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樹界の王
21話
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ている。しかし、それ以上に踏み込もうとはしない。私の好意に対し、貴方は一線を引き続けている。私がそれに気がついていないとでも思っていましたか?』
 背筋を嫌な汗が伝った。
 対応を誤った。偽りでも、向こうの望む答えを返すべきだったか。あるいは、ラウネシアの問いは、初めから答えが決まった確認作業でしかなかったのかもしれない。
 しかし、ボクの思考に反して、ラウネシアは想定外の言葉を続けた。
『貴方が私に対し、一線を引く理由はなんですか? 種族が違うからですか? しかし、貴方は種族というものに対して懐疑的になっていたはずです。そして、自分と同じように曖昧な存在を求めていた。違いますか?』
 何故。
 そう問われて、ボクは答えに詰まった。
 種族の違い。そんなもの、どうでもいいとさえ思う。反対に、ボクは普通の人よりも、植物としてのラウネシアに対して好意的でさえある。
 何故ボクは、昔から夢見た双方向的なコミュニケーションが可能な植物体に対して、距離を置こうとしているのだろう。
『私は、魅力的ではありませんか?』
 ラウネシアの手が、ゆっくりとボクに向かって伸びる。
 改めてラウネシアを見ると、その整った容貌が目を引いた。
 樹体から突き出るような上半身は、一糸纏わない木質化した綺麗な裸体を晒し、長い髪に隠れるように、若草色の透明な瞳が不安そうに揺れていた。
 彼女の手が、ボクの頬を撫でる。体温のない、冷たくて硬い手だった。
『何故ですか? カナメ自身も、わからないのですか?』
 困惑の感情が、ラウネシアから伝わる。
 人に対して感じてきた異物感。理解できないという感情。それとは裏腹に、ラウネシアの感情は手に取るように分かる。まるで、同族のように。
 そんな彼女に対して、ボクは何故、必要以上に警戒し、距離を置いているのだろう。
 根源的な問いに、ボクは答えられない。
『拒否は、しないのですか?』
 彼女の腕が、ボクの身体に絡みつく。
 獲物を捕らえる食虫植物のように、彼女はゆっくりとボクを取り込み始める。
 間近で、彼女の唇が湿っている事に気づく。
 そういえば、植物も性的興奮状態にあれば、粘液を出す事もあったな、とどうでもいい事を思い出す。
 そして、気がついた時、ボクはラウネシアに強引に引き寄せられ、彼女の硬い唇と接触していた。
 間近に、彼女の瞳があった。恐ろしく人間味のある、濡れた瞳がボクを捕らえるようにじっと開いていた。
『私は、貴方に好意を抱いています。激しい好意です。ずっと、何十年も、何百年も、ずっと、待っていた』
 互いの口が塞がっていても、感応能力が彼女の心を拾い上げる。
『貴方の生存を確約します。私は、貴方の全てを肯定しましょう。私は、
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