IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第224話】
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夏のとある日。
近くの公園からは祭囃子の音が聞こえてくる――。
「ヒルトー、早くお祭り行こうよぉー」
玄関先からそんな少女の声が聞こえてくる。
近くの祭に行くためか、鮮やかな蒼の浴衣を着た少女が待っていた。
「ちょっと待ってよ。 父さんと母さんから貰ったお小遣い、財布にいれてるんだからー」
幼い少年の声が、家の中に響き渡る。
いつも一緒に居る妹は、友達と先に祭会場へと向かい、親達は親達で勝手に話で盛り上がる。
パタパタと二階から駆け降りる少年は、開口一番に言った。
「へへっ、待たせたな未来! ……相変わらず、【まごにもいしょう】だな」
特に意味も解らずに、その言葉を告げる少年。
服装はいつもの様にラフな格好で、下の穿いたジーンズは膝が破けていた。
「ぶー! たまには可愛いって言ってよぉ!」
少女も、少年が言った言葉の意味は解らないものの、いつもの意地悪な言葉だと思ったようで唇を尖らせていた――。
「へへっ、気が向いたらねぇ~。 ほら、屋台が俺達を待ってるぜ」
「あーん。 待ってよぉ~」
先に玄関を出た少年の後を追うように浴衣を着た少女が出る――そこで、一気に意識が覚醒した。
――自宅、ヒルトの部屋――
蝉の鳴き声が耳に届く――。
寝返りをうち、瞼を開くと見覚えのある景色――。
「……そっか、そういや今は自宅だったな」
身体を起こすと大きな欠伸が出る――と。
「お兄ちゃん、起きた? 起きてないなら悪戯しちゃうよ~?」
「……何の悪戯だよ、美冬」
「あはは。 いつもこちょこちょしてくるから倍返ししてあげようって思ったんだけど……もう起きてたんだね。 おはよう、お兄ちゃん」
部屋に遠慮無く入ると、窓を開ける美冬。
夏の暑い日差しが室内に入り込むと、辺りを明るく包んだ。
「……夏だとやっぱり暑いね」
「まあな。 顔洗ってリビング行くか……。 親父と母さんは?」
「二人とも今朝食食べてるよ~。 今日はお父さんが作ったんだ」
「親父が? ……なら今日はベーコンエッグとご飯に味噌汁って所か」
ベッドから立ち上がると、俺と美冬は一階へと降りていき、俺は洗面所へ、美冬はリビングへと向かった。
それから顔を洗ってすぐにリビングへと移動すると、既に食べていた三人は――。
「よぉ、起きたなヒルト。 久しぶりの我が家はどうだ?」
「……いや、たまに掃除しに帰ってるから何とも……」
まず最初に声をかけたのが親父だ。
上がタンクトップ一枚だけの為、切り傷や銃創等が痛々しく見える。
「うふふ、いつも私たちは海外ですからねぇ~。 でも、また暫くは日本かしらぁ~」
ふわふわとした言葉遣いが、リビングに響く。
既に食事を終えたのかニコニコとした表情で出迎えた母さん。
――あくまでも、表向きはだが。
裏では母さんを守るために命を無くした護衛の為に、暫く眠れない日々が続いたと親父が言っていたな。
「母さん、もう食べたのか?」
「ふふっ、いっぱい食べたわよ~」
言いながら立ち上がり、冷蔵庫にある麦茶を取り出すとコップに注いでゆっくりと飲み干した。
「お母さん、今日は結構食べたよね? お兄ちゃんも食べなよ」
「おう」
椅子に座ると、手を合わせてから朝食にありつける。
ガツガツと勢いよく食べると、二分以内に平らげた。
「……相変わらず早食いだな、ヒルト?」
「あぁ、もっと味わいたいが――やっぱり早食いのが時間とらないしな」
コップに注がれていた麦茶を一気に飲み干すと――。
「さて、親父たちは今日どうするんだ?」
「ん? 俺と母さん、美冬は一緒に外食するが――ヒルトは今日約束あるんだろ?」
「うふふ、未来ちゃんとお祭りデートね♪ ……セシリアちゃんやシャルちゃん、ラウラちゃんが知ったらどう思うかしら~? 美冬ちゃんはぷくぅって頬を膨らませてたけどねぇ~」
間延びした声が響くと、美冬が慌てたように――。
「も、もうお母さんっ!? 言わないでって言ったじゃん!」
「うふふ、良いじゃない~」
口元を手で覆い柔らかな笑みを浮かべる母さんに対して、美冬は眉を吊り上げて母さんに文句を言っていた。
「……皆も誘ったんだが、今日はまた国からISのテストを頼まれたんだってさ」
「うふふ、やっぱりあの子達も大変ねぇ……。 美冬ちゃんや未来ちゃんにはそういうのは無いのかしらぁ?」
「……日本は、織斑くんの白式、篠ノ之さんの紅椿のデータ取り優先だから。 だから私の村雲も、みぃちゃんの天照も重要視されてないの。 私たち自身には色々オファーはあるんだけどね」
そう説明する美冬に、ウンウンと頷く母さん。
親父は――。
「……日本の政府も相変わらずのポンコツっぷりだな。 母さんの村雲を採用してればいいものの……」
「仕方ないわよぉ。 もう裏取引で打鉄に決まってたもの。 それに、村雲も資金不足で完全に完成してなかったからねぇ」
あまり気にする事無く告げる母さんの口調からは真意は読み取れなかった。
「まあ何を言っても日本の決めた事だからな。 美冬も未来も代表候補生だが、こうなると七光りに輝く一夏や篠ノ之が代表になるのが明白だな、これが」
皮肉ではなく、事実だ。
何にしてもスターというものが必要だし、一夏はブリュンヒルデの弟で、篠ノ之は篠ノ之束博士の妹で、手掛けた専用機を持ってるのが大きいだろう。
「……そうなるとさ、何で倍率一万以上の難関を抜けたかわからなくなるな。 ISって確か467機だろ? 母さんが作ったPPSはまだ俺の一機しかないが……」
「まあ……そもそも各国が技術だけよこせーっていうのがおかしいのよねぇ……。 まあ、言っても仕方ないけど……。 受験倍率高いのは、それだけIS乗りになりたいのよぉ♪」
……それだけでIS学園に来るかな?
下手したらIS学園って、籠の中の鳥かもしれないな。
籠が学園で鳥は生徒。
「……やっぱり、PPSを発表した方がいいんじゃないか、真理亜?」
「……ダメよ。 無用な争いを呼んで、下手したら第三次世界大戦が勃発するかもしれないもの……。 PPSの技術も、それに使われてる第二永久機関のエネルギーも……ね。 特に、エネルギーは利権問題に発展しますから……」
困ったように眉を下げる母さんに、美冬は疑問符を浮かべながら聞き、親父は戦争になると聞いて黙った。
……日本は戦争と関係無いなんて、言えないからな……幾ら核を落とされたって言っても。
「……まあ俺たち家族が議論しても仕方ないだろ? ……とりあえずPPSに関してはこのまま親父用の専用機って事で良いじゃん。 な?」
「……かぁーっ、ヒルトは簡単に言ってくれるが……。 なかなか難しいんだぞ、このこのっ」
肘でつつく親父に――。
「でぇいっ! 親父とイチャイチャしてどうするんだよ! まだ母さんの方が良いってば」
「うふふ、ならお母さんとイチャイチャするぅ?」
言ってから後ろから抱きついてくる母さん。
「も、物の例えだよ! 暑いんだから離れろよ母さん!」
「うふふ♪ ヒルトったら照れちゃって……なら美冬ちゃんとイチャイチャ?」
「お、お母さんっ!?」
慌てたように立ち上がる美冬は、顔を赤くしていた。
「も、もぅ……そんな簡単にお兄ちゃんとイチャイチャ何て……」
「うふふ。 良いじゃない? 血の繋がりはあっても兄妹仲良くイチャイチャしたって♪ ……えっちはダメよぉ? 一応一代までなら大丈夫って聞くけど……」
「……しないから大丈夫だって。 ……ったく」
無理矢理母さんを引き離すと、食べた食器を台所まで下げる。
「さて、時間になるまで俺は寝てるから」
「わかったぁ。 お兄ちゃん、楽しんできてね?」
「未来ちゃんによろしくな」
「うふふ、やっぱりヒルトのお嫁さん候補は未来ちゃんかしらぁ?」
そんな声を背中に受け、二階の自室へと戻った。
窓は開いたままで熱気は無いものの、夏の日差しにカーペットが熱を帯びていた――と。
「ヒルト? 夕方に迎えに行くからね?」
迎いの窓から未来が此方に身を乗り出してきた。
……一応、やろうと思えば隣の未来の部屋へと渡れる距離なのだが。
「おう、それまで寝てるから起こしに来てくれよな?」
「……もぅっ! 相変わらずなんだから……♪」
態度で怒っていても、声色で怒っていないのがよくわかる。
ベッドに横になると、俺はそのまま瞼を閉じて眠りについた……。
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