暁 〜小説投稿サイト〜
樹界の王
21話
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て普通に振舞っているだけだ。心の中では、全てがどうでもいいと思っている。違うかな」
 ボクは何も答えなかった。由香を相手に嘘をつく必要もなかったし、かと言って肯定する必要もないように思えた。
「まあいい。後、一つ、確認だ。カナメはあの後輩と仲が良いのかい?」
「特には。園芸部員として以外は、交流もないよ」
 由香は、そう、とだけ言うと、踵を返して背を向けた。
 気まぐれに話しかけてきて、気まぐれに帰る。由香には良くあることで、ボクも特に気に留めず、水やりを再開した。
 その後日、後輩が階段から転落して入院したと顧問から聞いた。
 ボクの心は。当然のように何も動かなかった。

『カナメは、自分を人ではなく植物に近しい存在と定儀づけているわけですか』
 ラウネシアの問いは、何度も自問したものだった。
 ボクは、一体何なのだろう、と。
「そうかもしれません」
 植物が水不足を訴えていれば、水をやるくらいの利他的な部分はあると自負している。
 それでも、同族である人、それも見知った個体の事故に対しては何も感じない。
 幼少期から続くこの状態は、今でも変わらない。
 ボクはラウネシアを破る方法を知っている。敵の迷い人も同様にそれを解し、ラウネシアの敗北をボクは予想している。それでも、ラウネシアに肩入れすることを止めないのは、感情が見えてしまう故の情けだ。
『カナメは、私の事をどう思っていますか』
 不意に、ラウネシアが核心に触れる。
 今までも好意を隠そうとしてこなかったラウネシアだが、直接こういった確認はしてこなかった。ボク自身も、ラウネシアのそうした動きはもっと先だと考えていた。
 予想外の問いかけに、反応が遅れる。
 食料を依存している以上、下手な返答は出来ない。
「……今まで、植物に対しての感応能力は一方的なものでした。植物の心は読めても、植物がボクの言葉を理解することはありませんでした。ラウネシアは、ボクが初めて双方向的なコミュニケーションを可能とする植物で、特別な存在です。だから、ボクはラウネシアに肩入れする事を決めました。相手の迷い人の思考、考え方。それに対する対抗手段を、ボクは惜しみなくラウネシアに提供するつもりです」
 質問の意図を理解しながらも、真っ向から答える事なく、協力関係であることを強調し、それ以外の感情についての言及は避ける。 
 ボクの言葉に、ラウネシアは一瞬の空白を空けて、それから告げた。
『カナメ。貴方のそれが本心であることはわかります。確かに貴方は、人間と植物という種族の間に立ち、自己同一性に対して疑問を抱いている。そして、私は貴方の考える植物と人のどちらにも属さず、貴方と同じように二つの種族の境界に立った存在であり、貴方は私を特別視し
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