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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第152話】

――花月荘大広間――


「作戦完了――と言いたい所だが有坂、お前は部屋で待機と言われ、それを脱け出し、独断専行による単独での福音との交戦という重大な命令違反を犯した。帰ったら一週間以内に反省文の提出及び懲罰用トレーニング――そうだな、ついでだから夏の夏期講習も用意してやろう」

「……ぐぉ……夏期講習いらねぇ……」

「……なら代わりに、特別レッスンでも受けるか?毎年参加人数が居ない私が特別にやるスペシャルなレッスンだ」


 そんな感じに俺は正座させられ、現在きつく言われている途中だ。

 皆は大広間の外――というか襖を開けて覗き見してる現状だ。

 俺が【独断専行】したという事で、他の面々は俺を捕らえ、拘束(実際は拘束されずに普通に帰って来たが)したという事もあり、懲罰は免除。

 まあこれが俺にとっての筋書き通りなのだが……。

 何やら夏休みが潰れそうな内容の懲罰に……。


「聞いているのか、有坂?」

「はっ、ちゃんと聞かせていただいてる所存でございまする故……」

「ほぅ……かれこれ三十分程正座をして堪えてるとは思ったのだが。――その膝の上に何か重石でも載せてやろうか?それとも、私が乗ってやろうか?」


 それは別な意味で御褒美な気がしなくも無いのだが、多分思いっきり打鉄纏って座るとかされるかもしれない。



「いぇ、遠慮させていただきます」

「ほぅ。なら代わりに真弥に座ってもらうか?んん?」

「わ、私ですか!?」


 なんというとばっちり――てか山田先生が膝に座るのもそれはそれで御褒美な気がしなくも――。

 等と思っていると、織斑先生が。


「フッ、安心しろ。冗談だ」

「……織斑先生、冗談言うの慣れてないのですか?」

「…………」


 何故か顔を背ける織斑先生、しかも気恥ずかしさからか頬が桜色に――。


「こほん。――ともかく、懲罰の内容は以上だが。……明日、時間があれば模擬戦の準備をしてやろう……」


 そっと耳元で告げる織斑先生の吐息が耳に当たり、ゾクゾクする。


「……模擬戦?」

「……あぁ。そこでお前が勝てば、懲罰の夏期講習とスペシャルレッスンは免除してやる。異論は?」

「……特には無いですが、相手は誰が?未来やラウラだと多分夏期講習確定になりますが」

「安心しろ。お前にとっての【リベンジマッチ】を用意してやろう」

「……リベンジ?」



 そう告げる織斑先生は不敵な笑みを浮かべる。


「まあここまででいいだろう。……山田先生、彼処で覗き見している皆を大広間へ。有坂、もう足を崩せ」

「わ、わかりましたっ」

「了解っす」


 言われ、早速胡座をかき、山田先生は慌てたように大広間の襖を開けた。


「じゃ、じゃあ皆さん、入ってきてくださいね。そこから一度休憩してから診断しましょうか?勿論、皆さんちゃんと服を脱いで全身見せてください。――あっ!だ、男女別ですよ!わかってますか、有坂君!織斑君!?」

「……わかってますよ」


 気だるそうに返事をする俺、何気に女子全員が部屋に入り、山田先生が『脱いで』と言った辺りで女子一同が自身の胸を隠すような仕草をした。

 ……今更隠しても、大体の専用機持ちのおっぱいは見た後なんだ。

 見てないのが篠ノ之と鈴音ぐらいで、他全員――。


「あはっ♪お兄ちゃん?何をエロ妄想してるのかなぁ~?」

「……何でいつもお前にバレるんだよ、美冬」


 言って、何処からともなく取り出されたハリセンが頭に炸裂――心地好い音が大広間に響いた。


 久々にハリセンで叩かれたのだが、一体何処から出してるのか――もう手に持ってないしな。


「それじゃ、皆さんまずは水分補給をしてください。夏はその辺りも意識しないと急に気分が悪くなったりしますよ」


 山田先生がそう言うと、皆が返事をする。

 そして、各々にスポーツドリンクのパックを受け取る。

 不満を言えば、温めの温度なのが不満だが、これも身体に考慮しての事らしい。

 別に俺はそんな柔な身体じゃ無いんだが、それを言うと一夏にくどくどと爺の説教並に言われる。

 家族に迷惑かけるだの何だのって、迷惑かかりそうなら施設に入るって。

 そんな文句を心の中で言いつつ、飲み終えたスポーツドリンクのパックをゴミ箱へと捨て大広間から出ようと歩くのだが――。


「「「…………」」」


 道中足が止まり、皆が一様に一夏を見――もとい、睨んでいた。


「……一夏、早く大広間から出るぞ?」

「え?何でだ?」


 俺の言葉の意味も解らず、頭に疑問符を浮かべている一夏を見、俺はこめかみを指で押さえた。

 そして、女子一同から――。


「「「とっとと出てけ!」」」

「え?何で――」

「……わりぃな皆。こいつはどうも状況判断能力の欠如が凄まじい様でな。――一夏、とっとと出るぞ」

「ぐぇ。痛い、痛いからヒルト!アイアンクローで掴むなよ!」


 一夏の顔面にアイアンクローを決め、グッと力を込めて引きずり、大広間から出ていく。

 ぴしゃりと閉められた襖に、一夏を凭れさせ、俺は通路を歩いていく。


「ヒルト、何処に行くんだ?」

「トイレだよ。三十分も我慢してたんだから」

「そっか。なら俺はここに居るからな?」


 そんな言葉を背に受け、俺はトイレへと向かった。


――男子トイレ――



 男子トイレに入ると、先客がいた。


「よぅ、ヒルト!」

「親父か……」


 先に用を足していたのは親父だった。

 その隣に行き、俺も用を足すと隣から覗き込んでくる親父。


「……ほぅ。息子のムスコも成長したもんだなぁ。ワッハッハッ!」

「……親父、中学生かよ。別に風呂でわかる事じゃねぇか」

「それもそうだな。ワッハッハッ!」


 トイレに響く、親父の高笑い――そして。


「ヒルト、俺と母さんは明日の朝一番でアメリカに戻る」

「……そっか。美冬が寂しがるな」

「……お前はどうなんだ?」

「俺?……寂しくないと言えば嘘になるな」

「ほほぅ……。息子からそんな言葉を聞くと、俺としてもお前に頬擦りしたくなるな」

「フッ、勘弁してくれよ親父」



 僅かな微笑を浮かべ、親父に告げると親父もニカッと笑顔で応えた。


「……何にしても親父、母さんの事任せるよ。テロリストに狙われてるんだろ?」

「……あぁ。まあ一応PPSもあるし、真理亜自身も狙撃や自爆テロ対策に身を守る【IS技術を応用した防御装置】を見に着けてるからな」

「……それでも念のためにな?」

「……お前も、皆の事守ってやれ。女尊男卑とはいえ、女は男に守られたがるもんなんだよ。例え情けなくてもな」

「……そっか」



 その一言だけを言うと、トイレには用を足す音だけが響く――そして。


「……さて、これから飯だな。俺達は自分の部屋でだがお前たちは違うだろ?」

「ん……。そうだな」


 用を足し終えた親父は手を洗い――。


「夜は俺も真理亜も少し外で散歩するからな、先に寝てていいぞ?」

「ん?俺も脱け出すつもりなんだが」

「……そっか。ならあまり変なことするなよ、ヒルト?」

「親父もな」

「ワッハッハッ」


 そんな笑い声だけを残して親父はトイレから出ていった。

 俺も用を足し終え、手を洗い、大広間へと戻っていく。

 既に陽は落ち、窓から見える景色は月明かりに照らされた砂浜だけだった――。 
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