IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第150話】
前書き
150話
長いような短いような
――福音との交戦空域――
「……お兄ちゃんッ!」
今にも泣きそうな声を上げ、一番近くに居た美冬が首に腕を回す様に抱きついてきた。
「……バカッ!お兄ちゃんのバカッ!!……バカ……」
「おいおい、バカバカ言うなよ。只でさえバカなのに――」
そんな言葉を遮るように、一様にオープン・チャネルが開いて――。
「いいえ!ヒルトさんは大バカですわ!バカの王様ですわよ!!」
「そうよ!どれだけあたしを心配させれば気が済むのよッ!!バカッ!!」
「そうだよ!自己犠牲して、ヒルトが大怪我したらどうするの!?僕たち、ヒルトに怪我してほしくないんだから!バカ!!」
「嫁が夫に心配させてどうするんだこの大バカ者!……だが、無事で良かった……」
「そうよ!……ヒルト、皆心配するんだから無茶しないでよ……。貴方が怪我でもしたら……」
セシリア、鈴音、シャル、ラウラ、未来の順でオープン・チャネルによる通信が届き、まさかのバカ認定――。
何気にセシリアにはバカの王様とも呼ばれて、俺の精神的ダメージが半端なく受けた。
――でも、それだけ心配かけたって事なんだよな……。
「いや、まあその――悪い、皆。心配かけて……」
正直に頭を下げると、映し出されるハイパーセンサーから皆の慌てる表情が見え――。
「い、いぇ――その、バカの王様と言ってごめんなさい、ヒルトさん……」
若干慌てた表情を見せるが、直ぐに申し訳なさそうに謝るセシリア。
「わ、わかればいいのよ!……別に、あんたの心配した訳じゃないからね?美冬が泣く姿、見たくなかっただけなんだからねっ!?勘違いしないでよ!」
そんな感じに慌てながらも、頬が赤い鈴音を見て何を勘違いしないでと言ってるのか俺にはわからなかった。
「う……。そ、そんなに素直に謝られちゃ、もう怒れないよ……。……でも、無事で良かった……」
困ったように眉を下げるシャル。
何気ない最後の言葉が、シャルの安堵した声で俺も安堵する。
「……全く、ヒルトは私を心配させすぎだ。……ま、まあ私は心配しても、ヒルトが無事に帰ってくるとは思っていたが……」
そんな感じに視線を逸らすラウラ。
最後の方は、多分自分でも何を言ってるのか解らなかったのかもしれないな。
「……まだ、ヒルトに伝えてないんだから……怪我しないでよ?……貴方が怪我したら……」
「わ、悪かったって……。――てか、そういや前から未来はそんなこと言ってたな。――言いたい事って――」
また遮るように、通信が入り――。
「み、未来さん!?」
「ぼ、僕たちだってまだ伝えてないんだよ!?」
「――とはいえ、私たち三人は伝えたようなものだがな。なんと言ってもキ――」
「そ、それじゃあ私だけじゃないっ!何もしてないのって!!」
「…………何の話してるんだよ、皆」
何故か言い争いを始める四人を見ていると美冬が口を開き――。
「……お兄ちゃんがはっきりしないのが悪いのよ。……バカ」
「……は、はっきりって何の事か解らないんだが……」
「……知らない」
顔を背けた美冬――あの四人の言い争いの原因が解らないんだよ。
未来抜きなら……多分、俺なんだと思うが。
「……てか言い争いは後だ。まだ福音は動いて――」
オープン・チャネル通信で全体に言ってると、花月荘方向の空からキラリと光が見え――。
「――!?エネルギー反応!全員、射戦上から緊急回避だ!」
「「「……!!」」」
全員その場から緊急回避――刹那、荷電粒子砲の射撃が通過――動きの止まっていた福音へと直撃し、大きく爆ぜて吹き飛んだ。
そして、空域一帯に居た全員の耳に届いた言葉が――。
「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」
「――あの馬鹿、射戦上の俺達に気付かずに撃っといてあの台詞かよ」
空域へと高速接近する機影が二機――。
「おう皆。待たせたな」
「無事か、皆!?」
「「「…………」」」
そんな言葉と共にやって来た一夏と篠ノ之。
だが、その場に居た全員の視線は不満そのものであり――。
「一夏、篠ノ之。遅いのは構わない。――ただ、射戦上に俺達が居るのに一夏はその物騒な左腕の射撃武器、使わないで欲しいんだが」
「そうだよ!お兄ちゃんが気付かなかったら皆上手に焼けました~♪――になっててもおかしくないんだからね!?」
「うん。――何なら、次からはこの反射板で織斑君に粒子砲返すよ?」
「織斑さんはもっと状況把握してから撃ってくださいな!」
「あんた!幼なじみのあたしまで巻き込んでどうすんのよ!!バカバカバカ!」
「ふふっ、流石の僕も怒っちゃうよ?――フレンドリー・ファイアとか、笑えないし」
「……やはり私は、お前が嫌いだ」
俺を含めたその場に居た全員が一夏【だけ】に向けて、非難すると――。
「ひでぇ言われようだな、俺……」
「な、何故皆そこまで怒る!?一夏が無事だったんだぞ!まずはそれを――」
「いや、篠ノ之。一夏が無事なのは良いんだが、下手したら七人大怪我だったんだぞ?――セシリアとか、ラウラはダメージ大きいんだし、高さがあるから生身で海面に叩き付けられたら――」
「そ、それは――」
そうもごもごと、上手く言葉に出せないのかごもる篠ノ之。
「ヒルト、箒。話は後だ。――まだ終わってないからな」
空気も読まず、福音へと視線を向ける一夏に対して全員が言う――。
「「「お前が言うな!!」」」
「……ひでぇ」
そんな一夏の一言が、虚しく空へと消えていく。
「……とにかく、福音を止めないとな。――一応全員揃ったし、更識さんがいないのが残念だが」
「え?更識って誰だ?」
「…………」
そんな感じに、一夏は俺に訊いてきた。
一応専用機持ってる代表候補生ぐらいは把握しといた方がいい気がするんだが。
「……自分で調べろ。てか把握ぐらいしとけよ、馬鹿」
「ひでぇ……」
そんなやり取りを続けていると、頭に声が響いてくる。
『ヒルト、聞こえる?』
『ん?――あぁ、聞こえるぞ【ムラクモ】』
声の主はムラクモだった。
プライベート・チャネル通信による語りかけの為、皆には聞こえていない。
『……福音が苦しそう。――今回の暴走、どうも強制的に引き起こされたものみたい』
『強制的に?――誰かが裏で糸を引いてるのか?』
『……うん。でも、誰がやったのかが解らなくて……ごめんなさい』
『謝る必要はないさ。俺の方でも調べてみるし――それよりも、現状、あいつを止める方法って機能停止まで追い込まないといけないのか?』
『……うん』
寂しくも悲しい様な、そんなムラクモの声が届き――。
『……何とか福音も含めて助けたいが……。なあ、機能停止寸前まで追い込んでコア・ネットワーク経由で説得、そのまま暴走停止させること出来ないか?』
『……わかった。やってみるよ』
返事をしたムラクモからの言葉が途切れると共に、猛り狂う様な機械音声が辺り一帯に轟く――。
まるで、福音が本当に苦しんでいるみたいに、今の俺の耳にはそう聴こえた。
刹那、四枚の翼が発光――光の雨が襲い掛かってきた。
「――そう何度も食らうかよ!『雪羅』!」
高々と響き渡る一夏の声に呼応し、左腕が変形し始め、そこから光の膜が広がり福音の粒子光弾を打ち消していく。
「これは――成る程、【零落白夜の盾】って訳か――だがエネルギー消費が大きいだろ?何度も使える代物では無――」
「フッ。有坂、その為に私がいるのだ」
紅椿の展開装甲が開き、赤い光と共に黄金の粒子が溢れ出す。
そんな篠ノ之の手が一夏の白式へと触れる。
軽く発光すると共に、雄々しく零落白夜の盾は更なる光を放ち始めた。
「私の紅椿の単一仕様。【絢爛舞踏】が成せる技だ。これで一夏はエネルギーを気にせずに戦える」
それなら一夏の回復だけじゃなく、全員の回復に専念した方がいい気がするんだが。
等と思っていると、一夏と篠ノ之は福音へ向かい、攻撃を開始し始めた。
「……皆、福音を倒すのではなく機能停止寸前迄追い込むぞ?――俺のエゴだが、操縦者も助けたいし、福音も助けたい」
そう告げると、皆が一様にきょとんとした表情へと変化した。
だが、それも一瞬の事で何か俺に考えがあるのだと思ったのだろう――。
「……理由は解らないけど、お兄ちゃんがそうしたいなら私は賛成だよ?」
「うん。……ヒルトって何だかんだで優しいよね。今のを聞くと戦うけど、それ以外にも止める方法があるならそっちを試してみたい――って、顔に出てるもん」
「うふふ。そこがヒルトさんの良いところですわよ。――甘いですが、ヒルトさんのそんな所はわたくしは嫌いじゃありません」
「だね。――誰に対しても全力だもん。ね、ラウラ?」
「あぁ。……ヒルト、私はお前に感謝してるぞ?――先月の大会も、こんな私を仲間――友達と言ってくれて。――今はそれ以上を望むがな」
「……あんたも結構モテるんだ。――てか、フラグ建てすぎでしょ、あんた」
「……いや、俺は普段通りにしてるだけなんだけど――てかフラグって何のフラグだよ、鈴音?」
「じ、自分で考えなさいよ。バカ……」
何故か急に怒られる俺。
と、そんな中――一夏と篠ノ之二人だけで急速に福音を追い込んでいく。
それもその筈、何度か回復したとはいえ、第二形態まではクサナギを纏った俺との一対一。
第三形態の現在も、俺や皆の攻撃によって大ダメージを受けた上に、俺が第二形態移行した時に四散した翼の回復にもだいぶエネルギーを使っていた筈だ。
その証拠に、福音の動きが鈍くなっている――機能停止が近付いている証拠だ。
「一夏!篠ノ之!そこまでだ!福音はもう機能停止寸前だ、それ以上やる必要は無い!」
「何でだよッ!?もう後少しで倒せるんだぞ!」
「有坂!福音は【敵】何だぞ!?それを庇うとはどういうつもりだ!――えぇいッ――このまま止めをさす!」
言葉を聞かずに、振るう刀から放たれる斬撃で翼を断ち切る。
その一撃に、福音の機械音声による悲痛な叫びが聞こえ――。
「このまま押し切――何ッ!?」
「止めろと言っただろ、篠ノ之」
「どういうつもりだよ、ヒルト!このまま福音を放置するのかよ!!」
福音と篠ノ之の合間に割ってはいる様に【瞬時加速】を行い、その刃を疾風を分解した二対の剣によって受け止めた。
その行動に憤りを感じた二人は、俺に対して不満をぶつけてきた。
「……悪いが、もう機能停止寸前だ。ここまでしたらもう良いだろ?――俺は、操縦者も福音も助けたいだけだ」
「福音も助けたい?――ははっ、有坂――何の冗談を言っている?操縦者を助けるならいざ知らず、【福音も助けたい】とは――まるで馬鹿丸出しだな。福音にも意識があるというのか?」
「あぁ、あるさ」
迷いの無いその言葉に、篠ノ之は驚き、その目を見開くが――。
「ふっ、何を馬鹿な事を――確かにISには意識に似た物があるとは授業で習いはしたが……。まさか本気で信じるとは……」
「……さっきまでの俺なら同じ様に嘲笑していただろうな。――だが、今は違う。――一夏、お前だって第二形態移行したんだ。俺の言ってる事わかるだろ?」
言うや、一夏は首を横に振る。
「いや、俺にもヒルトが何を言ってるのかさっぱりだ」
「え?だってお前第二形態移行したならコアと――」
俺の言葉を遮るように、ムラクモの声が俺に語りかけてきた。
『ヒルト、織斑一夏は多分表面上でしか果たせてないよ。――白ちゃんも心を許してない訳じゃ無いようだけど、ヒルトには【有って】織斑一夏には何かが【無い】のかもしれない』
『何かが……?――ならこんな事を突然言い出した俺の頭がおかしいと思われても仕方ない事だな』
『残念だけどね』
そう言って言葉が途切れた――福音を見ると、装甲から紫電が発生し、思うように動けないように感じた。
「……何にしても、倒したいのなら俺が失敗した時か、今【俺を倒して進む】かだ」
「……なら、悪いが有坂。お前を――」
篠ノ之がそう言い、刃を振るおうと構えるがそれよりも早く瞬時加速で接近――ピタリと篠ノ之も一夏も動きが止まった。
「……悪いが、嫁のやろうとしてる事の邪魔をさせるわけにはいかない」
「クッ…ボーデヴィッヒ――仲間の私に何を――」
「私を仲間だと言うのなら、貴様はその刃で誰を斬ろうとしていたのだ?」
「…………ッ」
そのラウラの正論に、篠ノ之も何も言えなくなった。
「ヒルト、今のうちだ。私が二人を抑えてる間にヒルトが福音にやろうとしていたことを」
「……悪いなラウラ。流石は俺の夫だな」
「……っ!?な、何を言っているのだ……馬鹿者……」
いきなりの言葉に面を食らったのか、ラウラは顔を真っ赤に染め上げた。
「……福音、悪かったな。こんな方法でしか止められなくて」
そう言い、動きの鈍くなった福音へと俺は近づいていった――。
後書き
あれ?
何だか対立が深まった気がする
――ヒルトの考えが変わったのは、コアとの対話を果たした為かな
戦いで止めるという方法ではなく、また別の方法で――。
批判などは感想にてどうぞ
ページ上へ戻る