つぶやき

こばやかわひであき
 
純正『魏事象』の分岐点
 主力のほぼ全ては俺の部隊を置いて別行動へと動いたと報告があった。

「そうだ、それでいい。俺は華琳の部下だから、切り捨ててくれて構わない。覇王の矜持を、誰かを切り捨ててでも何かを為さんとする誇り高き心を、あの優しい女の全てを穢そうとするのなら、そいつは覇王の部下に相応しくない」

 華琳の目的は敵大将、および軍師の捕縛、もしくは殺害。
 間違いなく、華琳ならばそれを選んでくれると信じていた。

「多くの犠牲を出しても欲しい結果を奪い取る。それこそ、俺が仕えていいと思える覇王曹孟徳だ。甘ちゃんの劉備みたいな思考なんざしねぇ。これを無駄な犠牲と言いやがる奴は劉備軍に行けばいいんだ。覇王の想いを舐めるなよ、田豊」

 目の前に来る敵兵の壁は俺達の八倍はあろうかという程。
 田豊の策は間違いなく華琳の首元に刃を掛けていた。ほんの少しだけ、俺と朔夜の策と華琳の即断が上回っただけ。この不可測がなければ、この官渡で『曹操』は負けていた。
 ぎゅっと腰にしがみついてくる少女の頭を撫でて、いつも通りに微笑みかけた。

「秋兄様と、一緒なら勝てます」
「クク、朔夜の頭と俺の武力、そんでバカ共の命がありゃあ確かに行けるな」

 後ろを振り返ると真っ直ぐに俺を見つめる男達の目。俺と想いを繋いでくれる大切な部下達。
 前に目をやり、すっと剣を掲げて……バカ共への手向けに俺は声を張り上げた。

「死に往くならば想いを咲かせ、進むのならば想いを繋げ、此処が地獄であるのなら、先の平穏望みて駆けろ! 我ら不敗の徐晃隊、全てを賭けて勝利を掴め!」

 湧き上がる歓声と怒号、まるで追い風のようなそれらを合図に……彼女との約定を果たす為に俺達は不敗の戦鬼となっていった。

 ぶつかる寸前、頭に響いたのは一つの声。

『必ず生き抜いて平穏な世界を作りましょう、秋斗』

――お前が覇王を遣り切るなら、俺だって不敗の将を遣り切ってやるさ。だから安心して待ってろ、華琳。




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魏√の分岐点の話でした。

華琳様が主人公を救う為に安全策を取るかどうかの分岐点です。
安全策を取ったとしたら夕ちゃんの策で負けが確定、といった状況でした。



朔夜ちゃんは……本編にいるあの子です。先行開示しておきます。
この子の真名には意味を持たせてます。日輪が為してきたモノを全て消し去る事の出来る存在ですからね。

ではまたー