IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第359話】
前書き
原作戻りますん
まだ手に残る乳房の感触に、自然とだらしない顔になっていたのか通り過ぎていく女子にクスクスと笑われてしまった。
……気を引き締めねば……とは思うものの、やはり女性の胸を揉むという行為は何か良いと思うのは男のサガなんだろう。
それはともかく、こんな表情を美冬に見られたら言い訳出来ないので再度気を引き締めて俺は自室へと戻っていく。
そして、部屋の前に到着するや、直ぐ様制服のズボンから部屋の鍵を取り出し、鍵穴に射し込んで開ける――。
「あれ?」
鍵の開く音がしなかった――という事はうっかり鍵を閉め忘れたのだろうかと今朝の記憶を思い出すが、やはりちゃんと鍵を閉めている。
不思議に思いつつも、ドアノブを回して開け、室内に入ると鍵が掛かっていなかった原因がわかった。
「おかえりなさーい。 あ、お邪魔してるわよ」
ベッドの上で寝そべり、足をパタパタと上下に動かしながら彼女はそう言った――更識楯無さんだ、ファッション雑誌の表紙にはこの学園の代表候補生の女性が載っている。
「……てか楯無さん、何で俺の部屋に――」
「あはは♪ 君と私の間の障害何て何も無いのが一番♪ 会長権限で合鍵作っちゃいました~」
未だに足をぱたつかせ、時折覗き見えるピンクの下着に心乱される思いだった。
てか合鍵って……彼女じゃないんだから……まあ、楯無さんが俺の彼女候補になることのがあり得ないが――。
これだけの容姿を持っていて彼氏がいないというなら世の中の男子はどうしたと言いたい――。
って思ったが、女尊男卑故の高嶺の華だから逆に気後れして無理なのかもしれないな。
「うふふ、ヒルトくんってば……おねーさんの下着に興味津々?」
「うぐっ……。 て、ていうか女子なら男性の部屋でそんな無防備な事しないでくださいよ! 本当にいつか襲われますよ?」
「あはは♪ だいじょーぶだいじょーぶ♪ 君が襲ってきても、おねーさんの方が強いんだから♪」
「…………それもそうですね」
確かに事実だ――この人相手に勝てるイメージが湧かない――。
まあその前に、女性を殴るとかの行為は理由がない限りは遠慮したい。
ISでの戦闘ですら格闘戦は躊躇するのだから――とはいえ、先日の亡国機業みたいな連中相手なら遠慮も加減もしないが。
――と、ここで読んでいたファッション雑誌をベッドの隅に起き、身体を起こすと真面目な表情で俺を見てくる。
「さて、今日はちょっと真面目なお話。 先日襲撃してきた例の組織についてね」
今まさにその亡国機業の事を考えていたため、俺は内心驚く。
表情に出ていたのか口元を手で覆い、クスリと微笑を溢すと楯無さんは先ほどと同じ様にまた真面目な表情に戻った。
「非公式な情報だけど、先刻アメリカのIS保有基地が襲撃されたって情報を得たの」
「非公式な情報……?」
そう俺が訊き返すと、楯無さんは小さく頷く。
「えぇ、前に多分言ったと思うけど更識家は対暗部用暗部。 だからこの手の情報収拾はお手の物って訳よ。 ……でも」
「……?」
少し言葉を濁す楯無さんに、疑問符を浮かべながら彼女を見てるとまた言葉を紡ぐ。
「……襲撃してきた亡国機業のISを撃退した機体については暗部でもお手上げだったわ。 映像も残ってないし、基地の兵士達は皆秘匿情報という事でこれ以上調べられなかったわ。 ……流石にハッキングして調べる何て事をすれば日本とアメリカの関係にヒビが入るしね」
本当にお手上げらしく、参ったと言わんばかりに手を上げた楯無さん。
――アメリカの新型のISが撃退したのだろうか?
だがアメリカの第三世代型は確かファング・クエイクと呼ばれる機体って名前だけなら情報は出ていたが――。
……やはり情報が少ないため、思考を巡らせても全くわからないため一旦考えるのを止める。
「……その機体の話は置いておくとして楯無さん、他に被害情報とかは――」
「えぇ、人的被害という事なら死者は居ないけど重傷者多数ね。 軽くても骨折、重い人だと四肢の何れかの損失よ」
「……惨いな」
訊くだけで想像は容易く、基地内部の地獄絵図の状況が簡単に想像が出来た。
「……えぇ、惨い惨状よ。 そっちの映像は私も確認したけど、慣れてない子は見ない方が良いわね――特に学園の子の殆どはこの惨状を見ればPTSDにならないとは限らないもの」
確かにそうかもしれない――人は凄惨な惨状を見たりすれば、それが脳裏に焼き付き、時折フラッシュバックするように思い出すからだ。
……事件にほぼ無縁な女子生徒が興味本意で見聞きすれば、確実に心に深い傷が残るだろう。
「……成る程。 ……話は戻しますが、その基地を襲撃したという事は――」
「えぇ、そこにあるISが狙いだったのよ。 ――と言っても、普通のISを狙うのであればあの基地にはラファール・リヴァイヴ数機とアラクネ数機配備されていたからそれを狙うはず、だけど亡国機業はそれを狙わずに秘匿された機体を狙った――後はわかるかしら?」
「……アメリカで秘匿されるような機体といえば、イスラエルと共同開発した機体――【銀の福音】……ですね」
楯無さんの言葉に直ぐ様脳裏に過ったのが銀の福音――七月に暴走し、俺や他の専用機が事態に当たって暴走を止めた事件の該当機体だ。
……とはいえ、コアである福音の話だと自分で暴れた訳じゃなく、外部から何かされて暴走していたと言っていたが――。
……此方もまだ情報が少ない――とはいえ、日本へと進路を取ったのは偶然なのだろうか――それも、あの時俺達が居た旅館から直ぐ近くを通るような――。
……やはり情報が少なすぎる為、これ以上考えても意味がないと思い、俺は一旦福音暴走事件の事を頭の片隅へと追いやった。
「今回の狙いは銀の福音で間違いが無いでしょうね。 封印された機体を奪取してそれを使う――テロリストが考えそうな事ですね」
「……えぇ、そうね」
そう短く返事をした楯無さんに、もしかすると俺の考え方は安易な考えなのではと思ってしまった。
「……まあそれはともかく、私も君も、ISを奪われたりしないように気をつけて――うふふ、まあ今のヒルトくんの機体は学園が用意した打鉄の改良型だから、先ず狙われないでしょうが……他の子は別よ? ヒルトくん、君が守ってあげなさい」
まるで姉が弟に言うような声色で言う楯無さん。
「……皆を守れる程、俺は器用じゃ無いですし、強くも無いですよ?」
「うふふ、なら出来る範囲内で守ってあげなさい。 一人で出来る事なんて、たかが知れてるもの――織斑くんみたいに、皆を守るという高い目標ではなく、君自身の大切な人を守る様な目標を……ね? あ、その中に私も入れておいてね♪ ついでに私が惚れちゃう位のいい男にもなってね♪」
――楯無さんは俺が守らなくても大丈夫な気がしなくもないが、もし危機的状況に陥ったのならその時は……助けようと心に誓う。
――が、楯無さんに惚れられるぐらいのいい男ってのは無茶過ぎる。
楯無さんは何と無くだが理想が高そうなイメージ――ラスボスみたいな。
言えば怒られそうなので言わないが――と。
「あら、もしかして私が君に惚れないとでも思ってるのかしら?」
「え? ……そりゃまあ……楯無さんの理想はどんな人かは分かりませんが、有り得ないでしょ? 卑下するつもりではないですが、自分と釣り合いがとれるとはとても思わないですし」
「うふふ、それはどうかはわからないけど――私だって女なんだから、いつかは誰かの所に収まるものよ。 それが君の可能性ってのは否定できないじゃない?」
それは確かにその通りだが、それを言ってしまうとどんな男子でも楯無さんの彼氏になれる可能性があるということになる。
「恋って、気付いたら落ちてるものよ? だから君の周りの女の子も、君の良さに気付いて好意を抱いてるんじゃないかしら?」
「…………」
人の想いというのは計り知れないものだ、確かに気付いたら恋に落ちていた何て可能性もある。
楯無さんの言葉に、俺は何も返せずにいると――。
「うふふ、ヒルトくんってばだんまりしちゃって……擽っちゃおうかしら」
「げ……。 や、止めてください――正直擽られるのは一番体力奪われるので――」
「あら? うふふ……そんな事訊いちゃうと意地悪したくなっちゃうおねーさんの悪戯心♪」
よくわからないが、この人の悪戯心に火を着けてしまったようだ。
目の前の楯無さんはさっきとうって代わり、手をワキワキと動かしながら俺に触れようとしたその時、室内に響き渡るノックの音――。
「ヒルト、ちょっといいかな?」
ドア越しにそんな声が聞こえてきた――シャルだ。
何にしても、これで擽られずに済むと思うとまさに渡りに舟というやつだろう。
「あぁ、入っていいぞ? 鍵は開いてるし、遠慮なく入っても問題ないぞ」
そう返事をし、楯無さんの顔を伺うと残念そうな表情のまま、動かしていた手の動きを止めてまたベッドに腰掛けた。
「じ、じゃあ入るね? お邪魔します」
そう言って入ってくるシャル――室内で俺の姿を見つけるや、笑顔になったシャルだったが……。
「いらっしゃーい」
「え……」
楯無さんがシャルに手を振って挨拶をすると、急に動きが固まり、きょとんとした表情を浮かべた。
だがそれも束の間、きょとんとした表情から無表情へと変化していき、目には光が宿らない虚ろな瞳で真っ直ぐと俺を見つめるや、ゆっくりと絞り出す様に言葉を吐いた。
「ヒルト、楯無さんと何してたの……? 部屋で二人きりで……」
何を勘違いしてるのかはわからないが、明らかに今の無表情と虚ろな瞳、そして吐くように呟く言葉が言い様の知れない恐怖というものを俺は感じる。
「え、えっと……ちょっと楯無さんから報告受けてて――ですよね、楯無さん?」
「うふふ、さあ? どうかしらね~♪」
まさかの言葉に、ぎょっとする俺――と、楯無さんは立ち上がるとするりと俺の腕を取り――。
「男と女が部屋で二人きりでする事って……数えるほどしか無いじゃない?」
「…………っ!?」
楯無さんの言葉に、更に目が虚ろになっていき、漂うオーラが黒いものを感じる。
「た、楯無さん!? じ、冗談は止めてくださいよ!?」
「あはは♪ じゃあ私はそろそろおいとましようかしら? シャルロットちゃん、ごゆっくり~♪」
「はい」
絡ませた腕をほどき、ひらひらと手を振ってその場から去る楯無さん。
そんな楯無さんに呪詛の言葉を吐きつつ、俺は今のシャルにどう説明しようかと内心穏やかでは無い状況に、背中に冷たいものを感じる思いだった。
後書き
修羅場?
更新まったりと言いつつ書いた( ´艸`)
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