IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第230話】
未来の思い悩むその姿に、俺も歩きながら気になってか、前を歩く一夏に声をかける。
「一夏、悪いが俺と未来はそろそろ帰るよ」
「え? 何でだ? まだ金魚掬いしか遊んでないじゃないか」
「あぁ。 だがちょっと未来の体調が悪いっぽいからな。 ならあまり無理させる訳にもいかないだろ?」
「え……?」
驚きの表情と共に未来は俺に顔を向けた。
「そうか? ……なら熱があるか、俺が計ってやるよ――」
「……ごめんなさい織斑くん。 熱は無いんだけどね、実は【あの日】でちょっとキツいんだ……」
女の子が【あの日】というのは多分……【女の子の日】って奴だろう。
だが一夏は――。
「……? あの日って?」
そんなすっとぼけた事を言う一夏に、頭が痛くなる思いだった。
自分にも姉がいるくせに、そんなこともわからないのかよ……と。
「……とにかく、未来は体調悪いから俺が送って帰るよ。 家も隣だしな」
「……ふぅん? そっか、なら気をつけて帰れよ? 俺と箒はまだ暫く屋台を巡ってるから。 行こうぜ、箒」
「う、うむ。 ……ふふ、やっと二人きりに……っ」
喜色に満ちた独り言を呟く篠ノ之は、慌てて一夏の隣に移動するとついていった。
……だが、暫くすると一夏の知り合いらしい女の子一人が合流するのが見え、明らかに黒いオーラを放つ篠ノ之の気配がここまで感じた。
「……こんなところまで不機嫌オーラ出すって、あいつもスゴいよな」
「うふふ、そうね? ……中でも外でも、織斑くんを狙う子は多数って事よね。 ……結局、私には彼の良さがわからなかったけどね」
困ったような笑顔を向ける未来。
四月に会ったときにはやっぱり興味を持っていたが、今となってはクラスメイトぐらいの認識しかないだろう。
……まあ俺も、未来がその辺りの子みたいに一夏カッコいいって無条件で言わなくて良かったが。
「花火大会もあったが……戻るか」
「……うん。 それに……花火なら家でも出来るでしょ?」
さっきの困ったような笑顔とは異なり、今度は柔らかな笑顔を此方に向ける未来に、俺も頬が少し赤くなった。
夏の熱気と、人々の活気で赤くなった――という言い訳も使えるが……使っても意味はないだろう。
「んじゃ、気を取り直して帰るか。 未来も、篠ノ之の言った事はもう気にするなよ? 俺もお節介や余計なお世話だって言われてるんだからさ」
ニッと笑顔を向けると、未来の顔が赤く染まり、Tシャツの裾を掴むと――。
「ば、バカ……。 うふふ、帰ろうっ?」
俺の手を取るとそのまま引き、俺と未来は篠ノ之神社を後にした。
――道中――
帰りの並木道、行き交う車のヘッドランプが俺と未来を照らしては向こう側へ消えていき、テールランプの残光を残して曲がり角に消えていく。
後ろからは、既に花火が上がったのか、夜空を覆う満開の花が咲き誇り、そして散っていく。
花火の明かりに照らされた未来の横顔は、どこか寂しさを感じるものだったので俺は――。
「ほら、そんな寂しい顔するなよ? ……ちょうど河川敷が近くだしさ、少し花火を見てから帰るか?」
「……うふふ、そうだね? ちょうどベンチもあるし、人も居ないし……ね?」
そう指差す先に、手頃なベンチが備わっていた。
ウォーキングする人達や子供達が休憩する用だろうか。
ともかく、河川敷に降りる階段へと移動すると、俺は未来の手を取った。
その俺の行動に、一瞬驚きの表情を浮かべるが――。
「……ふふっ、何だかヒルトには似合わないよ、エスコートって」
「……だな。 まあこれでもセシリアやシャルにラウラとエスコートしてるから」
「……そうだね。 皆凄く可愛いし、私の大事な友達でヒルトを巡るライバル……。 ちょっと、ややこしいね」
先導するように河川敷の階段を降り、ベンチの上を払ってから未来を座らせる。
また背後で篠ノ之神社方面の夜空を明るく染める花火が打ち上げられると、満開の花を咲かせていた。
「……綺麗」
そんな呟きに、俺は未来の横顔を見ると、花火の明かりで照らされた未来の横顔の方がよっぽど綺麗だと思って……。
「……そうだな、綺麗だな……未来の横顔」
「ふぇっ……? ――な、何言ってんだか! ……バカ」
気恥ずかしそうに視線を向ける未来。
そんな未来と目が合うと――。
「「あ……」」
二人同時に、小さく声を漏らした――。
夜空を覆う満開の花が咲き誇る中、俺と未来は息をするのも忘れるぐらいに見つめあった。
「あ……わ、悪い……。 つい、見とれちゃったよ」
「……ば、バカ……。 ……うふふ、何だか……凄くドキドキする」
潤んだ瞳を何度も瞬きさせ、はにかみ笑顔を見せた未来に、俺も胸がドキドキと高鳴った。
「……ヒルト、前にも言ったけど……。 私は、ヒルトが幸せになってくれるのが一番なんだからね?」
「……未来。 ……俺は皆を傷付けてるだけなんじゃないのか? ……正直、誰と付き合っても……俺は誰かを傷付ける。 そう思うと、色々曖昧な態度をとってる俺自身が嫌いになってくる」
口から出る言葉に、未来は静かに頷き――。
「……わかるよ? ヒルトって、意地悪だけど……優しいもんね? 優しさが人を傷付ける事ももちろんあるけど、その優しさでヒルトは三人の心を救ったんじゃないかな……?」
そう俺に伝えながら、夜空に上がっていく花火を見上げる未来。
さっきまでの単発とは違い、今は連発式なのか、絶え間なく彩り鮮やかな花火が空に咲き、辺り一帯を照らしていた。
「……優しさ、か……」
そんな呟きも、花火の打ち上がる音にかき消されて虚空の彼方へと消えていく……。
暫く、俺も未来も黙ったまま花火を鑑賞していると未来が口を開く。
「んと、さっきの話だけど……ヒルト、あまり思い詰めないでね?」
「……そうしたいが、なかなかな……」
「うーん。 ……まあいきなりは難しいよね? ……ヒルト、帰ろう?」
「……まだ、花火は上がってるぞ?」
「元々帰るつもりだったじゃない♪ 寂しさも紛らわせたし……ふふ、何なら夏の幼なじみとの思い出にキスする?」
茶目っ気たっぷりにウインクする未来は、言ってて恥ずかしかったのか花火で照らされたその表情は赤く染まっていた。
「……そうだな。 夏の思い出にキスも悪くないかも……何てな。 無理するなよ未来。 顔が真っ赤だぞ?」
「……そういうヒルトだって、顔が真っ赤だよ?」
互いに指摘し合うと、何だか二人して可笑しくなり、笑い声が河川敷一帯を包んだ。
「はははっ、俺も未来も、同じ様に赤くなったな♪」
「ふふっ、そうね♪ ……ヒルト、帰ろう」
「……そうだな。 ……キス、しないのか?」
「ふぇ? ……ふふ、したくないって言えば嘘になるよ? でも、ここだと目立っちゃうから……なんてね♪」
そう言って立ち上がると、また未来は俺の手を引き、河川敷の階段を登っていく。
夏の夜空を覆う満開の花を背に、俺と未来はまた、自宅への帰路へとついていった――。
……結局、キスはしなかったが……何だか、俺自身がキスするのを楽しみにしてる気がする……。
後書き
早いけど夏祭り編終わりっす
あまり蘭の介入は好きじゃなかったりしますし
全く出ないって訳じゃないですが
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