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仮面の下の恋路
第一章
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私にとってはね」
「結局そうするのか」
「そうするしかできない」
 いささか自分を決め付けているようにも聞こえる言葉だった。
「だからだ。今からはじまる仮面舞踏会において」
「彼女に告白すると」
「そうしてそれが実ることが夢だ」
 彼はこうも述べた。
「今からな。では」
「まあ頑張ってくれ」
「健闘を祈る」
 友人達は彼を送り出した。何となく賛成していないような言葉の響きであった。
「ああ、それじゃあな」
 伯爵は仮面を着けてその場を後にする。それまで側にあった汚物の匂いを消す為か香水をかなりかけてから向かう。香水はこうした匂いを消す為に流行ったのである。
 友人達は彼を見送る。それから言うのだった。
「彼にも困ったものだ」
「全くだ」
 苦笑いとも困惑とも取れない顔になっていた。そうした顔で言う言葉もまた実に複雑に感情が絡み合った微妙なものになっていた。
「当たって砕けろというつもりにはなれないのか」
「それはな」
 友人の一人がその言葉を否定した。
「無理というものさ。砕けたらそれで終わりだ」
「終わりか」
「人の心はガラスだ」
 今も使われる言葉が出て来た。
「ガラスか」
「そういうものだ、透き通っていてすぐに壊れるもの」
「詩的だな」
 それを聞いた友人達の一人の言葉だ。詩もまた当時の貴族達の嗜みである。彼等は今それを自然に出してみていい気持ちにもなっていた。文化的な生活というわけである。
「では彼の心はガラスか」
「少なくとも強くはない」
 こう評せられた。
「僕達よりはね。透き通っているかどうかは別にして」
「ははは、人の心はそうはいかないさ」
 今度はこうした言葉が出て来た。
「実に汚れているものさ。一見すると美しくても」
「この宮殿みたいに本当は」
 今度はこうした言葉が出て来た。
「汚れているものなのだろうね」
「そうした部分も確かにある」
 それを否定する言葉も出された。
「確かにね。けれど」
「けれどそうではない部分もある。そうか」
「彼だって同じだよ。美しくもあり醜くもある」
 本来人の心とはそうしたものである。美しいものも醜いものも同時に存在しているのだ。片方だけを見て判断することは間違った答えを導いてしまうものだ。
「さて。ではステンドガラスか」
「そうだな」
 人の心が教会のガラスに例えられたのにも理由があった。

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