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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第154話】

 
前書き
前半立ち聞き

中盤鈴音と会話

後半は―― 

 
――岬――


 月明かりが辺りを照らす中、俺はこの先にある岬へと足を運ぶ。

 砂浜を歩き、そこを抜け、坂を歩いて行くと岬には先客がいた。

 月明かりに照らされ、その容姿が鮮明に見えた。

 篠ノ之束博士が、岬の柵に腰掛けている。

 そして、その背後にある森にも同じ様に人影が見え、俺は悟られないように屈み、ゆっくりと進んだ。

 そして、森の中に身を潜め、徐々に近付いていくと人影は篠ノ之束博士に近づいて行った。

 風に乗って、言葉が聞こえてくる――。


「は~。それにしても白式には驚くなぁ。まさか操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで――」

「――まるで、『白騎士』の様だな。コアナンバー001にして初の実戦投入機、お前が心血を注いだ一番目の機体に、な」



 織斑先生の声だった。

 漆黒のスーツに身を包み、いつもの様な威厳に満ちていた。


「やあ、ちーちゃん」

「おう」


 もう少し近くで様子を見ようと、ギリギリまで近づく。

 互いに背中を向けあったまま、二人は会話を続けた。


「ところでちーちゃん、問題です。白騎士は何処に行ったんでしょうか?」

「白式を『しろしき』と呼べば、それが答えなんだろう?」

「ぴんぽーん。流石はちーちゃん。白騎士を乗りこなしただけの事はあるね」

 ……白式のコアが白騎士?

 そんな心の声に反応するように、ムラクモが答える。


『……そうよ?ヒルトの前でも私、白ちゃんって言ってたでしょ?』

『……俺は白式って呼びにくいから上の白を取って白ちゃんって呼んでるのかと思ったぞ』

『まあ同じ白がつくからね……』


 俺とムラクモのやり取りを他所に、更に会話が続いていく。


「それで、うふふ。例えばの話、コア・ネットワークで情報をやり取りしていたとするよね。ちーちゃんの一番最初の機体『白騎士』と二番目の機体『暮桜』が。そうしたら、もしかしたら、【同じワンオフ・アビリティーを開発したとしても、不思議じゃないよねぇ】」

「………………」


 織斑先生は黙ったまま木に凭れる。

 そんな事はお構いなしの様に、篠ノ之博士は言葉を続ける。



「それにしても、不思議だよねぇ。あの機体のコアは分解前に初期化したのに、何でなんだろうねー。私がしたから、確実にあのコアは初期化された筈なんだけどね」

「不思議な事もあるものだな」


 互いに本当にわからないといった所だろう。

 と、再度ムラクモが口を開く。


『……初期化されても、何処かに残るもの、私達には意識がある。初期化が人で言う輪廻転生なら――【前世の記憶】を持ってても不思議じゃないでしょ?』

『……まあな。……だが、まだあやふや気味だな』

『うん。私も確信もって言ってる訳じゃないから……』


 俺もムラクモも互いに答えは出せない。

 コアのムラクモでもわからないなら……難しいだろう。

 それでも、輪廻転生と言われればある意味では納得も出来る。

 これ以上、この二人の会話を聞くのはある意味で不味い気がし、気付かれないように俺はその場を後にする。

 ……いや、【既に白騎士のコアが白式に使われていたという事実】を知ったのが、色々不味いのかもしれない。

 来た道を戻り、俺は岬を離れていった……。



――岩場――


 砂浜近くの岩場、そこを歩いていると前方に人影が見えた。


「……鈴音?」

「……ッ!――なんだ、あんたか。――い、一夏見なかった?」


 驚いた様な表情を浮かべる鈴音だが、声をかけたのが俺だとわかり、安堵の表情を浮かべた。

 一応夜だし、変な男に声をかけられたらって思って不安だったのかもしれないな。

 この辺りはIS学園の子が居るって噂も流れてる為か、旅館付近にも男が見に来てるとか何とか聞いたりもするし。


「一夏?――見てないが……コア・ネットワークで調べたらどうだ?」

「そ、それはそうなんだけどさ……。や、やっぱり代表候補生が私的に使うのも……ね」


 困ったように眉を下げ、笑顔になる鈴音。


「……少しぐらいなら良いんじゃないか?そりゃ前みたいに生身の奴に衝撃砲とかはまずいが――」

「うっ。あ、あの時は仕方ないじゃん……。一夏とシャルロットが一緒に入ったと思ったんだしさ……」

「ふふ、お前って本当に一夏が好きなんだな」

「……うん。――でも、最近他にも気になる人が出来たの」

「ん?他にも?」


 ……中学時代の友達か?

 まあそうだろうな、俺はまず無いだろう。


「……そっか。まあ鈴音が最終的に決める事だからな、あまり横やりしても仕方ないが――後悔しないように、鈴音が見極めればいいさ、これがな」


「そう……だよね。――ヒルト、ありがとっ」


 月明かりに照らされた鈴音の笑顔に、不思議と胸が高鳴った。

 軽く頬をかきながら、呟くように声をあげる。


「……お前、結構可愛いな」

「へ……?」

「……何でもないさ。気が動転したんだろう――ともかく、俺はわからない範囲なら良いとは思うぞ?……でも、生身の奴に衝撃砲撃つならせめて空気砲ぐらいの威力にしなよ?」

「わ、わかってるわよ!……前はごめんね?あんたを巻き込む形で撃って」

「まああれはラウラが防いだから大丈夫だがな。――じゃあ、早めに旅館戻れよな?」

「あ、あんたもね」



 互いにそう言い、俺はその場を後にする。

 それから暫くしてから、風に乗って衝撃砲の音が聞こえてきた。

 ……鈴音にとって、余程の事があったのだろう。

 だからと言って一夏に同情はしない。

【自業自得】だから――。


――砂浜――


 旅館付近の砂浜に座り、俺は満天の星空を眺めていた。

 星空を眺めている俺に、誰かが声をかけてきた。


「ヒルト?ここに居たんだ」

「ん?……よぅ、未来」


 声をかけてきたのは未来だ。

 服装は制服を着ていた。

 そんな俺も、今回は制服。

 夜に泳ぐのはあまり好きではない――というか、暗い海を泳ぐのは苦手だ。

 今日みたいに満月の月明かりが照らされた日なら、泳いでも良いかなとも思うが――一人で泳いでも仕方がない。


「未来、どうしたんだ?何か用か?」

「ん……ぅん。少し歩かない?」

「ん?良いぞ?……月明かりに照らされて砂浜を歩くって、何か恋人同士みたいだよな?」

「へ……?ば、バカ……何言ってるんだかっ」


 急にそっぽを向く未来。

 俺は立ち上がると制服についた砂を払い、口を開く。


「……わかってるよ。未来には他に好きな奴、居るもんな」

「……え?」


 きょとんとした表情で俺を見つめる未来――そして。


「……ヒルト、それ……誰が言ってたの?」

「え?……誰が言ってたってよりは、偶然聞こえてきたっていうか――」

「……どこで?」


 何故か怒った表情をする未来。

 立ち聞きしたことに怒っているのだろうか……?


「そ、そのだな。中学三年の十月だよ。放課後、教室に忘れ物して取りに行ったときに偶然聞こえたんだ」

「……そぅ。……彼女達が勝手に言い触らしたのかと思った……」


 そう告げ、安堵した様に息をつく未来。

 その様子を不思議そうに見ていると、未来が口を開く。


「……んとね、その事で話があるの。だから……歩かない?」

「……あ、あぁ。構わないぞ?」


 ……その事で話ってつまり、俺に好きな男の事で相談って所か……。

 うーん、まさかこんな日が来るとは……いや、まあ覚悟してた事だからな。

 そんな風に納得させ、歩き始めた未来の隣をゆっくり歩いていく。

 穏やかな波の音が心地よく、吹き抜ける風が未来の艶やかな髪を撫でた。

 一瞬見えたうなじに、少しドキッとさせられながらも、俺も未来も黙ったまま砂浜を歩く。


「んとね……ヒルト?」

「ん、あぁ……」

「……好きな人、居るってのは本当の事なの」

「……そ、そっか……。どんな奴なんだ?」


 出来るだけ平静を装い、未来の言葉を聞いてるのだが思っていたよりもショックを受けている自分自身にも俺は驚いていた。


「どんな奴……?……ずっと、私が小さい頃から助けてくれた人……」

「小さい頃から?」


 そう言われ、過去を遡る様に記憶を辿る。

 俺も未来とは幼なじみだから、多分俺の知った相手の筈なのだが……思い浮かばない。

 そんな俺の様子を見てか、思わず笑みを溢す未来。


「ふふっ。ヒルトって相変わらず鈍感だよね?」

「む?……好きで鈍感になった訳じゃないぞ?――てかマジでわからん……」


「ふふっ。……ヒルトのそんな所――――『私は好きだよ』?」

「ん?……そりゃどうも」

「…………」


 何故か顔を真っ赤にしてジトーっと見つめてくる未来。


「……どうした?」

「もぅ……まだわからないの?バカ、鈍感」

「……悪いが、何がどうすれば解るのかが解らん。『鈍感な所が好き』って言っただけだろ?」

「むぅ……。……やっぱり、直球で伝えないとヒルトには解らないのかも……」


 小声でぼそぼそと呟く未来。

 その声を穏やかな波の音と吹き抜ける風の音の両方がかき消していく。


 そして、意を決したのか真っ直ぐと俺の目を見つめてきた。

 その瞳は潤み、今にも泣き出しそうで頬は赤く染め上げる。

 手は後ろで組み――そして、口を開いて出た言葉は――――。




「……ヒルト。……大好き……」

「……え?」




 未来から伝えられた言葉を聞いたその一瞬、本当に世界が止まったかのように波の音は消え、風の音が止み、言葉だけが辺り一帯を包んだ――。 
 

 
後書き
( ;ω;)つΣ(゜∀゜ノ)ノ
 
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