『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
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再会したあたしは、快く迎え入れる
前書き
こんにちは、クソ作者です。
イリヤと美遊、2人のキャラをよく知るためにプリヤを見始めましたが、いやぁ普通に面白いっすね。
最初はワチャワチャ魔法少女モノやってましたが、ストーリー進む事にきちんとfateしてますね…。
とまぁ、アニメ見てたわけで更新もちょいと遅れちゃった訳でして…
まぁそれはさておき、本編どうぞ。
あれから数日後…。
「葵さん!この本はここでいいですか?」
「うん、ありがと。そこ置いといてね。」
イリヤちゃん、美遊ちゃんは無事にここの一員として働いている。
仕事も飲み込みが早くて、簡単な作業や本の貸し出しなんかはあたしの手伝いがなくてもこなせていた。
「中庭、すごいですね。」
「適当に植えてたらこんなことになっちゃってさ。」
それから中庭の水やり。
ちょっと前までは草木がまぁまぁ生えている程度の普通の中庭だったが、貰った花の種などをそのまま植えているうちに植物園のようになってしまっていた。
実際、いっその事植物園を併設してみては?という話も持ち上がっている。
「世界がこんなことになってから、季節関係なく植えたらすぐ伸びて育つでしょ。普通シクラメンと向日葵が揃って咲くなんて有り得ないし。」
「でもすごい…お花屋さんみたい…。」
春夏秋冬問わずここには色とりどりの花が咲く。
世界崩壊以降、なんの影響かは知らないが作物が短期間で育つという奇妙な現象が発生。
幸い、食べてもなんの影響もなかったそれは農業に革命を起こした。
そしてそれは勿論、花にも作用する。
植えたら次の日には元気な芽が土から顔を覗かせ、1週間も経てばすくすく育ち花をつける。
「それじゃあ美遊ちゃんとお花の水やり当番、任せていい?」
「はい!頑張ります!!」
そうして90度のキッチリした礼をするイリヤちゃん。
そんなに畏まらなくていいんだよと言うも、
「これから住まわせてもらう立場ですし、出来ることは全力でやらないと!」
そういって彼女は張り切っている。
まぁ、疲れないくらいにねと最後に付け足しておいた。
で、
「お?葵さん、この花はもしや紫式部ですね?」
イリヤちゃんが来たのなら、あの摩訶不思議ステッキもご一緒だ。
「うん。図書館やり始めて最初に貰った贈り物でさ。隣のアオイもそう。」
「へーなるほどなるほど。」
そういって何度も頷く(?)摩訶不思議ステッキマジカルルビー。
「ルビー、お花のこと知ってるの?」
「何をおっしゃいますかイリヤさん。超万能魔術礼装マジカル☆ルビーちゃんですよ?花の知識なんて朝飯前です。花言葉なんかももちろん知ってますよぉ。」
と、得意げに話し出すルビー。
「紫式部は上品、聡明、愛され上手なんて花言葉がありますし、そこの白いヒヤシンスなんか控えめな愛らしさなんてものがあります。あ、紫のヒヤシンスなんかはごめんなさいなんて意味もありますから、仲直りの際にあげるにはうってつけのお花だそうです。」
「そこまで知ってるんだ。」
と、少し感心するあたし。
気を良くしたのか知らないがルビーは続けざまに語り出した。
「あなたのお名前にもなってるアオイも、そうですね、野心とか大望とか、気高く威厳に満ちた美とか…。」
「すごーい!葵さんピッタリじゃないですか!!」
「いやそんなことないって…。」
野心は…あるかも。
ただあたし自身は気高くもないし威厳に満ちた美しさなんかも持ち合わせてない。
照れ隠しで笑いながらやんわり否定した。
「ただ…。」
「ただ?」
と、ルビーが俯きながら話す。
「アオイの花言葉のひとつ、豊かな実りというのは、ないみたいですね…。」
「」
キレた。
「ワッ!葵さん!!何するんですか! 変身アイテムなんですよ私!!乱暴に扱わないでください!!」
気楽に浮遊しているそいつを掴む。
「どこ見ながら言った?言わなかったら全力で地面に叩き付ける。」
「も、もし正直に言えば…?」
「震脚って、知ってる?超万能魔術礼装なら知ってるよね?あたしそれ出来るんだ。」
「わーっ!!救い無いじゃないですかー!!!」
じたばたもがいて脱出しようとするルビー。
逃がしてたまるかと握る力をもっと込めるあたし。
「助けてイリヤさん!!痛い!!痛いです!!このままでは握りつぶされてしまいます!!やばいですこの人!!」
「一思いにやっていいと思いますよ。ルビー、ちょっとやそっとじゃ壊れないので。」
「あああああああああああああ!!!やばいです!!マズイです!!ミシミシいってます!!この人本気で殺るつもりですよ!!!本当にルビーちゃん壊れます!!!」
あと
「お疲れ様です、葵さん。」
「これ…美遊ちゃんが作ったの?」
「はい…紫式部さんの舌に合わせて、和食でまとめてみたんですけど…。」
イリヤと一緒に来てくれた美遊ちゃん。
小学生とは思えないほどにとてもよくできた子だった。
料理なんて当然のごとくこなせていた。
今まで式神ゴーレムに任せ切りだったけど、彼女がこうして手料理を振舞ってくれる日もあった。
「へぇ…すごいじゃん…。」
「いえ、キャットさんやエミヤさんと比べるとわたしなんか全然…」
「いや…それは比べる相手が異次元過ぎるって。」
あたしなんか料理なんて全然できない。
だし巻き玉子なんて綺麗に巻けないしそもそも焦がしてしまう。
しかし目の前のこれは何か。
焦げ一つなくなんか輝いて見える。
「その…。」
「はい…?」
「たまにでいいからさ、なんかこう…簡単なやつとか教えて欲しいかなって。」
恥を忍んで小学五年生に料理の教えを説いてもらうことを約束したり、
「少し出てる間にこれは...。」
部屋という部屋を物凄く綺麗にしてくれたり、
料理だけじゃなく掃除洗濯なんのその。
本当に小学生?って思うくらいによくできた子。
「以前、屋敷でメイドをしていたことがありまして...。」
「メイド!?すごいね...。」
感情の起伏はイリヤちゃんと比べるとかなり少なく、大人しげな少女。
さすがにそんな女の子に毎日図書館を掃除して家事もこなせというのはあまりにも酷だ。
式神ゴーレムだっているのだしそういったことは任せても大丈夫だと説明はするも、
「この図書館に置いておいてもらえてる身なので...やっぱり頑張らないと。」
と言って頑なに聞かなかった。
【折角拾ってもらった身だ。自分が頑張らなければ、いつ捨てられてしまうかも分からない。イリヤの居場所は自分がなんとかして守らないといけない。と、彼女の身を案じながら美遊は決意をより固くするのであった。】
「......。」
そういうことだったらしい。
「...。」
「な、なんですか?わたしの顔に何か付いてます?」
「頑張るのはいいことだよ。でもね、必要以上頑張ったりしなくても捨てたりしないよ。」
「!!」
心を見透かされたように感じたのだろう。
驚く美遊ちゃん。
そうしてあたしはしゃがんで彼女と視線を合わせて話し出す。
「いつもイリヤちゃんのことばっか考えてるね。」
「え...な...なんで...」
「大事?」
どうして心が読めるのか?とかそういった質問には答えず、ただイリヤちゃんが大事かどうか尋ねる。
香子の付近、もといこの図書館内にいる時点でもう泰山解説祭の射程範囲内だ。
こうやって一緒に過ごしているうちに、彼女の心情もいやでも読み取れてしまう。
で、思うところがあった。
美遊ちゃんは、いつもイリヤちゃんのことを思っている。
イリヤの為、イリヤの為、イリヤの為と、泰山解説祭が読み取ると大体そこにイリヤの名前が出てくる。
こうして頑張るのも彼女の居場所を守るため。
自分なんて二の次。イリヤを前のような血みどろの世界に戻すわけにはいかない。
そう思い、美遊ちゃんは日々あくせく働いている。
「大事...です。自分の命なんかよりも。」
「まぁ...そうだろうね。じゃなきゃ一緒に行こうなんて行動起こさないもんね。」
〝ここを出て行こう〟
イリヤちゃんの悩みを聞きそう言い出したのは彼女だ。
すぐさま行動し、安全とは限らない世界にたった2人で出ていく。
何があっても守る。
例え自分の命が犠牲になろうと、死んでも守る。
と、美遊ちゃんは明らかに友情とかそういうものの一線を超えた大き過ぎる感情をイリヤちゃんに対して抱いている。
「好き?」
「へっ?」
「イリヤちゃん、好き?って。」
「......はい」
蚊の羽音よりも微かな声で、そう吐き出した。
「頑張り過ぎなくていいよ。そんなことしてたら、イリヤちゃんに心配かけちゃうからさ。」
「...!」
ハッとなる美遊ちゃん
「葵さん...。」
「別にあたしは召使いじゃなくて年の離れた妹ができたようなものだと思ってるし、図書館だって家だと思っていいよ。だからもう少し、あーいや、もう実家みたいに楽にしてていいからね。」
「...はい。」
頷き、美遊ちゃんはとたとたと走っていく。
子供なんだ。しっかりしてるのも大事かもしれないけど気楽にしてるのが1番だ。
「お優しいのですね、葵様。」
「なんてことないよ。」
そんな美遊ちゃんの背中を見つめていると、話しかけてくるモノが一人。
その正体はマジカル☆ルビーの色違いのような青い魔術礼装、マジカル☆サファイアだ。
「優しくないよ。ただちょっとね。」
「シンパシー、のようなものですか?」
「どう、だろう?」
一応、ルビーは姉に当たるらしいが、
この妹、姉に比べると随分と物静かで助かる。
この前の舞のこともあるが、
最近の兄弟姉妹って、似ないことが多いんだろうか?
まぁしかし、
「すごいなぁ…小学生でそうなっちゃうかぁ…」
まだ幼いながらも美遊ちゃんの限りなく恋愛感情に近いモノにやや感心もした。
それと、
「魔法少女モノとか、書かれないんですか?」
「書かない。」
摩訶不思議ステッキ再び
「えーいいじゃないですかぁ魔法少女モノ。それとも少女はアウトオブ眼中ですか?未亡人系の官能小説しか書けませんかねぇ?」
「っ!?」
いきなり何を言い出すんだこのステッキは。
「な、なんのこと…?」
「とぼけちゃってぇ…。私は知ってるんですよぉ?パソコンのフォルダにパスワード付きで隠してありますよねぇ?あ、どうして見られたんだ?って顔してますね?まぁここは超万能魔術礼装マジカルルビーちゃんなのでそこら辺はこうちょいちょいと…。」
「はいそこまで!!!」
と、イリヤちゃんがルビーを止める。
「止めないでくださいよイリヤさん。私はこの未亡人モノしか書けない官能小説家を説得しなければならないんです。」
「あれは内緒にするって約束だったでしょ!?女の子には知られたくない秘密がたくさんあるの!!」
「イリヤちゃんも…読んだの?」
「え、あっ、いや…その…す、すっごい文章力だったと思いました!!!」
……。
個人用のノートパソコンの購入を検討しよう。
「サファイアちゃんと美遊ちゃんも見ました!!」
「もういいの!!!」
とまぁ、2人が来てからこの図書館も賑やかになった。
前述したように年の離れた妹ができたみたいな感覚で、すぐに打ち解けて仲良くもなれた。
「微笑ましいですね。」
「えっ?」
ある日の休憩時間、
そんな日々の光景を見て、香子はお茶菓子を片手にそう語る。
「年の離れた妹が出来たみたい。葵様は以前そう仰っていましたが、本当にその通りで。」
「まぁ…嬉しいし。あたし一人っ子だったからさ。妹とかそういうのがいるの、羨ましかったって言うか。」
正直に言おう。
嬉しい。
「姉として振舞おうとしていて、とても良いと思います。いとをかし、です。」
「香子にとっては、娘みたいな感じじゃない?」
「む、むすっ…!?」
と、驚く香子、
実際彼女もまぁ2人に懐かれているし、よく気にかけている。
傍から見ればお母さんみたいに。
「まぁでも、随分と賑やかになったよね。」
「えぇ。」
妹が出来たら、きっとこんなに愛らしい存在なんだろうと思えた。
「そういえば舞様も、妹が出来たそうで。」
「妹が…出来た?」
「えぇ、葵様のお気持ちはとてもよく分かると。」
まぁ、舞に妹ができたらしいけど話はここでは割愛させてもらう。
●
そんなある日だ。
「淀み?」
「あぁ、実は俺がここに来た目的もそれでな。」
二、三日たったある日のこと、賢士が2人の様子はどうだろうかと見に来た際、そんなことを話し出した。
「ニトちゃんが感じ取ってな。この辺りの霊脈は〝何かがおかしい〟って」
「おかしい…?」
「ええ、ここからは私が説明いたしましょう。」
そう言い、隣にいたニトクリスが話を始める。
「ここ神奈川エリアは霊脈が多く流れており、その分他よりも魔力が濃いのです。」
「そうなんだ。」
確かに、あの三笠孤児院辺りの霊脈もなんか凄いらしいって噂を聞いた。
「しかし、その流れが随分と不自然と言いますか、妙なものが紛れていると言いますか…。」
「妙なもの…?」
神妙な面持ちのニトクリスの顔が、より真剣なものになる。
「死者の魂です。それも、子供の。」
子供の魂。
それを聞いて、あたしは数日前横須賀での蘆屋道満を思い出す。
「霊脈の中に入り込んで死者の魂がどこかへ向かおうとしているのです。日本全国、各地から。まるで何かに引き寄せられているように…。」
彼女によれば魂に意思疎通を測ろうとしたらしい。
しかしこちらの話は一切聞かず、どこかへ向かわなくてはいけないという使命感を背負って行動しているとの事。
「あの…ちょっと前なんだけどさ。」
そこであたしは、この前の道満と真誉について話すことにした。
「その蘆屋道満なる者が、子供の魂を集めていた…?」
「うん。目的はわかんないんだけど、三笠の孤児院からさらったりして子供の魂で何かしようとしてた。」
目的、それは桜ちゃんになることと彼女は言っていたが漠然とし過ぎている為無いも同然だ。
そうしてマスターの賢士は腕を組み、重々しく言い放った。
「魂、それも子供の。どうやら思ってるよりもかなりヤバめなのが起こりそうだな。世界レベル規模の。」
死者の魂は霊脈に流れる魔力と共にどこかへ吸い上げられている。
ニトクリスが見ただけでも数百の魂がどこかへ消えていったと話した。
子供の霊は思いの力が強い。
それをいくつも集めて何をするつもりなのか、
もしかしたら、世界の危機に直面するような事態になり得るんじゃないだろうか、
賢士はそう不安を漏らした。
「犯人の居場所は、分からないのですか?」
「申し訳ありません…場所は様々で、さらには気配を辿ろうとしたところ、呪いの様なものをくらってしまい…。」
香子がそう尋ねるとニトクリスは申し訳なさそうな顔をして腕を出す。
そこには肘まで赤黒く染った彼女の腕。
「あと少し探知をやめるのが遅れていたら呪いは全身に回っていました。もしそうなっていれば、この強力過ぎる呪いは例えサーヴァントでも…。」
「同じだ…!」
「え?」
場所を突き止めようとして呪いをかけられる。
そうだ、あの時の香子と同じだ。
「前にその…アイドルをした事があってさ、その時に…」
「あ、アイドル?ちょっとそこんとこ詳しく聞かせてもらえないか?それはニトちゃんデビューも可能なのかどうか聞きた」
「後にして。」
「はい…。」
話を戻す
「蘆屋道満とそのマスターが屍を操ってライブ中に襲撃してきたことがある。その時に紫式部がその屍を操ってる大元を探知しようとして…」
「呪われた、と。」
賢士の返答にあたしは頷く。
とてつもなく強力で複雑な呪い。
忘れるわけが無い。
そのせいで香子は霊基をズタズタにされたのだから。
「すごく厄介な呪い。って言ってた。これをかけたヤツは明らかに性格が悪いって。」
「確かにそうですね。私もこの呪いをなんとか解呪しようとしているのですが、かなり複雑で解けにくくされています。」
「……。」
探知しようとしたら呪いの罠。
さらに解けにくい。
死者の魂、それも子供の魂を集めている。
これらの要素をまとめれば、犯人はもう絞られたも同然。
──あの二人は、何かをしようとしている。
別れ際に大和さんの言った通りだ。
あの二人は、ここで何かをしようとしている…!
「蘆屋道満…マスターの森川 真誉。おそらくその2人が犯人だ…!」
断言出来る。
この2人に間違いない。
そうと決まれば探さなければならない。
範囲はこの辺り一帯。
協力してくれる人を募って、なにかしでかす前に本気で見つけ出さなければならない。
そう思い立ち上がった、その時だった。
「…こ…じゃね?」
「開か……ど?」
「…?」
扉越しに、外から声が聞こえてきた。
「葵様。」
「分かってる。」
身構えるあたし。
香子も何かを察して真剣な顔つきになる。
「…客か?」
「違う。」
賢士の問いにあたしは即答。
扉の向こうにいるであろう者は、〝客〟ではない。
じゃあどうして、扉の向こうにいる者達を何も見ずしてこう用心し始めたのか、
理由は簡単だ。
「この図書館、結界で守られてるんだ。」
「結界?」
「バリアとかじゃない。邪な感情、悪意を持つ者が来た時だけ作用する、特別な結界。」
「…じゃあ、つまり。」
扉に鍵はかけていない。
しかしガチャガチャと開けようとしている。
つまりは、結界が発動している。
「そういうヤツが向こうにいるのか…!!」
次の瞬間
「!!!」
装甲車が扉を突き破ってきた。
言うまでもないがここは図書館だ。
本来入らないこの場所に車両が強引に入り込む。
そのせいで周囲のものを破壊しながらスピードを緩めることなく前進
それからドリフトして本棚を薙ぎ倒してから停車。
そこから何人かの男が出てきた。
「…何?」
睨みつけてそれだけ問う。
図書館に邪な感情を持って訪れ、それだけでなく強引に車で突っ込んできた。
ただ事じゃないし、たとえどんな理由であれあたしはこれに対して憤怒するだろう。
「…キモ。」
「は?」
最初にでてきた黒マスクの男が、あたし達を見るなりそう言った。
キモって…気持ち悪いって言いたいってこと?
「っつーわけで、お邪魔しマース。」
黒マスクの次に出てきたのは、筋骨隆々の男。
黒マスクの白い肌とは対照的に日焼けした肌にドレッドヘアーといったいかにもな男だ。
「どなたですか…!」
「うっほ、胸デカ。」
香子を見るなり下品な顔をしてそう呟く。
「サウザンさん、サーヴァントだとしても初対面にそれはキモ過ぎ。ノンデリっしょそれは。」
「おースマンスマン。でもよぉリキヤ、あのデっけぇチチにパイズリされてみたくねぇか?きっと極上だぜ?」
と話しつつ、こちらに冷たい視線を向けるリキヤと呼ばれた男と、
「おーわりぃな。入口壊しちまって。でもさっさと開けねぇお前らが悪いんだぜ?」
香子にずっといやらしい視線を向けているサウザンと呼ばれたガタイのいい男。
こいつらは…なんだ?
「葵。」
「?」
「見ろ」
と、賢士が装甲車を指さす。
色とりどりのカラースプレーで落書きされたその装甲車。
側面には『葛城財団実働部隊』の文字が。
しかし、
「な、なに…アレ?」
それを塗りつぶすように文字が書かれている
かろうじてCH-Zと読めるが、なんの意味だろうか?
「『CH-Z』だ。」
「ち、ちーず?」
「おいおーい。もしかして俺達知らない系的な?」
と、続けて装甲車から3人目が降りてきた。
「…っ。」
「あーそう身構えなくていい感じよ?とりあえずどーも。『CH-Z』のリーダーやらせてもらってる的な、レジーでーす。」
サングラスに長髪。
髭を生やしてどことなく胡散臭さを感じさせる彼はこいつらのリーダーと名乗った。
そもそも、CH-Zってなんだ?
「なぁなぁ、おねーさんは動画とか見ない系?」
「そういうの、興味無いから。」
「わーお、現在進行形人生損しまくりんぐMAXじゃん。」
と、わざとらしく両手を上げてオーバーリアクションで返事をするレジーと名乗る男。
すると、
「知ってるよ。クソ迷惑なYouTuberモドキだろ。」
賢士が吐き捨てるように答える。
「知ってんの?」
「ああ。SNSじゃ超有名人だ。勿論悪い意味でな。葛城財団所属の動画投稿集団。それがCH-Z。」
「財団所属…っ!?」
そのワードを聞いてよりいっそう強く睨みつけるが、
「おうおう、それはちょーいと間違うとるで。」
意識外、背後からまた別の声。
装甲車がぶち破った入口だったところから、また新たに4人目が入り込んできた。
いや違う、5人目と6人目も一緒だ。
「ワイらは残念なイケメン達で構成された超絶有名動画配信者。でももう葛城財団はやめたんや。」
車椅子を押しながら背の低い関西弁の男が現れる。
座っているのはオレンジの髪の男。
がっくりと頭は項垂れており、表情はうかがえない。
そして隣にいるのは
「葵様…あれは…!」
香子がいち早く反応する。
「なんや、ワイらがサーヴァント持ってんのが余程不思議か?え?」
見たことは無い、
だがこの気配は、間違いなくサーヴァントだ。
「ほんじゃあ自己紹介しとこか?ワイはshoot。CH-Zの賑やかし担当や。んでこいつはミッツ。」
と、親指で己を指し、それから車椅子の男の名前を言ったシュートという男。
そして隣は
「おい、ほら。」
「はーい呪っ殺〜。本音がダダ漏れ、どもれちゃんことモレーちゃんでーす。」
「って、真名名乗ってまうんかーい!」
やかましい関西弁男はもうこの際いい。
気になったのはモレーと名乗った女性のことだ。
「あ、その顔はアレだね。『え?モレーってあのジャック・ド・モレー?でもあの人は男じゃなかったっけ?』って顔だね。」
「……。」
「何?無視?胸無ぇ上に気に入らないんですけど。」
眼鏡をかけた女性サーヴァントの名はジャック・ド・モレー。
テンプル騎士団の総長がどうして女なのかは分からないが、
「ところでおねーさん、ワイらちょいと人探ししとるんやけどな?」
今一番大事なのは、こいつらは悪意を持ってここに来ているということだ…!!
「迷子のちびっこーいサーヴァント、2人くらい知らへん?」
「……。」
答えない。
だってもう、
【親切を装い、その2人をもらう。そのあとやることは決まってる。24時間魔力供給耐久配信をしてみるのも面白いかもしれない。ロリというのは一定の層に需要があるし、これは視聴数取れるに間違いない。他にバズりそうな話題もまだまだあるし、ダメになってしまえばオークション生配信をしても面白そうだ。
と、山中修斗は心の中でほくそ笑んだ。】
奴らの目的が見えているから。
「おいshoot!頭の上からなんか出てるぞ!!」
「へっ!?何!?何出とるん!?魂!?」
発動した泰山解説祭は本人からは目視できない。
サウザンと呼ばれた男に指摘されshootは頭の周りを必死に手で払うも、それは消えない。
「ワイどうなっとんの!?何出とんの!?」
「やべぇ!やべぇって!!身バレしてる!!本名出てる!!」
「本名!?」
とりあえず、分かった。
こいつらはイリヤちゃんと美遊ちゃんを追いかけて来たんだ。
葛城財団はやめたと言ってはいたが、
彼らがあの二人を利用しようとしている悪意は確かだ。
「ったく、まぁええわ。ともかく聞いても答えてくれへんのなら、こっちも実力行使と行きまっせ。なぁ?サウザンはん。どもれはん。」
呼ばれた2人が動き出す。
眼鏡のブリッジを押し上げ、にんまりと微笑むモレー。
二の腕に注射器らしきものを打ち込み、ボキボキと指を鳴らすサウザン。
そして、
「ミッツも、頼むで。」
サウザンが打ったものと同じような注射器を、彼は車椅子の男の首筋に打ち込んだ。
するとどうだろう。
「ふ、ふふ…へへへ。」
項垂れたままの彼がスっと立ち上がり、車椅子から離れる。
「!!」
ぐりんと前を向くその顔。
目をガン開き、裂けんばかりにその口を笑みで歪ませ
「俺様ァァァァァァァァァァァーーーっ!!!!!友情の為今ここに降!!!!!!!!臨!!!!!!イィィヤッホォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
限界まで背中を逸らして奇声を上げ、腰をカクカクと前後に小刻みに震わせながら吠える。
焦点の定まらない目。ニタニタとした表情。
さっきの薬…多分というか絶対マトモなものじゃない。
「ここに降臨俺様絶倫!ドイツの首都ってそれベルリン!YEAH!」
「ほほー、絶好調やなミッツ。その調子でワイら守っとくれ。」
「OK前傾任せとけい。俺に任せりゃ凌遅刑。」
図書館にやってきた突然の来訪者。
元葛城財団だか知らないが、ここまでやっておいて無傷で帰れるなんて思わないことだ。
「賢士。」
「おう。皆まで言うな。」
協力を仰ぐとすぐに同意した賢士。
「実はコイツらは俺にとってもニトちゃんにとってもクソ憎い相手なんだ。共闘なら喜んでしてやるさ。なぁ!ニトちゃん!」
「はい。呪いのせいで全力は出せませんが、このニトクリス、あのような者達に遅れなど取りません。」
有名配信者だかなんだか知らないが、生憎あたしはそういうのは大嫌いなんだ。
「出入口、本棚、ダメにした本。それら全部きっちり弁償させてやる。」
それに、本を傷つけた。
寄付してもらったもの、探し出したもの、
そして、ここに来てから作った本達も。
それは許されることじゃない。
あたしにとっても
「紫式部。」
「はい。結界を閉じました。彼らはもうここから逃げることは出来ません。」
香子にとってもだ。
後書き
かいせつ
●CH-Z
読み方はチーズ
正式名称は『Coolooking HotguyZ〜残念なイケメン達〜』
崩壊世界にて動画投稿者の中でトップの人気を誇るYouTuber的なヤツら。
以前は葛城財団所属の専属クリエイターだったが今は財団から抜け、フリーでやらせてもらってるとのこと。
しかし人気とはいっても彼らの動画内容はかなり過激。
とにかくマスターやサーヴァントをディスる傾向があり、かなり反感を買っている。
しかし、サーヴァントを持たない者達からの指示は絶大であり、登録者数は200万人を超える。
当然、過激な発言や倫理観をガン無視した動画のせいでSNSや動画投稿サイト等でアカウントが凍結されたとしても、何故か不死鳥のごとく舞い戻ってくる
自称残念なイケメン達の集まり。
メンバーは計7人いるがここで個人ごとに説明するとあんまりにも長くなるので名前と特徴だけ書いていく。
リーダーのレジー、毒舌のリキヤ、関西弁のshoot、ガンギマリのミッツ、ヤリチンのサウザンさん、紅一点のどもれ、撮影編集の瀬戸の計7人で構成されている
●葛城財団は辞められる?
結論
やめられない
来る者は拒まないがもし1度入れば辞職することは許されない。
それが地位の高いものであればあるほどだ。
もし逃げようものなら始末されるし、重大な機密を知る者なら絶対に逃がさない。
辞めようとしたならまず命の保証は無いし、機密を漏らそうものなら死よりも恐ろしいことが待っている。
しかし彼らCH-Zはなんと普通にバックレた。
ある程度の武器と洗脳弾、資料を持ち逃げし、現在葛城財団が手を出すことの出来ない関東エリアに逃げ込んだのである。
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