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乱世の確率事象改変
風に消える慟哭
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互いに高め合ってるってのが正しい」

 遠い目をして語られる。直線的にズバリと突き刺さった矢の如き情報は、彼女の脳内に波紋を齎してしまった。
 彼女にとっては、藪蛇、という言葉がまさしく正しい。一当てして彼の本隊を引きずり出すつもりが、さらに深い所まで導かれてしまったのだ。

――アレ!? アレとは『アレ』の事に違いありません。しかも高め合う!? ナニを高め合っているというのですか!?
 店長と徐晃殿がくんずほぐれつ、調理場でこう……「どうした店長、――――がおざなりになってるぞ?」「そういうあなたの方こそ――――なのでは?」

 脳内に薔薇の華が舞い散る。少女マンガチックに美化された妄想内の二人が稟の目の前で絡み合う姿が見える。乙女の妄想とは、かくも恐ろしい。

「……ああ、そんな……記憶を失った徐晃殿。嘗ての友の消失に心痛めた店長。互いに心苦しく、されども昔の平穏を取り戻そうと毎日のように過ごす内に実ってしまった禁断の果実。前の関係とは違うと理解していながらも求めてしまう店長っ! ああ! なんて悲しいっ!」
「おい」

 妄想ダダ漏れで切なげに眉を顰めて語る稟に対して、秋斗は冷たい瞳で短く声を掛けた。

「そう、実は! 店長は前々から徐晃殿に想いを寄せていたっ! それを感じ取った徐晃殿は傷つきながらも関係を止められずに、ダメだと分かっていても求めてしまうっ!」
「おい、鼻血垂れてるぞ。なんか風に聞いてたのと違うな……」

 涙と鼻血を垂らしながら、稟は目をぎゅっと瞑って尚も語る。
 風の情報では『噴き出す』であった。だというのに今のモノは全く違う。秋斗は情報と現実の相違点を冷静に見極めながらも、懐からハンカチサイズの手ぬぐいを準備した。
 たかが妄想であるが故に、秋斗はどんなモノを思い描かれていようと気分が悪くはならない。この程度、現代のハイパーな薔薇好き達がどのようなモノか知っている彼からすれば、自分が入っていようとも子供の妄想の如く生温い。まあ、そういった妄想は、本人がやめろと言って止まるモノでは無いと知っているから、でもあるが。
 しかし秋斗は知らない。
 稟がいつも通りに噴水の如く鼻血を吹き出さないのは、いやらしい妄想をしていながらもそこに自分が入っていないからだと。彼女がズブズブと妄想の世界に堕ちた末に、地面に血だまりのスケッチをするのは、華琳と自分のあんなことこんなことを思い描いてしまうからなのだと……そんな事は彼女の脳髄を覗き見なければ分からないモノであった。

「なんと哀しいことでしょうか……一口果実を食してしまったが為に、抜け出せない情愛と葛藤の迷宮へと引き摺りこまれてしまった……救い出せるのは、そう、二人の妹分である朔夜と、徐晃殿を愛している――――はっ」

 ふと、稟は現実に戻って
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