IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第226話】
――篠ノ之神社――
歩いて約二十分程で篠ノ之神社に到着。
やはり祭の為か、多くの人々で溢れかえっていて、手を離すと確実に合流は不可能だろう。
「……やっぱり人が多いね? ほら、国際化してるから色々な人種の人がいるよ」
そう指摘する未来の視線の先には黒人や白人等の男女もちらほらと視界に映った。
「……そんなに篠ノ之神社の祭って有名なのか?」
「……うーん、神楽舞が名物って聞いたことあるかな? ……今日はもう終わった様だけどね」
「ふむ? ……誰が舞ってたんだ、それ?」
「んと……。 うん、やっぱり篠ノ之さんだね。 掲示板に書いてあるもん」
そう言って指差す先にある掲示板の貼り紙には――【あの篠ノ之束博士の妹、篠ノ之箒の舞う神楽舞が見られるのは今日だけ!】――的な貼り紙が貼ってあった。
……だから人が多いのね、何だかんだで篠ノ之束博士の妹だし。
「……あの篠ノ之がねぇ……。 舞う姿はわからんが、普段のあいつだと刀で【切り捨てごめん】の方が印象的だしな」
「……篠ノ之さんも、刀を帯刀しなかったら凄く女の子何だけどね? ……後は、暴力無くせばもっといいんだけど……」
「……さあ、どうかな。 無くなりそうで無くならない気がするが」
そんな言葉も、喧騒の中へと消えていく……。
こんな入り口で篠ノ之の事を話してても仕方がないので――。
「未来、色々見て回らないか? ボーッとしてても仕方ないしな」
「……だね。 じゃままずは屋台を一回りしよっか?」
そう決めると行動は素早く、未来は俺の手を引きながら行き交う人の波を器用に避けつつ移動した。
行き交う人の中には親子連れが多く、親におねだりしてくじを引いたり、綿菓子を食べたりと微笑ましい光景が映った。
屋台の方も食べ物関係が充実していて、基本の焼きそばや焼きもろこし。 イカ焼きにたこ焼き、鈴カステラ等々――。
遊びに関しては縁日や祭でもよく見る金魚すくいやスーパーボールすくい、亀すくい、射的に輪投げに、果てはバスケットボールをゴールに入れるゲームまであった。
「……やっぱりうちの公園より広いからか、色んな屋台があるな」
「そうだね。 ……そろそろ一周したから、次は何か食べながら見てみよっか?」
「だな。 まずはフランクフルトでも食うかな」
よくよく考えると、朝食べてから夕方まで寝ていた為、腹ペコ状態だった。
善は急げと、今度は俺が未来の手を引いて屋台食べ歩きツアーへと出掛けていった――。
まず、最初に寄ったのはフランクフルトを焼いてる屋台。
「フランクフルト二本、お願いしまーす」
「はいよー」
手早くフランクフルト二本にケチャップをかけていく屋台の店主。
見たところ、年齢は三十代後半といったところだろう。
「はい、おまちどおさま!」
「ありがとう。 ……はい、二本分の料金」
財布から小銭を取りだし、支払うと――。
「……確かに、丁度いただきました。 ありがとうございましたーっ」
受け取ったフランクフルト二本のうちの一本を食べていくと、俺はもう一本を未来に差し出す。
「え? ……これって――」
「未来の分だよ。 添加物多いから気になるのか?」
「う、ううん!? ……だって、子供の頃だと……ヒルトっていつも二本食べてたから」
懐かしむように呟く未来は、差し出されたフランクフルトを受け取った。
そっと髪をかきあげ、瞼を閉じてフランクフルトを口に含む。
……その姿に、周りの男子の目が釘付けになっていたので俺は慌てて――。
「み、未来、早く食えって! 周りが見てるぞ……」
「んぅっ……。 わか……ったぁ……。 はむっ……んふっ……。 モグモグ」
艶かしい声とは裏腹に、先からかじられたフランクフルト。
流石に食べられたら未来を見る人も居なくなった……。
これが未来一人だけだと、ナンパされてただろう。
「……んむ。 ……ふふっ、フランクフルト食べるのって久しぶり……♪ 綿菓子は良く食べてたけどね♪」
そう言いながら自分の唇についたケチャップを指で掬うと、そのままぺろりと舐め取った。
「ふむ……なら次は綿菓子行くか。 ほら、食べたからゴミは捨てないとな」
食べ終えたフランクフルトの串を受け取ると、近くのゴミ箱に捨てた。
分別されたゴミ箱だが、マナーの悪い客もいるようで生ゴミの所に缶を捨ててるのが見えた。
「さて、行くか」
「うふふ。 何処までもついて行くからね、ヒルト♪」
笑顔で応える未来を連れだって、次の目的地である綿菓子の屋台へと向かった。
到着すると、親子連れのグループが子供に綿菓子を買ってるのが目に映る。
買って貰った女の子は、受け取った綿菓子に目を輝かせ、美味しそうに一口一口頬張っていた。
「……小さい子って、可愛いよねヒルト?」
「そうだな。 ……ああいうのを見ると、もう一人弟か妹が欲しくなるな」
買って貰ったお父さんの手を握る女の子の表情は輝いていた。
次に並んでいた二人の兄弟にも、父親が綿菓子を買い与えていた。
二人の兄弟の頭には、ヒーロー物のお面を被っていて、互いの仲の良さが此方にも伝わってくる……。
「……私も、弟か妹が欲しかったなぁ」
「でも、未来は従姉の姉さん居るだろ?」
「お姉さんはね? でも年下の弟か妹がいたら可愛いじゃない?」
そう言いながら、先に買った綿菓子を食べてる女の子を眺める未来。
綿菓子の順番が来たため、二人分の料金を支払い、綿菓子を受け取ると――。
「ほら、綿菓子だぜ」
「ありがとう。 ……何だかヒルトに払わせてばかりよね、私って」
「ん? ……気にするならたこ焼き、奢ってくれるか?」
綿菓子を一口頬張ると、口内に甘い綿菓子の味が広がり、直ぐに溶けていく。
「たこ焼きかぁ……。 屋台のたこ焼きって美味しいのかな?」
「……作り手によるな。 下手な人だと硬すぎたり、柔らかすぎてぐちゃぐちゃだったりするが」
「ふぅん……。 まあ食べてみるまではわからないって事ね?」
納得したのか、頷きつつも綿菓子を頬張る未来。
浴衣に気を使ってか少し食べにくそうにしていた。
「……未来、食べにくいのか?」
「ん? ……少しね、やっぱり汚しちゃうと大変だし……」
困ったような笑顔でそう伝える未来――。
「……な、なら俺が持ってやるから食べろよ?」
「え? い、いいの?」
「……あぁ、本当に食べにくそうだからな。 俺はもう綿菓子食べ終わったしな」
そう言って未来から綿菓子を受け取ると、口元まで運ぶ。
「あ、ありがとうヒルト。 ……うふふ、何だか嬉しいなぁ……」
笑顔で伝える未来は、そっと綿菓子を一口頬張る。
「……えいっ」
「ふぇっ……?」
一口頬張った所で離れようとした未来の鼻に綿菓子を当てる。
突然の事に、きょとんとしながらも徐々に状況がわかると――。
「――もぅっ!! やっぱり意地悪したぁっ!! こういう所は子供の頃と変わらないんだからッ!!」
「わははははっ!」
怒って詰め寄る未来に、俺は笑って誤魔化す。
鼻の頭には綿菓子がついていて、またそれが可笑しかった。
「悪い悪い。 イタズラの定番だろ? ほら、鼻の頭に綿菓子ついてるぞ」
「あっ。 ……~~~~っ!?」
指で未来の鼻の頭についた綿菓子を取って食べると、直ぐに口の中で溶けていく。
その一連の指摘と俺の動作に、顔を真っ赤にする未来を他所に――。
「ほら、食べなよ未来?」
「うぅ……。 また意地悪するんでしょ?」
むぅっとジト目で睨む未来に――。
「一回成功して二回もしないって。 二回目は警戒されるしな」
「……そうだけど。 意地悪、しないでね……?」
上目遣いで見上げる様に言い、頬を朱色に染め上げる未来。
さっきから色々騒いでる為か、色々な声が聞こえてくる。
主に爆発しろ――と。
「もうしないから安心しろって。 な?」
「うぅ……絶対だよ? 次、意地悪したら怒るからね? ……あ……むっ……」
おずおずと口を開き、警戒しながらも一口食べる未来。
そこで安心したのか警戒を解き、笑顔で綿菓子を食べていった――。
「ほら、意地悪しなかっただろ?」
「……ま、まだわからないもん……。 不意をついて綿菓子くっつけてくるかもしれないし……」
そうは言うものの、表情は既に安心しきっている未来。
まあ俺自身も、これ以上意地悪して目立つのは避けたいからな。
そうこうしてる内に、綿菓子を食べ終えた未来は――。
「んんっ! 甘くて美味しかった♪」
「ははっ、なら良かったな? ……意地悪、しなかっただろ?」
「……最初から意地悪しなかったら、怒ったりしないのに……バカヒルト」
再度ジト目で睨む未来。
このままだとずっとジト目な気がしないでもないので話題を変える。
「ほら、まだ屋台食べ歩きツアーは始まったばかりだし、行こうぜ?」
「……何だか話をはぐらかされた気がする。 ……良いけどね。 次は何を食べるの? やっぱりたこ焼き?」
「……うーん、チョコバナナでもいいが……。 やっぱりたこ焼きだな」
そう結論つけると、未来は力強く頷いた。
「了解、じゃあ次は私が払うからね? 行こっ♪」
さっきと同じ様に手を引く未来。
その表情は、さっきよりも満面の笑みを浮かべていて輝いていた――。
ページ上へ戻る