意識を持っていかれそうになる準は、何とか堪えて踏みとどまった。
「おっ!」
士郎としては、気絶させるだけで痣に成らない様な絶妙な力加減で攻撃したにも拘らず、耐えきった事に賞賛をする思いだった。
「くぉのぉおおお!!」
「おっと」
やけくそパンチを避ける士郎。
「説明しましょう。準はロリが絡む空間では無限にパワーアップしていくのです。そして、どれ程格上の人物からの攻撃であろうと、一撃だけは防ぐことを可能にしているんです」
ズドン
「がふっ!」
冬馬が誰に向けてかの説明が終わると同時に、士郎の正拳が準の鳩尾に見事に決まり、涎を垂らし長しながら膝を折る様に崩れ去る準。
「ク、クククク、さ、流石は俺達のごふっ、兄貴分だぜ。ハァ、ハァ、だ、だが、俺を此処で倒しても第2、第3のロリコニア建国同盟構成員がいず、れ、アンタ・・・・・・を・・・」
どこかの敵役の負け台詞に近い言葉を言い残しながら、今度こそ意識を手放す準。
「まったくしょうがないハゲなのだ~」
そんな風に愚痴りながら準に近づいて行く小雪。
「井上さんと同じ性癖を持つ第2陣第3陣の知り合いが来たところで、若に関係があるとは思えませんが・・・」
準の言い残した言葉を、1人真面目に検分する雫。
「ハァ、なんだかな・・・」
実に下らなかった騒動に、改めて溜息をつく士郎。
「取りあえず、準君を運んで一子対義経さんの戦いの場に行きましょう」
「・・・・・・そうだな」
ジャンヌの言葉に賛成した士郎は、小雪に先ほどから頭をペシペシ叩かれている準に近づき持ち上げた。
そんな益も無い、放課後のひと時だった。
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