風に消える慟哭
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暴走しちまったのかい?」
ぶっきらぼうな声が響く。
会話を重ねるうちに疲れが出たのか、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めた朔夜が、何故か膝の上に来て眠り始めた所である。
風邪をひかないように自分の外套を掛けて、眠りながらも甘えたように体を寄せる彼女を、落ちないように抱きしめていたら掛かった声は、前のように秋斗を責める。
「宝ャ……そんなにペロキャンぶち折られたいのかお前は」
頬を引くつかせて、秋斗はジロリと声のした方を向いた。
いつも通りの半目、わさわさと靡かせた金髪、何を考えているのか分からないのんびりとした雰囲気。
風は呆れたようにため息を一つ。
「朔夜ちゃんとあんまりひっつくとよろしくないのですよー。お兄さんの幼女趣味は分かっていますけどねー」
意地悪を付け足したとは言っても、やんわりと為された忠告に、秋斗は片目だけ細めた。
「……そうだな」
先程とは違い、返す言葉にはいつもの意趣返しが含まれ無かった。
輝き始めた星を数えるように彷徨わせた視線。もやもやと、風は危うさを感じて近寄っていく。
そして、訝しげに見つめる秋斗に、
「消させません」
グイと顔を寄せて、鼻が突くくらいの距離で、風は言い放った。
碧き水晶の瞳を向けられた秋斗の目線がぶれる。
「風は覚えています。皆も覚えています。お兄さんが此処に来てからどれだけ笑ったか、どれだけ風にいじめられたか、どれだけ、他人の事ばかり考えていたか」
じっと言葉を聞いていた。ぶれた瞳は徐々に合わさっていく。
「だから忘れても、何度でも、何度でも、思い出させてあげます」
目を見開いた後、苦しげに秋斗の目が細められた。
ピタリと本心を言い当てられては、逃げられるはずも無かった。
絆を繋げば繋ぐ程に、また忘れてしまうのではないかと、恐怖が圧しかかっていた。真名という大切なモノを預けられれば、また、“彼女”のような泣き顔を増やすのではないかと怯えていた。
それを風に見抜かれた。
苦しげながらも光の灯った瞳を見て、すっと、風は身体を離した。
泣きそうな顔で、秋斗は笑う。嬉しくて、哀しくて。
「ホント……敵わないなぁ……」
軽く言葉を零しながらも、初めて人前で泣きそうになった。
いつかの言葉は、優しく支えてくれる新たな絆達と、“彼女”に向けて。
ズキリ、と胸が痛んだ。
風の言葉で、気付かないはずも無かった。その逆接がなんであるかを理解出来ないはずが無かった。
“彼女”は……思い出させたくないのだと。
それが今の自分の幸せを願ってなのだと。
“彼女”の想いが、どれだけ深いのかを感じて、また……彼の心は切り裂かれていく
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