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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第223話】

 寮の通路、帰省中だった子達も帰ってきた為か数人の仲の良いグループで談笑する姿がちらほらと視界に映る。

 これが一夏なら、皆も声をかけるのだろうが残念ながら、未だに人気具合は一夏が一番なのだ。

 ……いや、だからって何だって事は無いんだが……やっぱり織斑先生の弟って所と、ルックスの良さから人気が高いのだろう。

 ……まあ、難聴やホモ具合をこの子達が加味すれば評価は下がるだろうが。

 そんなどうでもいい考え事をしながら、一角にある自販機へと足を運ぶと、ベンチに座った先客が一人いた。

 ……何処かで見たことがあるのだが、誰だかわからない――と、俺の視線に気付いた彼女から声をかけられた。


「ヒルトじゃん。 もしかしてあんたも飲み物買いに来たの?」

「……鈴音か?」

「……あんたねぇ、誰に見えたって言うのよ!」


 何とベンチに座っていたのは鈴音だった。

 普段の彼女とは違い、髪を下ろしていたので全く解らず――だが、ツインテールで幼く見えた彼女も、こうして髪を下ろしたその姿は少し大人っぽく感じた。

 服装も制服ではなく、ジャージ姿でシャルのジャージとは違うタイプのスポーツデザインだった。


「悪い悪い、鈴音っていつもツインテールだったからな。 何気に髪を下ろしたその姿って初めてだったし」

「そ、そうだった? ……ふふん、似合ってるでしょ?」


 自信たっぷりなのか、髪をかきあげて挑発的な視線と共にキラリと見せた八重歯が光った。


「……あぁ、正直似合ってるぞ? たまにはその髪型もいいんじゃないか?」

「……へ?」


 まさか誉められるとは思わなかったのか、間の抜けた声と共にきょとんとする鈴音。

 だが次の瞬間には一気に蒸気するように顔が赤く染まると――。


「い、いいいいきなり何を言ってんのよ! バカヒルトッ!!」


 ブンブンと拳を振り上げ、肩を叩く鈴音。

 痛みは感じないが、照れ隠しの為に叩いてるのだろうか?


「フゥーッ! フゥーッ!」


 息も荒く、真っ赤な表情のままで目尻をあげて睨み付ける鈴音。

 前に鈴音が俺を巻き添えに一夏に対して衝撃砲を放った時の事を思い出した――言えば問題になるので貝の様に口を紡ぐが。


「わ、悪かったって。 ……まさか誉めて叩かれるとは思わなかったぞ」

「う……。 ……ご、ごめん……ヒルト」


 流石に指摘されると、力なく肩を落とす鈴音――と。


「……あ、アタシっていつもこんな感じでしょ? だ、だから……あまり誉められるの慣れてなくって……。 ……大体、小学校も中学校も男子はアタシをからかってばかりなのよ……。 中国人が皆アルアル何て言うわけ無いじゃない、バカ」


 ……何故か途中から愚痴を溢す鈴音。

 まあ中国人は何々するアルよって印象があるからな……主に漫画で。

 今はそれ以上に日本と中国の関係は冷えたりしてるが――一応、IS関連があるため、表立っては無いものの、いつか気付いたら【ISは中国四千年の歴史】と言い出しかねないが……。

 ……まあ、鈴音みたいに物分かりのいい中国人が増えれば問題にはならないんだがな、これが。


「さて、俺も何か飲むかな……。 鈴音も何か飲むか? 見たところ、もう飲んだ後だろ?」

「……うん。 し、仕方ないから今日は奢らせてあげるわよ。 ふふん、感謝しなさいよ。 お礼は出世払いだけどね」


 ニシシッと悪びれもせずに笑う鈴音。


「出世払いねぇ……。 中国代表になったら返してくれるのか?」

「そ、そうね。 中国代表になったら自販機事返してあげるわよ」


 言って胸を張る鈴音、その動きに合わせて下ろした長い髪が揺らめいた。


「……まあ出世払い出来なかった場合は身体で払ってもらうかな」

「……~~~~ッ!? な、何言ってんのよッ! このエロ魔神!!」


 財布を取り出していると、何を勘違いしたのかベンチから立ち上がると顔を真っ赤にしながら鈴音が言ってきた。


「……? 何でエロ魔神になるんだよ?」

「あ、あんたが身体で払えって言うからでしょ! エッチ! スケベ!」


 詰め寄る鈴音に、自販機側へと追い詰められる。


「……てか鈴音、早とちりし過ぎじゃないか? 身体で払えって肉体労働の意味だぞ? いちいちジュース一本でセックスを要求出来るわけないじゃん」

「あ……。 ~~~~~~ッ!?!?!?」


 言われてからまたも真っ赤に染まる鈴音を見つつ、自分の欲しい飲み物を買って――。


「鈴音は何が欲しい?」

「……な、何でもいいわよ……」

「了解。 じゃあホットなお汁粉――」

「わあっ!? ば、バカ!! そんなの飲める訳ないじゃん! オレンジでいいわよ!」


 冗談でお汁粉と言うと、全力で否定してオレンジジュースを頼む鈴音。

 何か、からかうと面白いな……。


「……ほらっ」

「あ、あり……がと……」


 素直にお礼を言うと、オレンジジュースを受け取る鈴音はプシュッとプルリングを開けるとちびちび飲み始めた。


「……そういやお前がここで一人でいるのって珍しいな?」

「ん? ……まぁね。 あんまり一夏も構ってくれないし……。 アタシって、あいつの何処が好きになったのかなぁって……最近よく考えてるのよね。 ……あんたみたいなのも現れたし、さ」


 じっと見つめてくる鈴音に、頭に疑問符を浮かべてると――。


「……何でもないわよ。 ……アタシも、視野が狭かったのかなぁ……」


 そんな呟きが通路に響く。

 ……悩みは深い様だ。


「……恋愛に関しては難しいよな。 好きな奴が他の子ばかり気にしてるとヤキモチ妬くし、いざ構ってもらってもライバルが邪魔したり……だろ?」

「……うん」

「一夏も……もう少しお前に構えばいいが……」

「……そうね。 ……酢豚の約束、もう破棄しちゃおうかな……」


 何気ない鈴音の呟き……だが、その声に覇気がなかった。


「……決めるのは鈴音だからな、俺が出来るのは後押しだけだ。 ……男に関しては一夏以外にもいるんだし、色々見識を広めてみるのも悪くないぞ?」

「……ふふっ、そうかもね。 ……ありがと、ヒルト。 ね、ねぇ……変な質問……してもいい?」


 言った鈴音は困ったような表情を浮かべていた。


「……構わないぞ?」

「うん。 ……た、例えば何だけどさ……。 もし、アタシがあんたの事……気になるって言ったら……迷惑?」


 口に出してから視線を逸らす鈴音は、雰囲気がいつもと違っていて答えを聞くのが怖いように思えた。


「……迷惑じゃないな。 人に好かれて嫌な気持ちになる事があり得ないしな」

「……そ、そっか。 ……ごめんね、変な質問して」

「いや? 別に構わないさ。 ……じゃあそろそろ寝るかな」


 買ったジュースを一気飲みし、ゴミ箱へと缶を投げる。

 放物線を描くそれは、スコン……と綺麗に中に入った。


「……やるじゃん。 ふふっ、ありがとねヒルト?」

「おぅ。 まああまり気負うなよ? おやすみ~」

「お、おやすみ……」


 背中でそんな声を受け、ヒラヒラと手を振ると俺は部屋に戻った。

 ……しかし、一夏ももう少し鈴音に構ってやれよと思うばかりだな……。 
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