IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第462話】
前書き
いつもながら遅れました('A`)
「ゆっくりし過ぎた……」
俺の呟きも、クラスの喧騒の中へと消えていく。
タッグマッチ締切が本日の夕方五時、それまで俺は何をやってたんだと言われれば……クラスメイト、主に代表候補生とえっちな事ばかりしていたとしか言えない。
――いや、気持ちよかったんだけどな、これが。
それはそうとして、流石にそろそろ更識さんを出迎わないといけないと思う。
悠長に返事を待っていた結果がこれなんだし、昼休み辺り四組に赴かないと――。
「ヒルト、そう言えば聞いた?」
「え? ――美春か、どうした?」
唐突にやって来た美春、後ろ手を組み、覗き込む様に見てくる。
「うん。 んとね、今日、購買のパンが売り切れなんだって。 ……最近イチゴのパンがお気に入りだったのに、凄く残念」
残念そうに溜め息を吐く美春を見て、少し前までISコアだったなんて誰が信じるだろうか?
何だかんだで人間社会に順応してきてる辺りは美冬や未来のお陰だろうと思う。
――購買のパンが売り切れ、その言葉に更識さんがパン食だったのを思い出す。
購買で買えないなら、嫌でも学食に行くしかないだろう。
「美春、教えてくれてありがとう」
「へ? ――ま、まぁ、ヒルトの役に立ったなら嬉しいけど? ――パンが売り切れの情報で何でお礼言われたんだろぅ……」
疑問符を浮かべつつ、お礼を言われた事は嬉しいらしく、僅かに頬に赤みが差していた。
取り敢えず、四時限目終了と共に四組に向かうとするか。
そう思っていると、休憩時間終了のチャイムが鳴り響いた――四時限目の一般科目の授業が始まる。
――四時限目終了後――。
相変わらず授業内容がちんぷんかんぷん過ぎて泣けてくる――マジでセシリア達に家庭教師を頼まないと色々と不味い。
――が、今はパートナーの締切が迫ってる方が不味いのでそちらを優先、取り敢えず財布をポケットに突っ込むや、勢いよく教室を後にした。
「ヒルトー? 廊下で走ったらダメよぉ~?」
間延びし、ふわふわとした声が前方から聞こえてきた――母さんもとい、有坂先生だ。
「うっ……。 い、急いでるからご勘弁をーっ!」
「あらあらぁ? ――うふふ、そんなにトイレを我慢してたのかしらねぇ~」
クスクスと母さんの笑う声が聞こえてきた、残念ながらトイレではないのです。
取り敢えず猛ダッシュで四組に入る、入るならざわざわとざわめくが気にせず更識さんの元へと一直線に向かうや――。
「更識さん、一緒に食堂に行こうっ!」
「…………え?」
きょとんとした表情を浮かべた更識さん、状況を飲み込めない様にも見える。
「ん、せっかくだしご飯一緒にどうかなって思ったんだが……」
「ぇ、ぇ……と……」
視線が泳ぐ更識さん、正直注目を浴びてるので早く出て飯にしたいのだが――。
「……ぅん、ぃぃ……よ?」
小さな声で返事をし、小さく頷いた更識さん。
了解を得たという事もあり、ホッと一息吐くと共に、早く並ばないと食べる時間が短くなると感じた俺は――。
「そうと決まれば善は急げってね、食堂に行こうっ!」
「ぁ……」
多少強引かもしれないが、彼女の手を取って俺は足早に四組を後にする。
その行為自体が目立つ為か、廊下で擦れ違う女子からの注目を一身に浴びていた。
「あ、有坂くんっ……。 は、離してっ……」
「わ、悪い。 ――で、でももう少し我慢してくれ、腹ペコだからあまり待ちたくなくて……」
本来ならおぶるとかお姫様だっこするという手法もあるにはある、だがこれは専用機持ちの子に見つかった時のリスクが半端じゃない。
階段から落ちないように彼女の手を引き、そのまま階段を降りていくと食堂へと向かう途中であろうセシリアの姿を見つけてしまった。
「あ、ヒルトさ――」
「わ、悪いセシリア、急いでるから!」
更識さんの手を引いたまま、俺はセシリアの横を抜けていく。
「…………どういう事ですの……?」
背後からそんな声が聞こえると共に黒い殺気みたいなものを感じてしまった――振り返るのが怖いので、俺は勢いそのまま食堂へと向かう。
渡り廊下を抜けていく最中、今度は美冬の姿が――。
「あ、お兄ちゃんと更識さ――」
「美冬、悪いが腹ペコで早く飯食べたいんだ、また後でな!」
「ごめ……なさぃ……」
更識さんの消え入りそうな謝罪声で謝っていた。
「……お兄ちゃんったら、お仕置き、かなぁ? えへへ……」
――それはさておき、美冬も美冬でさっきのセシリア同様黒い殺気を放ち始めた――怖すぎる。
そんなこんなで食堂ホール前へと到着し、ドアを開けると其処は既に女子生徒で一色に染まっていた。
「む、やはり購買のパンが売り切れって事だから人が多いな。 一部弁当組も此方で食べてるし」
「そぅ、ね……」
控え目に答える更識さん、食堂ホールは活気溢れているため、更識さんの言葉は完全に消されかけていた。
そのまま手を繋いだまま俺達はカウンターへと並ぶ、この人数だといつもの量を頼ぶと遅延の元になるため、控え目に選ばないといけない。
日替わりメニューを横目で見る、今日はどうやらチキン南蛮定食らしい……。
「更識さんは何を食べるんだ?」
「………………ぇと」
彼女の方を振り向きながらそう言うが、まだ悩んでるらしい――視線を追うと、ジャンボカツカレーが見えた、隣は海鮮丼だ、列びが微妙な気がするが。
「ジャンボカツカレー食べたいのか?」
「……ぅぅん。 ……肉、嫌いなの……」
そう言って小さく首を振った、肉が嫌いなのは勿体無いと思いつつ、隣の海鮮丼を勧めてみるとそちらも首を縦に振らず、すると――。
「う……、うど……」
「え?」
少しだけ声を大きくして喋るも、やはり女子生徒の活気溢れる声に負けて聞こえづらい。
顔を近付けると一瞬ビクッと反応して困ったような表情を見せた。
「うどんが、いい……」
「うどん? OK、じゃあオプションに何かつける?」
「………………」
こくんっと小さく頷いた更識さんは、小さな口を開いて――。
「かき揚げ、欲しい……かも……」
「かき揚げ? 了解、ここのかき揚げはしっかり揚げてるから美味いよな?」
同意を求めるように更識さんを見ると、僅かに頬を赤くして小さく頷く。
「う、うん……。 美味しい……」
「うん、なら食券買うか? 取り敢えずテーブルを何処にするかだな」
言いながら周囲一帯を見渡す――が、ほぼほぼ埋まっていて、相席するしかない状況に思えた。
「あ……。 テーブル、奥の方が……空いて……る、から……」
そう言って指差す先は確かに人が居なかった、ちょうど俺の視界からでは女子生徒の妨害があって見えなかった所だ。
「確かに空いてるな。 ……更識さん、目が良いんだな? 目が良いってよりは状況把握がいいのかも」
そう言いながら俺はジャンボカツカレーの食券とかき揚げうどんの食券を提出した。
「べ、別に……ふつう……かと」
「そうか? 少なくとも俺よりは把握出来てそうだがな、これが」
「………………」
少しうつ向く更識さん、もしかすると言い過ぎたのかと思ったのだが褒められて照れてるだけだった。
カウンターからメニューが出され、俺と更識さんはそれぞれのメニューを持って席へと向かう。
「そういや、更識さんは何で眼鏡を掛けてるんだ? 見たところ視力が低そうには見えないが」
「これは、携帯用ディスプレイ……だから……」
俺の一門に直ぐに答えてくれる、それが俺には少し嬉しかった。
「携帯用ディスプレイなんだ? 空中投影ディスプレイにはしないのか?」
「あれは……高いから……。 まだ、買えない……」
「確かにな、技術的に見ても最新鋭だからな……復旧率的に見ても低いし、個人所有だと俺らじゃキツいかも」
「うん……」
同意する様に頷く彼女を連れ、俺は更識さんが見つけた奥のテーブルへと向かった。
普段利用する食堂だが、晴れた日は基本的に窓側の席というのは景色を楽しみたい女子には人気だ。
奥の席の方になると距離があるため、空いてる事もあるらしいが、少なくとも俺が来るタイミングでは埋まってる事の方が多い。
――何にしても、空いてるならそれに越した事はないんだがな、これが。
奥の席へと辿り着くと、俺はテーブルに頼んだジャンボカツカレーを置いた、向かい側に座った更識さんはかき揚げうどんを置き、椅子に腰掛ける。
窓向こうの景色を横目で見る――絶え間なく海は波打ち、穏やかな模様を映し出している。
「あり、さか君……? 外、何かある……の?」
「ん? 特に何もないさ。 ――いつも通り、穏やかな海だなってな」
「そぅ、なんだ……?」
僅かに微笑を溢した更識さん、彼女もちらっと海を眺めた。
「何にしても、このオーシャンビューは贅沢だなって――てか食べようか?」
「ぅ、ぅん。 い……いただき、ます……」
手を合わせ、律儀にそう言うや割りばしを割る更識さん。
俺もいただきますとだけ言うや、スプーンで豪快にカレーを食べ始めた。
「……す、ごい。 ――有坂、君……良く噛まないと……」
「んぐ? んむんむ……うぃ、ちゃんと噛んでるから大丈夫大丈夫」
ニッと笑顔で応える、更識さんは眉根を下げて困ったような表情を見せつつ、割りばしでかき揚げを汁の中に何度も沈めていた。
咀嚼しながら俺はその様子を眺める――そういえば、ラウラはかき揚げはサクサク派だなと脳裏に過った。
――まあそんな俺も、サクサク派何だが――とはいえ、食べ方は人各々だから文句は言わないが。
「……有坂、君……? 私の、食べ方……おかしい……?」
「ん? そんな事はないぞ? 更識さんはかき揚げを汁に漬ける派だろ? どんな感じなのかなって思ってな」
「……そぅ。 ……でもこれは、たっぷり全身浴……こうするのが、好き……」
言いながら表情は綻び、何だがワクワクしているように見えた。
――何だが、俺もかき揚げうどんが食べたくなってくる。
カツカレーを半分ほど平らげ、コップの水を半分ほど飲むと俺は――。
「さて、もう一回並んでくるかな」
「ぇ……?」
席から立ち上がると、驚きの表情と共に俺へと視線を向けた更識さん、口を開くと――。
「有坂君……どうか、した……?」
「あぁ、更識さんのかき揚げうどんが旨そうに見えてな、頼んでこようかなってね」
正直、サクサクのかき揚げを食べたくなった――人の食べてる物が美味しそうに見えるのは何故だろうかとも思う――と。
「ぁ、有坂、君」
「ん?」
「ひ、ひ、一、……口なら……ぁげる……」
言ってから僅かに頬を上気させた更識さん、かき揚げを見ると一口食べた後が見えた。
「……良いのか?」
「ぅ、ぅん……」
言ってから割りばしでかき揚げを割く更識さん、ちゃんと口をつけた場所を避けて一口サイズで切り分けた。
「ど、どぅ……ぞ」
そう言って口元へとかき揚げを箸で持ってくる更識さん。
彼女はそんな大胆な事はしないと思っていたのだが――とはいえ、食べずにいても疑問に思うだろう。
事実、若干首を傾げながら「食べないの?」といった感じの表情を浮かべている。
意を決し、口を開いてかき揚げを食べる――汁で全身どっぷり浸かったかき揚げはサクサク感は無いものの、うどんの汁を吸って味としては絶妙な感じだ。
「ん……旨いな、全身浴のかき揚げ」
「……良かった」
僅かな微笑を浮かべ、うどんを啜る更識さんだが――徐々に、徐々にだが顔が真っ赤に染まっていった。
もしかして、今間接キスしたことに気付いたのだろうか?
耳まで真っ赤に染まった彼女を眺めながら、俺も残ったカレーを一気に平らげた。
昼食も食べ終え、言葉少なく俺達二人は互いの教室に戻った――そして、五限目の授業の合間にタッグマッチトーナメントのパートナーの話をするのを忘れていたのに気付き、内心俺はバカだと嫌悪してしまった。
――放課後、また彼女の元へと向かわないと……そう思いつつ、授業中にも関わらず、セシリアと美冬の視線に冷や汗が流れるのを感じた。
後書き
そして風邪をひいてもた('A`)
とはいえ、ほぼ完治してるのだが( ´艸`)
咳が止まらないのがキツい('A`)
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