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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第335話】

 
前書き
鈴音回 

 
 開いたドアの向こうの鈴音からは、僅かにボディーソープの香りが漂ってくる。

 変な香りではなく、どこか心地好い香りが鼻孔を擽った。


「き、来たわよ、ヒルト。 ……一夏は?」

「一夏なら中にいるぞ」

「ん。 じゃあ上がるわね?」


 断りを入れ、俺の横をするりと通り出る鈴音。

 それを確認し、俺はドアを閉じると中へと戻る。


「よぉ、こんな時間にどうしたんだ鈴?」

「今日はあんたに話があって来たのよ。 ちょっといい?」

「おぅ、もう荷物も纏めたしな。 ……んで、話ってなんだ?」


 ベッドに座ったままの一夏が見上げるように鈴音を見る。

 鈴音の方は――後ろ姿だから表情はわからなかったが、降ろした髪がゆらゆらと揺れていた。


「……てか、俺席を外そうか?」


 そう俺が口にすると、鈴音は振り返り、俺を見てから――。


「ううん。 ヒルトはここに居ていいわよ? 聞かれて困ることじゃないしね」


 そう言葉を紡ぎ、軽く右目でウィンクするとまた改めて一夏の方へと振り向く鈴音。


「一夏、昔言った酢豚を作ってあげるって約束……覚えてる?」

「ん? あぁ、勿論覚えてるぞ? 鈴の酢豚、旨いもんな。 だから楽しみに――」

「そ、その事なんだけどさ! ……ち、ちょっと……あんたに作ってあげる事が出来なくなっちゃったの」


 後ろに手を組み、視線を一夏から逸らす――その様子に、一夏は首を傾げながら――。


「……? 何で作る事が出来なくなったんだ? 別に怪我とかしてなさそうだけど――」

「け、怪我はしてないわよ! ち、ちょっとした心境の変化ってやつよ! あ、あんたを満足させるような酢豚――多分アタシには作れないと思うし、アタシ自身も……気持ち的にあんたに作ってあげようって気持ちが徐々に薄れてきて……さ」


 少し罰が悪そうに視線を逸らす鈴音、横顔から見てもわかるぐらいの表情だった。

 だが一夏はそんな鈴音に気にすることなく――。


「そっかー、料理の腕前が上達したら食べさせてくれるって言ってたから楽しみにしてたんだが……。 まあ鈴の気持ちが薄れたのなら仕方ないよな」

「…………」


 笑顔でそう言う一夏に、鈴音も呆れているのか無言で一夏を見てから深い溜め息を吐き――。


「はぁ……。 何と無く予想はしてたけど、やっぱりね……。 ……一夏、アタシとあんたは幼なじみ、そうよね?」

「……? 当たり前だろ? 幼なじみ以外、どんな関係があるんだよ?」


 変な奴だなとでも言いたげな表情の一夏、そんな一夏を見て吹っ切れたのか鈴音は――。


「ううん。 ――ただの確認よ、か・く・に・ん♪」


 そう言って上体を前へ倒し、人差し指を立てながらウィンクする鈴音――それにびっくりしたのか、若干顔が赤くなった一夏に、思いっきり背中を叩いた。


「~~~~~~っ!? いってーなぁっ、鈴!」

「アハハ! このぐらいで痛がってんじゃないわよ!」


 ニシシッと白い歯を見せて笑うと、やれやれといった感じで苦笑する一夏。


「……さて、俺はそろそろ部屋に戻るとするかな。 ――ヒルト、世話になったな? 出来ればこのままお前と相部屋――」

「悪い。 一人の方が気が楽だ。 ……てか一夏と四六時中いたら下らない親父ギャグを延々と聞かされるし……」

「え? なんだって?」


 相変わらず難聴は平常運転の様だ。

 まあ別に良いがな、どうでもいいところでの難聴に苛々しないし。

 軽く微笑を溢す。

 それを見て一夏は首を傾げながら荷物を肩に背負うと――。


「んじゃ、また明日寮の食堂でな」

「ん? あぁ、時間が合えばな」


 俺はそれだけを言い残す。

 一夏の方も、首を縦に振るとそのまま俺の部屋を後にした。


「……これで、良かったんだよね……」


 静寂が訪れた室内に反響する鈴音の声。

 それに反応して俺は彼女の方へと振り向くと――。


「……鈴音」


 目から頬へと伝う一筋の雫がポタッ、ポタッと床を濡らしていく。


「あ、あれ? あ、あはは……な、何で涙が流れるんだろ? あ、あはは、ご、ごめ……す、すぐに涙をとめるから……っ」


 コシコシと何度も手で涙を拭う――だが、涙は止まるどころか、どんどんと溢れ出ていた。

 せめて泣き顔は見せまいと、俺に背を向けた鈴音。


「……泣くのは恥ずかしい事じゃないさ。 ……お前にとって、初恋だったんだからな……」

「うっ……く。 ひ、ひる……と……。 ぐすっ……ひっく……」


 何度か嗚咽を漏らす鈴音――振り向いた鈴音の顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。
 そんな鈴音を落ち着かせようと、俺は半ば強引に鈴音を抱き寄せた。


「……泣けばすっきりするさ、俺なんかの胸で良かったら貸すから、な?」

「……あ、ありが……ひっ……ひっく……とぅ……!」


 声にならない程の嗚咽だったが、ありがとうと言い終わると鈴音は俺の胸にしがみつく様に泣き始めた。

 そんな鈴音の頭を優しく撫でる――洗髪したてなのか、更々とした髪の艶やか差が凄く綺麗に思った。

 それから暫くして――。


「……ひ、ヒルト? ……その、ありがとね?」

「ん? ……気にするなって、俺の胸で良ければいつでも……な?」


 まだ少し目に涙を溜めていた鈴音。

 でもその表情は、泣いた後だからかスッキリとした印象を俺に与えた。


「……ひ、ヒルト? そ、そろそろ離してくれない……?」

「あ、ごめんごめん。 ほら」


 身を預ける様にしていた鈴音を解放するが、何故か少し残念そうな表情を浮かべた鈴音。


「……? どうした?」

「な、何でもないわよ! ……ねぇ、ヒルト? あんたは……何か好きな中華料理でもあんの?」


 唐突な質問に、軽く首を傾ける。

 鈴音の質問に、色々な中華料理が頭に浮かぶ中――。


「……何を言ってもやっぱりチャーハンかな? 中華の基本中の基本、俺はあれが一番好きだ」

「そ、そうなんだ? ……じ、じゃあ……いつか作ってあげるね?」


 ニッと笑顔でそう言う鈴音、まだ目は赤いが元気は出たように思えた。


「なら楽しみにしてるさ。 ……見た目悪くても、味は中々旨いからな、鈴音の料理」

「わ、悪かったわね。 どうせアタシは不器用よ!」


 軽く頬を膨らませる鈴音――いつもの調子が戻ったようだ。


「ハハッ、見た目を気にする料理は基本フランス料理とかだけさ。 俺は美味しければ見た目はあまり気にしないしな」

「ふ、ふぅん……。 な、ならいいけどね?」


 視線を逸らしながら答えた鈴音。


「さて、そろそろ遅いし……送ろうか、部屋まで」

「へ……? い、いいわよ! 一人で帰れるからっ!」

「気にするなって、ほら。 送っていくから」


 そう言うと、観念したのか鈴音は小さく頷く。


「な、なら……よろしく」

「おぅ。 んじゃ、行こうぜ」


 玄関を指差し、促すと小さく笑みを溢してドアを開ける鈴音。

 そのまま俺と鈴音は部屋を出、鍵をかけると鈴音の部屋へと送り届けた。

 ……吹っ切れた後の彼女は饒舌で、色々な話題で飽きさせずに俺と話をしながら歩いていると、あっという間に部屋にたどり着いた。


「ん。 ありがとね、ヒルト? その……送ってくれて」

「気にするな、例え女尊男卑な世界でもこれぐらいはしないとな?」

「……へへっ。 じ、じゃあまた明日ね?」

「おう、また明日」


 軽く手をひらひら振ると、鈴音は笑顔で返し、そのまま部屋へと入っていった。

 ……鈴音も女の子だから泣くんだよな……当たり前だけど。

 通路の明かりが煌々と照らす――時間も時間だからか、通路で話し合う女子の姿は見えず、静寂が訪れていた――と。


「有坂くん? どうしたんですか、こんな時間に?」


 声に反応し、振り向くとそこにはきょとんとした表情の山田先生が荷物を腕に抱いて立っていた……。

 変に勘違いされないだろうかと心配しつつも、正直に俺は――。


「今鈴音を部屋に送った所なんです。 すみません、山田先生」

「そうだったのですかー。 ううん、理由が分かれば安心です♪」


 ずれた眼鏡を指で直しつつ、笑顔で応えた山田先生――まあ時間的に考えたら色々勘繰る可能性も否定は出来ないからな。


「じゃあ、夜更かしはダメですよ? 夜更かしはお肌の大敵なんですから!」


 そう言って覗きこむ様に見る山田先生――いつものゆったりとした服装からは、豊満な乳房の谷間が覗き見える。

 ――相変わらず、凄い巨乳だなと思う一方、思いっきり揉んでみたいと思うのは男のサガかもしれない。


「じゃあ先生はこれで。 ……あ、今日はお疲れ様でした、ヒルトくん。 それと、お手柄でしたね♪」


 立ち去ろうとした山田先生が足を止め、振り返るとそう言った。

 ひらひらと舞うフリルのスカートに目が移るも、それよりまさか下の名前で呼ばれるとは思ってなかった。


「い、いえ。 自分だけでやった訳じゃないですからね。 ……アラクネの製造番号とかわかりました?」

「……今、調査中ですが多分製造番号は削られていると思います。 出所を知られたくないと思えば、真っ先に削りますからね……特に量産機等は」


 そう言って困ったように眉根を寄せた山田先生――なら、あのアラクネから得られる情報は少ないと考えるのが一番だろう。


「そうですか……。 何か分かれば少しは概要も分かるかと思ったのですが……」

「そうですね……。 ……では、先生は戻りますね?」

「あ、はい。 お疲れ様でした、山田先生。 おやすみなさい」

「はい。 有坂くん、おやすみなさい。 ……さっき、下の名前で呼んだのは内緒ですよ?」


 そう小声で言うと、そのまま通路の向こう側へと消えていった。

 それを見て俺も自室に戻るために来た通路を逆戻りしていった……。 
 

 
後書き
鈴音が泣いちゃいました( ´艸`)

モッピー知ってるよ。
これでライバルはいないって事。

    _/⌒⌒ヽ_
   /ヘ>―<ヘヽ
   ((/ ̄ ̄ ̄\))
   /    ) \
  /  | | //ヽ ヘ
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