IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第221話】
俺とセシリアは炊飯器の前まで戻る。
まださっきの唇の感触と余韻が俺にもセシリアにも残ってる為か、まだ顔が赤いままだった。
炊飯器には湯気が立ち込め、炊き上がった合図を出していた。
そして、炊飯器を開けると大量の湯気と共にキラキラと輝く白米がふっくら炊き上がっていた。
「ん、いい感じに炊き上がってるな。 ……まあ飯盒炊飯じゃないから焦げる心配は無いがな」
「飯盒炊飯……?」
首を傾けて聞き返すセシリア――まあ知らなかったらそうだよな。
「主に林間学校とかで、生徒が自分達だけで米を炊くんだよ。 日本だと小学校や中学校、高校一年の時何かでもたまにやるかな? その時は大概レトルトカレーを温めてカレーにするんだがな」
「そうなのですか? ……うふふ、楽しそうですわね♪」
「まあな。 ……でも女尊男卑な昨今だと大半の女子は手伝わずに話に華を咲かせて雑務は俺達がやって、出来上がったカレーを食べるだけという構図が出来上がってたな。 ……美冬や未来、一部女子はちゃんと手伝うどころか解らない人にはちゃんとやり方をせつめしてたが」
昔の事を思い出しながら、お椀に炊いた米を入れていくのだが――。
「あら? ヒルトさん、何故お椀に炊いたばかりのお米を……?」
疑問に思ったのか、セシリアは俺に聞いてきた。
「ん? ……お椀を使うのはおにぎり作るのに使うからだよ」
「……? 普通は手で握るのではありませんか?」
そう言って手でおにぎりを握る仕草をするセシリア。
「……出来る人はそれでいいが、出来ない人にはこの方法だと形を整えやすいんだよ。 まあ見てろって」
きょとんとした表情のまま、俺を見つめるセシリアを他所に、俺はもう一つのお椀を用意し、二つ重ねて中のご飯を溢れないようにする。
そして、勢いよく縦に横にと二つ重ねたお椀をシェイクし始めた。
こうすることによって、中のご飯が綺麗な丸の形になって、おにぎりの形に形成しやすくなる。
……俺はこのやり方に慣れたからか、こっちで教える方が多いが――。
暫く振り続け、頃合いを見計らってから二つ重ねたお椀を開く。
開いた中にはシェイクされ、中で激しく転がった結果丸くなったご飯がそこにあり、炊きたての為湯気が上がっていた。
「……こんな感じだな。 出来る人はそのまま握るが、出来ない人にはこれがオススメだな。 ……まあ疲れるかもしれないし、お椀を重ねてシェイクする姿はシュールかもしれないが」
「うふふ、ですが……これも人の知恵というものですから。 格好の良し悪しで決めるのも浅はかなものですわよ? 例え他人から見たらシュールな姿でも、実践する為の工夫という事を考えればどんな知恵でも馬鹿には出来ませんもの♪」
そう笑顔で言いながら、杓文字を手にとって用意されたお椀にご飯を入れていく。
そして、先ほど俺がやって見せたようにもう一つのお椀を重ねて蓋をし、ゆっくりと上下左右に振り始めた。
一方の俺は、水道で軽く手を濡らし、丸くなったご飯をおにぎりの形に握っていく。
セシリアも、ある程度振り終えるとお椀を開け、中を確認してから少し手を水で濡らしながら握り始めるのだが――。
「……なかなか上手くいかないものですわね」
何処か不恰好な三角のおにぎりを見て怪訝そうな表情を見せるセシリア。
「……あまり力を込めすぎずにやってみろよ? ……というか、後ろからサポートした方が早いか」
「え? ――ひゃっ。 ひ、ヒルト……さん?」
端から見ると俺がセシリアを後ろから抱き締める形に見えるだろう。
セシリアもいきなりで小さく声を上げたが、直ぐに表情が和らぐ。
……てかさっきまで濃厚なキスして、今さらこれで俺は照れないが。
「ほら、こうやってめちゃくちゃ力は入れずに……」
「こ、こうですか……?」
重ねた手に照れてるのか、力弱い言葉で聞き返すセシリアは、ゆっくりとおにぎりを握っていく。
「そうそう。 力が強すぎると硬くなるし、弱いとおにぎりが崩れるからな」
「な、成る程……力加減が大事なのですわね」
セシリアの白い肌が、徐々に赤く染まっていくのが見える。
「……なんだ? さっきまでキスしてたのに……恥ずかしいか……?」
「……~~~~っ。 し、知りませんわ……っ」
照れ隠しの為か、そっぽを向くセシリア。
結って束ねたセシリアのポニーテールが、ぺしっと頬に当たるが特に気にすることもなくサポートを続けた。
そうこうして炊いた米全てでおにぎり(中身有りと無し)を作ると――。
「……うふふ、どうにか完成致しましたわね?」
「……だな。 さて、ずっとこのままだと色々噂されるからな、離れるぞ?」
「あ……」
セシリアを解放すると、小さく名残惜しい声をあげた。
……そりゃ、俺もあのままの方が落ち着いたりするが……ずっとって訳にはいかないからな。
振り向いたセシリアの表情は、やはり寂しさが混じっていたが、それを隠すように直ぐに笑顔に戻ると――。
「ひ、ヒルトさん? せっかくですからいただきましょうか? ……海苔は巻かなかったのですか?」
「今回は海苔無しだな。 巻いても好きだがこのまま巻かないのも好きなんだよ。 いただきまーす」
手に取り、一口おにぎりを頬張るとセシリアはまじまじと見つめてくる。
「……ど、どうでしょうか……?」
「うん? 旨いぞ? ちゃんと教えながらやったし、良い塩加減だしな」
言って、むしゃむしゃと頬張り、指についたご飯粒も食べていくと――。
「うふふ、良かったですわ。 ……ま、また不味いって言われるとやはりショックですから」
「……ショックでもさ、作った人は食べる側の事も考えないとダメだからな。 ……セシリアが味見しない理由は確か体型維持だったか?」
「え、えぇ……。 ……恥ずかしいお話ですが、女の子は油断しますと直ぐにお腹にお肉がつきますの……。 ぷよぷよ~って……」
頬に手を当てながら溜め息をつくセシリアは、色々体型維持の為に苦労してるのだろう。
「……でもさ、あんまりガリガリだと男からすれば脱がした時にがっかりするんだよな。 少しは肉付きがいい方が脱がした時、良いんだぜ?」
「……成る程。 男の方は皆モデルみたいな方がお好きなのかと思っていましたわ……。 ――な、何気にヒルトさん、脱がした時って言いませんでしたか……?」
若干ジト目で見つめるセシリアに、俺はおにぎりを頬張りながら頷くと――。
「……ヒルトさん、えっちですわ……」
「……そんな俺、嫌いか? ……思春期で女の子に対してえっちな事に興味がなかったら、俺は仙人かホモじゃねぇか」
「……そ、それもそうですわね。 ……うふふ」
照れながらも静かに微笑むセシリア。
そんなセシリアを見てまた胸がドキッとすると、やはり意識してるんだなって改めて思う。
……セシリアが俺の彼女になったら……少し大変そうだが、悪くは無いよな。
セシリアは俺がそんな事を思っているとは露知らず、不思議そうに眺めながら具入りおにぎりを小さな口で食べていく。
そのまま他愛ない話をしながら、俺とセシリアはおにぎりを食べていった――。
後書き
次かその次辺りにはまた原作に
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