IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第297話】
放課後、ISの実習授業も終え、今日は楯無さんとの訓練もない。
理由はまあ今日は篠ノ之を見る予定らしいが……行くかどうかは彼女の意思だからな。
「有坂君はいますかぁ~」
間延びし、ふわふわとした声が教室に響き渡る――母さんだ。
「あ、はい。 居ますよ?」
「うふふ。 まだ居たなら良かったぁ。 ……んと、少し良いかしら?」
そう言って手招きをする母さん――まあ用事は特に無いから今日はまた図書館でシャルの問題が解決しそうな本をってぐらいにしか思わなかったからな。
……後で借りればいいしな。
「どうしたのですか? 自分に何か――」
「うふふ。 ヒルトはまだ搬入されたクサナギを見てないでしょう? ……お母さんも一緒に行くから、見に行きましょうかぁ~」
……そういえば、書類にサインだけして見に行ってなかったな……。
「了解です。 ……てか母さん、名前で呼んでるぞ……?」
「うふふ。 ちょっとだけだから大丈夫よぉ~。 ……じゃあ、第一搬入倉庫へ行きましょうかぁ~」
ゆったりしたスカートがふわりと舞うと、母さんは学園の廊下を歩き始めていく。
俺もそれに続き、後ろからついていくと――。
「ふふっ。 ヒルト? お昼は大変だったわねぇ~。 モテモテね♪」
「……もしかして母さん見てたのか?」
「少しだけよぉ? ……皆可愛いからどの子も娘として欲しいわねぇ~」
楽しそうな声で呟く母さんに、俺はただ頭をかくだけ――顔を少し振り向くと、母さんは笑顔を絶やさずに――。
「うふふ♪ 本気で法改訂をお願いしてみようかしらぁ? 『男子IS操縦者は多妻制』にって……ね?」
「……一夫多妻制? それは流石に無理だろ。 ……てか、それで納得する子居るのかねぇ……」
そんな呟きが廊下に響くも、今は母さんと俺だけなので誰にも聞こえてない――。
「うふふ。 案外納得するかも? ……何てねぇ~♪」
若干おどけた口調で告げる母さん――母さんが何を考えてるのか、時折分かんないんだよなぁ……。
――第一倉庫――
多少最近の出来事等を話していると、あっという間に第一倉庫に到着する。
海が近いからか、潮の香りがここまで漂っていた。
港には船が入港していて、今日も今日とて物資が倉庫へと搬入されていく……。
「さて、入りましょうかぁ~」
教員用ICタグを翳すと、倉庫のスライドドアが開く。
次に網膜センサーでの承認を得ると第二の扉が開き、最後は指紋をスキャンする機械に手を入れた母さん。
厳重なのには、勿論理由はある。
当たり前だがここにはIS関連のパーツなどがあるからだ。
代表候補生達のパッケージも、ここか隣、または別の倉庫に搬入されている。
「ヒルト、もう大丈夫よぉ~。 中の赤外線センサーも作動しないから大丈夫~」
「了解。 ……っと」
中に入るや、直ぐ様点灯する倉庫内。
コンテナが積まれてる中、主を待つかの様に鎮座しているIS用強化外骨格【クサナギ】がそこにあった。
福音戦で壊れた箇所の修復も終えてる様に見える。
「うふふ。 大会とかでは使えないけど、荷物の搬入何かでは役に立つわよぉ~」
「……だな。 てか、本来機械やIS何かはそうじゃなきゃダメだし」
元々は人形作業用ワークローダーだったのを、母さんが魔改造して強化外骨格へと生まれ変わったのだが……いつ見ても、前のワークローダーだった完成図と姿形が違いすぎる。
……と視線を少し移すと、その隣には――。
「……あれって、PPSのバックパック?」
「えぇ、フライヤーユニットよぉ。 ……互換性高いから、IS用パッケージとしても使えるわよぉ~。 後は、外部コントロールユニットから操作も可能だから、緊急時には戦闘も行えるわぁ~。 ……そんな事態が無ければ、一番なんだけどね……」
表情が暗くなる母さんに、俺は――。
「だ、大丈夫だって。 そうそうそんな事態が起きてたまるかって、だから母さんは気にしない、な?」
そう言ってニッと笑顔になると、母さんは――。
「……うふふ。 ありがとう~。 ……お母さん、たまに悩んじゃうのよねぇ~。 役に立つ筈の機械が逆に苦しめてる……なんて。 ……暗い話はここまでにしましょうかぁ……」
そう言って軽くフライヤーユニットの翼に触れる母さん。
……その後ろには、同型のフライヤーユニットが二機並んでいた。
……?
「母さん? フライヤーユニットの後ろにあるのって……IS?」
「え? えぇ、そうよぉ? ……コアが無いから、起動出来ないけど名前はもう決まってあるわぁ……」
母さんの歩く音が倉庫内に反響する――そして、そのISに触れながら――。
「この子の名は【イザナギ】よ。 ……晴れ舞台があるかはわからないけど……ね」
「……もしかして、母さんがコアを欲しがったのって――」
「……ううん。 この子を起動させるためじゃないわよぉ? 純粋にコアの構造を調べたくてね。 ……いつまでも、中身がブラックボックスの物を使うなんて、怖いじゃない?」
……それは確かにそうかも。
……コア数の少なさからか、分解をしようとする研究者は少ないとは聞くが……。
数さえあれば皆の訓練も可能なのにな……。
「つくづくコア数の少なさが何かダメにしてるような気がするな……」
「そうねぇ……。 ……とりあえず、コアさえ少しは解読出来れば、コアを媒体としたISシミュレーターを作れるとは思うんだけどねぇ……」
イザナギに触れ、クサナギに触れて、俺の側までやって来ると母さんは――。
「さて、そろそろ戻りましょうかぁ~。 クサナギの使用許可は、私に提出すればいつでも大丈夫だからねぇ~」
「了解です。 ……何にしても、荷物運び以外で使わない日が来ないことを願いたいな。 ……福音の時みたいな事態、そうそう起きないとは思うしな」
俺の言葉に力強く頷く母さん、そのまま倉庫を出ようとするのを見て、慌てて着いていき、俺と母さんは第一倉庫を後にした……。
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