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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第199話】

――レゾナンス内――


 エレベーターが到着すると、乗っていた客は足早に降り、俺達三人と、その場で待っていた何名かの客と共にエレベーターに乗り込む。

 七階のボタンを押すと、俺達三人はエレベーターの端まで追いやられた。


「……悪い、ちょい密着するがキツかったら二人とも言えよ?」

「だ、大丈夫……えへへ」

「ぅむ……少し、ドキドキするだけだ」


 そう言った二人の頬は、恒例の様に赤く染まっていた。

 エレベーター内部も冷房が効いてる為、密着しても問題はなさそうだ。

 それからエレベーターは各階に止まり、乗り込んだ客が降りたり入ったりしながら七階へと到着――その間、二人が静かだったのは、エレベーター特有の個室のせいもあるかもしれない。

 エレベーターから降りると、館内は夏休みという事もあり、十代の男子女子で溢れかえっていた。


「……流石に夏休みだからか、人がいっぱいだな?」

「う、うん。 ……ヒルト? ぼ、僕たちがはぐれちゃうと困るでしょ? だ、だから……その……」


 そうもじもじしながら上目遣いで見つめるシャルは、どうやら手を繋いでほしいようだ。


「そ、そうだな。 ……私も、嫁とはぐれる様な事態になっては困るからな。 ……ん」


 ラウラもそう言い、手を差し伸べる。

 気恥ずかしさからか、顔を横に逸らしていた。


「そうだな。 ……でも、目立つけどいいか?」

「ぼ、僕なら平気だよ? ……ヒルトとだもん、嫌なわけないよ……」

「無論私もだ。 ……嫁とこういう機会は少ないからな、多少目立っても構わない」


 シャルは少し視線を逸らしながら言い、ラウラは堂々とした雰囲気で言った。

 こういった対称的なのも、仲が良い証拠かもしれない。


「了解、まあ俺が多分一番目立って睨まれそうだがな、ははっ」


 言ってから差し出されたラウラの手を右手で繋ぐと、面白いように顔が赤く染まる。

 空いた左手で、シャルの手を繋ぐと流石に何度か繋いでるせいもあってか、ラウラ程ではないが少し紅潮させるだけだったので、思いきって指を絡ませる繋ぎかた――俗に言う恋人繋ぎをしてみるとボシュッという音が聞こえそうなぐらい赤く染まった。


「……とりあえず、最初は何処から向かうんだ?」

「あ……ちょ、ちょっと待ってね!? ……え、ぇと……ここからなんだけど……」


 そう言ってシャルが俺に雑誌を見せてきた。

 両手が塞がってる為、シャルに持たせる形になってるが――。


「『サード・サーフィス』……変わった名前だな」


 そう言ったのはラウラだ。

 ラウラにも見えるようにシャルが見せているのは気配り上手だからだろう。

 ……しかし、サード・サーフィスか……。


「結構、人気のあるお店みたいだよ」

「……まあ確かに人気はあるな。 俺は好きじゃないけど」


 ……この店、品揃えは良いんだが客によって対応が違うため、美冬や未来からはあまり評価が高くない。

 俺のその一言に、シャルは――。


「そ、そうなの? ……じゃあ、別の店にする……?」

「ん? ……まあ俺の意見だから気にするな。 それにシャルとラウラならこの店での対応は最高のものになるよ」

「ど、どういう意味……?」

「……まあ、入ればわかるさ、これがな」


 頭に疑問符を浮かべるシャル。

 ラウラの方は特に意味がわからないような表情を浮かべていた。

 店内を見ると、やはりサマーセールと銘打ってる為に店内は十代女子中高生、二十代女子大生等が居て賑わいを見せつつも、何処か騒々しい印象を与える。

 店内の客も多い為か、接客がおざなりになっているのだが――それもその筈、理由はこれからわかる。

 未だに頭に疑問符を浮かべるシャルと、俺に手を引かれてるラウラと一緒に店内へと入ると――。


「…………」


 いきなりである。

 客に渡すはずの紙袋が店員(見た感じだと店長)の手からするりと落ち、音が鳴ると共に呟く。

「金髪(ブロンド)に銀髪(プラチナ)……?」


 喧騒の中でも聞こえるのは入り口とカウンターが近いためだ。

 因みに、店員さんの視界に俺は写ってないようだ。

 店員が落とした紙袋を慌てて拾おうとする他の店員も、その視線を追うと同じように固まる。


「お人形さんみたい……」

「何かの撮影……?」


 二人の店員が口々に呟く……。

 ここの店員は、綺麗な女性が店内に入るとそちらにばかり優先し、他の客に対する接客を放棄するという接客業にあるまじき醜態を――。

 後、有名人等が来たときも今のような感じになる――これは美冬や未来が来店した時に起きた事で、見事に購入した紙袋を落とされ、謝罪すらなくて愚痴を溢していたのが中学の頃の話。

 ……このように、差別的な客の応対が好きになれない理由だ。

 リピーターを獲得するつもりなら、この店の店長を首にして徹底的に改革しないと流行りの店ってだけの印象しか残らないだろう……。


「……ユリ、お客さんお願い……」


 この呟きも俺には赤点だ、お客さんではなく、お客様と言わなければいけない上に、今まで応対していたのを他の店員に丸投げするという――これが、急な電話でこの方が出なければいけないならいざ知らず、明らかにそんな様子もなく、俺達に視線を向けたままふらふらと歩み寄ってきた。


「ちょっと! わ、私はどうなるのよ! ……もぅっ、服……落ちたままだし……」


 文句を言いかけた女性客も、シャルとラウラの姿に見とれたのかそのままの状態で固まった。

 ……てか、何でいちいち一般客まで固まるのかわからん。

 そんな俺の考えを他所に、やって来た店長(名札を見ると店長と書いていた)は、俺を二人から引き剥がす様に退かせると――。


「ど、どっ、どんな服をお探しで?」


 女尊男卑な昨今、男がこんな風に退かされるのも珍しくない。

 下手すると無給で働かせるブラック企業も真っ青な事をする店舗もあるぐらいだ。

 こんな対応されても、俺が文句を言えば警察沙汰になり、拘置所で一泊という有り難くもない結果になる。

 だから基本は泣き寝入り、又は言うことを聞いての無給で仕事をさせられるのだ。


「……すみません、僕たちやっぱり店を出ます。 ヒルト、ラウラ、出よ?」

「……そうだな、さっきヒルトが言っていた意味がわかった事だし」

「お、お客様? ……な、何か私達に粗相があったのでしょうか……?」


 ……こんな感じで、何が悪いのかもわからない様だ。

 俺の対応はさておき、店員が客によって接客を変えるというのはあってはならない事態だ。

 仮にVIPが居るとしても、他の客を疎かにする様な事態はあってはならない筈だし。


「……すみません、とにかく僕たちはこれで失礼します。 行こっ、ヒルト? ラウラ?」

「ん、じゃあお邪魔しました~」

「……私の嫁を引き剥がす様な真似をするとは――戦場で出会ったのなら殺されていても文句は言えないぞ」

「お、お客様っ!」


 そんな恐ろしい独り言を、聞こえない様に呟くラウラに恐怖しつつも、シャルに手を引かれてサード・サーフィスを後にした――。

 因みに、店長の呼び止める声は二人ともガン無視していたので余程俺への対応が二人の逆鱗に触れたのか、それは彼女達の心の中でしかわからない心情だ――。 
 

 
後書き
原作とは違う展開なのは、やはりヒルトが居るからですな(-_- )

 
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